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第十八話
しおりを挟む「テイムしたのはいいものの…しかし、こいつをどうするんだ…?」
突如現れたブラック・ウルフを、俺はテイムすることに成功した。
だが、一度テイムしたはいいものの、今後こいつをどうするかについて何も考えていなかったことに気づく。
まさかこのまま屋敷に連れて帰るわけにはいかない。
どのような経緯でテイムしたのかを尋ねられたら、一人で修行をしていることとかが芋づる式にバレてしまいそうだった。
出来ることならこいつの存在は両親やエレナ、そして領民たちにも隠しておきたい。
モンスターをテイムする八歳児なんて明らかにおかしいからな。
「よし…決めた。また明日ここにくるからお前は普段は森の中で過ごしてくれ。これまで通りに」
『ワフッ!』
「自分で餌とかも取れるな?俺は用意はできないぞ?」
これほどの大きな体の肉食獣の腹を満たそうとすると、それこそ一回の食事につき家畜一頭分くらいが必要になりそうだ。
当然そんなものは俺は用意できない。
こいつにはとりあえずはこれまで通りに森で過ごしてもらうことにしよう。
「あとそれから、人とか絶対に襲うなよ?いいな?」
『ワフッ!』
「本当にわかってるんだろうな?」
主従関係になった人とモンスターは自然と意志が通じ合うというが…本当に俺の意図をしっかりと理解してくれているのだろうか。
俺にはこいつが人を襲わないか、それだけが心配だ。
「人を襲ったら主従関係話だ。俺はお前を殺さなきゃいけなくなる。わかるよな?」
『ワフッ!』
ブラック・ウルフが「了解だ!」というようにでかい尻尾を振っている。
俺にテイムされたことで完全に凶暴な一面が削り取られ、ただのでかい愛玩動物の様相を呈している。
これなら問題なさそうだと俺は胸を撫で下ろす。
「それじゃあ、今日は俺はもういくから。明日までに名前も考えておいてやるからな」
『ワフッ!』
「それじゃあな」
『ワフッ!』
俺が別れを告げると、ブラック・ウルフは最後に嬉しげに一声ないて森の中に消えていった。
「すごいな…本当に意志が通じ合っているみたいだ」
俺は俺の意図をしっかりと把握しているブラック・ウルフに感心して、今日の訓練を終え、屋敷へと戻るのだった。
「おーい、来たぞ~」
その翌日。
いつも通りエレナとの訓練を終えた俺は、エレナに先に屋敷に帰ってもらい、今日も今日とて森付近にある人目につかない修行場へとやってきていた。
四日前に作ったゴーレムが、まだ持続しているのを確認した俺は、そういえば昨日ブラック・ウルフをテイムしたんだったと思い出し、森に向かって呼びかけてみた。
「どこに行ったんだ…?食い物でも探しているのか?」
しばらく待ってもテイムしたはずのブラック・ウルフはやってこなかった。
まさか昨日森の中に帰ったまま、野生に戻ったのか?
だとしたらそれはそれで構わないのだが…
あ、そういえば名前を考えておくのを完全に忘れていたな。
「ま…いいか」
何度か森に呼びかけてみるもブラック・ウルフは姿を見せなかった。
俺は諦めて魔法の修行を始めてしまう。
いつものように新しく使えるようになった土魔法、風魔法の練習をする。
と、その時だった。
「ん…?」
森の中から何かが物凄い勢いで、こちらに近づいてくる気配があった。
俺がいつでも魔法を発動できる状態で警戒する中、黒い影が茂みの中から飛び出してきた。
「おお…!お前は…!」
『ワフッ!』
影の正体は、一匹のブラック・ウルフだった。
襲いかかってこないところをみるに、俺が昨日テイムした個体で間違いなさそうだ。
「よぉ。元気か?言われた通りに森の中にいたみたいだな」
『ワフッ!』
ブラック・ウルフは嬉しげに俺の周りをぐるぐると回る。
「ん…?それはなんだ…?」
よくみるとブラック・ウルフは口に何かを咥えていた。
『ワフッ!』
ブラック・ウルフが咥えていたものを、得意げに俺の目の前に落とした。
「うげ…!オークじゃねぇか!」
それは上半身だけとなったオークだった。
こいつと同じ中級モンスター。
どうやら自分で餌を取れとの指示通り、オークを狩って捕食したらしい。
『ワフッ!』
すごいだろ?と言わんばかりに、ブラック・ウルフがオークの死体を舌でぺろぺろ舐めた。
自分と同じ階級の強さのモンスターを狩ったのか。
こいつって実はかなり強い個体だったりするのか?
