蛍地獄奇譚

玉楼二千佳

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対決、酒呑童子編

102 かむろ

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「ねえねえ!久美の妹の話聞いた?」

 教室にて、なずなはみのりにいきなりそう話しかけられた。

「何よ。いきなり……久美って、隣のクラスの子だよね?」

 久美には、小6の妹がいるダンス部の女生徒だ。なずなも何度か話したことがある。

「そう!それ……で、妹ちゃんなんだけど、昨日家の前で倒れて」

 久美の妹の肩には噛まれたような跡があって、まるで吸血鬼にでも噛まれたかのようだった。

 みのりは何故かちらちらと蛍を見ている。なずなも何となくみのりの糸を察知して蛍を見た。

「……可哀想にまだ入院だってさ」
「僕は何もしないよ」

 蛍は、みのりの方を一切見ないでそう言った。

「まだ何も言ってないじゃん!」

 みのりが口をとがらせて文句を言う。蛍は気にせず、一限目の準備を始めた。

「……全く。蛍に変な事頼まないでくれる?」

 そう言って現れたのは梔子くちなしだ。

「え?くっちー?もう授業始まるよ。クラス帰ったら?」

 みのりは、蛍となずなの間で仁王立ちする梔子にそう言った。

「ふん。私が怒られる分けないでしょ?そんな事より、蛍!なんで昨日私を呼ばないのよ?」

 梔子は蛍の机を叩く。

「何で君を呼ばないといけないんだ?」
「当たり前でしょ?いずれは親族になるんだし!」

 梔子はずっと文句を言っていたが、チャイムが鳴り響き、渋々帰っていく。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……結局、買っちゃったな」

 ネリネはソファに座り、人形を見つめていた。着せ替え人形だなんて散々遊び尽くしたし、最近飽きて来た所。

 それに、これはもう1つを友達に渡さなければいけない。

 瑠璃に渡すのは、違う気がする。かといって、友達はいない。

「そうだ!」

 少し歳は離れているが、兄の友人になずなという子がいたのを思い出した。

「うん!決めた」

 ネリネは立ち上がり、兄の学校に行く事にする。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  と、思わず家を飛び出したのはいいもののの……。

 よくよく考えたら、迷惑な話ではないかと思ってしまう。

 それに、今道に迷ってしまった。

「う……。どうしよう」


 住宅街なのは分かるが、それが返ってネリネを迷わせる。
 地獄の商店街なら、ネリネの顔を見ればすぐに道案内をしてくれる。だが、ここは地獄ではない。
 スマホをカバンから取り出して、瑠璃に連絡するか迷う。


 そして、しばらく道なりに歩いた。すると、大きな屋敷が見えてきた。
 その屋敷から聞こえる数え歌と鞠の音。屋敷の壁に寄りかかり聞いてみると、歌っているのは子供だ。

   急に歌が止まったかと思うと、庭の扉から女の子が顔を出し、逆方向を見ている。

 ネリネはゆっくりと近づき、女の子に声を掛ける。

「ねえ、このうちの子?」

 女の子は、口をぱくぱくさせてこちらを見ている。

 女の子は、禿かむろ(ボブカットの様な髪型)に赤い着物姿。

「学校は?」

 ネリネがそういうと、女の子は慌てて扉を閉めてしまう。

「あ!ちょ……」

 ネリネは哀しそうに閉まっている扉を見つめた。

 少女は見た所、ネリネと歳は変わらない様子である。人間界では、あのころの歳の子は皆小学校に通っているらしい。

 ネリネだって、勉強や運動はしているが、全部マンツーマンだ。
 二人の兄もそう教育されていた。だが、次兄の蛍は今学校に通っている。
 皆が言うには、あれは潜入捜査らしいが、実に楽しそうに見えた。
 蛍の学校での様子は、浄玻璃鏡で父に見せて貰った事がある。兄は地獄にいる時より明らかに楽しそうだった。

「……お嬢さん、どないしたん?」

 柔らかな男性の声が、後方から聞こえてくる。

「え……っと」
「偉い可愛らしいお嬢さんやんな。僕が知ってる男の子に雰囲気似てるな」

 ネリネは振り返り、男性にあいまいに微笑んだ。

  男性は着流しスタイルで、スラリと背も高い。


「なんや、やっぱり。えらいそっくりやな」

 男性はネリネの目線に合わせてしゃがみ込む。

「うち寄っていく?美味しいおかしがあるんよ」





  
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