ねぇ、大好きっていって

深智

文字の大きさ
39 / 73

一番の敵は

しおりを挟む
 玄関で仁王立ちのケンさんに、俺も負けじと睨み返し、沈黙。何も言わねーんなら帰る、と視線を切って、ドアを開けた俺の襟首がものすごい力でグッと掴まれた。

「うぐっ」

 一瞬首がしまって、な!? と振り向く。

「おじさん!?」

 おじさんは、そのまま俺を外に押し出し、自分も外へ出て来た。玄関のドアを閉めて低い声で一言。

「少しお前に話しがある」

 俺はない。

 とは言えないので、黙って大人しくおじさんを見上げた。

 おじさんは、俺よりも少し背が高い。俺がだいたい176、7なのに対して、おじさんは恐らく180強。5センチ近い差はでかい。結構な威圧感を持って、俯瞰された状態になる。

 それに加え、凛々しく締まった眉の下の大きい目。彫りの深い端正な顔は、年を重ねても往時はどんだけいい男だったか窺え、いや、今でも充分いい男で、かなり迫力満点な訳だが。

「お前、ひよとどういう関係だ」
「どういうって……」

 俺はぐいと睨み返したものの、後が続かず口ごもってしまった。そんな俺を見ておじさん。

「ひよを見ていりゃ一目瞭然だ。子供だ子供だ、と思っていたひよが、いつの間にか女になってた。お前、ひよに何教えてんだ?」

 うわぁ。

 全身鳥肌が立つ感覚に、内心震えた。ケンさんは、ひまりさんとは正反対だ。……ケンさん、何をどこまで分かってんだ?

 必死に平静を装う俺は、低い声で言った。

「正直に言ったとして、おじさん認めてくれるのかよ」
「殴るぞ」

 おじさん、腕組んだまま仁王立ちしているから、殴るつもりがない事は一目瞭然なんだが、すげー怒ってるのは、分かる。でも、ひよのことは譲れねえ!

 暫し続いた沈黙を、ケンさんが破る。

「お前、教師だろ。認める認めないなんてのは論外だろうが」

 うぐ。

 もっともな正論に二の句が継げずに詰まってしまった俺におじさん、畳みかける。

「それ以前に俺には、お前にひよをやりたくない理由がある」

 〝教師〟である以上の理由?

「お前が俺に似てるからだよ」

 俺がおじさんに似てるから? 意味、わかんねーぞ。

 俺は怪訝な顔でおじさんを睨んだ。

「お前、女泣かすタイプだろ」

 は?

「なんだよ、その理由! おじさん、自分が女泣かしてきたからって!」
「悪いか」

 そこ否定しねーのかよ! しかも開き直りやがって!

「俺は……」

 ひよは絶対泣かせねえ! って言おうとしたら、グイと胸ぐら掴まれた。

「ひまりが超ド級の天然無防備で、俺がどんだけ苦労したか分かるか!?」

 知るかよ!

「あんな無防備なの二人も抱えた俺の身にもなってみろ! 俺は絶対認めんぞ!」

 どういう理屈だよ!

「悪いムシがつくよりマシだろ!」
「お前以上に悪いムシはいない!」
「自分のこと棚に上げて、なに言ってんだよ!」

 俺はおじさんの手を払って言った。おじさんは、人差し指を俺の鼻先にビシッと向けた。

「ともかく、だ! これからはひよと二人きりで会うのは許さん! ひまりにもよく言っておくからな!」

 おじさん、玄関のドアを開けながら。

「教師なら教師らしくしろ!」

 そう言い残し、家の中に消えた。

なんなんだよ!



「アハハハハッ! 一番のライバルは父親だって話、そういえばよく聞くけど、そこまであからさまに遼太の前に立ちはだかるとはね」

 誠が可笑しそうに笑っていた。

 仕事終わりのサラリーマンで賑わう焼き鳥屋は、煙とグラスがぶつかり合う音、そして酔っ払いのおじさん達の陽気な声で溢れ返っていた。

 誠とは、メールや電話で連絡し合う。たまに互いの予定が合えば、こうして呑む。今夜は、俺から誘ってみたのだが。

「冗談じゃねぇ。ずーっともう1人の父親だと思っていたけど、あんなのもう父親じゃねぇ」

 升の中のグラスに注がれた日本酒に口をつけながら誠が上目遣いで俺を見て、ニッと笑って言った。

「向こうも同じ事思ってるよ」

 向こうも同じこと、か。なるほど。ケンさんにしてみたら、息子同然にかわいがってきた男が、ってことか。

 俺はため息を吐いた。

「お陰様で、ひよと過ごす時間、激減した……」

 電話も危険で、メールくらいでしかやり取り出来ていない。学校で話すのはまず出来ないからな。

 今まで、手を伸ばせばすぐ届くところにいたのに、急にメールという媒体を通してだけのやり取りしかできなくなると、それはもうまどろっこしいことこの上ない。そうなると、当然、コミュニケーションが足りなくなる。

 募るのは、イライラばかりだ。

 俺は、日本酒を旨そうに呑む誠の綺麗な顔見て、ちょっとムカ。

「あ~あ、その余裕綽々の美しいお顔が焦るとこ、久々見せていただきたいね」

 もうこれは八つ当たりだ。

 クスッと笑った誠は俺のグラスにビールを注ぎながら、言う。

「高校時代に散々見せたでしょ」

 確かにそうだ。あの頃は、コイツは俺がいなけりゃ、って感じだったのに、いつの間にか……なんか立場逆転してないか?

 なんだか複雑な心境になって注がれたビールをグイと飲み干した時、誠が思い出したように口を開いた。

「そう言えば、この間さ、ひよりちゃんに会って」
「ひよりに……会った?」

 聞いてないぞ。

 怪訝な表情をした俺の顔を見た誠の目がほんの一瞬動いた。

「いや、あれは会ったとは言わないかな。この間、国分寺の駅前の繁華街でぶつかった女の子がいてね。僕は、その子がつけてたキーホルダーでひよりちゃんだって分かったんだけど……彼女は僕って分からなかったんだね」

 気のせいか? 誠の目に電光石火の速さで動揺が走り抜けたような気がした。まさかな。

「人違い、じゃないのか?」

 誠はもう、いつもの澄ました表情に戻っている。升の中の酒に視線を落として、伏し目がちになったまま静かに言った。

「そっか、そうだね。人違いだったのかもしれないね」

 まさかな。

 敵は、ケンさんだけで充分だからな。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...