ねぇ、大好きっていって

深智

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河井先生の言葉

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「今日は何かな、宮部さん」

 保健室の河井先生がニコニコ顔でお出迎え。

……えっとですね。

「生理痛でーす」

 まっ、茉奈ちゃん!?

「やっ、やだ、そんなハッキリ……」

 付き添ってくれた茉奈ちゃん「なんで?ホントの事じゃん」とキョトン。

「だって……」

 河井先生は、男の先生ですよ。

 もごもごしてるあたしに茉菜ちゃん、ああ! という顔をした。

「やだぁーひより。河井センセはゲイだから大丈夫よー」

 やだも――――!

 カラカラと笑う茉奈ちゃんの頭を河井先生がポカッと叩く。

「そういう噂だけの話を信じないの」

 優しく睨む河井先生を驚いた顔で見上げる茉奈ちゃん。

「違うの!?」
「違います。センセは両刀使いです」

 りょうとう……?

「ひゃー――――!」と茉奈ちゃんが両手で頬を押さえ一歩下がった時、予鈴が鳴った。

「真っ青な顔した宮部さんはお預かりするから、沖島さんは教室戻りなさい」
「ハーイ。ひよりをお願いしまーす」

 そう言った茉奈ちゃんがドアを閉めると河井先生。

「どんな噂になって広まるかな」

 と言い、笑った。

 りょうとう、ってなんだろ。よく分かんないけど。あ、いたた……。

 今日は朝からお腹痛くて、貧血気味でちょっとフラフラだった。お昼休みは遼ちゃんに会えるから、絶対それまではなんとか、って我慢してたけど。ダメでした。

 お昼、お弁当を拡げたけどとても食べられる状態じゃなくて。茉菜ちゃんに、保健室連れてこられちゃった。遼ちゃんに、今日は会えない……。

「辛そうだね」

 椅子に座ったあたしを見て、河合先生は鍵付きの棚から薬をいくつか出してきた。

「この中に、宮部さんがいつも呑んでる頓服はある?」

 あたしは、河合先生が見せてくれた中にあったご愛用の生理痛薬を指さした。

「ヨシ、じゃあコレ飲んで、少し横になって休んで、楽になったら授業に戻りなさい」
「はい……」


 お薬貰って呑んだあたしはヨロヨロと窓際のベッドへ。上靴脱いで横になった時だった。

「ごめん、寝ながら聞いてもらえるかな」

 ベッドを囲む白いカーテンの向こうから、河合先生のお声がした。

「はい」
「宮部さん、どっかで見た事あると思ってたんだけど……」

 え……?

「遼太、いや、平田先生の少年野球チームにいつも付き添ってたおじさんの娘さんだよね?」

 どうしてそれを、河井先生が? あたしは声も出せないくらいビックリした。そんなあたしのこと、河合先生、わかったみたいで。

「やっぱり、ね」

 黙ってしまったあたしに、カーテンの向こうから河井先生は話を続ける。

「俺ね、遼太とずーっと同じチームにいたんだよ」

 河井先生が? 遼ちゃんの昔からのお友達……? でも、どうしてパパがあたしのパパって分かったの? 同じチームにいたから?

 でもでも……って、あたしの頭の中をいろんな疑問がぐるぐる回っていたけれど、薬が効いてきたあたしは、お布団の気持ちよさも合わさって、うつらうつら。

 もう眠りの中にカラダ半分浸かってしまったあたしは、考えても考えてもダメだった。そのまま、知らないうちに、眠ってしまっていた。遼ちゃん、そんなことなにも話してなかったよ、って思いながら。




「あれ、いたっ」

 目が覚めると、生理痛は少し楽になっていたのだけど、治ったと思っていた足が。

 ベッドから降りようとして着いた足に電気が走った。立ち上がれなくてベッドに尻もちを着いてしまう。

「いたた……」
「宮部さん、どうした?」

 カーテンの向こうから河井先生が声を掛けてくれた。

「すみません、お腹痛いのは良くなったんですけど、足が……」
「入っても大丈夫かな」
「はい」

 カーテンがちょっとだけ開いて河井先生が中に入って来た。

 足の事を話すと河井先生、軽く触って見てくれた。

「腫れてるね。ちょっと無理したかな」

 あたしはちょっと考えてみる。

 ホントは、まだあんまり歩き回ったらダメなのです。でも、昼休みはどうしてもあの中庭に行かなきゃいけないから。

 教室からちょっと遠くても、遼ちゃんに会える大事な場所と時間。少しでも長く、って思って松葉杖使わなくなってから毎日走ってた。

「無理、してました……」

 あたしのお顔見ていた河井先生、なるほど、と頷いた。そのお顔が意味深でドキッとした。

 河井先生?

