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ヒロインちゃん参上!⑤
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少女の妙に赤い唇が、恐怖に青ざめたハリエットの唇をとらえようとしたまさにその時、生徒会室のドアがババーンと開いた。
「おほほほほ、ごきげんよう!」
やけくそ気味の挨拶とともに飛び込んできたのは、モースリンだ。肌を見せることを良しとしない貴族の子女としてはちょっと頑張った、肩がつるりと見えるドレスを着ている。つまりは色仕掛け。
「モースリン、その恰好は!」
ハリエットが目を見張った。が、モースリンのほうが、もっと目を見張った。
そりゃあそうだ、自分の婚約者が他の女と抱き合って、今まさに唇を重ねようとしているのだから。
「何をなさっていらっしゃるんですか!」
モースリンが、およそ令嬢らしからぬ悲鳴のような声をあげる。驚いた少女が集中を欠いたのだろうか、ハリエットの体からしびれが消えた。
「しめた!」
自分の胸に縋りつく少女を思いっきり突き飛ばして、ハリエットは否定の言葉を吐く。
「違う、これは違うんだ、モースリン!」
だが、時すでに遅し――考えてみて欲しい、王子の行動は見た通りならばすべて、浮気現場に踏み込まれた浮気男のそれではないか。
「無理やりだ、この女が無理やりキスしようと!」
何を言ってもまるっきり浮気男の言い訳にしか聞こえない。
モースリンの両の眼にみるみるうちに涙があふれた。
「破廉恥な!」
「モースリン、頼む、話を聞いてくれ!」
「聞くことなど、なにもありません」
貴族令嬢のプライドだろうか、モースリンは涙をぬぐうと、何事もなかったかのようにお辞儀をする。
「お邪魔をいたしました」
くるっと踵を返して、モースリンは生徒会室から出て行ってしまった。ハリエットはその場に両ひざをついて、呆然としていた。確かにモースリンにやきもちをやかせたいとは思っていたが、それはこんな形じゃない。
ハリエットはゆらりと立ち上がり、よろけながら廊下に出た。しかし、モースリンの姿はすでになかった。
背後から耳障りな声が聞こえる。
「あぁーん、続きしましょうよぉ」
いくら王子といえど人の子、さすがのハリエットもイラッときた。このふしだらな少女を怒鳴りつけてやろうかとも思った。しかし、それでは完全に八つ当たりではないか。
穏やかな声音を心掛けて、ハリエットは和やかな笑顔で言った。
「すまないが、誰か彼女を案内してあげてくれないか」
眠りの魔法から解き放たれた兵士がの一人が、ピシッと敬礼で応えた。
最初からこうしておけばよかったのだ。
兵士に両脇から抱えられた少女は、ギャーッと不快な喚き声を上げた。
「触るんじゃないわよ、モブが!」
ああ、もう怒鳴りつけてしまいたい--だが、この少女をここに連れてきたのは他でもない自分だ、そんな引け目がハリエットにはある。だから、つい、優しい声になる。
「ねえ、君、もうすぐ予鈴がなるよ。転校初日から遅刻は、流石に良くないだろう」
少女はコロリと態度を軟化させる。
「やだ、ハリエットってば優しい」
「そうやって僕を呼び捨てにするのも、人前ではやめたほうがいい、僕も一応、この国の王子なのでね」
「え、じゃあ、二人きりの時はいいのね?」
「う、うん?」
肯定の返事である「うん」ではなく、ナニを言ってるんだ君はという気持ちが溢れてしまったただけの「うん?」だったのだが、少女はこれを自分の都合の良いように解釈したようだ。
「つまり、アタシと付き合っていることは他の人にはナイショってことね!」
「はいぃ?」
「『はい』なのね、そうなのね。オッケー、みんなには内緒にしておいてあげる⭐」
「いや、そうじゃなくて……」
