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第三十四話
しおりを挟む翌日からアレルは訓練を再開した。
「もうお身体の方は大丈夫なのですか?」
「ああ。この通りだ!!問題ない…!!」
「ですが…せめてあと数日は休まれては…?」
「本当に大丈夫なんだ。俺は勇者だからな。世界を救うために、もっともっと強くならないといけないんだ。そうだろ?」
「…そうですが」
周囲の人間たちはアレルを心配していたようだが、アレルは半ば強引に彼らを説き伏せていた。
自分は勇者であり、世界を救う使命があるというアレルなりの責任感のようなものを抱いているらしい。
…ますます、この世界のラスボスはすでに俺が倒してしまっていると言い出しづらい状況になりつつあることは今は考えまい。
「はっ、はっ、はっ…!」
王城の中庭に、アレルの覇気のこもった声が響く。
「はぁ…本当によかった…」
完全復活を果たしたアレルを見て、アンナが俺の傍で安堵の息を漏らしていた。
「…」
俺は元気よく木刀を素振りするアレルを見ながら、次に打つ手を考える。
毒を盛られたアレルは、俺が生と死の剣で治療した。
そして毒を持った犯人の宰相ブロンテは、再度アレルに手を加えれば王に密告すると脅してある。
これでしばらくアレルは誰からも狙われることはないだろう。
だが、根本的な問題が解決したわけではない。
今回の事件で宰相ブロンテの背後にいた黒幕を取り除かなければ、また王城内の誰かが大切な人を人質に取られ、魔族の手先としてアレルを暗殺しようとする可能性がある。
修行編が終わるまでアレルを守り抜くためには、ブロンテを背後で操っていた魔族を始末する必要があるだろう。
「…さて、俺の行動がもたらす結果がどうなるか、考えないとな」
俺は自分がもたらした変化が今後の展開にどのような影響を与えることになったのか、ひたすら知恵を絞るのだった。
「アレル。訓練お疲れ様」
「おう」
その日、アレルの訓練を1日見守った俺は、訓練後のアレルに声をかける。
「体はもう大丈夫なのか?」
「ああ。この通りだ。なんの問題もない」
アレルが右腕に力こぶを作って見せる。
「…そうか。本当に心配したぞ」
「ははは。俺も一時は死ぬかと思ったぜ?けど、1日寝たらなんとかなってた。これも多分勇者の力ってやつなんだろうな」
「へぇ…すごいんだな、勇者の力って」
違うけどな。
「ま、俺は世界を救う英雄だからな。毒ぐらいでは死なないってことだろ!!」
「ははは…そうか…それは頼もしいな…」
なんかこいつその気になってきてないか…?
あまり勇者の力を過信するのはお勧めしないんだが…
「それで、何かようか?グレン」
「ああ…実はお願いがあってな」
「なんだ?久しぶりに勇者ごっこがしたくなったのか?本物の勇者の俺を相手に?」
「違うよ…今のお前と戦ったら一方的に俺がやられるだけだろうが…」
「まぁそうだろうな!!ははははは!!」
「…」
なんかこいつ、性格変わってないか?
自信がついたってことなのだろうか…
まぁいい。
「勇者ごっことかじゃなくて……その、一晩部屋を交換して欲しいんだ」
「は…?どう言うことだ?」
「ほら、この城に来てからずっと俺同じ部屋にいてさ…正直飽きてたんだよ。だから…一晩だけ…勇者であるお前の部屋で過ごしてみたいな…なんて」
「…?なんだそれ」
首を傾げるアレルに俺は頼み込む。
「な?頼むよ…一晩だけ…俺も勇者の使っている部屋に泊まってみたいんだ…!!」
「いや…そんなに変わらない気が…」
「1日だけでいいんだ…!俺も勇者と同じ待遇が受けてみたい…お前みたいな選ばれた者の気分を1日だけ味わってみたいんだよ…!!」
「え、選ばれた者…」
アレルが鼻の下を伸ばす。
「ま、まぁ…1日ぐらいなら?構わないぞ?」
「本当か!?」
俺はものすごく嬉しいです!って表情を作る。
アレルが得意げに言った。
「1日だけな?俺とお前は今は立場が違うけど…俺はまだお前のことを親友と思ってるからな。だから、1日だけならいいぜ」
「ありがとう!恩に切るぜ!」
俺はアレルの肩を抱いた。
よし。
言い方がちょっと鼻についたが、これでアレルと部屋を交換することができた。
こいつがチョロくて助かったぞ。
「1日だけ勇者気分を存分に味わえよ、グレン!」
「ああ!お前みたいな選ばれた者の気分を一時だけ、味わってみるぜ!」
「はっはっはっ。明日感想を聞かせてくれ!」
俺は何も知らずに無邪気に笑うアレルに笑顔を向けながら、次の作戦を練るのだった。
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