巡り合い、

アミノ

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一話

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窓の外は真っ暗で、
星の光が輝く静かな夜
カエルの鳴き声が聞こえてくるのが
耳に心地良い

ふぅーー
深呼吸をしているフリをしながら
大きなため息を吐く

相変わらずの真っ白なベッドの上で
これまた真っ白な天井を見上げ、
私ナツはもう一度息を吐いた
自分の中の「生きる気力」と言うモノが
見当たらない

もういつだってどこにだって
歩いて行けるはずなのに
そんな気力はさらさら沸いてこない

もういい‥
全て面倒くさい‥
この言葉しか思いつかない毎日で、
花瓶に綺麗に飾ってある花にも
何とも思えない

そして今日も目を瞑り
静かに眠りに落ちて行く‥



鳥の囀りと
外の光が眩しくて目が覚める
上半身を起こし
俯きながら額に手を当てた

もう朝か‥
あのままずっと眠っていられたら‥

そんなことを考えていたら

バァァーンっ!

勢いよく扉が開いたので
私は扉の方を向いた

「おっはよー、ナツ!」
そう言いながら扉を閉め、
満面の笑みでベッドにいる
私に近づいてきた

私はこの人を知らない

‥え、誰、この人‥?
私の名前を呼んでると言うことは
向こうは私のことを知っている‥

そんな事を考えて放心していると、

「おはよ、ジーナ‥
もう少し静かに扉をあけてくれると
嬉しいんだけど?」

自分の口から言葉が勝手に出てきた

ジーナ‥
あっ、ジーナか‥
って、ジーナって誰だ?

混乱していると目の前にいる
前髪は短めで私から見て右で
赤い髪の毛を束ねている
目のクリっとして表情豊かな女の人‥
ジーナはその場に立ちながら話を進める

「今日さ、タリアたちとの会議の前に
目を通して欲しい書類があるんだよ!
急で悪いんだけどさ、
朝食後すぐ私の部屋に来てくれない?」


「あー、会議の後じゃダメな感じ?」
私はベッドから降りて
目を擦りながらジーナの前に立つ

「ダメなんだよ、
その会議で話す内容に関わることだからさ!
昨日の夜に急に回してきやがって‥
今までそれをまとめてたんだよ!」

はぁ、とため息をつきながら
右手で頭を押さえている

「お疲れ様だったねー
分かった、今から朝食行くから
食べ終わったらすぐ向かう

‥ありがとう」

何故だか分からないけど、
ありがとうは私が発した気がした

そしてジーナは近づいて
私の顔をじっと見て
うん、と言って出て行った



なに?
これは‥夢?

そう思いながらも
トイレに行きたいのでトイレへと向かう

ドアノブに手をかけ扉を開けて中に入り、
そこでもおかしいことに気づく


なんで知らない部屋なのに
トイレの場所知ってるんだ?

今ここで目を覚ましたら
おねしょでもしているのか?

変な事を考えながらトイレから出て
いつもの隊服へ着替える

‥なんで
いつも着てるのと分かっているのか‥

着替えてる途中で
左足の外側のふくらはぎに
10センチほどの怪我をしているのが見えた

一応ほぼ治っているみたいで
触っても痛みはない

怪我‥?
怪我した覚えなんて‥

「あっ、この間の盗賊退治の時に
ちょっとヘマしたんだっけか」

私は‥そんな盗賊退治とか知らない‥
でも知ってる‥

よく分からないまま
いつも通りなのか
朝食を食べに行こうと廊下へ出るが
やはりこんな場所知らない

食堂だって
どこにあるのか知らない

‥はずなのに
足は勝手に進み食堂へ着いて
朝食を食べた

頭では分からない、知らない

だけど、いざ動いてみると
分かる、知ってる

不思議な感覚を覚えながらも
ジーナの部屋へと急いで向かっていた

コンコン
「ジーナー、来たよー」
と言いながら扉を開けて中に入る

「ナツかい!?
君はいつもノックをしたと同時に
入ってくるねぇ」
椅子に腰掛け
書類を机にトントンとして揃えている
ジーナが目に入る

「分かりやすくていいじゃん」

いつも‥‥
私はこの部屋を知ってる‥
けど、初めて来たのに‥

部屋を見渡すと
本や綺麗な色をした石が
棚にたくさん並べてあり、
物はとても多いがまとまっていた

頭がごちゃごちゃになりながらも
話は進んでいく
まるで客観的に見ているようだ

「書類はどれ?」

「これだよー!」
ジーナは手に持っていた
厚さ5センチはあると思われる
書類を手渡してきた

なにこれ!?と思う私を無視して
私はそれを見る

「んー‥
ジーナ、よく頑張ったねぇ‥
こりゃ大変だったでしょ」

「分かってくれる!?
ナツだけだよー!」

眼を通しても分からないはずの書類、
でも実際見ると内容はよく分かる

まとめたのが上手いってこともあるけど、
ある程度の知識が私の頭の中に
入っているからだと思う


それを叩き込み、
読み終わると同時に
ジーナと2人、部屋を出て
タリアたちの待つ会議室へと向かう



会議中も話は分かる
なんなら頼られているみたいだった


私は目が覚めてから何回も起きている
この不思議な出来事に慣れないまま
とりあえずその日1日を過ごした


今日の夜寝て
明日目が覚めたら
きっと‥

そう思いながら‥





バァァーン!!