「あ。そうだ、アタシの名前、『水野楓』っていうの! 二人きりの時はカエデって呼んでいいからね!」
少女は二人の兵士に両脇をガッチリと抱えられて連れていかれた。後に残されたハリエットは茫然自失。
「……どーすんだよ……」
涙を浮かべながら走り去ったモースリンの姿を思い出してため息をつく。
「随分と色っぽいドレスを着ていたな……」
白く細い肩と、くっきりと浮いた鎖骨を惜しげもなく見せた、大人っぽいドレス――体の線に沿わせたタイトなデザインが、美しいボディラインを引き立てていた。足元から太ももに向けて一本、足さばきを良くするためのスリットが入っていたが、そこからのぞく太ももの白いこと……
「って、ちがうだろ! いま考えるべきはそこじゃない!」
あんな扇情的なドレス、貴族的には裸同然――はさすがに言いすぎだが、感覚的に下着姿と変わりない。そんな格好で、しかも泣きながら校内を歩くモースリンの姿を思い浮かべれば、股間がきゅうっと……いや、胸がきゅうっと痛む。
「モースリンを探さなくては!」
拳を握りしめてがばっと立ち上がったその時、シープスキンが生徒会室に入ってきた。
「モースリンなら、僕が保護したけれど?」
「保護って、まさか!」
「安心しなよ、手を出したりはしてないから。ちゃんと家に送り届けるように馬車を手配してあげただけさ」
そう言いながらシープスキンは、開いているいすに歩寸と座った。
「ていうか、ハリエット、なんであんな厄災みたいな女を拾ってきたのさ」
ハリエットがうぐっと口ごもる。
「だって……」
「はっきり言いなよ、もしモースリンと別れてあの女と付き合いたいってんなら大歓迎、モースリンは僕が娶らせてもらうからさ」
「だ、ダメだ、モースリンと別れるつもりは無い!」
「じゃあなんで、モースリンを泣かせてるのさ、返答次第では、僕も容赦しないよ?」
「それは……やきもちを焼いてほしかったんだ。俺の計画では、あの女と仲良さそうに歩いているところにモースリンが来て、ちょっとした嫌味を言うくらいの、そのくらい軽い感じのやきもちを焼かせるつもりだったんだけど……あの女が急に俺にキスしようとするから……」
ハリエットがしょぼんと肩を落とすのを見たシープスキンは、無邪気な笑みを浮かべた。元が童顔なのだから、まるで野の花がほころんだのかと思えるくらい邪神のない、可愛らしい笑顔だった。
だが、この少年の本性は毒舌である。容赦ない言葉がハリエットに浴びせられる。
「ハリエットさあ、本当に恋愛のことになるとバカだよね」
「うっ!」
「モースリンにやきもちを焼いてほしかったってさ、ようするにモースリンの心を自分の思い通りにしたかったってことでしょ」
「それは、まあ、はい」
「そのためによく知らない女の子を利用しようとしたわけだ」
「ううっ、はからずも……」
「はかってんじゃん、そんなの、自業自得としか言えないよね」
「はい……」
ひとしきりハリエットを罵り倒した後で、シープスキンは「ふう」とため息をついた。
「それでも僕はさ、モースリンには幸せになってほしいわけよ、だからさ、こんな駆け引きしないで、さっさと指輪を渡しちゃえばいいのにって思ってるよ」
「指輪のことを、なぜ知っている!」
「あのさあ、僕だけじゃない、みんな知ってるよ、バレバレなんだよね、君のやることってさ」
「まさか、モースリンも……」
「いや、あの子は知らないだろうさ、みんな君に同情して、“片想いをこじらせた王子がプロポーズのために用意した指輪”の話は伏せてくれているからね。これだけみんなしておぜん立てしているんだから、さっさと渡せばいいのに」
「いや、こういうのはタイミングってものがあるだろう、そのタイミングっていうのが、なかなかなくてさ」
