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本気だよ
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「はぁ⁈」
手にしていたグラスをドンとテーブルに置いた。中に残っていたビールが飛び散ったけど、そんなこと構ってられない。
「お前、そんなヤツだったっけ?!」
熱くなる俺に反比例して、誠はより冷静になっていく。表情も変えずグラスのビールを呑み干して、静かに俺の顔を見た。
「何からどう話したら、遼太は熱くならず話を聞いてくれるかな?」
何でコイツ、こんなに冷静なんだ?
「そんなの自分で考えろ」
暫し、睨み合って(というか、俺が一方的に睨んで、誠は至って平静)沈黙。
店員がビールを持ってやって来た。俺達の間に流れていた重苦しい空気を、何も知らない店員が破ってくれた。
誠が小さく息を吐いた。
「とりあえず、ひよりちゃんと会って話す機会があった。それだけは分かってもらえた?」
納得はしないが、この間の車の件から、話すところに至ったまでは、理解はした。
けど、疑問は消えない。
何で、ひよがそこまで話すくらい信頼するとこまで関係が進む?
なんで、誠にそんな、俺の失態(あくまで失態だ、失態)を明かす?
黙ったまま睨む俺に誠はゆっくりと、静かに話し始めた。
「遼太との事知ってるよ、って話はした。
ひよりちゃん、元気がなかったから、何かあったのかな、ってさり気なく聞いたんだ。
ひよりちゃん、純粋で素直だよね。
遼太とデートしたことない、手を繋いだこともないのに、って話になって。すごく寂しそうに見えたんだ。
教師と生徒じゃ、誰にも相談できないだろうし、まして、お父さん? 遼太から聞いてたけど、かなり手強いみたいだし。
あの年頃の子が誰かに聞いてもらいたい時どうするんだろうって心配になってさ。
じゃあ、もしもの時、遼太との間に何かあったら僕がワンクッションになってあげよう、なんて思った」
なんだよ、それ。
眉を寄せてますます睨む俺に誠もここで初めて、その綺麗な顔で明らかに睨んできた。
「遼太」
「なんだよ」
「僕が前に言った事、覚えてる?」
「前に言った事?」
誠は、少し首を傾げて伺うような表情をした。
「僕は『年下の子と付き合う覚悟をちゃんと持ちなよ』っていう話をした」
ああ。
思わず眉間を押さえた。
言われた。思い出した。
あの時だ。初めて、ひよとちょっとしたすれ違いがあってギクシャクした時だ。
誠が聞いてくれたんだったな。
今思えば、あの時の悩みなんてまだ可愛いもんだったけど、根本にあるのは同じ?
眉間を押さえたまま動かない俺に、誠が言う。
「遼太、ひよりちゃんが同じ事を考えて同じような考え方が出来ると無意識に考えてない?
僕がいいたいのは」
「ひよりを不安にさせない為にどうしたらいいか、か?」
顔を上げると、誠が今日初めていつもの笑顔を見せた。
それだよ、その顔じゃないとお前、怖くて敵わない。
「問題。どうしたらいいでしょうか」
笑いながらビール注いだグラスを持ち上げた誠に、不本意ながら俺もグラスを合わせてみる。
「俺がマメになってやらないと、ってか」
「それだね。会えない分だけ不安になるのは僕らくらいの年になっても変わらない。ひよりちゃんくらいの年ならなおさらだからね。高校時代なんて、本当に不安定なんだって」
「分かってるよ」
誠の過去を知る分だけ、重い言葉だった。
「今夜、電話でもいいからさ。ちゃんと謝りなよ」
ああ、と答えてぬるくなってしまったビールを煽った。
「それと」
誠が、釘を刺すように話し出した。
「気を付けた方がいいよ、遼太」
「気を付ける?」
誠はビールを呑みながら、横目で頷いた。
「このご時世だからね。遼太みたいな校内で目立つ先生は生徒の標的になる」
誠の言いたい事、読めた。
「今回みたいな事、タチの悪い子に見つかったらSNSに上げられる危険もある」
そうなんだ、それなんだよ。
「別に、不倫という訳でもなければ糾弾される義理はないけどね。ただ、プライベートのダメージは計り知れないね」
「ゾッとするな」
「先生は、大変だ」
ハハハと笑いながらビールを呑む誠を睨む。
「他人事と思いやがって」
「まあね」
誠は楽しそうに笑う。
コイツ、ドSだった?
