蛍地獄奇譚

玉楼二千佳

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二学期地獄編

87 お仕置

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  随分と酷い目にあった。

 美亜は、ベッドの上のクッションを投げつける。

 何しろ、学校をサボったと思われ、マンションに帰ると教育にうるさい両親から1時間以上説教された上、しばらくはお小遣いもない。

 ネズミの話をした所で、信じてくれないばかりか余計に怒らせた。

 「これも桃のせいよ!ほっんと!生意気!」

美亜はぎりぎりと唇を噛む。次にあったら、どんな目に合わせてやろう?美亜は、しばらくお金もないから、脅迫も考えていた。

「……なるほど。反省の色はないようだな?」

締め切っていたカーテンの後ろから、男が出てきた。

「え……なんで?」

あれは、養護教諭の江間経国つねぐに

「なんでここに?」
「ああ。君が反省したか、見に来たんだよ」
「はあ?パパとママに頼まれたの?」

経国つねぐには首を振る。一瞬。訳分からなかったが、すぐに悪巧みを思いつく。

美亜はわざとパジャマの胸元を開けた。上手く利用すれば、この男からもお金を毟り取れる。

「ねえ。先生っ。私とっても反省しているの」
「ほう」

胸元で、腕を組み、ギュッと寄せてあげる。

(見てる見てる……)

「それで君は……」

(きたきたっ)

美亜は経国の身体にすり寄る。

「……先生、抱きしめて」

思い切り、胸を押し付けて、上目遣いに経国を見る。

「……はあ。誘惑するなら、もう少し色っぽくなってくれ。それに私はには興味がないんだよ」

美亜は、その言葉にムカついて、経国から離れる。

「は?もういい。……きゃあああ!」

急に叫びだし、シーツやクッションを散らかし出す。

「パパっ!ママっ!助けて!!」

部屋中に美亜の叫びがこだまする。

「全く……」

経国は美亜の行動を冷めた目で観察していた。
 
 美亜もだんだんおかしいと思いだしていた。これだけ騒いでいるのに、両親は来ない。

いつもなら、少しでも友達と騒げば、他の部屋に迷惑が掛かると怒鳴り込んで来るのに……。

「ぱ、パパ?ママ?」

美亜は少しづつ、恐怖を感じ始める。電気はついているのに、部屋は薄暗い。

騒ぐのを止めた途端、フワッとクッションや布団が浮き出したのだ。

「は?こんなのマジックでしょ?仕掛けがあるはず」
「そんな訳が無いだろう?」

経国が指を鳴らすと、今度は美亜の身体が浮き出す。

「え?やだ……降ろして?!」

ところが、泣こうと騒ごうが下ろしてくれる様子はない。

「降ろしてよっ!ひっ?!」

今度は、四方から伸びてくる人の手のようなモノ。しかも、身体は見えない。

「触らないでっ!触るな」
「すぐに反省してくれ。私は忙しい」

もはや、背に腹はかえられぬ。美亜は泣きならがら許しを乞う。

「ご、ごめんなさいっ!脅した事、反省するからっ!!」
「それと、水瀬君には手を出さない。水瀬君に謝罪をしろ」
「謝罪するっ!ごめんなさい!ごめんなさい!もうしません!」




しばらくすると、美亜はベッドにいた。悪夢を見たようだ。

美亜はまた再び、眠りにつく。しかし、美亜はこの後を悪夢を見る。

そして、その後美亜は学校へ来なくなって、転校して行ったのだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  会田はバーで飲んだ後、ほろ酔い加減で店を出る。

 繁華街をふらふらと歩く。

 それにしても、あれはなんだったんだろう?

