ねぇ、大好きっていって

深智

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オカンの策略

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「遼太、ハイ」

 朝、母さんが出勤の為玄関にいた俺の手に包装紙で包まれた小箱をのせた。

 コレ、見覚えあるぞ、かなり。

 おい。

「なんだよコレ」

 母さんを睨む。

「最近ご無沙汰みたいだから切らしてるかと思って。古いのは劣化してるからダメよ」

 はぁ!?

「今日は父さん学会、賢さん出張。母さんとひまり、朝までカラオケ。ドゥーユーアンダスターン?」
「…………」
「今ひよちゃん妊娠させたら、アンタ賢さんに闇討ちされるわよ」

 バカかっっっ!?

「その前に、そんな事になったら俺のクビが飛ぶわっ! つーか、なんで俺が今すぐひよとヤる事になってんだよっ」

 今は、焦らないって泣く泣く決意したばっかなんだよっ!

 お節介も大概にしろっ!

「朝まで2人きり。やる事なんて決まってるでしょ?」


 お前が闇討ちにあえ。


「母さんはひよちゃん以外のお嫁さんなんて考えられないと思ってるだけ。というか、」

 母さん、一瞬真剣な顔を俺に向けた。

「んだよ?」
「タツおじさんとこ、転勤でマンションの部屋を遼太に借していいって。アンタ、随分前から出たがってたでしょ。この機会にうち、出ていいわよ。母さんの心配はいらないから。そばにひまりもいるし」

 俺は、早く家を出たい、とずっと言っていた。でも、父さんが仕事柄帰れないことが多くて、兄貴たちから「母さん一人になるからお前はまだいろ」って言われて我慢してきた。

 最近になって、ひよを放っておけない心理が勝って家を離れるとか考えられなくなっていた。

 けど、考えてみりゃ、自立はしたい。つーか、もうとっくに一人で食っていける。

 将来を考えたって、俺はーー、

「そばにいるうちにちゃーんと捕まえておかないと、ひよちゃんあんなだから、誰かに取られちゃうわよ~」

 それだけ言うと母さんはマイクを持つ仕草に「♪あまぎ~、ごぉおえ~」とかやりながらキッチンに戻って行った。

 兄貴達に言いたい。

 うちのオカンは多分刺されても死なない。

 ため息を吐いてオカンに押し付けられた手の中のブツを靴箱に放り込んだ。

「生憎、切らしてはおりませんっ」

 バンっと音を立てて靴箱の扉を閉め、家を出た。

 今はまだ、大事にしたいんだ。ひよりを傷つけたくないんだよ。

 この前は上手く伝えられなくて泣かしてしまったけど。

 この決意、この後脆くも崩れ去る事になるのだが。





「えー、次は、あー、1年3組の柚木香織の妊娠による退学につきましてー、」

 朝の職員会議。進行役の教頭の言葉が途端に歯切れが悪くなる。今朝の母さんとのやり取り思い出して俺は内心で苦笑した。

 なんてタイムリーな話題だ。

「この年頃の生徒達に男女交際をやめろ、というわけにもいきませんし、好奇心旺盛な年頃ですから、まあ、色々と……規制を厳しくするのにも限界があり……」

 この学校は、あまり校則が厳しい方ではない。厳しくしたって大人しく聞く生徒がどんだけいるか、っていう学校だからな。

 だから、こんな議題は、一年に一度は上る。ただこんな時、渦中の生徒を担任している先生はちょっと頭を抱えるんだよな。

 1年3組、ひよのクラスだ。ひよの担任の50代のベテラン男性教諭が苦りきった顔で教頭の話を聞いている。

「止めるわけにはいかないものなので、とかく避妊を、ということを生徒達には、保健等の授業で周知徹底をしていきたいとは思いますが、各先生方にも担任するクラスの生徒達に指導を願いたく……」

 ひよのクラスメイトか。……ひよはこういう問題に関してはどう思うんだろうな。




 練習は普段通りに終えたけど、残業もそこそこにいそいそと普段より早く帰る自分に、男って本当に愚かだな、と心底思う。

 家に帰ると、ひよが窓からから顔を出していた。

「遼ちゃん!」

 満面の笑みを浮かべて手を振るひよが、しっぽを振る子犬に見えた。

「後でそっちにいくから、待ってろ」
「うん!」

 やっぱかわいい、と頬はゆるむが、まだ幼く見えるひよの姿がちょっと胸に刺さった。

 けど俺、この家を出たら?

 気持ちが、硬い筈だった決意が、グラッと揺れた。
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