ねぇ、大好きっていって

深智

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ロマンチック・イルミネーション

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「あれー、ひよりー? どこー?」

 イルミネーションをより綺麗に演出する為に、校舎の明かりは職員室残して全て消された。そんな中でも、生徒はみんな思い思いの場所で過ごす為にグラウンドに出ていたり、校舎の中でベストスポットを探したり、と学内はとっても賑やか。

 真っ暗な校舎の中で、あたしすっかり迷子になっていた。暗闇の中で心細くなった時、あっちの方から茉奈ちゃんの呼ぶ声がした。

「まなちゃーん、あたしここーー、」

 声を上げた時、ガラッと脇の戸が開いて、腕を掴まれた。

「え!?」
「声出すな」

 掴んだ腕と、その声は。あたしは中に引き込まれ、戸が閉まった。

「あれ? こっちからひよりの声がしたみたいだったんだけど」

 廊下から茉奈ちゃんの声がする。

「うん、俺も聞いた」
「いたかー? ひよりちゃん」

 若林君に、高橋先輩?

「この辺りにいたみたいなんですけどー」
「おっかしぃなぁ」
「あっ! 高橋君みつけた!」

 数人の女のコ達の声がした。

「やっべ!」
「やだー! 逃げないでよー!」

 先輩が逃げて行った足音と追いかけて行った女のコ達の足音が消えて、茉奈ちゃんと若林君の会話が聞こえてきた。

「俺たちもイルミネーション観にいこっか。きっと宮部にもどっかで会えるよ」
「うん」




 戸の向こう、廊下が静かになった。あたしを背後から抱きしめるこの腕は。全身に感じるこの固い胸は。

「やっと、捕まえられた」

 遼ちゃん!

 真っ暗な部屋の中。ここは確か数学準備室。

「ドキドキしてる?」
「うん……」

 破裂しちゃいそうな胸の鼓動が、 抱きしめてくれてる遼ちゃんの腕にきっと伝わってる。

「ひよ」

 耳元であたしの名前を呼ぶ、ずっとずっと聞きたかった、堪らなく愛しい声。それだけで全身が痺れちゃう。

「目、閉じて」

 遼ちゃん?

 遼ちゃんの腕が緩み、ゆっくりと向き合って、唇を重ねる――。

 大好きな遼ちゃんのキス。優しくて甘くて、全身から力が抜けてとろけてしまうような。

 確かめ合うように舌を絡め合って、下から掬い上げる。

「ん……」
「ひよ」

 耳元に遼ちゃんの囁き声。あたし、目、閉じたまま。

 ゆっくり椅子に座った遼ちゃんは、あたしを膝に座らせてくれた。遼ちゃんの手があたしの制服のリボン外して、ボタン外して……。

「……んっ」

 首筋に遼ちゃんの唇を感じてフルッと震えた。目を閉じていてもわかる。

 全開になったブラウス。はだけた両肩が空気に触れてる。

――あ。ブラのフロントホックが外された。優しい手が、あたしの胸を揉む。

「ぁあ……ん」

 ピリッと微かな電流が流れて、痺れちゃう。

「遼ちゃん、目、開けていい?」
「ん、もうちょい閉じてて」

 そう言うと、遼ちゃんはあたしの胸の先を口で捉えた。吸う――。

「んんっ」

 ここ、学校なのに。

 久しぶりに遼ちゃんに触れてる肌が嬉しくてそんなこと、全部頭から飛んじゃった。

 遼ちゃん、遼ちゃん、遼ちゃん!

「ひよ、ごめんな……」

 え?

「俺、ひよ泣かせたくないのに、また泣かせちまった」
「遼ちゃん……」
「俺、ひよのことになるとダメだな、ホント」

 あたしはブンブン首を振った。

「あたしも、あたしもごめんなさい」

 遼ちゃん、クスッと笑った。

「ひよは悪くない」

 優しい、いつもの遼ちゃんの声。甘くて、柔らかく低い。胸が熱くなってしまって思わず目を開けそうになったけど遼ちゃんの大きな手にそっと瞼を押さえられた。

「ちょっとだけ……するから俺のワイシャツ噛んでていいぞ」

 遼ちゃんが――恐らく肩の部分と思う――ワイシャツを、目を閉じているあたしの口に噛ませた。グッと噛みしめると遼ちゃんの香りが口一杯に広がって……鼻から抜ける。

 閉じていた目を固く瞑った。

 遼ちゃん……! あたし、やっぱり遼ちゃんが大好き!

 ギュッと遼ちゃんにしがみついた。

 制服のミニスカートの中に、遼ちゃんの手がそっと忍び込む。太ももに遼ちゃんの手が触れただけで微弱電流流されたみたいにフルッと震えて、早く早く……なんて思っちゃう。

 暗くて良かったよ。あたし、きっと真っ赤だよ。

 指がショーツの上からするりとなぞった。ビクンッと震えるあたしの耳に遼ちゃんのいたずらっぽい囁き声。

「ひよ、エロ。もうこんな……」

 やだぁー! 遼ちゃん! そんな言い方いじわるだよ――――!

