35 / 109
夏休み編
34 変貌
しおりを挟む不吉な予感は大体当たる。
三吉は蛍のいる場所へ急いでいた。しかし、この巨体が猛スピードで自転車や原付で追い抜くせいか、周りの人間たちは三吉が去ったあと必ず振り返っていた。
途中で三吉はそれに気付いていたが、歩みを止める気はない。
今は有事。
なりふり構っていられないのだ。
「……坊ちゃん!あんたは必ず護る!御母堂との……蓮華様との約束だ!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
蹴られた腹を擦りながら、鬼八は蛍を睨む。
「てめえ、よくもやりやがったなあ」
「鬼……!」
蛍を押し退け、土帝が前に出る。
「あぁ?」
「……貴様は現世にいるべき存在ではない」
そう言って、1枚の札をポケットから取り出す。
「こうなったのは全部俺の……!?」
土帝は、横腹を抑えて座り込む。
「何する!?」
「土帝……すっこんでろ!」
土帝の腹を殴ったのは紛れもなく蛍。土帝は、蛍を横目で睨むが、様子がおかしい。
ふー、ふー、と唸り、鼻息も荒く目が血走っている。どう考えても様子は正常では無いのだ。
額から汗がにじみ出る。土帝は、それを拭うことさえ出来なかった。
(……こんな妖怪、見たことがないぞ!)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
なずなの目は蛍を見ていた。
(……蛍くん。あれは蛍くんじゃない!)
なずなの目に写る禍々しいもの。あれから、彼を救い出さなければ……。手を後ろで縛られているだけなので彼女は幸い動く事が出来た。
なずなは、フラフラとしながらも何とか立ち上がり、石段を下る。
地面が砂利になっていて歩きにくいが、対峙している三人の方へ寄っていく。
(……止めなきゃ。このままじゃ、蛍くんが)
「なずなっ!こっちに来てはダメだ!」
なずなの様子に気付いた土帝は叫んだ。それでも、歩きにくい砂利の上をなずなは、必死で歩く。
それを見た鬼八は、なずなの足をひっかけた。手を縛られたなずなは、身体を支えることが出来ず、そのまま前のめりに倒れる。
「人質が!勝手な事してんじゃねえ!!」
膝から先に地面についたため、幸い頭に怪我は無かったが、なずなは立ち上がる事は困難だった。
すぐに土帝が身体を支えて起こす。
「なずな、大丈夫か!?」
「う、うん。それより、蛍くんは……」
すっかり変貌した様子の蛍。額には2本の角のようなもの、いつもの倍の大きさの手、その先端には鋭い手目、そして、血走った眼。
「ふー、ふーっ!」
蛍が唸り、鬼八を睨んでいる。
「おい。てめぇはまだそんなモンじゃねえだろ?」
「うーるーさーい!うるさい!」
身体が痛むのか、蛍は身体中から汗が吹き出していた。
「まだ自我を保ってやがるか。だったら……!」
鬼八は、なずなの方へ身体を向けた。
「やめろォォォォオ!」
蛍が獣のような声を出し、口からヨダレを出していた。その身体には、血管が浮き出ており、まるで野獣のように変化し始めていた。
「坊ちゃん!!」
呼び止めたのは、三吉。
「……っ!三吉!!」
「鬼八?」
鬼が2体。しかし、土帝は三吉が今は味方だと咄嗟に判断した。
「鬼!こいつは一体?」
「……何時ぞやの陰陽師?ならば、坊ちゃんに封印の札を……」
そう言って、蛍の身体を羽交い締めにした。羽交い締めにされた蛍は、離せと言わんばかりに暴れる。
そのせいか、巨体で怪力であるはずの三吉も抑えるのがやっとであった。
慌てて土帝が札を蛍に付けようとする。すると、鬼八が土帝に殴りかかろうとする。
「そんな事をさせるか!!」
なずなは身体が硬直し、身を縮める。
──あなたが守るのです。
頭の中で声が聞こえた。そして、なずなは口を開いた。
「 」
その瞬間、周りのもの達は耳を疑った。
「うっ、うっ」
蛍の身体は力が抜けていき、嘘のように大人しくなる。
(………こりゃ、なんだ?)
(サンスクリット語?いや違う……)
鬼八が、腕を下ろし、舌打ちをした。三吉も蛍を抑える腕に力が入らなくなる。
土帝は、口を開けたまま、動く事が出来ない。
ただ、分かったのはなずなの声は全員に聞こえており、しかも全員何を言ったか分からなかった。
全員、戦意が喪失していたのだ。
そんな中、なずなはその場で気を失ってしまう。
「興醒めだ!……てめえら、覚えてやがれ!」
鬼八は、そう言って、何処かへと歩いて行った。
「……何だったんだ」
「土帝!!」
蛍は、いきなり土帝の胸ぐらを掴み、顔を殴った。
その拍子で土帝は、腰を抜かすように倒れ込む。
「くっ……。まあ、当然だよな」
口の端から血を流して、それを拭ったあとそう言った。
よろよろと立ち上がり、御堂へと入って行く。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる