蛍地獄奇譚

玉楼二千佳

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夏休み編

35唇

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あれから、ショッピングモールにいた梔子くちなしから電話が散々掛かっていた。

とりあえず、なずなを蛍の家に運びつつ、梔子の事は三吉に任せた。

家に帰って、蛍はなずなを自分のベッドに寝かした後、リビングに出る。

すると、案の定梔子がいた。それと何故か翔一もいる。

「一体どういうつもりよ!私をほったらかして」

鬼のような形相で蛍を睨んでいる。

「悪かった。ごめん」

梔子は、蛍があまりに素直なので少し唖然としていた。

「何よ……」

梔子が頬を膨らませて、赤く染める。

「……で、お前が何でいるの?」

蛍はソファでくつろいでる翔一を指した。しかも、せんべいまで齧っていたのだ。

「なんなふ!しゃんきちおゆやふふ」
「食べながらか喋るな!」

蛍にそう言われて、翔一はお茶を飲み、煎餅を飲み込む。

「俺は三吉親分に呼ばれてきたんだ!」
「……私もよ。元々、いくつもりだったけどね」

梔子は、そう言って翔一の隣に座る。
 
「三吉が?何で?」

蛍が2人に尋ねるが、2人して首を傾げていた。
そんな時、三吉がトレイにレモネードを乗せて蛍に渡す。

「……坊ちゃん。なずな嬢が目を覚ましたら、飲ませてくだせえ」
「分かった」

そう言って、蛍は自分の部屋にトレイを持って行く。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


蛍は、トレイを勉強机に置いて、なずなの顔を覗き込む。やはり、スースーと寝息を立てている。

「……生きているんだよな?」

確かに息はしている……だけど、彼の目には彼女がガラス彫刻のような芸術品に見えた。

透き通る白い肌、綺麗に並んだ睫毛。赤く柔らかそうな唇、筋の通った鼻筋。

生きているのを確かめるように、頸に自分の手を当てる。

指に伝わる脈打つ鼓動は、確かになずながそこに存在する事を蛍に示していた。

「……なずな」

いつもは呼ばない彼女の名前。それなのに、響きだけでも心地の良さを感じていた。

蛍は指でなずなの唇をなぞる。

──宗ちゃん。助けて。

あの時、この唇はそう動いていた。
蛍の手は、再び頸まで降りていく。 

「……今日は、お疲れ様。怖かったね……でも……」


蛍は顔をなずなの耳に近付けて言った。

「今度、他のヤツに助けを求めたら……殺す」

体勢を戻すと、蛍は満足気に唇を歪めた……。
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