「ん…?待てよ、お前、怪我してないか?」
『ワフッ!』
俺はブラック・ウルフの後脚から血が流れているのを発見した。
どうやら怪我をしているらしい。
「オークを狩るときにやられたのか?」
『ワフッ!』
そうだ、と肯定するようにブラック・ウルフが体を縦に揺らす。
傷は思ったよりも深く、現在進行形で、血がどくどくと流れ出していた。
「貸してみろ、治療してやる」
『ワフッ!』
俺がそういうと、瞬時に意図を理解したらしいブラック・ウルフが、負傷部分を俺に近づけてきた。
…まるで人と会話しているかのように意志が通じている。
すごいんだな、テイムって。
「かなり深いが……骨までは到達していないか」
この程度の傷ならヒールの重ねがけでなんとかなりそうだ。
エクストラ・ヒールは魔力をそれなりに消費するからな。
「ヒール、ヒール、ヒール!」
俺は比較的少量の魔力消費ですむヒールを、重ねてブラック・ウルフに使った。
すると傷口は塞がり、流れ出す血も止まった。
「こんなもんだな。もう大丈夫か?」
『ワフッ!!ワフワフッ!』
「うおっ!?ちょ、やめろ…!?体がベトベトになるだろ…!?」
ブラック・ウルフがお礼と言わんばかりにザラザラとした大きな舌で俺を舐めてくる。
俺はたっぷりと1分間ぐらい、顔よりも大きな舌で舐め回され、全身ベトベトにされた。
微妙に臭い。
「ウォーター…ったく」
仕方がないので、俺は水魔法で体を洗い流す。
気の済むまで俺を舐め回したブラック・ウルフは、オークの上半身をガツガツと食べ始めた。
「…名前、考えるか」
俺は元気よくオークを食べているブラック・ウルフを見ながら、今この場で名前を考えてしまおうと思案する。
テイムしてしまった以上、名前がないのは不便だ。
…何かいい案はないか。
「そういやもとの世界ではどうしてたっけ」
俺は転生前の記憶を思い出す。
十歳の頃、実家に向かえられた子犬に名前をつけたのは確か俺だった。
真っ白な毛並みの犬で…小学生だった俺は、適当に『シロスケ』と呼び始めた。
それが家族にも定着し、結局うちの愛犬の名前は『シロスケ』となった。
「…黒いな」
俺は目の前のブラック・ウルフに目を移す。
うちの愛犬は真っ白だったが、こいつは逆に真っ黒だ。
そうであれば…
「なぁ、クロスケ、でいいか?」
『ワフ?』
ガツガツとオークを貪っていたブラック・ウルフが顔を上げる。
「お前の名前、クロスケ、とかでもいいか?適当すぎるか?」
『ワフッ!!』
「お?気に入ってくれたか?」
『ワフッ!!』
ブラック・ウルフは肯定するように体を縦に揺らす。
どうやらクロスケでいいらしい。
安直だが……しかしシンプルで覚えやすい。
「じゃあ、決まりだな。今日からお前はクロスケだ」
『ワフッ!』
そういうわけで俺はテイムしたブラック・ウルフを、クロスケと呼ぶことにしたのだった。
それからまた一ヶ月ばかりが過ぎた。
俺は相変わらずエレナとの訓練の後の魔法の自主練を続けていた。
最近、エレナに攻撃を当てられる回数が増えてきた。
まだまだ互角とまではいかないが、着実に一歩一歩対人の魔法戦の技術はエレナに近づいている。
訓練を始めた当初は、一生かかってもエレナには追いつけないと思っていたが、この調子なら一年後ぐらいにはエレナと同程度の実力を身につけることが出来るかもしれないと思い始めていた。
成せばなる。
人間何事も挑戦してみるものである。
それはそれとして、魔法の自主練の方もかなりの成果が上がっていた。
遅れて使えることがわかり、訓練を始めた土魔法と風魔法だが、今ではほとんどの魔法を難なく発動できるようになっていた。
そこで最近は、単に魔法発動の訓練ではなく、自分なりに魔法をアレンジすることに挑戦していた。
繰り返すようだが、魔法で1番大切なのが想像力。
自分の中で魔法のイメージを固めることが重要なのだ。
ということは、そのイメージを頭の中で変換すれば、自分の思った通りに魔法を改変することが出来るのではないかと俺は考えたのだ。
俺が思うに、魔法とは頭の中の想像を魔力を介して具現化する能力だ。
だとしたら、魔法発動の魔力はそのままに、頭のイメージを変えれば、魔法の結果を改変することが可能なのではないかと思ったのだ。
「クリエイト・ランス!」
今日も今日とて、俺は魔法の自主練を行なっている。
『ワフッ!』
近くにはテイムしたクロスケがいて、俺の訓練する様子をじっと眺めている。
こいつをテイムして一ヶ月になるが、これまで何も問題は起こっていない。
クロスケは自分の餌は自分でとるし、また領民を襲うなどといった問題も一切起こしていなかった。
今やクロスケは、完全にモンスターではなく俺の可愛いペットと化している。
…それはいいとして。
「はぁ…またダメか…」
俺は自信の手の中の失敗作を見つめる。
俺の手の中には、剣とも槍ともつかないような微妙な武器があった。
