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第二十七話
しおりを挟む「ルクス王子!?」
「ど、どうしてここに…?」
第一王子ルクスの登場に、アレルの周りにいた騎士たちが動揺する。
クレアと同様に金の髪と青い目を持った王子、ルクスはニヤニヤと小馬鹿にしたような笑みを浮かべながらアレルに近づいていく。
「いや何、勇者とやらをひとめみてやろうと思ってな」
「ゆ、勇者様ならここに…」
アレルに剣を教えていた騎士が、アレルを指差した。
アレルの前に立ったルクスは、アレルを見下ろし、はっと息を吐いた。
「おい、本当にこれが勇者なのか?」
「は、はい…そうです…」
騎士が焦った表情を浮かべながら答えた。
ルクスはアレルを見下ろしながら言う。
「俺にはそうは見えなんな。こいつが世界を救う救世主だなんて……俺でなくとも信じられない。そうだろ?」
周りに同意を求めるルクス。
「確かに…ルクス様の言う通りあの者が勇者であるとはとても…」
「剣も体の使い方も完全に素人だ…」
「お告げの巫女は本当にあれを勇者だと言ったのか?」
ざわざわとざわめきが広がっていく。
そのほとんどが、アレルが勇者であることを疑うものだ。
「くそ…」
アレルが悔しげに舌を噛む。
「な、何あの人…王子だからって…故郷を離れてここまできたアレルにあんなこと…」
アンナもアレルと王子のやりとりを心配そうに見守っている。
「…」
一方で俺はというと、予想通りの展開にニヤニヤしていた。
いいぞ、ルクス。
そのままアレルを煽りに煽るんだ。
これがゲームのシナリオ通りなら、この後ルクスはさらに調子に乗ってアレルに戦いを申し込むだろう。
アレルはそれに勝利し、自分の勇者としての実力を周囲に認めさせる。
これはそう言うイベントだ。
皆がアレルの力に疑問を持っている今、咬ませ犬であるルクスの存在はむしろこちらにとってはありがたい。
頑張れよアレル。
ルクスを倒してお前の力を見せつけるんだ。
「おいお前。この俺と勝負しろ」
来た…!!
ルクスからアレルに勝負の申込み。
後はアレルが勝負を受ければ、全てはうまくいくはずだ。
「勝負…?」
「お前が本当に勇者なのか確かめてやる。俺も剣の腕に覚えがあるからな。勇者ならもちろん、俺を倒せるよな?」
「…っ」
「なんだ怖いのか?俺をおそれるようでは魔王は倒せないんじゃないか?」
「う、受ける…!受けてやるよ…!」
たまりかねたようにアレルがそういった。
「よし。そう来なくては」
ルクスがニヤリと笑う。
「おい…ルクス様と勇者が戦うぞ…」
「これはみものだぞ…!ルクス様の言ったように、これで彼が勇者かどうかわかるんじゃないか…?」
「先ほどの訓練を見ていれば、とてもルクス様に叶うとは思わないが…」
「いやいや、力を隠しているのかもしれん。ここにくるときに魔族を倒したとも聞いたし…」
ルクスとアレルの勝負が成立し、人々がアレルに期待の目を向け出す。
これでアレルがルクスを打ち破れば、アレルは確実に勇者として認められるだろう。
ありがとよ、かませ犬のルクス。
お前は本当、ゲームでもこの世界でもいい役割を果たしてくれるよな。
「そ、それじゃあ…両者向かい合って…!」
ルクスとアレルが互いに数メートルの距離で向かい合う。
審判の騎士が、2人の間に立って剣を掲げる。
「はじめっ…!」
剣が振り下ろされた。
2人の勝負が始まる。
「行くぞ勇者!!その力見せてみろ!!」
スタートと同時にルクスが駆け出した。
そのままアレルに向かって突っ込んでいく。
「こ、こい…!」
アレルも多少腰がひけているが、ルクスに対して意を決したように剣を構える。
さあ、行け、アレル…!
お前の力を知らしめるんだ…!!
「ぐぁああああああああ!!!」
「は…?」
勝負は一瞬だった。
アレルに肉薄したルクスの横薙ぎの一線が、アレルの剣を持つ手をとらえた。
アレルは悲鳴をあげて剣を取り落とし、膝をついて痛みに悶える。
「冗談だろ?ふざけているのか…?」
あまりの弱さに、ルクスが呆然とアレルを見下ろす。
「ぐぉおおお…」
アレルはまだ手を抑えて痛みに苦しんでいる。
「こんなのが…勇者…?」
ルクスがアレルを失望した様子で見下ろす。
「よ、弱すぎる…」
「なんだ今のは…勝負にすらなってないぞ…」
「一瞬じゃないか…」
「なんなんだあの男は…ほんとうに勇者なのか…?」
「まだ訓練を始めたばかりとはいえ…あまりに弱すぎる…」
「あの男が本当に魔族を倒したのか…?」
見物人たちも、呆れた様子でアレルを眺めている。
そんな中、一番の衝撃を受けていたのが俺だった。
「…おいおい、アレル?どうしたんだよ…」
何がどうなってる…?
かませ犬のはずのルクスが、アレルに勝利した…?
どうしてこうなった…?
なぜアレルは勇者の力を覚醒させない…?
「アレル…!大丈夫!?」
アンナがアレルに駆け寄る。
俺はアンナが痛がるアレルの手を見てやっているのをぼんやりと眺めながら、ひたすら混乱するのだった。
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