 すごくストレスが溜まってしまった。
 
ストレス解消に、また桃にいたずらをしてやろうかと考えていた。

だけど、次は違う女生徒でもいい。

「そういえば、あのクラスに可愛い子がいたな……確か吉永?」
「それはやめた方がいいよ」

ビクッと肩が震え、後ろを振り向く。

学校の生徒だ。とはいえ、名前をよく思い出せない。
しかし、教師間でも不気味と噂の生徒だった。

容姿は平均並だが、その白い肌に銀髪。目立つはずなのに目立たない。

自分より背が低いはずなのに、何故か見下ろされている気分になる。

「き、君!こんな時間に出歩いて!ダメじゃないか?!帰宅するんだ」

一応、説教しておく。これで注意した事実は作れた。あとは、こいつを巻くだけ。

あとは、こいつが繁華街で酷い目にあっても、自分が責任を問われることは無い。

「……よくもまあ、そんな教師みたいな事言えるよね」

生徒の顔が、まるで自分を嘲笑しているようだった。やっぱり、こいつには関わるなと頭の中で警鐘がなった。

「教師だからだ。な、今なら学校に言わない。帰れ」

やや逃げ腰ではあったが、これで何度も説得した事になる。周りも見ている……はずだった。

「なっ!いつの間に?」

辺りに人はおらず、いつの間にか、墓場の前に来ていた。

「み、道に迷ったのか?仕方ない……タクシーを」

懐からスマホを取りだすが、圏外となっていた。

「う、嘘だろ?き、君、ここはどこだ?」

しかし、さっきの生徒が目の前から消えていた。

「お、おい」
「ねえ、先生」

いつの間か、背中にピッタリ張り付いていて、会田は腰を抜かした。

「びっくりするじゃないか!……あ、あれ?」

また再び、繁華街に戻っていた。

「酔っているのか……」

頭抱え、ふらふらと歩く。ふと、誰かにぶつかる。

「あら?ごめんなさい」
「気をつけ……ああ、これは失礼」

ふと見上げた瞬間、美しい女の顔が映る。あまりの美しさに目を奪われた。

赤い着物がよく似合う。少しニヤリと笑い、会田は気を良くした。

「お気になさらず」

口説いてみたい気もしたが、今日はもう休もう。

また、再びスマホを取り出し、時間を確認する。しかし、手に違和感があった。

手からは、赤い液体が滴り落ちていた。それは紛れもなく……。

「血?!怪我なんて……」
「お兄さん、名前を教えて」

さっきの女が目の前にいる。そして、手を伸ばしてきた。手からは血が滴り落ちてくる。

女の手が、会田の肩を掴む。

「ひいいいいいいっ!」

会田は悲鳴をあげて逃げていく。

会田は、わけも分からずとにかく逃げていく。恐怖しか感じなかった。

そのせいで、いつの間にかまた再び墓場に来てしまった。

「もういやだ」

ふと、墓を見ると、墓標には自分の名が……。

「な、なんだ?!」

しかし、よく考えれば同姓同名なだけだと思い出す。

「ま、まさか死ぬわけないか……」
「……死ぬんだよ」

聞き覚えのある声がする。

「ひぃっ」
「でも、まだまだだよ。桃ちゃんはもっと怖かったんだ」


会田は後ろに下がり、腰を抜かした。

「さあ……恐怖を味わえ」

ふと、目の前に生徒の残虐極まりない笑みが浮かび上がる。

そして、生徒の後ろから、無数の青白い顔がこちらを見ていた。

逃げようと必死に墓場に入っていく。しかし、また再び目の前に無数の青白い顔が次々と浮かび上がり、不気味な笑みで手招きをしていた。


「ぎゃああああ!」








その後、会田は繁華街で目を覚まし、警察相手に暴れ、やむなく逮捕。

ついでに、桃だけでなく他校の生徒にも手を出していた事がばれ、未成年淫行罪で再逮捕。

何故か、それは自白したらしかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「やりすぎだ。お前は」

蛍はリビングでコーヒーを飲んでいたら、経国にそう言われた。

「ふん。ぺんぺんに手を出すからだ!」
「出てない。出そうとしただけだ」
「同じだよっ!」

経国は盛大にため息をついたが、三吉は豪快に笑っていた。



しかし、その後会田が何者かに獄中で殺されたとニュースに流れたのであった。
















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