「ダメだね」
「え?」

 低い声、ちょっと怖いです。

 ドキドキしながら見上げると河井先生が厳しいお顔であたしを見て、ゆっくりと口を開いた。

「宮部さん、さっきの話の続き、してもいいかな?」

 さっきの話、と聞いてドキッとした。続きって? あたしは、ドキドキしながら先生を見た。

 遼ちゃんのこと、かな。不安に胸が押し潰されそうになった時、先生が言った。

「遼太から直接話を聞いたわけじゃないけどね。君たちの関係、知ってるよ」

 え? 胸が、ドキンッ、と一際大きな音を立てた。

「あたしたちの……」

 あたし、おろおろとすることしかできない。こういう時、どうしたらいいかあたし、分からない。

 先生から目をそらして、あわあわ、と両手を顔に当てる。

「宮部さんはこういうときに、ごまかしたり繕ったり出来ないよね」

 あたしが困った顔のまま、先生を見ると、先生のお顔は、やっぱりずっと厳しいまま。

 白衣を着ない保健室の先生。いつもお洒落なジャージ姿。そんな河合先生が腕を組んであたしを見てる。

 いつもの、何を考えてるのかちょっと分からないような笑顔は消えていた。

 先生? 怒って、る? あたし、何かした?

 ドキドキが、不安と混じって、震えそう。

 先生、ゆっくりと、厳しいお声で言った。

「〝先生との特別な関係〟がどんなにヤバいか、あんま分かってないでしょ、宮部さん」
「え……?」

 低い声に、あたしは少しゾクッとした。

 それは……どういう、意味ですか?

「その関係がバレたら、一番ヤバいのは遼太なんだよ」

 バレたら大変なのは遼ちゃん。

 さっきから、胸のドキドキがおさまらない。それどころか、どんどん、早くなっている。

「遼太の事、本当に好きなら、ちゃんと考えてあげないと。でもそれは16歳の女の子にはちょっと酷かな」

 遼ちゃんの事を本当に好きなら?

 なんだか、何かで強く叩かれたような、深い谷底に突き落とされたような、そんなショックに、あたしは何も言えなかった。

 あたしは、遼ちゃんと一緒にいることすら、許されないのかな。

 だって、だって、遼ちゃんはもうお家を出てしまっていて、今はただでさえ会いたい時に会えないのに!

 胸が、痛いです、遼ちゃん、遼ちゃんーー!

「ごめん、泣かそうと思って言ってる訳じゃないんだよ」

 あたしの顔を見て先生、ちょっと慌てる。

 泣いちゃいけない。

 唇噛み締めて泣くのを我慢するあたしに先生はちょっとだけ申し訳なさそうな顔をした。

「平田先生との幼なじみという関係まで断つことはないよ。ただね、先生と生徒、という関係になった以上、昔のままではいられないんだ、ってことだよ」

 声を出したら泣いちゃいそうで、唇噛み締めたままのあたしは静かに頷いた。

 河井先生はあたしの頭をクシャッと撫でた。

「この話はここでおしまいにしよう」

「え」と顔を上げると河井先生、ニコッと笑って言った。

「その足、先生がよく知ってる近くの整形外科に連れて行ってあげるから、診てもらおう。痛みが引いたら行かないかもしれないからね。今日とりあえず診てもらって、明日にでも掛かりつけに行きなさい」
「は、はい」

 たくさんの言葉がいっぺんにあたしの中に落とされて、頭の中がぼんやりしてた。

 遼ちゃんがあたしと一緒にいることで大変なことになっちゃうかもしれないの?

 あたしは、遼ちゃんから離れた方がいいのかな。

 あたし、よく分からないの。

 遼ちゃん。遼ちゃん。

 手を伸ばしても、今は遼ちゃんは直ぐには届かないとこにいるの。

 苦しいですーー。


 
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