「嘘ばっかり、わざわざ指輪を渡すために彼女を城に呼んで食卓を共にして、その後、みんながわざわざ二人っきりになれるようにまでしてくれたのに、ヘタレて告白すらできなかったって聞いてるけど?」
「そんなことまで筒抜けなのか!」
「そうだね、もう少し城の警備に気を使った方がいいよ、こんなことまで僕の耳に入るようではねえ」
シープスキンは実に少年らしい可愛いしぐさで、いすからピョンと飛び降りた。ただし、お口の方はちっとも可愛げないけれど。
「ともかく、指輪くらいさっさと渡しちゃいなよ、難しいことじゃないだろ、パッと渡して、ちょちょいっと愛の言葉をささやくだけじゃないか」
「わかってるよ」
ハリエットは上着のポケットに片手を突っ込む。そこにはいついかなる時でもチャンスさえあればモースリンに渡せるようにと、指輪の入った小箱を忍ばせてあるのだ。
「わかっているんだよ、でも、タイミングが……」
「ふふん、賢い僕がひとつアドバイスしてあげるよ、タイミングってのは待つものじゃなくて作るものだ、恋愛に関しては特にね」
「タイミングを、作る?」
「まあ、そう簡単ではないけどね」
「が、頑張る」
そう言いながらハリエットは、ポケットの中の小箱をきゅっと握った。
彼とてわかっているのだ、このままではモースリンと何の進展もないことは。今回、彼女にやきもちを焼いてほしいと厄災のような少女を拾ってしまったのも、そのせいだ。
ハリエットは一刻の王子ではあるが、その中身は普通のオトコノコ、好きなオンナノコと放課後にたわいない会話をしながら街を歩いたり、ちょっと目が合った瞬間に「ああ、この子と付き合ってるんだな」と胸キュンしたり、浮気を疑うカノジョに「馬鹿だなあ、俺が好きなのはお前だけさ」と囁いたり、そういう『青春』がしたいのだ。
そのためにはまず、告白――政略で決められた婚約者だから側にいるわけじゃなく、本当に心から愛しているということをモースリンに伝えなくてはならない。だって、ハリエットが一緒に『青春』したい相手はただ一人、モースリンだけなのだから。
「うん、頑張る……頑張るよ!」
ハリエットは力強く言いきって、ポケットの中でしっかりと、小箱を握りしめた。
「おほほほほ、ごきげんよう!」
やけくそ気味の挨拶とともに飛び込んできたのは、モースリンだ。肌を見せることを良しとしない貴族の子女としてはちょっと頑張った、肩がつるりと見えるドレスを着ている。つまりは色仕掛け。
「モースリン、その恰好は!」
ハリエットが目を見張った。が、モースリンのほうが、もっと目を見張った。
そりゃあそうだ、自分の婚約者が他の女と抱き合って、今まさに唇を重ねようとしているのだから。
「何をなさっていらっしゃるんですか!」
モースリンが、およそ令嬢らしからぬ悲鳴のような声をあげる。驚いた少女が集中を欠いたのだろうか、ハリエットの体からしびれが消えた。
「しめた!」
自分の胸に縋りつく少女を思いっきり突き飛ばして、ハリエットは否定の言葉を吐く。
「違う、これは違うんだ、モースリン!」
だが、時すでに遅し――考えてみて欲しい、王子の行動は見た通りならばすべて、浮気現場に踏み込まれた浮気男のそれではないか。
「無理やりだ、この女が無理やりキスしようと!」
何を言ってもまるっきり浮気男の言い訳にしか聞こえない。
モースリンの両の眼にみるみるうちに涙があふれた。
「破廉恥な!」
「モースリン、頼む、話を聞いてくれ!」
「聞くことなど、なにもありません」
貴族令嬢のプライドだろうか、モースリンは涙をぬぐうと、何事もなかったかのようにお辞儀をする。
「お邪魔をいたしました」
くるっと踵を返して、モースリンは生徒会室から出て行ってしまった。ハリエットはその場に両ひざをついて、呆然としていた。確かにモースリンにやきもちをやかせたいとは思っていたが、それはこんな形じゃない。
