蛍地獄奇譚

玉楼二千佳

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二学期地獄編

86 決着

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「しつこいわね!」

梔子くちなしは、ネズミを蹴り飛ばしそう言った。

「ネズミと言うより、蛇だな」

皮肉を込めて、土帝はそう呟く。

2人で逃げるなら、こんなのは朝飯前だが、やはり会田と美亜を守りながらの応戦はキツい。

土帝も護身用の札で応戦するしかない。

(……ダメだ。札では応戦してもキリがない。やっぱり……お祖父さんに……)

「がァァァ!」

2人の前に、他のネズミより大きなネズミが立ち塞がる。

「何なのよ!もう!」
「こんなところでっ!」

巨大ネズミは、頼豪ほど大きくはないが、これ以上会田と美亜を守りながらの進行は無理だ。

「どうすればっ!」
「……狐火」

突如、巨大ネズミを炎が包む。しかし、辺りは燃えておらず、火の粉はネズミ達だけに飛び移っていった。


「うぎゃぁぁぁぁああああ」

聞こえるのは、ネズミ達の断末魔。

「さあ、行くんだ!あとは任せろ」

炎の中から現れたのは、経国つねぐにだった。

「……分かりました」

土帝は、梔子達を先導して体育館をあとにする。

それを見送り、経国は何かを感じていた。

「これは……羅刹?!だが……」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ああ……。これが羅刹の力……」

額を抑え、蛍は力が湧いてくるのを感じていた。禍々しい力ではあるが、少なくとも頼豪に勝つ自信が出てくる。

「鬼だト?小僧……貴様はラクシャサ?!」
「……そうだとも言えし、そうでもないと言える……僕は僕だ」

蛍の額には、角。そして、手は鋭い爪。とはいえ、不完全で完全な羅刹ではない。
 蛍の目は血走って、大量の汗をかいている。

「ふんっ!見た目だけヵ!」

頼豪の鋭い爪が、蛍に襲いかかる。しかし、蛍は片腕だけで受け止めた。

「……分茶離迦ぶんだりか
「何?!」

地面から水が湧き上がったと思うと、花が咲く。しかし、その花は……。

「熱いっ!熱いっ!」

頼豪は燃えながら、蛍を睨んだ。

「貴様っ!」
「お前に申し開きをやる。もし、人間にこれ以上危害を加えず、心からの謝罪の気持ちがあるというならば、助けてやる」
「ぐぬぬっ!」

頼豪はしばし、考えたあとこう答えた。

「わかった。引き上げよウ」

すると、頼豪の身体を包んでいたはずの炎は消えていく。

「……ならば、地獄へ還れ」

蛍の身体は元の容姿に変わっていく。

「かかったな!羅刹の力など無ければ、貴様など……ぎゃああああ!」

突如、頼豪の身体を炎が包んでいく。

「……言っただろう?しろって……」

頼豪の身体は炎と共に消えていく。他のネズミ達も力の源を失い、しまいにはアリのように小さくなり、消えていった……。

「坊ちゃん!お見事です」

ネズミ達と戦っていた三吉が、駆け寄って来た。続いて、現場に到着していた経国もやって来る。

「三吉……、兄さん……これで……」

蛍は力なく倒れていく。それを三吉は受け止め、そのままおんぶする。

「三吉。蛍を保健室へ」

経国は三吉を促す。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 夕方、ほとんどの生徒は帰宅していた。

あの後の人間達の記憶には、ボヤ騒ぎという記憶にすり変わっていた。

ただ、なずな達のような今回の騒ぎに深く関わっていた記憶はそのまま。

何故かはいまいちよく分からなかったが、こちらにはつごうがよかった。

次々と生徒が帰宅していく中、なずなと桃はまだ学校にいた。

2人とも、まだ保健室でカーテンで仕切られたベッドで眠る蛍を心配していたのだ。

「……吉永さん」
「ん?どうしたの?」

2人は保健室の椅子に座り、蛍が目覚めるのを待っている。

三吉は1度家に帰り、夕食を作ってから、車で迎えに来るとの事だ。ただ、三吉が普通車免許を持っていたのは、経国含めなずな達もびっくりしていたが……。

「私ね……会田先生に脅されてたんだ。言う事を聞かないともっと酷いことするって……」

桃はぽろぽろと涙を流していた。その表情を見て、なずなは会田の憎悪と怒りが出てきた。

「桃ちゃん……」
「……だからって許されないと思う。蛍君も怒ってるよね?」

なずなは桃の目を見て、首を横に振る。

「蛍が目を覚ましたよ」

ふいに、カーテンが開き、経国が顔を出す。2人が、立ち上がり中に入る。

「蛍くん。よかった……」
「ぺんぺん?あと、桃ちゃんも……」

蛍はベッドの上で、座位の姿勢をとる。

「うん。三吉さんが車で迎えに来るって」
「え?あいつ、免許持ってたの?」

どうやら、蛍も知らなかったようだ。

「……水瀬君。ちょっといいかな?」
「え?」

経国は手を桃の頭の上に置く。そして、撫でるように手を動かした。

「江間先生??」

桃は顔を赤らめて、経国を見た。

「ああ。我が妹を見ているようだ。こちらと違って可愛くてね。そうだ、2人とももう帰る時間だよ。三吉が車で来るし、送って貰うんだ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 車内は狭かった。いや、悪いのは車じゃなくてどう考えても、その車のサイズに合わない男が、運転しているせいだ。

「お前の体格なら、ワゴン車だろうが。何で軽自動車なんだ?」

蛍は何度目か分からない文句を三吉に垂れ流す。

「仕方ないでしょう。車買う時、店員も同じ事行ってましたがね」

確かにそれはごもっとも。2メートル超えた男が、軽自動車に乗るのは窮屈である。

「なずな嬢もすみませんね。窮屈でしょ?」 

三吉が後部座席に乗るなずなに、声をかけた。

「そんな事ないですよ」

桃を送り、今はなずなの家に送っていた。

「あ、ここ」

丁度、なずなの家の前に辿り着く。

「ありがとうございました」
「じゃあね。ぺんぺん」

なずなが家に入るのを見送り、車は出発する。

「いやあ、いい娘さんだ!お父さんも立派な人だった。あんたにゃ勿体ない」

三吉はそう豪快に笑い出す。

「は?そんなこと……ん?」

ふと、窓から見た事あるような男が通り過ぎた気がした。

「どうしました?」
「いや、何でもない」

(あれは、人間じゃない?鬼……?)



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



なずなは、少し熱めの湯に入るとため息を着く。

今日の湯は、菊をイメージした入浴剤だ。

その湯に浸かると、少しホッとする。

「蛍くん……。私、あなたが……好きかも」








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