蛍地獄奇譚

玉楼二千佳

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夏休み編

32計算ミス

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 やっぱりか、蛍は思う。笛の音が聞こえる方角に向かうが、何故か土帝も同じ方角に向かっている。

それはまるでどこへ行けばいいのか分かっている様子だ。

だから、あえて蛍は急がなかった。蛍は、左眼で土帝の本心をみた。

なずなを誰かに頼んでさらってもらい、自分がそれを助けて、そうすればなずなは自分に夢中になる。

陳腐な舞台劇だ……蛍は蹴飛ばしてやりたかった。

普段は澄ましているが、顔の皮一枚剥がせば欲望にまみれた薄汚い本性。

自分のものにしたいなら、自分でさらってものすればいい。

「僕なら、縛り付けて懇願するまで監禁するけどね」

蛍の考えはこうだ。回りくどい手なんか使わず、そうすればよいと思った。

今までもそうだったが、自分の想いに気付いてから強くそう思う。

だけど、蛍には何となくだが、土帝の気持ちが分からなくはなかった。

「……何か、嫌な気配を感じるんだけど」

蛍は気配を消すように歩き始めた。

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手筈通り……だけど、予定は未定。確実でなければ、ヒーローにはなれない。

昔から、ずっと土帝はそう思っていた。

幼い頃から、ずっと父の跡を継ぐように教育されて、抑圧された環境で育った土帝。

ただ一つの安らぎが、なずなやガラムと遊ぶ事だった。初めは近所にいる友達程度。だが、土帝は次第になずなを意識して行く。

中学生になる時には、それが確実なものとなる。

なずなは、土帝との仲に嫉妬した女生徒に校舎裏で頭からジュースを掛けられる事件が発生した。

「私は平気だから」

なずなはそう言ったが、土帝は許せなかった。

犯人はすぐに割り出せた。校舎裏とは言え、なずなの友人が目撃していたのだ。

その女生徒を問い詰めると、最初は惚けていた。しかし、徐々に狼狽して行き泣きながら白状したのだ。

こういった経緯もあり、高校ではなるべくお互いに避けていたのだ。

だが、いつかは幼なじみだとばれる。土帝は何となく自分が女にモテるのは自覚していたし、その中で先のような事を考える輩は絶対にいる。

だったら、もう間に入れなくすればいい。

少し騒ぎを起こして、それをエピソードとしてでっち上げれば邪魔は出来なくなるはずだ。

それになずなに取って自分はヒーローになる。そうしたら、なずなの心は完全に自分のものだ。

不審者に悪戯されそうになった所を助ける。チープな小芝居だが、その方がリアルだ。

「あとは縛られたなずなを……」

ようやく、廃寺が見えて来た時だった。

「君はもっと頭がいいと思ったんだけどね」

背後から声がした。それが、今回唯一と計算ミス……蛍の存在だ。

土帝は、後ろを振り返る。

「田中蛍!」
「フルネームをそんなに叫ばないでよ。プライバシーの侵害だ」

どうして気付けなかったと、土帝は唇を噛み締める。

「どうして……」
「ああ。僕は人間じゃないからね、気配を消すなんて簡単なんだ」
「ふん。今は、お前に構う暇はない」

そう言って、土帝は踵を返して廃寺へと入って行く。

「……とりあえず、三吉に電話するか」

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