蛍地獄奇譚

玉楼二千佳

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夏休み編

39 痴話喧嘩

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   「よっしゃ!今日はなんと、ゲストが来てるぜ!紹介するっ!アイドルの柚月だ!!」

  会場は一瞬ザワついたが、それでもすぐに拍手喝采となる。

  蛍達の席では、三吉とみのりがあっと大きな声を出した。

 それだけではなく、なずなもびっくりしていたのだ。

 ステージに立っていたのは、動画配信サイトでお馴染みのアイドル。それが何とひなだったのである。

 ひなはさっき鉢合わせた時とは違い、黄色を基調としたふりふりの衣装で現れた。

「皆さん!こんにちわ!柚月だよっ」

 柚月ことひなは、デュエット曲をコラボしたらしく、その曲の制作発表の為のゲストらしい。

「三吉、お前。僕がいない時にアイドルの動画なんか」
「いやあ、坊ちゃん。後学の為です」

 三吉は照れていたが、蛍は呆れるしかない。

「ん?どこかで見た顔だが……」
「ひなだよ……覚えてない?」

 土帝はああと思い出したようだった。

 (よくなずなの後を追いかけてた子か。しかし……)

 歌は五分間程度。その間、踊ったり、演奏をしていた2人には疲労など微塵も感じさせない。

 正しくプロと言った感じだ。

「皆ありがとう!」

 そう言って、バンドのメンバーもひなにお礼を言うと、ひなは舞台袖に行く

「……さて、次はバラード。redmumレッドマム

 今までの曲とは違い、しっとりとした曲調で女性客は目を潤ませる。

 (確かに美声だ。さっきまでの曲じゃ分かんなかったけど……これなら、女がうっとりするのも分かるけど)

 この曲は、あまりに歌詞が綺麗すぎてそれはそれで蛍はうんざりした。

 ふと、蛍はなずなを見る。彼女の目が潤んでいる。蛍はやっぱりかと首を振る。

 ただ、反対側にいた三吉まで目を潤ませていて蛍はその様子にギョッとしたのであった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 最後の曲がようやく終わり、客達は余韻にしたってかいる。

 それから、何人かがバラバラと帰り始めていた。

「じゃあ、僕らも」
「待った!この後、楽屋にも行けるチケットよ」

 みのりがそう言って、なずなが思い出した。

「そう言えば、交流券付きだったわね」
「僕はパス……三吉は?」

 三吉も首を振る。

「え?そうなのなずなは?」
「ぺんぺん、行ってきなよ。バンドの曲好きなんだろ?」

 蛍はスマホを見てややぶっきらぼうなものの言い方であった。

「蛍くん、怒ってる?」
「別に……ただ、イケメンの声にうっとりしちゃった君を見ていられないだけだ」
「そんな言い方……行こ。みのり」

 なずなは、みのりの手を引っ張り、店員の方に行く。そして、楽屋へと行ってしまう。

「馬鹿な奴だな」

 土帝は首を振り、烏龍茶を飲む。

「え!なんだよ」
「あっしも賛成だ。坊ちゃん、あんたは馬鹿だ」
「は?!え……もしかして、今の僕が悪いの?」

 2人に尋ねて、2人に頷かれる蛍であった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ああもう!」

 楽屋に入る前にトイレで、整容するなずなとみのり。

「あんたが怒るなんて珍しい」

 みのりがくすくすと笑っている。

「そんな事ないよ」
「へえ。でも、おかげで緊張解れたわ。さ、行こうよ」

 トイレから出て、道なりに楽屋はあった。関係者以外立ち入り禁止とは書かれているが、案内してくれた店員がドアを開けてくれた。

 バンドのメンバーがこちらを見ている。

「ああ。皆さん、交流券の方2名です」
「これはえらい可愛らしい!俺はバラ。ギタリストやで……って知ってるか」

 バラは嬉しそうに飛び跳ねていた。ほかのメンバーも軽く会釈をしてくれる。

 そして、一番奥にいるのがシュンスケである。

「なずな、どうしよう!?カッコイイ!」

 みのりが服を引っ張るのでなずなは、困ってしまう。

「……おい。飲み物をふたりによういしてやれ」

 そういうと、スタッフが動いて、使い捨てカップに氷とお茶を入れて持って来て椅子を用意する。

 二人は椅子に座り、お茶を飲んだ。メンバーはじろじろとこちらを見ている。

「あら?2人とも若いわね?学生かしら?」

 女形でベースのコンジキが2人に尋ねてきた。

「え?私たち、こう……」
「大学生です。今年、入学したばかり」

 なずなが答えようとして、みのりが遮り答える。

「ちょっとみのり……」
「いいじゃんいいじゃん。どうせ、会う機会なんで全然ないんだし……」

 みのりにウインクされ、なずなは仕方ないなとため息をつく。

「女子大生?ええな。あ、そうだ。写メ撮ろう。はい皆集合」

 バラの声掛けに、メンバーが集合する。

「約束やで、週刊誌売ったらあかんでぇ」

 バラは冗談交じりに言って、なずな達はくすくすと笑う。

 みのりはスマホをスタッフに渡す。

「カメラ撮りますよ……シュンスケさんあっもう少しくっついて下さい」

 スタッフがなずなの隣に立っていたシュンスケにそう言った。

「こうか?」

 シュンスケが少し屈んでなずなの肩を抱く。

 少し顔が近くて、なずなは目を見開く。

「……久方ぶりだな」

 シュンスケの言葉になずなはビクッと肩をふるわせた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「とにかく、お前はなずなに謝って来い」

 蛍は土帝に言われ少しムッとしたが、反論する言葉も見つからず、残りのジュースを飲み干す。

「坊ちゃん。あっしは女の事はよく分からんが、早めに謝らないと……以前、瑠璃と沙羅を怒らせた事があって……」

 瑠璃と沙羅がマニキュアを変えたらしく、どっちがいいか三吉に尋ねた事があったらしい。

 三吉には、違いが分からなかったらしく、どっちでも変わらない事を伝えると2人の顔は、卵が焼けそうなくらい赤くなり、怒ってしまった。

 謝らずに放って置いたら、未だにその事で時々嫌味を言われるらしい。

「とにかく、謝ってくるよ。でも、あとになって頬っぺた膨らませてってのも捨て難い」
「馬鹿な事言っとらんで、謝って来い」

 三吉がそういうと、蛍は立ち上がり、さっき2人が消えた方向へ向かう。

「やれやれ、全く困ったもんだ。のう?」
「頬を膨らませるか……ん?何でもない!」

 土帝の言葉に三吉は首を振るしか無かったのである。



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