ハリエットはゆらりと立ち上がり、よろけながら廊下に出た。しかし、モースリンの姿はすでになかった。
背後から耳障りな声が聞こえる。
「あぁーん、続きしましょうよぉ」
いくら王子といえど人の子、さすがのハリエットもイラッときた。このふしだらな少女を怒鳴りつけてやろうかとも思った。しかし、それでは完全に八つ当たりではないか。
穏やかな声音を心掛けて、ハリエットは和やかな笑顔で言った。
「すまないが、誰か彼女を案内してあげてくれないか」
眠りの魔法から解き放たれた兵士がの一人が、ピシッと敬礼で応えた。
最初からこうしておけばよかったのだ。
兵士に両脇から抱えられた少女は、ギャーッと不快な喚き声を上げた。
「触るんじゃないわよ、モブが!」
ああ、もう怒鳴りつけてしまいたい--だが、この少女をここに連れてきたのは他でもない自分だ、そんな引け目がハリエットにはある。だから、つい、優しい声になる。
「ねえ、君、もうすぐ予鈴がなるよ。転校初日から遅刻は、流石に良くないだろう」
少女はコロリと態度を軟化させる。
「やだ、ハリエットってば優しい」
「そうやって僕を呼び捨てにするのも、人前ではやめたほうがいい、僕も一応、この国の王子なのでね」
「え、じゃあ、二人きりの時はいいのね?」
「う、うん?」
肯定の返事である「うん」ではなく、ナニを言ってるんだ君はという気持ちが溢れてしまったただけの「うん?」だったのだが、少女はこれを自分の都合の良いように解釈したようだ。
「つまり、アタシと付き合っていることは他の人にはナイショってことね!」
「はいぃ?」
「『はい』なのね、そうなのね。オッケー、みんなには内緒にしておいてあげる⭐」
「いや、そうじゃなくて……」
「あ。そうだ、アタシの名前、『水野楓』っていうの! 二人きりの時はカエデって呼んでいいからね!」
少女は二人の兵士に両脇をガッチリと抱えられて連れていかれた。後に残されたハリエットは茫然自失。
「……どーすんだよ……」
涙を浮かべながら走り去ったモースリンの姿を思い出してため息をつく。
「随分と色っぽいドレスを着ていたな……」
白く細い肩と、くっきりと浮いた鎖骨を惜しげもなく見せた、大人っぽいドレス――体の線に沿わせたタイトなデザインが、美しいボディラインを引き立てていた。足元から太ももに向けて一本、足さばきを良くするためのスリットが入っていたが、そこからのぞく太ももの白いこと……
「って、ちがうだろ! いま考えるべきはそこじゃない!」
あんな扇情的なドレス、貴族的には裸同然――はさすがに言いすぎだが、感覚的に下着姿と変わりない。そんな格好で、しかも泣きながら校内を歩くモースリンの姿を思い浮かべれば、股間がきゅうっと……いや、胸がきゅうっと痛む。
「モースリンを探さなくては!」
拳を握りしめてがばっと立ち上がったその時、シープスキンが生徒会室に入ってきた。
「モースリンなら、僕が保護したけれど?」
「保護って、まさか!」
「安心しなよ、手を出したりはしてないから。ちゃんと家に送り届けるように馬車を手配してあげただけさ」
そう言いながらシープスキンは、開いているいすに歩寸と座った。
「ていうか、ハリエット、なんであんな厄災みたいな女を拾ってきたのさ」
ハリエットがうぐっと口ごもる。
「だって……」
「はっきり言いなよ、もしモースリンと別れてあの女と付き合いたいってんなら大歓迎、モースリンは僕が娶らせてもらうからさ」
「だ、ダメだ、モースリンと別れるつもりは無い!」
「じゃあなんで、モースリンを泣かせてるのさ、返答次第では、僕も容赦しないよ?」
「それは……やきもちを焼いてほしかったんだ。俺の計画では、あの女と仲良さそうに歩いているところにモースリンが来て、ちょっとした嫌味を言うくらいの、そのくらい軽い感じのやきもちを焼かせるつもりだったんだけど……あの女が急に俺にキスしようとするから……」
