蛍地獄奇譚

玉楼二千佳

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対決、酒呑童子編

94 スワンボート

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  ここはサン横。

  サンシャイン山本ビルの横に集まる少年少女にそう呼ばれている。

 彼らは、家庭の事情や学校のいじめや環境のせいで居場所を無くした子供たちだ。

 この辺りは飲み屋街でパチンコや居酒屋、風俗などがある。

 まだ、昼間だというに、ちらほらと少年少女を見かける。

 ヒナもその1人だ。だけど、ネットで配信をしながら、動画再生数も少しずつ増えて来た。

 柚月として、深夜番組ではあるが、テレビにも出た。

 それ一回きりだが、それでもサン横では顔がきく。1部の飲食店では、VIP扱い。

 それでも、ヒナは足りなかった。もっと、自分はお姫様扱いされたい、ちやほやされたい……そんな想いが、ヒナを支配する。

 ヒナは誰もいないトイレに入り、メイクを直す。

「私は、誰もが羨むお姫様。そうよ、あの子みたいに……」

 メイクを直し、ジャージに着替えていつもの公園へ向かう。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー












 朝からずっと、庭で座りっぱなしで蛍は臀が痛くて堪らなかった。

 だけど、少しでも動けば、膝の上に乗ってる奴に気づかれる。

「はあ……全然ダメだな」

 人の膝の上に乗っておいて、文句を言う又三郎。

「お前が乗ってるからだろう!」
「人のせいにするな」
「人じゃないだろ!!」

 朝からずっとこの調子である。

「ああ!もう!大体、膝の上に乗っているのがぺんぺんなら集中出来るんだ」
「あんた、それじゃあ邪な事考えるでしょうが……」

 たまたま、洗濯物を干しに来た三吉にすかさず突っ込みを入れられた。

 これはまだまだ時間が掛かると、又三郎はゆっくりと首を横に振ったのである。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー












「相変わらず大きな公園ですね」

 なずな達は、綾詩野アスレチック公園に来ていた。この公園は様々なアスレチックや遊具だけでなく、ダンスステージや売店、レストランやカフェがあり、人気のデートスポットだ。

「どう?ここなら、楽しいし、健全な場所だからね。親分、いやらしい事しないでよ」

 ヒカルがシュンスケにウィンクする。

「うるせえ。てめぇこそ、調子に乗ってハメはずすなよ?」

 シュンスケは鼻で笑いそう言った。

「へへっ!まずはどこからいく?」
「えー。あ、スワンボートあるんだ!なずなどう?」
「う、うん。そうね……乗ってみたいかな」
「決まりだ」

 スワンボートは、人が少なくすぐ乗れた。

 一回500円程度で人口の池を1周できる乗り物だ。池には鴨や錦鯉が泳いでいる。

「よし!出発しよ」
「運転は俺に任せて!みのりちゃは景色を楽しんでね」

 みのりとヒカルは、楽しそうにスワンボートに乗り込り、漕ぎ出した。

「さあ、俺たちも乗ろうぜ」
「あ、はい」

 先にシュンスケがスワンボートに乗り、手を差し伸べてくる。

 なずなはドキッとしたが、手を掴んだ。

「きゃっ」

 スワンボートに乗る時に少し揺れた。

「大丈夫だ。昔から怖がりだな」
「……案外、臆病なんです。私」

 シュンスケがペダルを漕ぎ、スワンボートが動き出す。

「錦鯉……たくさん、泳いでますね」

 なんとか、会話をしようとなずなは喋りだした。

「鯉か……昔はこんな鮮やかじゃなかった」
「昔……?錦鯉は昔から綺麗でしたよ」

 なずなはふと、シュンスケの横顔を見る。少し寂しそうなその顔を今でも、鮮明に覚えている。

「いぶき……?」 

 すると、シュンスケが驚いたようになずなを見ていた。

「今なんて……?」
「あっ!ごめんなさいっ!緊張して、変なこと言っちゃった。あ、鴨」

 なずなは誤魔化すように、親子の鴨を見ている。

「可愛いっ……見て下さっ」

 シュンスケがしっかりと手を握っている。離そうとしても、力が強く逃れられない。

「……俺を思い出せ」

 目を見つめられ、逸らすことが出来ない。ただ、声を絞り出し呟く。

「……蛍くん」

 急にシュンスケの手の力が抜けていた。

「お前、そいつとどういう関係だ?」
「え……あのっ!ほ、蛍くんとはただの友達っていうか……とにかく、付き合ってるとかでは無いですっ」

 なずなは、顔を赤くして、大袈裟に手を動かして見せた。

「……へっ。あっ……ヒカルの奴、ちんたら動きやがって」

 シュンスケはなずなから目線を逸らして、前を見る。

「あっ!みのりー。みのりーって、聞こえないか……」
「なあ、面白いことしてやるぜ」






「で、親分が大雅とコンジキの酔っ払って壊しちゃってさ、親分が2人に平謝りしててもう爆笑」
「へぇ!以外とドジなんだ~」
「そうそう!実はバラの兄貴のが権力があるし」

 みのりはヒカルとの会話を楽しんでいた。最初は頼りなく感じていたが、案外気が合うらしい。

 (好きな人がいるなずなが羨ましいって思ったんだけど……なずなもこんな感じなのかな?)


 ヒカルは、弟気質みたいだが、話は面白いし、紳士的で優しい。たまに甘えてくる感じもあるが、それがまた可愛いのだ。

「でさぁ……ん?」

 ボートが揺れ、後ろを振り返る。どうやら、後ろのボートがぶつかってきたようだ。

「ちっ!誰だ?」


 ヒカルは後ろを振り返り、睨みつける。

「あっ!親分っ」

「ヒカルっ!早く行けっ!つっかえてるぞ?」
「あーもうっ」

 ヒカルは急いで、ボート漕ぎ出した。それを見てシュンスケは大笑いをしている。

 みのりもヒカルの横でくすくすと笑い出していた。

 だがしかし、みのりの耳に他の誰かの不気味な笑い声が聞こえてきたのであった。







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