「誠」
全く、と思いながら、気になっている事を聞いた。
「ひよりと出掛けるとかいうふざけた事は」
「しないよ。当たり前じゃん」
あっけらかん。
お前~。
クスクス笑う綺麗な顔が、今ほど小憎たらしく見えた事はない。
「ああ、でも」
笑っていた誠が突然真顔になって俺を真っ直ぐに見た。
「また同じようにひよりちゃんを泣かせるようなことしたら、僕もちょっと考えを変えさせてもらおうかな、と」
「は?」
「本気だよ」
ニッコリと美しい笑顔を見せて言ったセリフは、なかなかエスプリが効いてーーいやいや、ちょっと待て。
「させるかよ、絶対! お前にこれ以上隙を見せるかよ!」
コイツ、何処から何処まで本気⁈
睨んだ俺に誠は。
「その言葉、よーく覚えておくよ」
と言い、また楽しそうにビールを呑み始めた。
マジでドSだ、コイツ。
ドッと疲れが。
ため息混じりにビール注ぎながら誠を盗み見た。
できることなら、ひよと誠は引き合わせたくなかった。
二人が会うと、ヤバイんじゃないか、って実は心のどこかで考えてる自分がいる。
「今夜は、早めに帰ってひよりちゃんとの間にある誤解を解く為にしっかり話し合いをしてください」
「言われなくたってするってーのっ」
ちゃんと、話しをするんだ。
言い訳になってしまうけど、説明はさせてくれ。
俺は、ひよだけだから。
気持ちはちゃんと伝えておこう。
ちゃんと、お互いの顔を見て話そう。
手にしていたグラスをドンとテーブルに置いた。中に残っていたビールが飛び散ったけど、そんなこと構ってられない。
「お前、そんなヤツだったっけ?!」
熱くなる俺に反比例して、誠はより冷静になっていく。表情も変えずグラスのビールを呑み干して、静かに俺の顔を見た。
「何からどう話したら、遼太は熱くならず話を聞いてくれるかな?」
何でコイツ、こんなに冷静なんだ?
「そんなの自分で考えろ」
暫し、睨み合って(というか、俺が一方的に睨んで、誠は至って平静)沈黙。
店員がビールを持ってやって来た。俺達の間に流れていた重苦しい空気を、何も知らない店員が破ってくれた。
誠が小さく息を吐いた。
「とりあえず、ひよりちゃんと会って話す機会があった。それだけは分かってもらえた?」
納得はしないが、この間の車の件から、話すところに至ったまでは、理解はした。
けど、疑問は消えない。
何で、ひよがそこまで話すくらい信頼するとこまで関係が進む?
なんで、誠にそんな、俺の失態(あくまで失態だ、失態)を明かす?
黙ったまま睨む俺に誠はゆっくりと、静かに話し始めた。
「遼太との事知ってるよ、って話はした。
ひよりちゃん、元気がなかったから、何かあったのかな、ってさり気なく聞いたんだ。
ひよりちゃん、純粋で素直だよね。
遼太とデートしたことない、手を繋いだこともないのに、って話になって。すごく寂しそうに見えたんだ。
教師と生徒じゃ、誰にも相談できないだろうし、まして、お父さん? 遼太から聞いてたけど、かなり手強いみたいだし。
あの年頃の子が誰かに聞いてもらいたい時どうするんだろうって心配になってさ。
じゃあ、もしもの時、遼太との間に何かあったら僕がワンクッションになってあげよう、なんて思った」
なんだよ、それ。
眉を寄せてますます睨む俺に誠もここで初めて、その綺麗な顔で明らかに睨んできた。
「遼太」
「なんだよ」
「僕が前に言った事、覚えてる?」
「前に言った事?」
誠は、少し首を傾げて伺うような表情をした。
「僕は『年下の子と付き合う覚悟をちゃんと持ちなよ』っていう話をした」
ああ。
思わず眉間を押さえた。
言われた。思い出した。
あの時だ。初めて、ひよとちょっとしたすれ違いがあってギクシャクした時だ。
誠が聞いてくれたんだったな。
今思えば、あの時の悩みなんてまだ可愛いもんだったけど、根本にあるのは同じ?
