88 / 109
対決、酒呑童子編
90 誘導
しおりを挟む「くそ……」
蛍は湯船に浸かり、悪態を吐く。
苦手な猫と鍛錬をする羽目になって、蛍はかなり憂鬱だ。
「……仕方ない。あとで、ぺんぺんの様子でも見て癒されるか」
なずなのうちには、蛍が仕掛けた盗撮……もとい、見張りの虫がいる。
単に彼女の様子を見るだけではなく、どうもなずなは妖怪に狙われ易い。
しかも、彼女自身何かを隠しているような気がしてならない。
ただ、それは蛍の勘でしかない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……そういや、蛍の母親ってのはどんな女だったんだよ」
三吉は翔一とスルメイカをアテに酒盛りをしている。その横で、又三郎が丸くなって寝ていた。
「なんだ?急に」
「いや、あんなへそ曲がり坊主、どうやって育てたのかなって」
確かに、蛍をあまりよく知らない者からしたら、蛍は少々へそ曲がりかも知れない。
だが、蛍は自分の気持ちや考えには素直なだけだ。相手に合わせたり、思いやる事は少し苦手な様だが。
「蓮華様はなあ……それはもう暖かい人だったが、少し無知なお方だった」
閻魔の側室、蓮華は人間で蛍の母親である。
目が見えず、愚鈍なところもあったが、誰にでも優しく、近辺の鬼や妖怪達からは慕われていた。
しかし、何も知らぬモノ達は人間だと蓮華をバカにしている。それは今も根強く、それが蛍の評価に繋がっていた。
「……人間は確かに弱い。だが、必死でこの世を作り上げ、あっしらでも出来ない事をやってのけた。それを知らぬものが多すぎる」
三吉はため息を吐き、空になった盃に酒を注ぐ。
「……思いの外、恵まれてる奴だな」
又三郎が身体を起こし、そう言った。
「旦那、寝てたんじゃねぇのかよ」
「ずっと起きてたさ。アイツの母親は元々羅刹の生贄だったんだろう?」
蓮華は庄屋の生まれで、ある時、庄屋に娘を差し出すように鬼が要求した。
庄屋は、座敷牢にいた自分の娘を鬼に差し出す。蓮華は肌の色も透き通るほど白く、髪は輝くような銀髪で、気味悪がった庄屋は蓮華を座敷牢に閉じ込めていた。
庄屋には、実はもう1人娘がいた。しかし、その娘を鬼に差し出す事を嫌がり、早い話が蓮華は身代わりだったのだ。
蓮華は嫌がりもせず、育ててくれた事を感謝して羅刹の所へ。
蓮華に、強い子を産むように術を掛け、いざ交わりの儀式の時に蓮華は亡くなってしまう。
羅刹は怒って村を焼く。しかし、その間に蓮華の魂は地獄へ行ってしまった。
羅刹が蓮華を見つけた時には、蓮華は蛍を身篭っていた。羅刹は無理矢理、蛍の魂に入り込んだ。
「……うわぁ。怖え!」
翔一は身震いをしている。
「閻魔大王は、坊ちゃんのここの奥底の方に、羅刹を封印したのだが、それでも感情抑えなければ……」
3人は、先日街で起きた事件を思い出す。なずなが負傷し、我を忘れた蛍を誰も止めることは出来なかった……ただ、1人を除いては。
「なずな嬢は、坊ちゃんのリミッターでもあり、ストッパーでもあるかも知れん」
「……なんの話だよ?」
風呂から上がった蛍がまだ濡れた髪を拭いて、寝巻き姿のままそう言った。
「ああ。坊ちゃん、今食事を……」
「何だよ。ぺんぺんがどうとか言ってなかった?」
「そんな事より、夕餉を食べて下さい。食器が片付きません」
蛍は、分かった分かったと言って、温められた食事を椅子に座り食べ始めていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……上手いこと、誘導しといたよ」
ヒカルは、井原家の客間で寛いでいた。そこには、背を向けて、花を花瓶に生けるローズマリーがいた。
「ほな、上手いことやってな」
カチッと花の茎を切る音は、静かな部屋に響いていた。
「あー分かった。それより、みのりちゃんは俺の好きにしていんだよね?」
ヒカルは、目をキラキラしながら、ローズマリーに尋ねた。
「ああ、あの子な……アンタの趣味やったね。どっちでもええわ。うちらの狙いは……」
「お姉様、失礼して宜しいでしょうか?」
それは小さな少女の声だった。
「ええで」
障子が静かに開くと、少女が座ったまま、お辞儀をする。少女は綺麗に切り揃えられたおかっぱで、幼い顔をしていた。
「お父様がお呼びです」
「……分かったわ。アジュガ、この客は適当にあしらってや」
そう言うと、ローズマリーは立ち上がり、部屋を出る。
「……ちょっ!適当って酷くない?」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる