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張り合い side遼太
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結局、ひよを不本意ながら泣かせてしまったあの日から、行事の準備、雑務、残業が続いて、〝なかよし〟どころか会ってもいない。
たまに校内で見かけた時に、おでこの絆創膏がなくなっていて少しホッとしたりする。
東矢の野郎。アイツが変な事言うから余計なこと色々考えてしまった。と言いたいところだが、悪いのは自分だ。
それにしても、アイツ、ひよにはあの日何も話さなかったのか?
日にちが経てば経つほど、忘れるどころか膨らむ疑念。
考えていても仕方ねぇな。
土曜日の夕方、近所の小さなバッティングセンターに久々顔を出した。古ぼけたココは、俺が小学生の頃通いつめた場所だった。野球好きなおじさんが趣味でやっている。
土曜の夕方だというのに、親子連れ1組かよ。
「ココは相変わらずシケてんな、おやっさん」
カウンターでテレビを見ていたおじさんに話しかけた。
「なんだ遼太。久々顔出したと思ったら憎たらしいクチをききやがる」
その言葉とは裏腹に、おじさん相好を崩す。
「東矢は?」
「奥にいるぞ」
おじさんが指差した。ああ、やってるやってる。
高速ケージでガンガン打ちまくってる東矢が見えた。東矢を見ていた俺におじさんが笑う。
「待ち合わせ場所にここ使うなんて、ガキの時から変わんねーな、お前らは」
「ココが一番素直に話が出来んの。ハイ両替よろしく」
カウンターに片頬ついてニコニコのおじさんは、俺が渡した千円札を2枚受け取り、ジャラッと小銭を渡してくれながら言った。
旧式のマシンは大量の小銭がいる。イマドキこんなマシン使ってるとこないよな、と苦笑いしながら東矢の方へと行った。
140キロのマシンを据えたケージで東矢はホームラン級の当たりを連発していた。バッティングフォーム、昔とちっとも変わらない。
左打ち。打つ瞬間、右足を少し上げてから踏み込んで――……振り切る。キィン! と打球が上方の的に当たる。
「ぜんぜん鈍ってないんだな」
東矢のケージのネットに手を掛けて外から声を掛けた。
学校で見るヤツとは違う。シックな色のシャツとジーンズ。
「ストレス解消にしょっちゅうやってんだ……よっ!」
快音が響く。小気味いいな。
「お前がストレス溜まる事なんてあんのかよ」
「下半身はないねぇ――――!」
答えと同時に一際大きな快音が響き渡った。
……ああそうかい。
隣の同じ球速のマシンが入っているケージに入った。備え付けの金属バットを持ち、小銭を大量投入。バットを握って、構える。
マシン打ちは久々だった。鈍い打球音ばかりで湿気た打球ばかりが前に転がる。
「甲子園のヒーローも形なし、だね――――!」
隣から派手な打球が飛んで行った。
「るせ――――!」
続くキィ――ン! という快音に俺はガッツポーズ。
よっしゃ、手応えあり!
そこからは2人でガンガン。さっきからいた親子連れも。その後から来た中学生らしき少年達も、呆然と俺達を見ていた。
前方のマシンから白球が放たれる。グッとバットを握りしめ、踏み込んで、腰を半回転。粘れば右へ。引っ張れば左へ。
やっと感覚が戻ってきた。最近は指導ばかりで、せいぜいノックでバットを握るくらいだった。考えてみたら打てなきゃバッティング指導もできねぇな。
待ち合わせ場所にココを指定したのは、東矢だった。憎い程、気が回るヤツだったな、そういや。コイツのする事は全て何かに繋がっていたりする。
東矢は、野球は中学までしかやっていない。俺の行った学校よりも偏差値の高い学校、いわゆる御三家とか言われている学校の出身だ。
医者か弁護士にでもなるのかと思ったら、高校の養護教員。親御さんはさぞかしガッカリしてるだろう。まぁ俺も、アニキ2人に比べたら人の事は言えないか。
マシンから放たれる速球を、キン!と軽快な音を立てて無心に打ち返しながら、聞いた。
「東矢――っ! お前、アイツに何か言っただろ――――!?」
振り切った瞬間。
キィ――……ン!
一番の当たり!
「アイツってぇ!?」
隣からも快音。くっそ、まけねー!
「とぼけんな―――!」
缶コーヒーを手に、タバコをくわえた東矢が言った。
「周りにも目を向けてみなって言ったんだ、彼女に」
「何余計な事話してんだよ」
冗談じゃないぞ。やっとひよりの気持ちを確認できたばかりなんだぞ。
「なんだ、まだ……なのか?」
もの言いたげにクククッと東矢が心底可笑しそうに笑い出した。
むか。
「しっかし、女もバッティングも俺の方が上だったなぁ、昔から」
畳み掛ける東矢に、キレた。
「おやっさん! 150キロは出ねーの!?」
「俺はスライダーが打ってみてーな」
「ばかやろぉ! うちみてぇなカワイイバッティングセンターにそんなえげつない球投げられるマシンはねぇ!」
☆
たまに校内で見かけた時に、おでこの絆創膏がなくなっていて少しホッとしたりする。
東矢の野郎。アイツが変な事言うから余計なこと色々考えてしまった。と言いたいところだが、悪いのは自分だ。
それにしても、アイツ、ひよにはあの日何も話さなかったのか?