ハリエットがしょぼんと肩を落とすのを見たシープスキンは、無邪気な笑みを浮かべた。元が童顔なのだから、まるで野の花がほころんだのかと思えるくらい邪神のない、可愛らしい笑顔だった。
だが、この少年の本性は毒舌である。容赦ない言葉がハリエットに浴びせられる。
「ハリエットさあ、本当に恋愛のことになるとバカだよね」
「うっ!」
「モースリンにやきもちを焼いてほしかったってさ、ようするにモースリンの心を自分の思い通りにしたかったってことでしょ」
「それは、まあ、はい」
「そのためによく知らない女の子を利用しようとしたわけだ」
「ううっ、はからずも……」
「はかってんじゃん、そんなの、自業自得としか言えないよね」
「はい……」
ひとしきりハリエットを罵り倒した後で、シープスキンは「ふう」とため息をついた。
「それでも僕はさ、モースリンには幸せになってほしいわけよ、だからさ、こんな駆け引きしないで、さっさと指輪を渡しちゃえばいいのにって思ってるよ」
「指輪のことを、なぜ知っている!」
「あのさあ、僕だけじゃない、みんな知ってるよ、バレバレなんだよね、君のやることってさ」
「まさか、モースリンも……」
「いや、あの子は知らないだろうさ、みんな君に同情して、“片想いをこじらせた王子がプロポーズのために用意した指輪”の話は伏せてくれているからね。これだけみんなしておぜん立てしているんだから、さっさと渡せばいいのに」
「いや、こういうのはタイミングってものがあるだろう、そのタイミングっていうのが、なかなかなくてさ」
「嘘ばっかり、わざわざ指輪を渡すために彼女を城に呼んで食卓を共にして、その後、みんながわざわざ二人っきりになれるようにまでしてくれたのに、ヘタレて告白すらできなかったって聞いてるけど?」
「そんなことまで筒抜けなのか!」
「そうだね、もう少し城の警備に気を使った方がいいよ、こんなことまで僕の耳に入るようではねえ」
シープスキンは実に少年らしい可愛いしぐさで、いすからピョンと飛び降りた。ただし、お口の方はちっとも可愛げないけれど。
「ともかく、指輪くらいさっさと渡しちゃいなよ、難しいことじゃないだろ、パッと渡して、ちょちょいっと愛の言葉をささやくだけじゃないか」
「わかってるよ」
ハリエットは上着のポケットに片手を突っ込む。そこにはいついかなる時でもチャンスさえあればモースリンに渡せるようにと、指輪の入った小箱を忍ばせてあるのだ。
「わかっているんだよ、でも、タイミングが……」
「ふふん、賢い僕がひとつアドバイスしてあげるよ、タイミングってのは待つものじゃなくて作るものだ、恋愛に関しては特にね」
「タイミングを、作る?」
「まあ、そう簡単ではないけどね」
「が、頑張る」
そう言いながらハリエットは、ポケットの中の小箱をきゅっと握った。
彼とてわかっているのだ、このままではモースリンと何の進展もないことは。今回、彼女にやきもちを焼いてほしいと厄災のような少女を拾ってしまったのも、そのせいだ。
ハリエットは一刻の王子ではあるが、その中身は普通のオトコノコ、好きなオンナノコと放課後にたわいない会話をしながら街を歩いたり、ちょっと目が合った瞬間に「ああ、この子と付き合ってるんだな」と胸キュンしたり、浮気を疑うカノジョに「馬鹿だなあ、俺が好きなのはお前だけさ」と囁いたり、そういう『青春』がしたいのだ。
そのためにはまず、告白――政略で決められた婚約者だから側にいるわけじゃなく、本当に心から愛しているということをモースリンに伝えなくてはならない。だって、ハリエットが一緒に『青春』したい相手はただ一人、モースリンだけなのだから。
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