 あたしはワイシャツ噛んだまま、抱きつく手で遼ちゃんの背中を叩く。

「ごめんごめん。でもそこが可愛いくて愛しいんだって……」

 愛しい? あ、だめ、頬が緩んじゃう。

「ンんん゛っ……!」

 いつの間にかショーツの脇から遼ちゃんの指が! ツプッとナカに……!

「フッ……ん゛んんーっ!」

 だめだめだめ――!

 指がナカのある部分をカリッと引っ掻いた。

「ふっ……う゛う――……っ!」

 必死にワイシャツを噛んで遼ちゃんにしがみついてギュッと目を閉じた。

 イッちゃう……っ――っ!

 瞼の裏が、まっしろになった。



「よくがんばりました」

 甘くて優しい声が耳からスルリ。ハアハアと肩で息をするあたしは遼ちゃんの腕の中。まだ目は閉じたまま。

「ひよ、そろそろだよ」

 窓の外からはカウントダウンが聞こえていた。

「……10!9!8!」

 カウントダウンの大合唱が興奮を帯び、どんどん大きくなっていく。

「ひよ。3、2、1……0で目を開けるんだ」

 遼ちゃんがあたしの顔をそっと横向きにした。

 うん。

 ドキンドキン。

「3!2!……1! ーー」

 大合唱がほんの一瞬途切れ――、

「ゼロ――――!」

 わぁ――――っ! という大歓声と共に目を開けた。

 目の前には窓一杯のイルミネーションと、クリスマスツリー。

 ここは2階で、ツリーの頭も、イルミネーションの光も、ちょうど目の高さで、色とりどりの光がキラキラキラキラと瞬いていた。

「わぁ……」

 真っ暗だった室内に、色んな色の明かりが射し込む。

 きれいー……。

 あたしは遼ちゃんに抱きついたまま輝く光に見惚れてた。遼ちゃんもあたしを優しく抱きしめてくれてて――あれ?

 首から胸元にかけて金属の感触があった。

「あ……」

 あたしのはだけた胸元に、イルミネーションの光を受けてキラリと光るリングがあった。

 ペンダント?

「ひよ、ちょっと早いけど、クリスマスプレゼント」

 イルミネーションの明かりが遼ちゃんの優しい笑顔を柔らかく照らす。

 白金のチェーンの先に、小さなリング。リングには可愛いエメラルドが嵌め込まれていた。

「ピンキーリング。まだ、指輪なんてずっと付けてられないだろ? けどずっと身につけておいて欲しいから、チェーンに通しておいて邪魔にならない小さなリングにしたんだ」

 エメラルドはあたしの誕生石。手のひらで碧の石がキラキラ光る。あ、視界が曇り始めちゃったよ。

「ちゃんとした指輪は、ひよが高校卒業する時にあげるから」

 遼ちゃんーー!

「あ゛り゛が……」

 声が、詰まって出ない。

 ぷはっ! と遼ちゃんが吹き出してあたしをギュッと抱きしめてくれた。

「なんにも言わなくていいから」

 そう言って遼ちゃんはあたしの頭を撫で撫で。

「持ち歩いてはいたけど、まさかこんなタイミングであげられると思わなかった」

 そういえばあたしも。まさか遼ちゃんとこんな風に一緒にイルミネーションの、点灯の瞬間みられるなんて。

 顔を上げたあたしの頬に、遼ちゃんの手が……触れた。

「ここがベストスポットだって俺知ってたんだけどさ、ひよと一緒に……なんてハナから無理と思ってた。でも廊下からひよの声がして――迷わず連れ込んだ」

 最後の一言は含み笑いと一緒。

「腕掴まれた時は一瞬心臓止まりそうになったよ」
「マジか」

 あたし達は顔を見合わせて肩を竦めて2人でクスクス笑い出した。

 遼ちゃんの顔が近づいて……キスをする。ゆっくり離して。

「ひよ」
「うん?」

 なあに、遼ちゃん。首を傾げたあたしの目に、遼ちゃんの真剣な顔。

「もう……〝だいきらい〟なんて……言わない?」

 あ!

「遼ちゃん、気にしてた、の……?」

 今まで、ずっと?

「当たり前だろっ。ひよに〝だいきらい〟って言われたんだぞ」

 あたし、謝らなきゃっ! って思ったのに……、遼ちゃんのあまりにも真剣なお顔見てたら。少しだけ……。

「遼ちゃんがいじわるしたら……あたしまた言っちゃう」
「え、ひよ!?」

 遼ちゃんの顔が固まった。

 あ……。

「俺、もう一回ひよに〝だいきらい〟なんて言われたらもう浮かび上がって来れないよ?」

 遼ちゃん!

「やだやだやだっ、遼ちゃんごめんなさい!」

 堪らず遼ちゃんに抱きついた。

 あたし、遼ちゃん大好きなのっ! ごめんなさい、遼ちゃん! 〝だいきらい〟なんて嘘だもん!

「じゃあ……」

 しがみついたあたしを静かに剥がし……遼ちゃんニッコリ。

 あ、その笑顔は。

 ドキンッ!

「ひよの〝大好き〟が聞きたい」

 はい。言います。

「だいすき! 遼ちゃん!」

 また抱きついて、遼ちゃんも抱きしめてくれた。

 カラカラ、と椅子のキャスターが回る音がして、トン! と壁にぶつかった。

 見つめ合う。

「もう少し大人になったら――、〝愛してる〟だからね」

 そう言った遼ちゃんが、キスをしてくれた。甘くて甘くて、もっともっと……ってせがんじゃうような。

――あいしてる。

 あたしはよくわかんないけど。遼ちゃん、これはもう〝愛してる〟じゃないのかなぁ。

 あ、そうだ。

 あたしは、遼ちゃんの胸から少し顔を上げた。

 窓の方、イルミネーションを見る遼ちゃんの横顔。点滅する光が当たって、遼ちゃんのお顔に陰影を作る。凛々しくて、胸がキュンとなってしまう。

 改めて、ドキドキしながら、ちょっと思い出したことを聞いてみる。

「ねえ、遼ちゃん」

 遼ちゃんは、ん? と直ぐにあたしに視線を向けてくれた。あたし、ドキンとしちゃう。

「あのね、この前職員室で……助けてくれたの?」

 遼ちゃん、クスッと笑った。

「ひよが柏原先生にお説教されてた時の?」

 柏原先生、というのはあたしの担任の先生です。

 遼ちゃん、そうです。それです。

 遼ちゃん、クスクス笑い出した。

「遼ちゃん、笑わないで」

 あたしが頬を膨らませると、遼ちゃん、ハイハイと言いながら、あたしの顔を片手で挟んで、頬を萎ませた。

「そうだよ、ひよを見ていていたたまれなくなって助けた、って言いたいとこだけど。ちょっと違うかな」

 そうなの?

 遼ちゃん、苦笑いした。

「ひよの心の動きと俺の感情はリンクしてんの。ひよが真っ赤になってうつ向いてて、俺も胸が痛くなって。先生、早く終わらせてくれよ~、って思った時に、ああ、ひよは早くここから逃げ出したいだろうなって思ったんだ。じゃあ俺はあの説教をひと段落させてやろう、って考えた結果の、あの行動」

 遼ちゃん……。それが、あたしを助けてくれたってことになるんじゃないのかなぁ。

 あたしは、遼ちゃんにしがみついた。遼ちゃんの厚い肩に顔を埋める。

 あたしの感じていたことを、遼ちゃんが一緒に、同じように感じてくれたことが、嬉しくて、涙が出てきちゃった。

 やっぱり、あたしは遼ちゃんじゃないとダメなんです。

「ひよ、ほら泣かない」

 遼ちゃんがそっとあたしの顔を上げさせてくれた。額を合わせて、優しいキスをする。

 イルミネーションの光が溢れる部屋の中。

「ひよ」

 はい。

「大好きだよ」

 あたしは、もっと好きだもん。

 もう一度、キスを――。




 遼ちゃんと一緒に帰るわけにはいかないので、あたしが先に準備室を出た。

「今日は帰り遅くなるから……続きはまた明日な」

 別れ際、あたしの頭をクシャクシャッと撫でてくれた遼ちゃん、ちょっと考えるような間を置いた。

「遼ちゃん?」

 どうしたの?

「ひよ、あのさ」

 少し屈んだ遼ちゃんのお顔が近づいて、首を傾げたあたしに、優しいキス。

 遼ちゃん、肩を竦めて笑った。

「やっぱ、今はまだいいや」
「え、なあに。気になるよ?」
「クリスマス」
「え、一緒に過ごそう」
「あ、うん!」
「よしっ、いい子だ」

 遼ちゃんにもう一度頭をクシャッと撫でられて、気づいたら上手くごまかされちゃった。

「じゃあ、ちゃんと友達見つけて一緒にいろよ」
「うん」

 また、遼ちゃんのお家で、たくさん〝なかよし〟してね。

 今は、キスで、甘くて柔らかい、震えちゃうくらい痺れちゃうキスを。

 遼ちゃん、もっと……もっと一緒にいたいのに。




「あ、ひよりがいたー!」

 外に出ると、茉奈ちゃんがあたしを見つけてくれた。若林君と手、繋いでた。茉奈ちゃんニコニコで幸せそう。

……いいなぁ。

 茉奈ちゃんはこうやって、ずーっと一緒にいられて、一緒に帰ったりできるんだね。

 制服のリボンの下に、さっき遼ちゃんがプレゼントしてくれたリングの感触がある。でも、なんだかとっても切ない気持ちになってしまうのはなんでだろ。

 ねぇ、遼ちゃん――。
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