蛍地獄奇譚

玉楼二千佳

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夏休み編

34 変貌

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 不吉な予感は大体当たる。

三吉は蛍のいる場所へ急いでいた。しかし、この巨体が猛スピードで自転車や原付で追い抜くせいか、周りの人間たちは三吉が去ったあと必ず振り返っていた。

途中で三吉はそれに気付いていたが、歩みを止める気はない。

今は有事。

なりふり構っていられないのだ。

「……坊ちゃん!あんたは必ず護る!御母堂との……蓮華様との約束だ!」




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 蹴られた腹を擦りながら、鬼八は蛍を睨む。

「てめえ、よくもやりやがったなあ」
「鬼……!」

蛍を押し退け、土帝が前に出る。

「あぁ?」
「……貴様は現世にいるべき存在ではない」
 
そう言って、1枚の札をポケットから取り出す。

「こうなったのは全部俺の……!?」

土帝は、横腹を抑えて座り込む。

「何する!?」
「土帝……すっこんでろ!」

土帝の腹を殴ったのは紛れもなく蛍。土帝は、蛍を横目で睨むが、様子がおかしい。

ふー、ふー、と唸り、鼻息も荒く目が血走っている。どう考えても様子は正常では無いのだ。

額から汗がにじみ出る。土帝は、それを拭うことさえ出来なかった。

(……こんな妖怪、見たことがないぞ!)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

なずなの目は蛍を見ていた。

(……蛍くん。あれは蛍くんじゃない!)

なずなの目に写る禍々しいもの。あれから、彼を救い出さなければ……。手を後ろで縛られているだけなので彼女は幸い動く事が出来た。

なずなは、フラフラとしながらも何とか立ち上がり、石段を下る。

地面が砂利になっていて歩きにくいが、対峙している三人の方へ寄っていく。

(……止めなきゃ。このままじゃ、蛍くんが)

「なずなっ!こっちに来てはダメだ!」

なずなの様子に気付いた土帝は叫んだ。それでも、歩きにくい砂利の上をなずなは、必死で歩く。

それを見た鬼八は、なずなの足をひっかけた。手を縛られたなずなは、身体を支えることが出来ず、そのまま前のめりに倒れる。

「人質が!勝手な事してんじゃねえ!!」

膝から先に地面についたため、幸い頭に怪我は無かったが、なずなは立ち上がる事は困難だった。

すぐに土帝が身体を支えて起こす。

「なずな、大丈夫か!?」
「う、うん。それより、蛍くんは……」

すっかり変貌した様子の蛍。額には2本の角のようなもの、いつもの倍の大きさの手、その先端には鋭い手目、そして、血走った眼。

「ふー、ふーっ!」

蛍が唸り、鬼八を睨んでいる。

「おい。てめぇはまだそんなモンじゃねえだろ?」
「うーるーさーい!うるさい!」

身体が痛むのか、蛍は身体中から汗が吹き出していた。

「まだ自我を保ってやがるか。だったら……!」

鬼八は、なずなの方へ身体を向けた。

「やめろォォォォオ!」

蛍が獣のような声を出し、口からヨダレを出していた。その身体には、血管が浮き出ており、まるで野獣のように変化し始めていた。

「坊ちゃん!!」

呼び止めたのは、三吉。

「……っ!三吉!!」
「鬼八?」


鬼が2体。しかし、土帝は三吉が今は味方だと咄嗟に判断した。



「鬼!こいつは一体?」
「……何時ぞやの陰陽師?ならば、坊ちゃんに封印の札を……」

そう言って、蛍の身体を羽交い締めにした。羽交い締めにされた蛍は、離せと言わんばかりに暴れる。

そのせいか、巨体で怪力であるはずの三吉も抑えるのがやっとであった。


慌てて土帝が札を蛍に付けようとする。すると、鬼八が土帝に殴りかかろうとする。

「そんな事をさせるか!!」

なずなは身体が硬直し、身を縮める。

──あなたが守るのです。

頭の中で声が聞こえた。そして、なずなは口を開いた。

「                          」

その瞬間、周りのもの達は耳を疑った。

「うっ、うっ」

蛍の身体は力が抜けていき、嘘のように大人しくなる。

(………こりゃ、なんだ?)
(サンスクリット語?いや違う……)

鬼八が、腕を下ろし、舌打ちをした。三吉も蛍を抑える腕に力が入らなくなる。
土帝は、口を開けたまま、動く事が出来ない。

ただ、分かったのはなずなの声は全員に聞こえており、しかも全員何を言ったか分からなかった。

全員、戦意が喪失していたのだ。

そんな中、なずなはその場で気を失ってしまう。

「興醒めだ!……てめえら、覚えてやがれ!」

鬼八は、そう言って、何処かへと歩いて行った。

「……何だったんだ」
「土帝!!」

蛍は、いきなり土帝の胸ぐらを掴み、顔を殴った。
その拍子で土帝は、腰を抜かすように倒れ込む。

「くっ……。まあ、当然だよな」

口の端から血を流して、それを拭ったあとそう言った。
よろよろと立ち上がり、御堂へと入って行く。

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