ねぇ、大好きっていって

深智

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『ひと肌脱いであげましょう!』

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 パパの、ばか。

 遼ちゃんに、会えなくなりました。会えなくはないんだけど、遼ちゃんと〝なかよし〟する時間が、なくなっちゃいました。

 パパのせいです。あの、パパと遼ちゃんが睨み合ってた次の日、ママがあたしに言った。

「ごめんなさいね、ひよちゃん。パパが、もう遼ちゃんにお勉強教えてもらうこともないんだから、遼ちゃんのとこに行くことはないって言うの。だから、これからは遼ちゃんに御用がある時は、ママやパパがいる時にうちに来てもらうようにしなさいって」

 パパのばか~!

 ママは、小首を傾げて言った。

「パパったら、急にどうしたのかしらね」

 ママも~!




 日曜日の朝、ちょっと寒いけど玄関から道路までのレンガ敷きの道を掃き掃除していると。

「ひよちゃ~ん」

 門のところで、おばさんが手招きしていた。あたしは「おばんさん、おはよー」と言いながらパタパタと駆け寄る。

「おはよ、ひよちゃん」

 おばさんは、新聞受けに入ってた新聞取りに外に出てきたみたいだった。遼ちゃんは、早くに出かけていったから、もう家にはいないの。




 まだ薄暗い時間、自転車を出す音聞いたあたしはベッドから飛び出して、窓からバイバイした。遼ちゃん、笑いながら手を振ってくれた。

 白い歯が見える、遼ちゃんのカッコいい笑顔。久しぶりに、遼ちゃんの笑顔、独占して。胸が、跳ねて。しばらくドキドキ。

 あたしだけに向けてくれる笑顔が、それだけで、こんなに嬉しくて、涙が出そうになるくらい愛おしくて、胸が痛くなる。やっぱり、あたしは遼ちゃんが、大好きなんだ、って気付かされる。

 遼ちゃんに、触れたいです。手を伸ばせば届くくらい近くにいるのに――。




「ひよちゃん、朝からお手伝い、偉い偉い」

 おばさんの言葉に、あたしはハッと我に返った。

「ううん。あたし、これくらいしかできないもん」

 肩をすくめて笑ったあたしに、

「いいのいいの、そのうちちゃんと出来るようになるから」

 おばさんは、ガハハと笑った。おばさんは、やっぱり豪快です。

「ひよちゃん、今朝はケンさんは?」

 笑うのをやめたおばさん、急に声のトーンを落として聞いた。

「あ、パパはね、今日は会社の人達と山のぼりに。夕べ遅くに出かけていったよ」
「じゃあ、今回はそんな遠くじゃないのね」
「うん。冬山初めての人がいるから近くのお山って言ってた」

 登山は、パパのライフワークみたいなものです。月一回くらいのペースでお仲間さん達とお山に登りに行っちゃいます。冬登山もしちゃう本格派です。

 おばさん、そうかぁ、と少し思案顔。

「明日はお仕事普通にあるから、パパ、今日の夜には帰ってくるよ。おばさん、パパになにか用事?」

 ううん、とおばさん。

「ケンさんにはまったく用はないんだけどね。それにしても相変わらずケンさんはタフねぇ」

 そう言いながらおばさん、意味深な笑顔であたしを見た。

 え、なになに?

 おばさんがこのお顔する時は、なにか企んでるとき。あたし、ドキドキ。

 おばさん、また、なにか遼ちゃんに怒られるようなことしちゃだめだよ? と思いながらおばさんの顔を見た。

 おばさん、口元に手を添えて、お声落として言った。

「ケンさん、遼太に何か言ったのね?」

 あ。

「え、あ、うん、そう、なのかな? よくは分からないんだけど……」

 あの夜から、遼ちゃんとあたしの間に見えないバリアみたいのが出来たのは確かで。会えないの……ううん、手が届かなくなっちゃったの、遼ちゃんに。

「遼ちゃん、おばさんに何か話した?」

 おばさんは、ううん、と首を振る。

「遼太はそんな話、私にはしないわよ~。話しをしないどころか、私とは関わらないようにしてるみたいよ~」

 おばさん、あっけらかんと、カラカラ笑う。関わらないって……遼ちゃんはおばさんには敵わないからね。

 あたし、思わず苦笑い。そんなあたしにお構いなしに、おばさんのお話しは続く。

「ただね、ご近所で、ケンさんと遼太が何か言い合ってたって噂になってるもんだから。まぁ、そっちは蹴散らしておいたけどね」

 ご近所さんの噂話、ちょっと意地の悪いものとかあれば、ママの耳に入ったりする前にだいたいおばさんが蹴散らしてくれてます。おばさん、さすがです。

「今回はさすがに、ケンさんがっちりひよちゃんガードしちゃったみたいね。ケンさん、ひよちゃん溺愛してるからなぁ。このままだと、ホントに何にもないまま離れ離れになってマズイわね……」

 腕組んで何か考え始めたおばさんの言葉にあたしをドキッとさせる言葉があった。

「おばさん、離れ離れって?」

 どういう事?

 おばさん、あ、という気まずそうな顔をして首を竦めた。

「ごめんね、なんでもないの。ひよちゃんが心配する事じゃないから気にしないでね」

 そうなの? 遼ちゃん、どっか行っちゃうとかじゃないよね?

 考えて、ぶるっと身体が震えちゃった。今こんな近くにいて遼ちゃんに触れられないだけで泣いてしまいたくなるくらい苦しいのに。遼ちゃんが直ぐに会えないところに行っちゃったりしたら……。

 想像しただけで涙目になってきたあたしの頭をおばさん、よしよしと撫でてくれた。

「ひよちゃんは、ホント、いい子」

 ふるふるって首を振ったあたしの頭の上から「よおーしっ」という声が降ってきた。

 え?

 顔を上げると、ガッツポーズにウインクするおばさん。

 おばさん? なんだか、とってもいやな予感が。

「私が、ひと肌脱いであげましょう!」

 え、おばさん!?

「ひよちゃん、ここは私がなんとかしてあげる!」

 おばさん、ガッツポーズの拳を改めてギュッと握る。

 ああ、おばさんが張り切ると、あの……、

「ひっさびさに、ケンさん出し抜いてやるわよぉ! 腕が鳴るわ~。ひよちゃん、楽しみにしててねぇ」

 はっはっは、と笑いながらおばさんはお家に入っていった。

 お、おばさん……。あたしはあっけに取られたまま、遼ちゃんちのドアを眺めてた。




 おばさんは、本当に無敵です。パパとおばさんは高校時代からのお友達です。パパが、おばさんには誰も敵わないって言ってた。

「アイツは俺の天敵だ」とも言っていたような……。

 でも今回は、そんなおばさんに頼っちゃおうかな。パパ、ごめんね。どうしても遼ちゃんに会いたいの。どうしても遼ちゃんに、プレゼントだけは渡したいんだもの。

 遼ちゃん、なんだか大変なことになるかもだけど、今回は、おばさんに賭けてみようと思います。

 おばさんの言葉は、ずっとあたしの胸に引っ掛かったままだったけれど……。
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