日にちが経てば経つほど、忘れるどころか膨らむ疑念。
考えていても仕方ねぇな。
土曜日の夕方、近所の小さなバッティングセンターに久々顔を出した。古ぼけたココは、俺が小学生の頃通いつめた場所だった。野球好きなおじさんが趣味でやっている。
土曜の夕方だというのに、親子連れ1組かよ。
「ココは相変わらずシケてんな、おやっさん」
カウンターでテレビを見ていたおじさんに話しかけた。
「なんだ遼太。久々顔出したと思ったら憎たらしいクチをききやがる」
その言葉とは裏腹に、おじさん相好を崩す。
「東矢は?」
「奥にいるぞ」
おじさんが指差した。ああ、やってるやってる。
高速ケージでガンガン打ちまくってる東矢が見えた。東矢を見ていた俺におじさんが笑う。
「待ち合わせ場所にここ使うなんて、ガキの時から変わんねーな、お前らは」
「ココが一番素直に話が出来んの。ハイ両替よろしく」
カウンターに片頬ついてニコニコのおじさんは、俺が渡した千円札を2枚受け取り、ジャラッと小銭を渡してくれながら言った。
旧式のマシンは大量の小銭がいる。イマドキこんなマシン使ってるとこないよな、と苦笑いしながら東矢の方へと行った。
140キロのマシンを据えたケージで東矢はホームラン級の当たりを連発していた。バッティングフォーム、昔とちっとも変わらない。
左打ち。打つ瞬間、右足を少し上げてから踏み込んで――……振り切る。キィン! と打球が上方の的に当たる。
「ぜんぜん鈍ってないんだな」
東矢のケージのネットに手を掛けて外から声を掛けた。
学校で見るヤツとは違う。シックな色のシャツとジーンズ。
「ストレス解消にしょっちゅうやってんだ……よっ!」
快音が響く。小気味いいな。
「お前がストレス溜まる事なんてあんのかよ」
「下半身はないねぇ――――!」
答えと同時に一際大きな快音が響き渡った。
……ああそうかい。
隣の同じ球速のマシンが入っているケージに入った。備え付けの金属バットを持ち、小銭を大量投入。バットを握って、構える。
マシン打ちは久々だった。鈍い打球音ばかりで湿気た打球ばかりが前に転がる。
「甲子園のヒーローも形なし、だね――――!」
隣から派手な打球が飛んで行った。
「るせ――――!」
続くキィ――ン! という快音に俺はガッツポーズ。
よっしゃ、手応えあり!
そこからは2人でガンガン。さっきからいた親子連れも。その後から来た中学生らしき少年達も、呆然と俺達を見ていた。
前方のマシンから白球が放たれる。グッとバットを握りしめ、踏み込んで、腰を半回転。粘れば右へ。引っ張れば左へ。
やっと感覚が戻ってきた。最近は指導ばかりで、せいぜいノックでバットを握るくらいだった。考えてみたら打てなきゃバッティング指導もできねぇな。
待ち合わせ場所にココを指定したのは、東矢だった。憎い程、気が回るヤツだったな、そういや。コイツのする事は全て何かに繋がっていたりする。
東矢は、野球は中学までしかやっていない。俺の行った学校よりも偏差値の高い学校、いわゆる御三家とか言われている学校の出身だ。
医者か弁護士にでもなるのかと思ったら、高校の養護教員。親御さんはさぞかしガッカリしてるだろう。まぁ俺も、アニキ2人に比べたら人の事は言えないか。
マシンから放たれる速球を、キン!と軽快な音を立てて無心に打ち返しながら、聞いた。
「東矢――っ! お前、アイツに何か言っただろ――――!?」
振り切った瞬間。
キィ――……ン!
一番の当たり!
「アイツってぇ!?」
隣からも快音。くっそ、まけねー!
「とぼけんな―――!」
缶コーヒーを手に、タバコをくわえた東矢が言った。
「周りにも目を向けてみなって言ったんだ、彼女に」
「何余計な事話してんだよ」
冗談じゃないぞ。やっとひよりの気持ちを確認できたばかりなんだぞ。
「なんだ、まだ……なのか?」
もの言いたげにクククッと東矢が心底可笑しそうに笑い出した。
むか。
「しっかし、女もバッティングも俺の方が上だったなぁ、昔から」
畳み掛ける東矢に、キレた。
「おやっさん! 150キロは出ねーの!?」
「俺はスライダーが打ってみてーな」
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