「ナツー、おはようー!
今日はあまり天気が良くないから
陽の光で目覚めないと思って
起こしにきてあげたよーん!」


勢いよく扉を開けて‥
いや、開けながらジーナが入ってきた

すでに起きて着替えていた私は
振り向きもせず声が出た

「あ、おはよう、ジーナ
‥うるさい」

「いつも君がしていることを
してみたよ!
分かりやすくていいんだろう?」

ニヤリと笑いながら
私の前に立ち顔をジッと見るジーナ


そして、
昨日と変わらず分からないのに分かるという
知らないのに知っているという
変な感覚のまま2日目も始まったみたいだ


そんなことを思いながら
ふぅとため息をつくと、
私の顔を見るジーナが距離を詰めてきた


「ねぇ、君は本当にナツなの?」


「え?」


「名前も顔も声も知識も話し方も
全てがナツだ
でも目の色が昨日から少しだけ違う」



「私はナツだよ
でもあなたが思うナツじゃないみたい」


昨日から私が思ってる言葉は
ありがとう以外口から出なかったのに、
何故だか声が出ていた


「どういうことだい?」

「私の名前はナツです
昨日の朝目が覚めた時から
ここのことは何も知らないはずなのに
何故か頭では全部分かってて‥
体も勝手に動くし
言葉も勝手に出てくる‥

だから客観的に見ているみたいな感覚で

それしか分からないけど‥」


「‥よく分からないね‥
ナツと言う名前まで一緒で‥

君はどこの人なんだい?」

「私は‥」

‥あれ?
私はどこからここに来た?
なぜ、ここが居た場所と違うと思った?
私は‥

「‥分からない」

「えっ?」
ジーナがきょとんとした顔をする
「と言うことは
ただ記憶が混乱しているだけで
私の知っているいつものナツ‥
なのかな?」

「それは違うと思う‥
どこと比べてここが違うのか
分からないけど、
でも違うことは分かる
‥覚えていない‥」

言葉に出しながら
私は自分でびっくりした

ここはどこ?と思いながらも
元々どこに私がいたのかは分からない
いや、覚えていないのだと言うことに
気づいたから‥

「‥誕生日も一緒だったりするのかい?
ナツは10月13日生まれなんだけど‥」

「誕生日は‥覚えてる、5月7日」

どうやら誕生日は違うみたいだ
ジーナはなるほどと言いながら
洗面所の扉を指差し、また1つ質問する

「昨日起きてから鏡って見た?」

「見てない」

「あなたの顔は私の知ってるナツなんだ
ナツから見たら知らない顔かもしれない
一度見て来てくれないか?」

私はゆっくり洗面所に行き
一度深呼吸をして鏡を見た

「‥あれ」
自分でもびっくりするぐらい
吐息のような声だった
むしろ声が出てなくて
口だけ動いたのかもしれないと思うほどだ
なぜなら、
目の前にある大きめの鏡が写している
その顔は私の顔、そのままだったから

生まれた時からずっと
この顔だから間違えるわけない

左の目尻にホクロがあるのも同じだし
前髪も揃えてあって
顎までの髪の長さも同じ
光悦茶の髪色も同じ

ぺたぺた顔を触りながら
私の顔だ、と声を出した 

そう言えば、声だってまったく同じだ


ジーナの元に行き、同じことを伝える
ジーナはベッドの横にある椅子に
腰掛けて私を待っててくれていた

顎に手を当て斜め上を見ながら
「不思議だねぇ‥」と言った


「他のみんなは気づいてないと思うんだ
まだ1日しか経ってないってのと
絡む人が少なかったってのも
あるんだろうけど‥

私はナツと親友だからね
目の色がほんの少し違うだけで
気づいたけど」

えっへんと聞こえてくるんじゃないかと
思うほど、座りながらも腰に手を当てて
顎は少し上を向いていた

そういえば昨日も顔をジッと見てた
それは確認してたからなんだ

それと同時に
こっちのナツは親友がいる
それも私と違う点だな、とふと思った

大事なところ忘れてるくせに
こういうところは覚えてるなんて‥

ふぅ、とため息をつく

「まぁ、そんな落ち込まずに!
なんとかなるよ!
よく分かんないけど!」

そう言ってニカっと笑うジーナを見て
吹き出してしまった

「まったく、他人事だと思ってー!

‥でも昔からジーナのその性格には
助けられてきたから、
今もなんか笑えてきたわ

ありがとう」

また言葉が出てきた

私は友達もいないから
親友なんていない

何をするのも楽しくなくて
毎日もういいって思ってた

だから、混乱しながらも
こうやって話せる人がいて‥
嬉しさが勝ってる

ここでしばらく過ごしても
いいんじゃない?と思った


「‥あのね」

「ナツ? どうかした?」

「私、自分がどこにいたとか
何をしていたとかは
思い出せないけど、
自分の思ってたことは覚えてるの‥」

全てに対して
もういい、面倒くさいと思い
生きる気力がなかったこと、

それをジーナに伝えた

「同じに見えるけど、
思ってることは違うタイプだったんだね

こっちのナツは
生きる気力バリバリって感じでさ

面倒くさいことにも全力で
諦めることは絶対しないタイプだ

諦めるのが悪いことじゃない

でもナツは
生きる為に必死で生きてるヤツだよ」

生きる為に必死で生きてる
なんかよく分からないけど、
本当に私とは正反対の人


「分からないことを
考え続けてもどうもならないさ!
何かあればその都度伝えてくれたら
一緒に考えるよ!

とりあえずさ、お腹空かないか?
一緒に朝食行こう!」

ニコッと笑いながら椅子から立ちあがり、
ドアの方を指さしてくれた

「そうだね」

私はジーナと一緒に食堂へ向かった



分からないながら
自分の親友じゃないのに
私のことを気遣ってくれる人がいる

それだけで今は満たされていた



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