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新学期
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色んな事があった年末年始が過ぎて、冬休みが終わって、新学期が始まりました。
「いってきまーす」
「ひよちゃん、お弁当!」
ママが慌ててランチバッグを持って玄関にパタパタ走って来た。
「あ、ママごめんなさい!」
ママが作ってくれたお弁当、忘れてしまうとこでした。
「ひよちゃん」
お弁当を受け取るあたしの顔を、ママが覗き込む。
「何かあった?」
「え」
ドキ。
「ど、どうして?」
ママ、あたしの目を真っ直ぐに見た。
「ひよちゃん、この頃ちょっと元気ないから。それに、新学期始まってから忘れ物、多いでしょう。ママ、心配なの」
眉を下げて心配そうにあたしを見るママ、泣いてしまいそう。あたしは、ワタワタしちゃう。
「大丈夫だよ、ママ」
あたしは、中学生の時にちょっとイジメにあっていた時期があって。あの時、たくさんたくさんママに心配かけてしまって。
あれからママは、学校行く前のあたしの様子にすごく敏感です。
それは、遼ちゃんも。
思い出してみると、遼ちゃんとの〝なかよし〟はあの頃から。
遼ちゃんのスキンシップは、あたしの元気測定器だった。
抱き締めて、キスをして、肌を感じてーー。
でも。
「ひよちゃん?」
ママの声にあたしはハッとした。ママのお顔が今にも泣きそう。「学校、休んでいいのよ」って言い出しちゃう!
「ママ! 心配させちゃってごめんね! 大丈夫なの、学校は楽しいの! でも、遼ちゃんが……いなくなっちゃったから。直ぐに会えないところに行っちゃったから」
ママを安心させる為に言ったけれど、言葉以上に大きな意味を持った本当の事。
本当はね、これが一番、辛いんです。
言葉にしたら、本当に泣きそうになって、キュッと唇かんだら、ママが優しく抱き締めてくれた。
「そうね、遼ちゃんは、ひよちゃんの大事なお兄ちゃんだものね。でも、そんな遠くに行ったんじゃないのよ。学校でも会えるでしょう。大丈夫よ、週末には帰って来るわよ」
全然知らないママだけど、ママの声は柔らかくて不思議なくらい胸に沁みます。心が少し、和みました。
ママ、いつかあたしの恋を聞いてね。
あたしは改めて「いってきます」をしてお家を出た。
遼ちゃんのお部屋の窓が見えます。カーテンが閉まったままで、人の気配がありません。
いつもなら、あたしがお家を出る時にはカーテンが開いてて、ああ遼ちゃんもう出勤したんだなぁ、って思いながらあたしも学校に行くのに。
遼ちゃんは、年が明けて早々にお家を出てしまいました。お部屋探したりするからまだ先と思っていたのに。
初詣に行って〝なかよし〟をしたあの日。次の日に帰ってくると思っていたパパは、なんと、夜帰ってきたのです。
嘘をつくのが下手なあたしとママ。大晦日からのことは、直ぐにバレてしまいました。
あたしもママも、パパにすごく怒られて。
「ひより! パパとの約束、どうして守れないんだ? ママも! あれだけ言ったのに――」
パパに怒られてしょんぼりしちゃたのはママ。あたしは。
「あたしと遼ちゃんはなにもなかったもん! 初詣一緒に行って……」
〝なかよし〟して、は言えないくてもごもごしちゃったあたしにパパは怖いお顔をした。
「初詣行って?」
えっとえっとえっと、
「初日の出見ただけだもん!」
一生懸命訴えたけど。
「どうしてそれを……まぁ、酔い潰れて寝ていた晃司は置いておいても、なんでママとおケイと一緒に行かなかったんだ?」
うっ!
「だって……」
遼ちゃんと行きたかったんだもん! 遼ちゃん、しばらくは離れ離れになっちゃうんだよ?
「パパ、ごめんなさい!」
ママが、パパの腕つかんで言った。見上げるママのお顔、泣きそうです。
「初めておケイちゃんとお家で大晦日と新年迎えるからって、私、すっかり浮かれてしまったの……」
ママに泣かれそうになってパパのお顔が急に崩れた。
「ひまり、どうしてひまりがそんな……ごめん、泣かないでくれよ。俺が悪かったよ」
パパが〝ママ〟って言わなくなった時は、パパの気持ちが完全にママモードに切り替わっちゃった時。……ママのタイミングって、いつも抜群です。
パパ、オロオロしながら、ママのお顔覗き込んで、ママの名前呼んで頭撫でたり、頬に手を添えたり。
すっかりお取込み中になった隙に、あたしは心の中で、ママありがと、とつぶやいて、そっとリビングから逃げだした。
パパの手強さを改めて感じたのだけど、あの日から遼ちゃんに会えてないのです。
遼ちゃん、新年早々からバタバタと忙しくなってしまって、そして何よりパパのガードがますます固くなって。そのまま遼ちゃんはお家を出てしまいました。
毎日LINEでお話しはしてるけれど、触れられない苦しさは膨らんでいくばかりです。
学校で会う遼ちゃんは、あたしの遼ちゃんじゃないんだもん。
触れられない、ビジュアルだけの遼ちゃんなんだもん。
次に遼ちゃんに触れられるのは、いつになるのかな。
遼ちゃん。あたし、もっと早く生まれたかったな。そうしたら、もっと自由に遼ちゃんと恋ができたのかな。
「遼ちゃん、会いたいよー……」
朝の静かな住宅街。駅までの道を歩くあたしは、空を見上げて白い息を吐きながらそっと呟いた。
けれどこの先、あたしと遼ちゃんの間に、パパどころではない問題が起きるなんて。この時は考えもしなかったんです――。
「いってきまーす」
「ひよちゃん、お弁当!」
ママが慌ててランチバッグを持って玄関にパタパタ走って来た。
「あ、ママごめんなさい!」
ママが作ってくれたお弁当、忘れてしまうとこでした。
「ひよちゃん」
お弁当を受け取るあたしの顔を、ママが覗き込む。
「何かあった?」
「え」
ドキ。
「ど、どうして?」
ママ、あたしの目を真っ直ぐに見た。
「ひよちゃん、この頃ちょっと元気ないから。それに、新学期始まってから忘れ物、多いでしょう。ママ、心配なの」
眉を下げて心配そうにあたしを見るママ、泣いてしまいそう。あたしは、ワタワタしちゃう。
「大丈夫だよ、ママ」
あたしは、中学生の時にちょっとイジメにあっていた時期があって。あの時、たくさんたくさんママに心配かけてしまって。
あれからママは、学校行く前のあたしの様子にすごく敏感です。
それは、遼ちゃんも。
思い出してみると、遼ちゃんとの〝なかよし〟はあの頃から。
遼ちゃんのスキンシップは、あたしの元気測定器だった。
抱き締めて、キスをして、肌を感じてーー。
でも。
「ひよちゃん?」
ママの声にあたしはハッとした。ママのお顔が今にも泣きそう。「学校、休んでいいのよ」って言い出しちゃう!
