ねぇ、大好きっていって

深智

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これは偶然?

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 ずっと、ずっと傍にいたいの。

 遼ちゃんと手を繋いで色んなところに行きたい。本当は、それだけでいいのに。

 それがダメなの? 許されないの?

 遼ちゃんは、先生で、あたしは生徒。でもでも! 遼ちゃんはあたしにとって先生じゃないの。

 先生じゃないもん!

 泣きそうになっちゃいました。

 あたしは隣に座る河井先生にバレないように小さく首を振った。

 ひより、こんなとこで泣かないよ。

 心の中で自分に言い聞かせて、今いる病院の待合室の中をきょろきょろ見回した。受付のお知らせ板に目が行く。

〝本日は、医科歯科大の学生が見学に来ております。
診察を見学させていただきますので、よろしくお願いします〟

 貼られていていたお知らせに、あたしは、あれ、と思った。

 医科歯科大って、確か緒方さんが通ってる大学。

 見学に来てる学生さんって、緒方さんだったりして。……そんな偶然、ないよね。

 そっと肩を竦めたあたしの隣で河井先生がクスッと笑った。

「面白い出会いがあるかもよ」
「え?」

 河井先生を見ると意味深な笑みを浮かべてあたしに頷いていた。

 河井先生?

 首を傾げた時、診察室から「宮部さーん、診察室へお入りください」と呼び出しが掛かった。



 診察室の中に入ったあたしは、思わず「あっ」と声を上げた。

「緒方さん……」
「こんにちは。カルテみて、あれって思った」

 診察室で、デスクに座るお医者様の横に立っていた白衣姿の緒方さんがにっこり微笑んでました。

「あ、あの、えっと、あ、こんにちは、ですね」

 あまりにも優美な笑みにあたしはしどろもどろなご挨拶をして、河井先生を見上げる。先生は知らん顔で白髪のお医者様と緒方さんにお話しし始めた。

「いつもうちの生徒がお世話になってます。今日はですねーー」

 河井先生、いつもの学校でのちょっと……チャラ、い? ……感じとはうって変わった真面目なお姿、お話方。

「ふむふむ、ではこちらの生徒さんの捻挫の治癒具合を診て欲しい、というところだね」

 先生の言葉に「はい」と応えた河井先生、あたしをチラッと見て、意味ありげに微笑んだ。

「小柄だし体重も軽いから足に掛かる負荷はあまり無いと思うんだけど、どうも毎日誰かに会う為に休み時間毎に走って移動しているみたいで……」
「ほおほお」
「せ、せんせい!?」

 な、なにを言い出すんですか!

 あたしが慌てて両手をバタバタしていると。

「先生」

 静かな声が、盛り上がろうとしていた二人の先生を止めた。

 優雅で美しい大天使様のような微笑みを浮かべている緒方さんに、白髪お医者様「おお、いかんいかん」と肩竦めた。

「わしゃ、いつも緒方君に怒られとる」
「怒ってはいませんよ。ただ、脱線が過ぎるとよろしくないと感じましたので、お止めしました」

 柔らかで静かなお声。空気を丸く包んで、優しい空間にしてしまう。

 緒方さんて……、

 ぼうっとなりそうなあたしの耳に、河井先生がそっと囁く。

「惚れてもいいよ」
「えっ!?」

 驚いて変な声を上げてしまったあたしは慌てて口を両手で押さえた。

 どういう意味?

 目を丸くして河井先生を見てると。

「ひよりちゃんは、足を診てもらう事だけ考えてね」

 優しい声があたしを包む。顔を上げると、緒方さんは何事も無い様子で診察の準備を始めていた。

 看護師さんに指示されて、座っていたベッドに足を伸ばしている時、緒方さんがちょっぴり厳しいお顔をして河井先生に何か小声で話しているのが見えた。

 河井先生は、分かった分かった、って軽く笑いながら頷いて。

 ほんの少しだけ睨んだ緒方さんを見てドキッとした。

 あんなお顔するんだ、って。

 小さなドキドキを、あたしは抑えるために深呼吸していた。



 結局、レントゲン撮ってもらって、テーピングぐるぐる巻いてもらって。

「宮部さん、松葉杖使う程ではないけど、安静にはしていようね。そうそう、〝愛しの君〟には会いに来てもらうといいね」

 ニコニコ顔の白髪お医者様のお言葉がチクッと刺さった。

 あのですね、会いに来てもらえるならーー、

 河井先生が、ハハハッという乾いた笑い声で応えた。

「先生。そうは言っても、彼女にも色々と事情あるみたいなんですよ」
「ほお?」

 気のせいかもしれないけれど。

 河井先生の言い方が、あたしの中で凄く意地悪く響いて胸が痛くなった。ギュッと唇を噛み締めた時。

「河井先生」

 緒方さんの声が、あたしの頭の上をふわっと撫でていった。

「養護教諭さんは、生徒さんの心のケア、カウンセリングというスキルもお持ちなのでしょう。僕としては今度ゆっくりお話しを聞きたいですね」

 言葉は丁寧なのに、刺すような硬さがあった。

 緒方さんは、あたしが診察ベッドから降りるのをさり気なくサポートしてくれていた。河井先生は。

「いいですね、緒方君とは今度ゆっくり」

 楽しそうに言う河井先生に、緒方さんは軽く会釈するだけでした。心なしか、大人にしか分からない、空気だけのやり取りがあった気がしました。

 そんな中で、白髪の先生は「お大事に。無理しちゃダメだよ」とにっこり微笑んでらした。




 河井先生が、お家まで車で送ってくださったのだけど。帰り道、先生とてもご機嫌で。

「とりあえず、思ってたほど酷くはなってなかったみたいだね。良かった良かった」
「ありがとうございます」

 あたしがお礼を言うと、車がちょうど赤信号で停車した。河井先生が、あたしを見て、また意味深な笑みを浮かべた。

 この笑み、とっても苦手です。ちょっと身体を硬くして先生を見ていると。先生、フッと吹き出した。

「トラップ発動、なんてね」
「え?」

 意味、分からないですよ?

 首を傾げたあたしに先生は「独り言独り言」と楽しそうに言った。信号が青に変わって、車が発進。

「宮部さん」

 先生は、前を向いたままお話を続ける。

「自分の中の小さな変化、見逃したらダメだよ」
「?」

 どう反応していいのかすら分からなくて黙ってしまったあたしに先生は。

「宮部さんはまだまだたくさん、色んな経験をしなきゃって事。そのうち、分かるよ」

 先生はやっぱり楽しそうで。

 でもあたしの胸は、ずっと落ち着かなくってソワソワしていた。いつから? いつからかは、分からないけれど。

 ねえ遼ちゃん。不安です。どうしてか分からないのだけど、とっても不安です。
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