40 / 73
『ひと肌脱いであげましょう!』
しおりを挟む
パパの、ばか。
遼ちゃんに、会えなくなりました。会えなくはないんだけど、遼ちゃんと〝なかよし〟する時間が、なくなっちゃいました。
パパのせいです。あの、パパと遼ちゃんが睨み合ってた次の日、ママがあたしに言った。
「ごめんなさいね、ひよちゃん。パパが、もう遼ちゃんにお勉強教えてもらうこともないんだから、遼ちゃんのとこに行くことはないって言うの。だから、これからは遼ちゃんに御用がある時は、ママやパパがいる時にうちに来てもらうようにしなさいって」
パパのばか~!
ママは、小首を傾げて言った。
「パパったら、急にどうしたのかしらね」
ママも~!
日曜日の朝、ちょっと寒いけど玄関から道路までのレンガ敷きの道を掃き掃除していると。
「ひよちゃ~ん」
門のところで、おばさんが手招きしていた。あたしは「おばんさん、おはよー」と言いながらパタパタと駆け寄る。
「おはよ、ひよちゃん」
おばさんは、新聞受けに入ってた新聞取りに外に出てきたみたいだった。遼ちゃんは、早くに出かけていったから、もう家にはいないの。
まだ薄暗い時間、自転車を出す音聞いたあたしはベッドから飛び出して、窓からバイバイした。遼ちゃん、笑いながら手を振ってくれた。
白い歯が見える、遼ちゃんのカッコいい笑顔。久しぶりに、遼ちゃんの笑顔、独占して。胸が、跳ねて。しばらくドキドキ。
あたしだけに向けてくれる笑顔が、それだけで、こんなに嬉しくて、涙が出そうになるくらい愛おしくて、胸が痛くなる。やっぱり、あたしは遼ちゃんが、大好きなんだ、って気付かされる。
遼ちゃんに、触れたいです。手を伸ばせば届くくらい近くにいるのに――。
「ひよちゃん、朝からお手伝い、偉い偉い」
おばさんの言葉に、あたしはハッと我に返った。
「ううん。あたし、これくらいしかできないもん」
肩をすくめて笑ったあたしに、
「いいのいいの、そのうちちゃんと出来るようになるから」
おばさんは、ガハハと笑った。おばさんは、やっぱり豪快です。
「ひよちゃん、今朝はケンさんは?」
笑うのをやめたおばさん、急に声のトーンを落として聞いた。
「あ、パパはね、今日は会社の人達と山のぼりに。夕べ遅くに出かけていったよ」
「じゃあ、今回はそんな遠くじゃないのね」
「うん。冬山初めての人がいるから近くのお山って言ってた」
登山は、パパのライフワークみたいなものです。月一回くらいのペースでお仲間さん達とお山に登りに行っちゃいます。冬登山もしちゃう本格派です。
おばさん、そうかぁ、と少し思案顔。
「明日はお仕事普通にあるから、パパ、今日の夜には帰ってくるよ。おばさん、パパになにか用事?」
ううん、とおばさん。
「ケンさんにはまったく用はないんだけどね。それにしても相変わらずケンさんはタフねぇ」
そう言いながらおばさん、意味深な笑顔であたしを見た。
え、なになに?
おばさんがこのお顔する時は、なにか企んでるとき。あたし、ドキドキ。
おばさん、また、なにか遼ちゃんに怒られるようなことしちゃだめだよ? と思いながらおばさんの顔を見た。
おばさん、口元に手を添えて、お声落として言った。
「ケンさん、遼太に何か言ったのね?」
あ。
「え、あ、うん、そう、なのかな? よくは分からないんだけど……」
あの夜から、遼ちゃんとあたしの間に見えないバリアみたいのが出来たのは確かで。会えないの……ううん、手が届かなくなっちゃったの、遼ちゃんに。
「遼ちゃん、おばさんに何か話した?」
おばさんは、ううん、と首を振る。
「遼太はそんな話、私にはしないわよ~。話しをしないどころか、私とは関わらないようにしてるみたいよ~」
おばさん、あっけらかんと、カラカラ笑う。関わらないって……遼ちゃんはおばさんには敵わないからね。
あたし、思わず苦笑い。そんなあたしにお構いなしに、おばさんのお話しは続く。
「ただね、ご近所で、ケンさんと遼太が何か言い合ってたって噂になってるもんだから。まぁ、そっちは蹴散らしておいたけどね」
ご近所さんの噂話、ちょっと意地の悪いものとかあれば、ママの耳に入ったりする前にだいたいおばさんが蹴散らしてくれてます。おばさん、さすがです。
「今回はさすがに、ケンさんがっちりひよちゃんガードしちゃったみたいね。ケンさん、ひよちゃん溺愛してるからなぁ。このままだと、ホントに何にもないまま離れ離れになってマズイわね……」
腕組んで何か考え始めたおばさんの言葉にあたしをドキッとさせる言葉があった。
「おばさん、離れ離れって?」
どういう事?
