巡り合い、

アミノ

文字の大きさ
9 / 143

八話

しおりを挟む


食堂でのこの時間
とても心地よく、幸せを感じていた

バタバタと足音が近づいてきて、
大きい声が食堂に響いた

「怪我人多数!
北東で警備に当たってたものたちだ!
救護を頼む!」

私はジーナと顔を合わせ
頷き合うとすぐに行動へ移す

分かんない、と思ってはいるが
体は勝手に動いてるし口も勝手に動く

「怪我人が多数いるとのことで班を分ける!

医務室と広場だ!
いつもと同じ、医務室へは重傷者が運ばれる
そちらへは主に救護班が向かってくれ

救護班から指示を受けたもののみ
医務室へ回って欲しい

他のものは広場へ向かう!

新入隊員のものは全員広場だ!
新しい包帯や水を運んで欲しい!」


訓練校で教えられるのは
体術や知識ばかりではなく
救護の訓練もある

基本的なことはもちろん皆学ぶが、
そこから先も救護をメインに学んだものは
討伐隊や警備隊の救護班になるみたいだ


新入隊員の中にも
救護班の子はいるが実践での経験はない

ある程度経験を積んでから、と考えた


私は広場へ向かう
何人もの警備隊の人たちがうめき声をあげ、
広げたシーツの上に横になっていた


「もう大丈夫だ
傷口を消毒するから見せてくれ」

私は横になっている1人の警備隊の隣に屈み
血が出ている場所を確認する

「あぁ、ナツか‥いてて‥」

その人は上半身を起こしながら
苦悶の表情を浮かべ私の顔を見た

私は誰だか分からないが、
声は出るので話しかける

「久しぶりだな、ゲイル
話せるなら話を聞きたいんだが、どうだ?」

そう言いながらも
袖をハサミで切り、
傷口の処置を手早く進める

「あぁ、大丈夫だ‥
北東側から見たこともない盗賊が
襲ってきたんだよ

大将らしき奴も見当たらなかった

人数としては10人程度だが
みんなバラバラに動く

盗賊団なのか
個人的に動いてる奴らなのか
それすらも分からなかった

声をかける前に
一瞬でナイフ振り下ろしてきやがって‥」

いてて、と言いながら
ゲイルと言う年上の男性は教えてくれた


「分かった、話してくれてありがとう」


「ナツさん、新しい包帯と水です」

持ってきてくれたのは
シオンだった

「ありがとう」

何故か少しびっくりしているような顔をした
シオンから包帯と水を受け取る

私は包帯の正しい巻き方なんて
知らないはずなのに
手際良くゲイルに包帯を巻く

そして水を渡し飲ませる

「ゲイル、ほかに怪我したところがなければ
私は他へ行く」

「あぁ、俺は包帯を巻いてくれた
この左腕だけだ、もう大丈夫
他へ行ってやってくれ」

「何かあればすぐに伝えてくれよ」





しばらくして
運ばれてきた人の救護が全て終わり
誰もいない図書室で休憩していた


ふぅ‥
ため息がもれる


改めて思う

分からないはずなのに
体が勝手に動き、勝手に話す


私はここにいるけど
本当にここにいなければならないナツは
別のナツ



みんなと話していると
満たされる気持ちになっていて
忘れてしまうけど、
みんなが求めているのは
こっちにいるナツであって
私ではないんだ

私がナツでいられるのは
こっちのナツの記憶があるから

その記憶がない私だったら
みんなどう思うんだろう‥


机に突っ伏したところで
ガラガラと扉が音を立てた

起き上がる気力がない私は
誰だろうと思いながらも
突っ伏したままだった

「ナツさん‥?」

聞いたことがある声に反応して起き上がると
そこにいたのはシオンだった

「あっ、シオン
どうしたの?」

平静を装い、聞いてみた

「あー‥リクの代わりに
本を返しに来たんです

リク、上官に呼ばれちゃって」

左手で本を軽く持ち上げ
私に見せてくれた

「そうなんだ、
この時間は人がいないから
普段は返却できないから覚えておいて
今は私が返却手続きやってあげるよ」

立ち上がり受付の机の下に入っている
名前とチェックが入っている紙とペンを
取り出す

本のタイトルなどチェックし、
返却受付のところにナツのサインを書く

「これで本を元の位置に戻したら
完了なんだけど‥
代わりだから分からないよね?」

「Bの12番の下から2段目とは
聞いてきてます」

「ならそこに案内するよ」

B12の棚まで行き、下から2段目に
本を置くためしゃがみ、本をしまう

ふと影が出来たので隣を見ると
シオンもしゃがんでいた

「ありがとうございます」

「いえいえ」

答えながら立ち上がったが
シオンはそのまましゃがんでいた

気になったのでもう一度しゃがんで
シオンを見た

「今日、かっこよかったっす」

下を向いたままぽつりと言った

「え?」

「今日怪我した人に手当てしてたとき
すごく手際も良くて‥
最初の指示とかも‥
なんかすごかったっす‥」

シオンは私の方を向き
真っ直ぐな目で見つめてくれた

「ありがとう
でも手際良くやれたのは
あなたが良いタイミングで
包帯と水を持ってきてくれたから、

これからも頑張ろうね」

「‥はい」

そう言うと立ち上がり
シオンは図書室を出て行った


扉が閉まった後
私は顔が熱くなるのを感じた

頑張って普通に答えたけど、嬉しすぎる!
シオンから話しかけてくれた!
しかも褒めてくれてたよね?
と口元が緩みに緩みまくって
喜んでいたところでふと気づいた

褒めてくれた内容が
こっちのナツの記憶と行動力だったと
言うことに‥


あぁ、やっぱり‥


こっちのナツの記憶では
出会ってないシオンにまで
こっちのナツをかっこいいと言われた


それまでに話した私のことは
何も言ってなかったのに‥


同じ名前で同じ顔だけど
記憶がないただの私だったら‥

誰からも必要とされないんだ‥

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

処理中です...