蛍地獄奇譚

玉楼二千佳

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二学期地獄編

75 付喪神

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 ここは付喪神の瀬戸大将、瀬戸物の妖怪が経営するTUKUMOつくもという会社だ。

 会社とはいえ、まるで武家屋敷のような場所だ。

 蛍は玄関にいる鉦鼓の付喪神、 鉦五郎に声をかける。鉦鼓とは雅楽などに使われる平ペったい楽器だ。

 鉦五郎は、亀のような姿で甲羅の部分が鉦鼓でしっぽがばちになっている。

「……瀬戸大将はいるか?」

 鉦五郎は返事の代わりにばちでカンカンと甲羅を叩いた。

「いるんだな」

蛍は靴を脱いで屋敷に入っていく。なずなもそれに従うように、靴を脱ぎ、 鉦五郎に会釈をする。

 鉦五郎はまたカンカンと甲羅を叩く。

「やだ。可愛い」

なずなはくすくすと笑った。

しばらく進むと、何やら騒いでる妖怪がいた。

小さな体でその場をぐるぐる走り回る草履の妖怪、次郎吉だ。そしつて、それを窘める箒神の権兵衛。

「……うるさい」

蛍は、次郎吉と権兵衛を睨んだ。

「あー!権兵衛さんが蛍様を怒らせた!」
「な!お前もだ!」
「両方だ。全く……瀬戸大将は奥にいるか?」

蛍は頭を抱えて、箒神に尋ねる。

「ええ。いらっしゃいますよ。……ところで、そちらの女性は……?」
「……えっと」
「あ、私は蛍くんのお友達です」

なずなはそう言って、2人に微笑んだ。

「友達か……。あとピーシーもいるのか?」
「ええ。奥に入って下さい」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「……わしの負けじゃ」

瀬戸大将は、目の前のノート型パソコンに将棋で惨敗する。

瀬戸大将は、その名の通り、全身が瀬戸物で出来た甲冑の武者の妖怪で、付喪神の元締めである。

そして、目の前にいるノートパソコン。勿論、普通のパソコンでは無い。

付喪神だ。彼は付喪神でも異質で、パソコンに命を懸けた一人の男が亡くなった後、そのまま魂が宿り、地獄にパソコンごと落ちて妖怪となった。

通常、付喪神になるには100年かかるのだが、念が強かったのか、はたまた奇跡なのか、30年ちょいで付喪神になってしまった。

異例の付喪神ピーシー。そして、彼によるとこの奇跡は100億分の1。まさに奇跡の中の奇跡らしい。

「素晴らしい勝負でした。少年棋士も瀬戸大将といい勝負が出来ますよ」

ピーシーは、インターネットであの世とこの世の事に詳しい。

そして、このピーシーこそ、技術と霊力を使い、蛍のスマホを作り上げたのだ。

「おや、お客さんみたいですね」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ああ。つまんね」

妖怪の街は今日も平和だ。

静かな路地裏にいるのは、2人の鬼。

「確かにな。人間界にも行くか?」
「閻魔手形がねえよ……。それに前より、鬼門の門番が厳しいらしいしよ」

以前、鬼門が破られた事件があり、そこから、検問が厳しくなったようだ。

とくに、地獄での犯罪歴のある妖怪は鬼門に行っても、追い返さる事もある。

この2人の鬼は、盗みタカり程度のかなり小規模の犯罪をした事がある。

その為、鬼門を潜ることが出来るのか怪しく、気が小さい2人の鬼は人間界で暮らす勇気もない。

「……そういやあ、さっき閻魔の息子を見たな」
「本物か?」
「ああ。そうだよ。俺は閻魔堂の辺りを彷徨いてた時、見た事があるんだ」

鬼は懐から安酒を取り出して、それを飲み干す。

「ちぃっ!不味い」
「それは……本当か?」

2人の鬼はビクッと肩をふるわせた。声を掛けてきたのは、牛頭。同じ鬼だが、背丈も身分も違い、更には迫力も違う。

「あ、あ…あなたさまは」

酒を飲んでいた鬼は、顔を青くして言った。

「……蛍様を見かけたのだな?1人か?」
「い、いや。女と一緒だった」
「女は人間か?」
「や、種族はわかんねぇですが……」

牛頭は酒を飲んでいた鬼から詳しく事情を聞く。

「……そうか。お前たち名前は?」

酒を飲んでいたのが、太吉。もう1人が楠松と言うらしい。
 
「お前たち、頼みがある」

牛頭は不敵に笑ったのだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「……では、蛍様。スマートフォンを拝借頂きます」

蛍は瀬戸大将の部屋に入り、なずなと2人で並んで座っていた。

「うむ……」

瀬戸大将は蛍からスマホを受け取ると、渋い顔をしていた。

「どうした?」
「ダウンロードに時間がかかりそうです。何分、情報量が多いのです」

ピーシーがそう言った。

「蛍様の身体的特徴は元より、思考、嗜好品、血液型……全てを扱っていますから」

自信満々にピーシーは豪語する。

「お嬢様、もし宜しければ知りたい情報教えます。それに性癖……」
「おい!調子に乗るな!」

ピーシーの演説は、蛍の怒鳴り声で遮られる。

「せ……それはいいけど、そうだな……あ、好きな食べ物は?」
「おにぎりと味噌汁です」
「凄い!本当に答えられるのね」

新しい玩具を見つけた子供のように、なずなはキラキラと目を輝かせる。

「ぺんぺん。そんなの僕に聞けばいいじゃないか?」
「え?でも、ピーシーさん、何でも知ってるって!スーパーコンピュータね!」

こんな意思も感情もあるストーカーみたいな奴がスパコンであってたまるかと、蛍は自分の事は棚に上げていた。

「そうだ。お2人とも、街を見物に行っては?時間も掛かるだろうし……それにには物珍しいものが沢山ありますし」
「瀬戸大将……お前……まさか」
「大丈夫です。わしらは味方です」









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