おばさん、あ、という気まずそうな顔をして首を竦めた。
「ごめんね、なんでもないの。ひよちゃんが心配する事じゃないから気にしないでね」
そうなの? 遼ちゃん、どっか行っちゃうとかじゃないよね?
考えて、ぶるっと身体が震えちゃった。今こんな近くにいて遼ちゃんに触れられないだけで泣いてしまいたくなるくらい苦しいのに。遼ちゃんが直ぐに会えないところに行っちゃったりしたら……。
想像しただけで涙目になってきたあたしの頭をおばさん、よしよしと撫でてくれた。
「ひよちゃんは、ホント、いい子」
ふるふるって首を振ったあたしの頭の上から「よおーしっ」という声が降ってきた。
え?
顔を上げると、ガッツポーズにウインクするおばさん。
おばさん? なんだか、とってもいやな予感が。
「私が、ひと肌脱いであげましょう!」
え、おばさん!?
「ひよちゃん、ここは私がなんとかしてあげる!」
おばさん、ガッツポーズの拳を改めてギュッと握る。
ああ、おばさんが張り切ると、あの……、
「ひっさびさに、ケンさん出し抜いてやるわよぉ! 腕が鳴るわ~。ひよちゃん、楽しみにしててねぇ」
はっはっは、と笑いながらおばさんはお家に入っていった。
お、おばさん……。あたしはあっけに取られたまま、遼ちゃんちのドアを眺めてた。
おばさんは、本当に無敵です。パパとおばさんは高校時代からのお友達です。パパが、おばさんには誰も敵わないって言ってた。
「アイツは俺の天敵だ」とも言っていたような……。
でも今回は、そんなおばさんに頼っちゃおうかな。パパ、ごめんね。どうしても遼ちゃんに会いたいの。どうしても遼ちゃんに、プレゼントだけは渡したいんだもの。
遼ちゃん、なんだか大変なことになるかもだけど、今回は、おばさんに賭けてみようと思います。
おばさんの言葉は、ずっとあたしの胸に引っ掛かったままだったけれど……。
遼ちゃんに、会えなくなりました。会えなくはないんだけど、遼ちゃんと〝なかよし〟する時間が、なくなっちゃいました。
パパのせいです。あの、パパと遼ちゃんが睨み合ってた次の日、ママがあたしに言った。
「ごめんなさいね、ひよちゃん。パパが、もう遼ちゃんにお勉強教えてもらうこともないんだから、遼ちゃんのとこに行くことはないって言うの。だから、これからは遼ちゃんに御用がある時は、ママやパパがいる時にうちに来てもらうようにしなさいって」
パパのばか~!
ママは、小首を傾げて言った。
「パパったら、急にどうしたのかしらね」
ママも~!
日曜日の朝、ちょっと寒いけど玄関から道路までのレンガ敷きの道を掃き掃除していると。
「ひよちゃ~ん」
門のところで、おばさんが手招きしていた。あたしは「おばんさん、おはよー」と言いながらパタパタと駆け寄る。
「おはよ、ひよちゃん」
おばさんは、新聞受けに入ってた新聞取りに外に出てきたみたいだった。遼ちゃんは、早くに出かけていったから、もう家にはいないの。
まだ薄暗い時間、自転車を出す音聞いたあたしはベッドから飛び出して、窓からバイバイした。遼ちゃん、笑いながら手を振ってくれた。
白い歯が見える、遼ちゃんのカッコいい笑顔。久しぶりに、遼ちゃんの笑顔、独占して。胸が、跳ねて。しばらくドキドキ。
あたしだけに向けてくれる笑顔が、それだけで、こんなに嬉しくて、涙が出そうになるくらい愛おしくて、胸が痛くなる。やっぱり、あたしは遼ちゃんが、大好きなんだ、って気付かされる。
遼ちゃんに、触れたいです。手を伸ばせば届くくらい近くにいるのに――。
「ひよちゃん、朝からお手伝い、偉い偉い」
おばさんの言葉に、あたしはハッと我に返った。
「ううん。あたし、これくらいしかできないもん」
肩をすくめて笑ったあたしに、
「いいのいいの、そのうちちゃんと出来るようになるから」
おばさんは、ガハハと笑った。おばさんは、やっぱり豪快です。
「ひよちゃん、今朝はケンさんは?」
笑うのをやめたおばさん、急に声のトーンを落として聞いた。
「あ、パパはね、今日は会社の人達と山のぼりに。夕べ遅くに出かけていったよ」
「じゃあ、今回はそんな遠くじゃないのね」
「うん。冬山初めての人がいるから近くのお山って言ってた」
登山は、パパのライフワークみたいなものです。月一回くらいのペースでお仲間さん達とお山に登りに行っちゃいます。冬登山もしちゃう本格派です。
おばさん、そうかぁ、と少し思案顔。
「明日はお仕事普通にあるから、パパ、今日の夜には帰ってくるよ。おばさん、パパになにか用事?」
ううん、とおばさん。
「ケンさんにはまったく用はないんだけどね。それにしても相変わらずケンさんはタフねぇ」
そう言いながらおばさん、意味深な笑顔であたしを見た。
え、なになに?
