蛍地獄奇譚

玉楼二千佳

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二学期地獄編

63 ネズミが塩を引く

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 「……という事で、出席を取るぞ」

山野が順番に名前を言う。

「……木本。木本美亜。あれ、休みか?」

山野は不思議に思ったが、生徒達は皆事情を知っている。

「……あとで連絡する。次は」

出席番号順に次々名前を呼んで、生徒達は返事をする。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ああもう!むかつく!」

美亜は理科室の前まで来ていた。本来、3時限目にここで授業だが、昨夜騒ぎがあった為に中止。

生物の授業は嫌いだが、それでも教師がイケメンなので受ける価値はある。

「3時限目までサボるか」

理科室の扉を開く。いつもは鍵がしまっているはずなのに、昨日の騒ぎで閉め忘れたのか。

「ラッキー」

今日はどの学年もここを使用しないはずだ。

「それにしても……最近、みのりもなずなも、調子に乗りすぎ!田中が来てからよけいに!」

少し前まで、みのりやなずなとは仲が良かった。だが、平井と仲良くなって行くに連れて、みのり達は離れていった。

加えて、みのりとなずなは平井と折り合いが悪い蛍と仲がいい。特になずなは、蛍の彼女だと噂されるくらいだ。



 入学した当初から平井を好きだった美亜。その平井を喜ばせる為だったのに恥をかき、その上、今日は裏切られたみたいに平井は庇ってくれなかった。

それが一番、傷ついたのだ。

「なんかバカみたい」

いつもストレス解消の為に桃をからかっていた。桃は大人しくてめそめそしていて大嫌いだ。それが……。

「そうよ!髪型とか変えたくらいで調子に乗ったあいつが悪い!」

ふと、机の上にハムスターのゲージがあるのが見えた。ハムスターは何も知らず、寝ているだけ。

美亜は何だかイラつき、ハムスターのゲージを強く叩く。
バンと強くなり、ゲージは揺れる。すると、ハムスターはビクッと首をもたげ、美亜見た。

「なによ?」

すると、ハムスターの目は赤く光り始めた。

びっくりして、後ずさるが気づいた時にはハムスターの群れに取り囲まれていて……。

「ひぃっ!」

悲鳴をあげるも、美亜の身体中ハムスターがよじ登り、やがて声も出せなくなっていた。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「美亜、戻ってこないわね」


なずなが心配そうに、美亜の席を見る。

「……帰ったんじゃない?それより、水瀬さんだよ水瀬さん……」

みのりは桃の方を指さす。

そこには、男子生徒数人と楽しそうにお喋りをする桃がいた。

いつも桃は、男子と話をするどころか、目も合わせない。

大人しく本を読んでいるか、スマホをいじっているかなのだ。

「確かに……でも、明るくなって良かった」

なずなはにっこりと笑う。

「はあ?でも、あれはいいの?」

見ると、蛍が桃に近づいていく。

「水瀬さん……だっけ?」
「え……田中君」

桃は昨日の今日でさすがにバツが悪い。

「……今日、一緒に帰らない?」

蛍のその言葉に、桃は頬が赤くなっていく。

「え?」
「君に興味があるんだ。ダメかい?」

桃の心は舞い上がった。男子にこんな事を言われるなんて。

しかも、相手は怖いと思いつつ、密かに憧れていた人だ。だが、しかし……。

「え……でも」

ちらりとなずなの方を見る。なずなと付き合っているらしいとの噂は知っていた。

いや、噂は噂だ。現に、蛍は多分自分に気があるそぶりだ。それに今日の桃は自信満々である。

「……うん。いいよ」

学年のアイドルで男子から1番人気のあるなずなに勝てた気がする。元々、同じ土俵に立てないと思っていたのに……桃はますます有頂天だった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

3時限目が始まるころに、美亜が帰って来た。

とはいえ、その表情は虚ろでふらふらと席に着く。

その後すぐに、生物の会田が入って来る。

「授業を始めます」
「……起立っ」

学級委員が号令すると皆一斉に立ち上がり、会田に向かいお辞儀をしてから座る。

「今日は、理科室が使えないので、教室での授業になる。今週中には害獣駆除をするので、実験はまた来週。ところで、以前の……」

がちゃんと大きな音がなり、皆の視線が音の方向に向かう。音の主は、美亜だった。美亜の周りには教科書や文房具が散乱しており、美亜の目は血走っていた。

「……木本さん、どうかしたの?」

会田は美亜の席の方へ向かっていく。

「お前のせいだ!!」

美亜が立ち上がり、会田に掴みかかっていく。

「うわ!」

会田はよろめきながら、美亜を抑えるが、力負けして後ろに倒れて尻もちをつく。

慌てて両脇にいた男子生徒と女子生徒が美亜を抑えた。


「はあはあ……」

美亜は息を切らし、過呼吸になる。

「美亜っ!保健室へ行こう」

このままでは不味いと美亜はなずなに連れられて保健室に向かう。

「……大丈夫ですか?先生」

蛍は会田の手を引っ張り起こす。

「あ……ああ」

会田は服についた誇りを払い、また再び教壇に立つ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ありがとう。吉永君」

なずなは、美亜を保健室に連れてきた。美亜は今、ベッドで寝ている。

「しかし、急に暴れだして、過呼吸か」

経国つねぐには、腕を組んで考えている。

(江間先生って、蛍くんのお兄さんなんだよね……)

似ても似つかないとなずなは思った。

「……ところで、蛍がそちらに迷惑を掛けていないか?」

なずなは首を振り否定する。

「ならいいんだが……」

江間は、美亜のカルテを見つめてそう言った。

「……それと、蛍に伝言を頼む」
「ええ。いいですよ。何ですか?」
「よからぬ気配があると……」


江間は眼鏡のブリッジをあげてそう言った。
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