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第六話
しおりを挟むシーンという静寂が辺りを支配した。
皆、突然現れたその女性の美しさにしばしの間見惚れていたのだ。
が、やがて我に帰った誰かが、恐る恐ると言った風に尋ねた。
「あの、誰ですか…?」
「私はこの国、エルラド王国を治める王女、カテリーナ・エルラドです。皆さんをニホンからここに呼び出したのは私です。私は皆さんに、この世界を救ってほしいのです」
打てば響くようにしてそんな返事が返ってきた。
「「「…」」」
またしても場がシーンとなる。
今度は女性の美しさに見惚れている…というわけではなく、そのセリフがあまりに意味不明なものだったからだろう。
それはそうだ。
いきなり現れて世界を救ってほしいなどと言われても反応に困る。
クラスメイトたちは全員、何を言っていいかわからずに完全に思考停止状態に陥っていた。
ただ、この瞬間移動とも呼べそうな超常現象の原因が、この目の前の女性にありそうだな、というのはなんとなく彼らにも理解できた。
「ごめんなさい。いきなりすぎましたよね、順を追って説明します」
静止する彼らににっこりと笑った女性……カテリーナ・エラルドは、いきなり混乱している恵美やクラスメイトたちが理解できるようにゆっくりと噛み砕いて話をし始めた。
20分以上に及んだカテリーナの話を恵美なりにまとめるとこういうことになる。
・まず第一にこの世界は、日本とは違い魔法やモンスターといった概念の存在する世界である。
・恵美とクラスメイトたちは、目の前の女性……エラルド王国の王女、カテリーナによってこの地に召喚された。
・召喚の理由は、今人間の大陸を蹂躙し、侵略しようとする魔族と戦うため。
・わざわざ異世界人である恵美たちを召喚したのは、異世界人がこちらの世界に来る際に必ずスキルと呼ばれる特殊能力を授かるからである。
・カテリーナの望みは、恵美たちにそのスキルの力を駆使して魔族と戦い、この世界を救ってもらうことである。
「いや、うーん…身勝手すぎない…?」
カテリーナの話を理解した恵美の第一の感想がそれだった。
いきなり召喚して、この世界の住人のために戦ってほしいは流石に無理がある。
恵美たちからしてみればあまりに理不尽で、不利益だ。
スキルとかそんなの知らないから、あっさと日本に返してほしい。
恵美はカテリーナの話を聞いたときにとっさにそう思ってしまった。
そして、そんな感想を抱いたのは恵美だけではなかったようだった。
「ちょっといいですか、カテリーナさん。いきなり世界を救えだなんて、身勝手すぎますよ!」
眼鏡をかけた一人の女子生徒がカテリーナに詰め寄った。
彼女の名前は本田愛莉。
このクラスの委員長だった。
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