蛍地獄奇譚

玉楼二千佳

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二学期地獄編

64 猫はねずみに逃げれた

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  「全く酷い目にあった」


会田は理科室に向かっていた。あのクラスの担当山野に文句を言いたくなってきた。

元々、高校生など相手にしたくない。研究職か企業に勤めたかった。

教員免許は、何となく取ったに過ぎない。

しかし、この学園はやたら羽振りがよく、ボーナスも一般企業の倍だ。

その理由として、土帝ツーリストの御曹司と井原建設の令嬢が通っている為だ。

(女生徒のレベルも高い。それに今日の桃は可愛かったな。あれなら、卒業しても遊んでやってもいい)

勝手な事を思いながら、理科室の鍵を開けようとするが、閉まっていないのに気付いた。

「……施錠忘れか?」

昨日、ねずみ騒ぎがあったというのに……。会田は呆れながら、理科室に入る。

すぐにハムスターのゲージに近づいた。もう十匹は実験に使ったか。

最初は餌に酒を入れ、どれだけでアルコール中毒になるか、それから何日餌を与えなければ、餓死するか……。

「はあ。また補充するか……似たような柄なら桃にもバレないだろう」

ゲージを見ていると、一瞬ハムスターに睨まれたような気がして、背筋がぞくりとする。

いつしか、理科室そのものが恐ろしく感じ、部屋を出ようとした。

「……あ、あれ」

扉を開けようとするが開かない。どれだけ扉を引っ張っても開かないのだ。

「なんで……?」

会田は助けを呼ぶため、反対側にむかい窓を開けようとするが、開かないのだ。

「嘘だろ……」

次第に部屋が薄暗くなる。いくら、秋めいて日が落ちるのが早いとはいえ、まだ午前中だ。

今度は照明をつけるために、スイッチをつける。一瞬明るくなったが、すぐに照明は消えてしまう。

「おいっ!誰か!」

会田はパニックになり、扉をどんどん叩き、助けを呼ぶ。確かに、扉の向こうから声は聞こえているし、誰かが歩く足音も聞こえているねかだ。

「無駄ダ……」

会田はゆっくりと後ろを振り向く。

「我ガ同胞怒リ怨ミヲ知レ!!」

そこには教室の半分以上の大きさのネズミがいたのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「……分かったよ。気をつける」

授業後、なずなは蛍に経国つねぐにからの言付けを伝えた。

「そうだ。今日の部活なんだけど、最後の飾り付け……」
「……あ。今日は用事があるから、部活行けない」

蛍はそう言うと、次の授業の教科書とノートを机に置く。

なずなは、何だか素っ気ない態度に戸惑いつつ、自分も次の授業の準備をする。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


授業後でも、蛍の態度は素っ気なかった。それだけではなく、ランチに誘っても断られた挙句、蛍は桃と食堂に行ってしまう。


それを知った梔子くちなしがクラスに乗り込んできた。

「ちょっと!どういう事?!何なのよ、あの女は……」
「え……?」
「蛍と食堂にいた女よ!」

梔子はばんばんなずなの机を叩く。なずなはキョトンとして答えることが出来なかった。

「知らないわよ。私達だってびっくりしてるんだから」

みのりがお弁当のサンドイッチにかぶりついている。梔子は、縮こまってお弁当を食べているガラムを睨んだ。

「アンタ、ちょっと調べてきなさいよ!」
「え?!なんで僕が!」
「文句あるの!?」
「な、ないです」

あまりの迫力に、ガラムは席をたとうとするが、なずなにシャツの裾を力強く引っ張られた。

「……行かなくていいの。蛍くんだって、他にお友達が欲しいのよ」

なずなは満面の笑みで、そう言っている。

「あ、みのり。唐揚げ頂戴。私のハンバーグ上げるから」
「えー。仕方ないなっ。でも、なずなのハンバーグ美味しいから許す」

なずなはいつもと調子は変わらない。ガラムは思わず、梔子と目を合わせるが、梔子は舌打ちをして教室を出ていく。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「……ったく!何なのよ!あの女!まるで蛍の事何でも分かってますみたいな態度!」

梔子は、イライラしながら廊下を歩き回っていた。

「そりゃ……」

梔子は以前、新八になずなが殺されかけた時の事を思い出した。

蛍が怒り狂うほど、羅刹を甦らせるほど、大事に思っている事。

もしも、自分が同じ目に合えば、蛍もああなってくれると思いたい。

ふと、何かよからぬ気配を感じた。

「……これは、妖気!?」 

梔子は妖気のある方角に走り出す。

(これは一つ目や小豆婆のものじゃない)

理科室の前に来ると更に妖気が強くなる。

梔子は理科室の扉を開けようとしたが、鍵が閉まり開かない。

(普段は鍵がかかってるんだっけ?!)

梔子は人間の鍵なんて、すぐに開けれると拳に力を入れた。そして勢いよく、拳を振り下ろしたその時……。

「……危ないな」

それは、生物教師の会田だった。梔子だって彼の授業は受けているので、顔だけは覚えていた。

「あ……」
「気をつけて」

確かにみぞおちの辺りを殴った感触はあったねだ。

いくら、梔子が女性だとしても、人ならざるものである。力は成人男性てあまり変わらないのだ。しかし、その人間は一切痛みを感じていないようだった。

「……また授業で」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「へえ……そうなんだ」
「それでね、それでね。前回は……」

(まるで、ネリネと話してる気分だ)

蛍は桃と帰宅をともにしていた。遠回りになるが、桃を送り届ける事にしたのだ。

さっきから桃が話しているのは、どうも女児向けアニメの話だ。

当然、蛍はそんなもの見ないし、話をされても分からない。

なずなはそんな話しないし、むしろなずなは蛍の話をいつも聞いてくれる方だ。

しかし、桃の様子がおかしいのは確かだ。いつも、教室の隅で大人しくスマホをいじっている。

こんなに喋る子ではない筈だ。

「桃ちゃん。何で今日髪型変えたの?」
「えー。なんか分かんないけど、急に自信が出てきて、あと気分?」

やはり、おかしい。

「……いつから、気分はよくなったの?」
「うん?朝からかな?あ、マンションここ!じゃあね!蛍君」

桃はあっという間に走って、マンションに入っていく。

それ以上は追いかける訳も行かず、首を振りため息をついた。

















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