「ママ! 心配させちゃってごめんね! 大丈夫なの、学校は楽しいの! でも、遼ちゃんが……いなくなっちゃったから。直ぐに会えないところに行っちゃったから」
ママを安心させる為に言ったけれど、言葉以上に大きな意味を持った本当の事。
本当はね、これが一番、辛いんです。
言葉にしたら、本当に泣きそうになって、キュッと唇かんだら、ママが優しく抱き締めてくれた。
「そうね、遼ちゃんは、ひよちゃんの大事なお兄ちゃんだものね。でも、そんな遠くに行ったんじゃないのよ。学校でも会えるでしょう。大丈夫よ、週末には帰って来るわよ」
全然知らないママだけど、ママの声は柔らかくて不思議なくらい胸に沁みます。心が少し、和みました。
ママ、いつかあたしの恋を聞いてね。
あたしは改めて「いってきます」をしてお家を出た。
遼ちゃんのお部屋の窓が見えます。カーテンが閉まったままで、人の気配がありません。
いつもなら、あたしがお家を出る時にはカーテンが開いてて、ああ遼ちゃんもう出勤したんだなぁ、って思いながらあたしも学校に行くのに。
遼ちゃんは、年が明けて早々にお家を出てしまいました。お部屋探したりするからまだ先と思っていたのに。
初詣に行って〝なかよし〟をしたあの日。次の日に帰ってくると思っていたパパは、なんと、夜帰ってきたのです。
嘘をつくのが下手なあたしとママ。大晦日からのことは、直ぐにバレてしまいました。
あたしもママも、パパにすごく怒られて。
「ひより! パパとの約束、どうして守れないんだ? ママも! あれだけ言ったのに――」
パパに怒られてしょんぼりしちゃたのはママ。あたしは。
「あたしと遼ちゃんはなにもなかったもん! 初詣一緒に行って……」
〝なかよし〟して、は言えないくてもごもごしちゃったあたしにパパは怖いお顔をした。
「初詣行って?」
えっとえっとえっと、
「初日の出見ただけだもん!」
一生懸命訴えたけど。
「どうしてそれを……まぁ、酔い潰れて寝ていた晃司は置いておいても、なんでママとおケイと一緒に行かなかったんだ?」
うっ!
「だって……」
遼ちゃんと行きたかったんだもん! 遼ちゃん、しばらくは離れ離れになっちゃうんだよ?
「パパ、ごめんなさい!」
ママが、パパの腕つかんで言った。見上げるママのお顔、泣きそうです。
「初めておケイちゃんとお家で大晦日と新年迎えるからって、私、すっかり浮かれてしまったの……」
ママに泣かれそうになってパパのお顔が急に崩れた。
「ひまり、どうしてひまりがそんな……ごめん、泣かないでくれよ。俺が悪かったよ」
パパが〝ママ〟って言わなくなった時は、パパの気持ちが完全にママモードに切り替わっちゃった時。……ママのタイミングって、いつも抜群です。
パパ、オロオロしながら、ママのお顔覗き込んで、ママの名前呼んで頭撫でたり、頬に手を添えたり。
すっかりお取込み中になった隙に、あたしは心の中で、ママありがと、とつぶやいて、そっとリビングから逃げだした。
パパの手強さを改めて感じたのだけど、あの日から遼ちゃんに会えてないのです。
遼ちゃん、新年早々からバタバタと忙しくなってしまって、そして何よりパパのガードがますます固くなって。そのまま遼ちゃんはお家を出てしまいました。
毎日LINEでお話しはしてるけれど、触れられない苦しさは膨らんでいくばかりです。
学校で会う遼ちゃんは、あたしの遼ちゃんじゃないんだもん。
触れられない、ビジュアルだけの遼ちゃんなんだもん。
次に遼ちゃんに触れられるのは、いつになるのかな。
遼ちゃん。あたし、もっと早く生まれたかったな。そうしたら、もっと自由に遼ちゃんと恋ができたのかな。
「遼ちゃん、会いたいよー……」
朝の静かな住宅街。駅までの道を歩くあたしは、空を見上げて白い息を吐きながらそっと呟いた。
けれどこの先、あたしと遼ちゃんの間に、パパどころではない問題が起きるなんて。この時は考えもしなかったんです――。
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