蛍地獄奇譚

玉楼二千佳

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夏休み編

38 ライブ開始

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ライブハウスでは、普段ライブやイベントがない時は机や椅子、可動式カウンターが置かれており、軽い飲食が出来る。

今日のライブは、招待制らしく、客数も少ない為か机やカウンターなどはそのままでライブが始まるまで軽く飲食をする事にした。

「……おい。それくらいにしとけよ」

ライブまえだというやのに、ガツガツ飲む三吉に蛍は呆れ果てていた。

とはいえ、未成年者や飲めない人用にノンアルコールカクテルも用意されており、確かにカクテルは美味しかった。

蛍は、初めて飲むシャーリーテンプルというカクテルに舌鼓をうった。

シャーリーテンプルは、ザクロの香りがしており、これは蛍が好きな味でもある。

なずなとみのりは、今席を外していた。御手洗に行っているのだ。

「それにしても、ぺんぺん達遅いな」
「‪メイクとか服をなおしてるんじゃないですかい?」

しかし、この暗がりでそんな事をする必要があるのかと蛍は首を傾げた。

周りには、シリウスというバンドのファンであろう女達がいて、すぐ傍にはスーツを来た男たちもいる。

蛍は、このシリウスというバンドの曲をほとんど知らない。

そんな事を考えていると、なずな達が戻って来た。ゲストを加えて……だが。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「シュンちゃーん」

黒髪を分け、口にピアスを開けた男はシュンスケにいきなり抱きついた。

「いやあ、この時をどんだけ待ったと思う?今日はVIPがきて、ひょっとしたら芸能界入かもしれんよ!」

シュンスケは男を無視して、メイクを治していた。

「そんなんなれば、女の子食べ放題♪それどころか、可愛い男の子も食べれるんやで~」
「うるせえな、バラ。テメェはギターのチューニングでもしてろっ」

シュンスケは乱暴にバラという男を引き剥がす。

「つれへんのう」
「仕方ねえぜ。リーダーは今が1番ぴりぴりしてるからな」

ガハハっと豪快に笑うのは、クマと呼ばれるドラム担当でシリウスの中で一番ガタイがよくて、スキンヘッド。 
その他には、髪を金色と黒色のグラデーションにしたギター担当大雅、紫に染めた髪の女形でベース担当コンジキ、そして、一番背が低く髪を青く染めたヒカルはキーボード担当だ。

そして、リードギター担当のバラと、ボーカルのシュンスケ。

シュンスケは、口に喉のスプレーをひと吹きすると、椅子から立ち上がる。


「時間だ!!行くぞテメェら!!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「……土帝。君がなんでいるのさ?」

不貞腐れたように蛍は、席に座っている土帝に尋ねる。

どうやら、ライブハウスの持ち主が井原不動産という会社の社長らしく、その社長と土帝の父が懇意にしている。その関係で今日のチケットを貰ったらしい。

「井原不動産の娘とは、同級生だし。親父には、たまには息抜きをしろと言われてな。ただ、バンドはよく知らないし、途中で帰るつもりだ」
「え?最後まで聞いていきましょうよ!せっかくだし、帰る方面も一緒だし」

みのりは憧れの先輩を目の前にして、内心緊張しながらそう言った。

「そうだな」
「ああ。そうだ、お前さん。うちで飯でもどうだ?お嬢さん達も食べていくし、1人2人増えても構わん」

蛍は三吉を睨むが、三吉は対して気にしていない様子だった。

「ええ?!三吉さん、いい事言う!せ、先輩どうですか?」

みのりの目はきらきらと輝いていた。蛍は呆れつつ、ため息をつく。

「何だか、晩御飯が楽しみね。あ……」

当たりが真っ黒になる。誰も静かにしろと言わないのに、みんな当たり前のように黙り込む。

そして、けたたましくドラムの音がなり始めると音楽が始まり、ステージのみカラフルなライトが照らした。

「オーディエンス!」

ボーカルが舞台の下から急に登場し、歓声が鳴り響いた。

「シュンスケー!!」
「バラー」

黄色い声が、それぞれの推しを呼んでいる。女達がペンライトを振り回し、席から立ち上がらんばかりだ。

「凄い!きゃあ!シュンスケカッコイイ!ね、なずな?なずな!ね、なずな?」
「あ……え?うん。そうだね」

シュンスケの歌声が響いた途端に、なずなは懐かしさと動揺がした。

そして、脳裏を横切る映像。

今際の時に男女が抱き合い、女の方が絶命する悲しい映像……。まるで、目の前で起きているようだった。

なずなは手を伸ばし、隣に座っていた蛍のシャツを引っ張る。

シャツを引っ張られ気づいたのか、蛍はステージから目を離し、なずなを見る。

「……ぺんぺん?」

蛍は尋ねたが、なずなは何も言わず俯いていたのだった。
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