眉間を押さえたまま動かない俺に、誠が言う。
「遼太、ひよりちゃんが同じ事を考えて同じような考え方が出来ると無意識に考えてない?
僕がいいたいのは」
「ひよりを不安にさせない為にどうしたらいいか、か?」
顔を上げると、誠が今日初めていつもの笑顔を見せた。
それだよ、その顔じゃないとお前、怖くて敵わない。
「問題。どうしたらいいでしょうか」
笑いながらビール注いだグラスを持ち上げた誠に、不本意ながら俺もグラスを合わせてみる。
「俺がマメになってやらないと、ってか」
「それだね。会えない分だけ不安になるのは僕らくらいの年になっても変わらない。ひよりちゃんくらいの年ならなおさらだからね。高校時代なんて、本当に不安定なんだって」
「分かってるよ」
誠の過去を知る分だけ、重い言葉だった。
「今夜、電話でもいいからさ。ちゃんと謝りなよ」
ああ、と答えてぬるくなってしまったビールを煽った。
「それと」
誠が、釘を刺すように話し出した。
「気を付けた方がいいよ、遼太」
「気を付ける?」
誠はビールを呑みながら、横目で頷いた。
「このご時世だからね。遼太みたいな校内で目立つ先生は生徒の標的になる」
誠の言いたい事、読めた。
「今回みたいな事、タチの悪い子に見つかったらSNSに上げられる危険もある」
そうなんだ、それなんだよ。
「別に、不倫という訳でもなければ糾弾される義理はないけどね。ただ、プライベートのダメージは計り知れないね」
「ゾッとするな」
「先生は、大変だ」
ハハハと笑いながらビールを呑む誠を睨む。
「他人事と思いやがって」
「まあね」
誠は楽しそうに笑う。
コイツ、ドSだった?
「誠」
全く、と思いながら、気になっている事を聞いた。
「ひよりと出掛けるとかいうふざけた事は」
「しないよ。当たり前じゃん」
あっけらかん。
お前~。
クスクス笑う綺麗な顔が、今ほど小憎たらしく見えた事はない。
「ああ、でも」
笑っていた誠が突然真顔になって俺を真っ直ぐに見た。
「また同じようにひよりちゃんを泣かせるようなことしたら、僕もちょっと考えを変えさせてもらおうかな、と」
「は?」
「本気だよ」
ニッコリと美しい笑顔を見せて言ったセリフは、なかなかエスプリが効いてーーいやいや、ちょっと待て。
「させるかよ、絶対! お前にこれ以上隙を見せるかよ!」
コイツ、何処から何処まで本気⁈
睨んだ俺に誠は。
「その言葉、よーく覚えておくよ」
と言い、また楽しそうにビールを呑み始めた。
マジでドSだ、コイツ。
ドッと疲れが。
ため息混じりにビール注ぎながら誠を盗み見た。
できることなら、ひよと誠は引き合わせたくなかった。
二人が会うと、ヤバイんじゃないか、って実は心のどこかで考えてる自分がいる。
「今夜は、早めに帰ってひよりちゃんとの間にある誤解を解く為にしっかり話し合いをしてください」
「言われなくたってするってーのっ」
ちゃんと、話しをするんだ。
言い訳になってしまうけど、説明はさせてくれ。
俺は、ひよだけだから。
気持ちはちゃんと伝えておこう。
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