おばさんがこのお顔する時は、なにか企んでるとき。あたし、ドキドキ。
おばさん、また、なにか遼ちゃんに怒られるようなことしちゃだめだよ? と思いながらおばさんの顔を見た。
おばさん、口元に手を添えて、お声落として言った。
「ケンさん、遼太に何か言ったのね?」
あ。
「え、あ、うん、そう、なのかな? よくは分からないんだけど……」
あの夜から、遼ちゃんとあたしの間に見えないバリアみたいのが出来たのは確かで。会えないの……ううん、手が届かなくなっちゃったの、遼ちゃんに。
「遼ちゃん、おばさんに何か話した?」
おばさんは、ううん、と首を振る。
「遼太はそんな話、私にはしないわよ~。話しをしないどころか、私とは関わらないようにしてるみたいよ~」
おばさん、あっけらかんと、カラカラ笑う。関わらないって……遼ちゃんはおばさんには敵わないからね。
あたし、思わず苦笑い。そんなあたしにお構いなしに、おばさんのお話しは続く。
「ただね、ご近所で、ケンさんと遼太が何か言い合ってたって噂になってるもんだから。まぁ、そっちは蹴散らしておいたけどね」
ご近所さんの噂話、ちょっと意地の悪いものとかあれば、ママの耳に入ったりする前にだいたいおばさんが蹴散らしてくれてます。おばさん、さすがです。
「今回はさすがに、ケンさんがっちりひよちゃんガードしちゃったみたいね。ケンさん、ひよちゃん溺愛してるからなぁ。このままだと、ホントに何にもないまま離れ離れになってマズイわね……」
腕組んで何か考え始めたおばさんの言葉にあたしをドキッとさせる言葉があった。
「おばさん、離れ離れって?」
どういう事?
おばさん、あ、という気まずそうな顔をして首を竦めた。
「ごめんね、なんでもないの。ひよちゃんが心配する事じゃないから気にしないでね」
そうなの? 遼ちゃん、どっか行っちゃうとかじゃないよね?
考えて、ぶるっと身体が震えちゃった。今こんな近くにいて遼ちゃんに触れられないだけで泣いてしまいたくなるくらい苦しいのに。遼ちゃんが直ぐに会えないところに行っちゃったりしたら……。
想像しただけで涙目になってきたあたしの頭をおばさん、よしよしと撫でてくれた。
「ひよちゃんは、ホント、いい子」
ふるふるって首を振ったあたしの頭の上から「よおーしっ」という声が降ってきた。
え?
顔を上げると、ガッツポーズにウインクするおばさん。
おばさん? なんだか、とってもいやな予感が。
「私が、ひと肌脱いであげましょう!」
え、おばさん!?
「ひよちゃん、ここは私がなんとかしてあげる!」
おばさん、ガッツポーズの拳を改めてギュッと握る。
ああ、おばさんが張り切ると、あの……、
「ひっさびさに、ケンさん出し抜いてやるわよぉ! 腕が鳴るわ~。ひよちゃん、楽しみにしててねぇ」
はっはっは、と笑いながらおばさんはお家に入っていった。
お、おばさん……。あたしはあっけに取られたまま、遼ちゃんちのドアを眺めてた。
おばさんは、本当に無敵です。パパとおばさんは高校時代からのお友達です。パパが、おばさんには誰も敵わないって言ってた。
「アイツは俺の天敵だ」とも言っていたような……。
でも今回は、そんなおばさんに頼っちゃおうかな。パパ、ごめんね。どうしても遼ちゃんに会いたいの。どうしても遼ちゃんに、プレゼントだけは渡したいんだもの。
遼ちゃん、なんだか大変なことになるかもだけど、今回は、おばさんに賭けてみようと思います。
おばさんの言葉は、ずっとあたしの胸に引っ掛かったままだったけれど……。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
俺が宝くじで10億円当選してから、幼馴染の様子がおかしい
沢尻夏芽
恋愛
自他共に認める陰キャ・真城健康(まき・けんこう)は、高校入学前に宝くじで10億円を当てた。
それを知る、陽キャ幼馴染の白駒綾菜(しらこま・あやな)はどうも最近……。
『様子がおかしい』
※誤字脱字、設定上のミス等があれば、ぜひ教えてください。
現時点で1話に繋がる話は全て書き切っています。
他サイトでも掲載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる