ねぇ、大好きっていって

深智

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寂しいよ

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 おばさんの計画は、想像以上の壮大なものでした。おじさんまで借り出して、高校時代の同窓会を急遽計画してしまった。しかも、クリスマスイブの夜に!

 遼ちゃんのパパ、おじさんは苦笑いして言ってた。

「おケイの一言は、当時のクラスメイトにとっては今でも絶対でね。まさに鶴の一声だね」

 遼ちゃんのパパは、物腰が柔らかくて、いかにも研究者、といった感じのおじさんです。遼ちゃんにはあまり……似ていません。

 というか、おばさんはどんな高校時代を送ってきたんだろう??

 その同窓会、企画したおばさんはお仕事で出席できないそう。

 あれ、ママは? パパとクリスマス過ごすのを毎年楽しみにしてるママはどうしたらいいの? っておばさんに聞いたら。

「心配ご無用よ! ひまりには寂しい想いさせないから大丈夫!」

 そう言ってました。おばさん、どうするつもりなのかな?

 ちょっと気になり、心配しつつも、遼ちゃんのプレゼント、クリスマスに渡せる可能性が見えてきたので、とにかくあたしはプレゼント作りをがんばることにします。

 遼ちゃん、会いたいよ。遼ちゃんに、触れたいの。





 キッチンで、ママが作るお料理のお手伝いをする。

「ひよちゃんと一緒にお料理するの、ママ、ずっと楽しみにしていたの」

 ママ、すごくうれしそうにそう言った。そういえば、お手伝いといえばお皿だしたり、お箸だしたり、というテーブルセッティングしかしたことなかったね。

 あたしは、エプロンしてキッチンに立つママが大好きで、いつもそばで見ているだけだった。

 今日、あたしはママに言いました。

「あたしもママとお料理したい!」

 ママ、すごくうれしそうに笑ってくれた。

 ママに借りた、ママのエプロン。すごくいい匂いがします。小さいころからのあたしの記憶の中にある、ママの匂い。

「ママは、お料理大好きだから、お手伝いをさせる、というはどうしてもイヤだったの。ひよちゃんが、自分からやりたいって言ってくれて、すごくうれしい」

 そう言って笑ったママは、まるであたしと変わらない年の女の子みたいです。あたしは、ちょっと恥ずかしくなってうつむいちゃった。

 ピラフの具になるお野菜をトントンみじん切りしていたママが、そうだわ、と顔をあげた。

「ひよちゃん、今日はお友達と遊びにいかなくて良かったの?」

 どき。

 おばさんに、ひよちゃんはお家にいてねと言われてて、とはママには言えない。

「あ、うん。えっと、仲良しのお友達、はね、えっと、みんななんだか用事がある、みたいで、だから、あたしはー、いいかなって思って。それに、パパが今日はでかけちゃうんだもん。ママ、一人になっちゃうでしょ?」

 しどろもどろになっちゃったけど、あたしはそう言って、アハハってごまかすように笑った。でも、ママが一人になっちゃうって思ったのは本当だよ。

 ママは、そうなの? と目を丸くしてたけど、すぐに優しく微笑んた。

「ありがとう、ひよちゃん。パパがいないクリスマスもたまにはいいわね。ひよちゃんがこうして一緒にキッチンに立ってくれたんだもの」

 ママの幸せそうな笑顔、あたしも嬉しくなる。

 ママとパパは、ずーっと昔、あたしが生まれる前からずっと一緒にクリスマス過ごしてきたんだもんね。たまには、いいよね、パパ。

 そんなことを思いながら、あたしはレタスを洗って、ちぎってボウルに入れる。次はなにをしたらいいかな? ってママを見ると。

 ママは、どんどん色んな作業を進めてく。ママの手には、まるで魔法の杖が握られてるみたいです。

「ひよちゃん、じゃあこのボールに卵……そうね、3つ割って溶いておいてね」
「はーい」

 あたしがボールに卵を割りいれてると、ママ。

「それにしてもひよちゃんが急にお料理習いたいって言うから、ママびっくりしちゃった」

 どきっ。

 ママを見たら、ママは、手は休めることなくて、何気なく言ったみたいだった。

 このあと遼ちゃんが来るから、とは言えない、よね。と思っていたら。

「あ、このあと遼ちゃんが来るから?」

 どきーん!

 ママ? 顔を上げたママはあたしを見てニコニコ。あ、その顔は……何も気づいてないですね。

「やっぱり遼ちゃんはひよちゃんの大好きなお兄ちゃんだものね。ひよちゃんもおいしいもの作ってあげたいわよね」

 やっぱり。

「う、うん……」

 ママ……。

「でも、ひよちゃんもいつか本当に好きな人ができた時に、お料理作ってあげて、それを美味しいって食べて貰えたら、ってママ思うわ」

 ニコニコ顔の、大好きなママ。

 あたしは、ママに話したい。ママ、聞いて欲しい。ママと、お話しがしたい。ママが、パパとどんな恋をしたのか、本当は聞きたいの。

 でも、ママは、まだあたしのこと、小さな女の子と思っているみたいで、ちょっと、寂しいです。

 ママ、あたしは、遼ちゃんが好きなんだよ。いつか、聞いてね。



 ローストチキン、ローストビーフのサラダ、ピラフ……。テーブルからはみだしてしまいそうなお料理。パパがいなくても、すごいごちそうです。

「遼ちゃん、遅いわね」

 グラスを用意しながら壁かけ時計を見たママが言う。あたしは、うん、って頷いて窓の外を見た。お外はもう真っ暗で、練習はとっくに終わっている時間。

 遼ちゃん? うちに、来てくれないの? ちょっと不安になってしまう。

「遼ちゃんは先生だし、きっとお付き合いだってあるのよね。それに、もしかしたら恋人だっているのかもしれないもの。私達にお付き合いもしていられないのよ」

 え、恋人。

 あたし、遼ちゃんのこと、分かっているはずなのに、胸にズキンという痛みを感じてしまった。

 遼ちゃん。どうして? 信じているはずなのに、不安になるの。ずっと、遼ちゃんとお話ししていないから。遼ちゃんが、すごく遠くなってしまったから。

 あたしが窓のところに行ったとき、電話がなって、ママが直ぐに取った。

「はい、宮部です。おケイちゃん?」

 おばさんからのお電話?

「え、人手が足りないの? 私? え、でも、ひよちゃん一人になっちゃうから……」

 ママ、困った顔してる。おばさん、ママにお手伝いを頼んだみたい。

 ママは、たまにおばさんのお店のお手伝いをしに行っているけど、今夜? これから? あたし、一人になっちゃうの?

 でも……おばさん、困ってるよね。

「ママ、いいよ、あたしの心配はしないで。そのうちきっと遼ちゃん来てくれるし」
「ひよちゃん……」

 ママは眉を下げて困った顔をしながら、ひよちゃんごめんね、って手を合わせて、

「わかった、今から行くわね。でも、そんなに遅くまでは付き合えないわよ」

 そう言いながら電話を切った。

「じゃあ、ひよちゃん、なるべく早く帰るから」

 ママはエプロン外して、素早く準備を終えると慌てて出かけていった。



 急に静かになったお家。

 あたしはソファーに座って、テレビを点けた。どこのチャンネルもクリスマスのテーマにしたバラエティー番組をやっていて、賑やかで。でも、うちは、静かで。テレビも……つまんないです……。

 遼ちゃん、遼ちゃん。

 クッション抱き締めて、ゴロンと横になった。

 静かなクリスマスになっちゃった。おばさんの計画、今回は失敗みたいですよ。遼ちゃんに、一生懸命作ったプレゼント、渡せないかも。

 クリスマスなのに、ママもパパもいなくてひとりぼっちって、初めてです。寂しくて、哀しくなってきて、クッションに顔を埋めていたら、涙が出てきてしまった。

「……さびしいよー」

 あたしはそのままソファーで丸くなって泣いてしまった。テレビから流れる音が、ただの雑音にしか、聞こえなかった――。
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