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対決、酒呑童子編
88 不穏な影
しおりを挟む少し帰りが遅くなってしまった。
だけど、みのりはゆっくりと駅から歩いてきた。今日のダンス部の練習はキツかった。
だいたい、もう高校生なのに門限が19時なんて早すぎる。
みのりのうちはパン屋で19時に店を閉めるため、それまでに帰るのだ。
学校からは一駅。だが、もうすぐ毎朝電車には乗らなくて済む。
学校の近くの商店街に店を出すのだ。今の店は、フランスにパン職人修行をしていた父の弟がやる事になったのだ。
父もパン職人の修行を日本でしていた。祖父から譲り受けた店。
そして、2号店を商店街に作る。もちろん、みのり達もそこに住む。
兄だけは、大学の寮に住むことになったが。
学校の近くに住めば、親友のなずなとも少し遅くまで、遊べるし、こんなに急いで家に帰る必要は無い。
「……18時50分か。ちょっと急がないとなあ」
とはいえ、そこまでのんびりも出来ない。あと少しで家。
「……ん?」
何か気配を感じる。どこかつけられているようだが、四方八方みてもそれらしい人はいない。
「気のせいかな?」
少し怖くなってくる。ただでさえ、妖怪だなんだというクラスメイトがいる。
ストーカー的怖さより、そっちだ。
「田中のせいだよ」
みのりはぼそりと文句を言う。
しばらく道なりに歩くと、スマホの着信音がなり響いた。
「びっくりした!」
みのりは、スマホをマナーモードにしていなかったのを思い出す。
「……授業中鳴らなかったのが奇跡ね。……ヒカル君?」
好きなバンド、シリウスのキーボードだ。甘いルックスで可愛くて、みのりより年上のお姉さんに人気がある。
みのりはどちらかというと、大人っぽい方が好きだが、前に知り合った時、しつこく番号を聞かれて交換したのだ。
しばらく、連絡していなかったのを思い出す。
「今度、遊びに行こう……うーん」
「ヒャッハッハッハッハー」
誰かが不気味かつ大声で笑う声。
「何よっ!もう!」
みのりは思わず後ろを振り返るが何も無い。
「怖っ」
そう言って、みのりは家まで一直線で走り出したのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「それって、ストーカー?」
ここは学生食堂。みのりは今朝、遅刻をしてしまった為、朝食を食べていなかった。
おまけになずなに話している暇もなく、ランチまでこの話はお預け。
お腹も空いているので、カレーライスもあっという間に平らげていた。
「かなぁ?」
「嫌だ。怖い……ストーカー対策した方がいいわよ」
「そうね。アンタはちゃんと対策してんの?」
「私?狙われた事ないから」
ニコニコと笑い、カレーライスを食べるなずな。
「……土帝、お前盗聴器仕掛けてるだろう?」
蛍は、カレーライスの残りをかき込むとそう言った。
いつの間にか、蛍達のランチに混じって土帝も同じ席についていた。
「……何の話だ?お前こそ、なずなの部屋に盗撮カメラを仕掛けていないだろうな?」
蛍は首を振る。確かにカメラは仕掛けてはいない。ただ、盗撮用の虫は仕掛けている。
(みのりちゃんより、ぺんぺんが対策必要なんじゃ……)
そんなことは口が裂けても言えず、ガラムはコーヒーを飲み込む。
「ねえ、なずな。今日、部活ないでしょ?ダンスの特訓、付き合ってよ」
みのりの声が何故か小さいのが気になったが、なずなは承諾したのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「はい!ここでターンでキメ!」
学校の花壇の近くで音楽を流して、ダンスをするなずなとみのり。
たった今、ダンスが終わった所である。
「さっすが、なずな!ちょっと教えただけなのにもう覚えたんだ」
みのりはペットボトルの蓋を開け、お茶を飲んだ。
「えへへっ。ダンスは得意だよ」
今日は珍しく、蛍は先に帰っていた。
「でさぁ、お願いがあるの」
急に、みのりがなずなに頭を下げ、あまつさえ手を合わせる。
「な、何?」
「あのね……私、デートするんだけど着いてきて」
「え?私邪魔じゃない?」
普通に考えてそうだが、事情があるらしい。どうやら、相手はシリウスのヒカル。みのりはタイプではなく、出来れば断りたいが……。
「……他のメンバー来るの?」
「そう!もしかしたら、バラさんかも」
「え?バラ?」
なずなはふと、疑問に思った。確か、みのりはシュンスケのファンだったはずだ。
「だって、シュンスケ。アイドルの柚月と付き合ってるでしょ?」
柚月……本名はヒナ。なずなの友人だ。ライブ後の楽屋にいた時、2人は抱き合っていた。
「で、同じメンバーのバラさん。近くで見るとかっこいい」
「なるほど」
なずなは少々呆れたが、親友の為に一肌脱ぐ気でいた。
ダブルデートになるが、問題は無い。そう、問題はないのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……という事でデートするよ」
なずなは、机の上に宿題を広げた。
「大丈夫。心配しないで……」
なずなはそう言って花瓶の花を撫でる。
「……もう、繰り返さないから」
頭の中で流れる……それは凄惨な……。
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