土から剣を作り出す土属性の上級魔法、クリエイト・ソード。
俺はこの魔法を改変して、土から剣ではなく槍を作り出そうと試行錯誤していた。
魔法を発動するための魔力の放出はそのままに、詠唱と頭の中のイメージを変換する。
そうすることによって、この魔法を、鉄よりも硬い剣を作る魔法から、鉄よりも硬い槍を作る魔法に変換しようという試みだった。
だが、まだ完成とはいかず道半ばだ。
確かに頭の中のイメージを変換すれば、魔法の効果にも影響を与えられることがわかった。
だが、完全な影響が出るわけではない。
まだイメージがしっかりと定着していないか、俺の手の中には剣と槍を足して割ったようなへんてこりんな形の武器があった。
「よし、もう一回だ。クリエイト・ランス!」
なかなかうまくいかないが、ここで諦めるわけにはいかない。
最初は頭の中でイメージを変えてもほとんど魔法には影響を与えられなかった。
それが今、剣と槍の中間の武器を作り所まで成長しているのだ。
俺は訓練を続ければ、確実に自分の思い描く魔法に改変できると信じていた。
「特に土属性魔法は汎用性があるからな…もし改変に成功すれば……武器だけじゃなくていろんなものを生み出せるようになるかもしれない」
他の魔法と違い、土属性は『生み出す』ことが主体の魔法だ。
もし改変に成功して、自分の頭に思い描いたものを魔法で好きに生み出せるようになったとしたら……
文字通り俺は『創造』にちかい能力を得られるかもしれないのだ。
「今日はここまでだな」
一時間ほど訓練に没頭していると、日が暮れ出した。
俺はあまり遅くなると両親を心配させてしまうため、訓練を切り上げて屋敷に戻ることにした。
「それじゃあ、またなクロスケ。明日も同じ時間にくるからな」
『ワフッ!』
俺はクロスケに別れを告げる。
クロスケは俺に別れを告げるように頭を振って尻尾を揺らした後、森の中に戻っていった。
俺はクロスケが見えなくなったのを見届けてから、屋敷の方へ歩き出した。
屋敷に帰還すると、すでに夕食が出来上がっていた。
俺は訓練で汚れた服を着替えてから夕食の席に着く。
「「「「…」」」」
いつもは賑やかな夕食の席だが、今日は全員が無言でかちゃかちゃと食器のなる音が響いている。
最近の夕食はいつもこんな感じだった。
というのも、1番賑やかなアイギスがみょうに元気がないのだ。
これまでならば、夕食の席では酒をがぶ飲みして、俺やエレナにダル絡みをしたりしていた。
そしてそれをシルヴィアが嗜めるというのがいつもの構図だった。
「うむぅ…」
しかしここ数日のアイギスは、酒も飲まず、食事にもあまり手をつけずに、ひたすら腕を組んで唸り声を上げるばかりだった。
何かに悩んでいるのは確実なので、俺が昨日、試しに「お父様。何か悩んでおられるのですか?」と尋ねてみたが、「お前には関係ない。お前は魔法の習得に集中しなさい」と突っぱねられてしまった。
なので悩みを聞くこともできない。
結果として、夕食の席にはとても気まずい雰囲気が漂っていた。
「アリウスちゃん。最近、少し帰りが遅くなったけど、いつも何をしているの?」
俺の目の前の夕食が半分ほどの減った頃、ついに気まずい雰囲気を破ってシルヴィアが俺に話しかけてきた。
いったんこの気まずい空気をリセットしたいという彼女なりの努力なのだろう。
俺もそれに乗っかるようにして会話を続ける。
「魔法のおさらいです。エレナに習ったことを忘れないように自分でもう一回反復しているんです」
俺は嘘をついた。
流石に修行のことは言えない。
言えば、クロスケをテイムしたことや、俺が風魔法や土魔法を使えることがバレてしまいそうだからだ。
これはあらかじめ考えておいた言い訳だった。
「まぁ!そんなことをしていたんですか。偉いですねぇ、アリウスちゃん。勉強熱心で」
シルヴィアが嬉しげに笑う。
するとすかさずエレナが口を挟む。
「アリウスの上達速度は凄まじいです。このままだと数ヶ月後には私はアリウスに勝てなくなっていそうです」
「い、いやそれは…流石に大袈裟だろ…」
俺が少し過大評価気味のエレナに釘を刺す。
シルヴィアはそれでも嬉しげに笑っている。
「お世辞だとしても嬉しいわ。元帝国魔道士団の魔法使いにそんなことを言っていただけるなんて」
「シルヴィア様。あなたの息子は逸材です。必ず私の手によって超一流の魔法使いにして見せますので」
「うふふ。ありがとうエレナさん。感謝します。ぜひよろしくお願いしますね」
「はい」
エレナとシルヴィアのそんな会話によって多少夕食の席は明るくなった。
「…」
俺はチラリとアイギスに目を移す。
「うむぅ…」
アイギスは会話に入ろうともせずに、相変わらず腕を組んで難しそうな顔をしていた。
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