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カルテ6 微熱2
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「Guten Abend!」
あの呑んだくれて潰れてしまった翌々日。
深夜、寝入りばな、携帯が鳴った。
目を擦りながら出てみると耳に飛び込んできたのは千尋の元気な声だった。
時計は1時を指していた。
「ちひろ……」
今何時だと思って、という言葉が口先まで出かかったけれど、千尋には先日の借りがあるのでここは非礼も黙殺。
「ドイツね」
「Ya! フランクフルトよ」
ドイツと日本の時差はだいたい7時間。
今こちらが1時だから、あちらは……夜の6時くらい、といったところ。
なるほど、Guten Abend(こんばんは)なわけね。
フランクフルト。
そこは行ったことないんだよな、と自分の記憶のビジョンにない風景を想像しながらわたしは千尋に詫びを入れる。
「ごめんね、この間は。
とんだ失態を。
迷惑かけてしまったわ」
わたしは危うく千尋の仕事の邪魔をしてしまうところだった。
「わたしは全然大丈夫。私より迷惑かけた人がいるでしょう?」
千尋の声がくぐもって聞こえる。
それは笑いを堪えているからだってこと、無料通話アプリを使った国際電話を通してだって伝わってくる。
「はい、緒方君に迷惑をかけました」
千尋にはちゃんと翌日、メールで報告はしてあったけれど。
返信が直電とは。
「なにも、緒方君に預けちゃわなくてもあそこでタクシーにそのまま乗せてくれても良かったのに……」
そう言いながらも、緒方君と過ごしたあの時間に、あまり悪い気はしなかった、という感情が湧く自分に驚く。
千尋は、そんなわたしの心を見透かしたようにクスクスと笑っていた。
「ごめんね~。でも菊乃あの時寝ちゃってて、タクシーに乗せたって危ないと思ったのよ。
そこに緒方君登場、というわけね。
それに、緒方君ならまあいっかって思っちゃったの」
〝まあいっか〟って。
「ちひろ……」
「良かったじゃない、ホテルに連れ込んだりしなかったワケだし」
そういう問題じゃなくてね。
その、千尋が言う‘まあいっか’がどこに掛かるのか、地味に気に掛かるんですけどね。
「緒方君なら、菊乃にいいかなってちらっと思ったのも事実」
千尋がぽろりと明かした。
わたしの胸が一瞬ドキッと跳ねたけど。
「それはムリ、かな」
少しの間を置いて千尋は。
「もうそろそろ、いいと思うんだけどね」
千尋の言葉はきっと、あれやこれや、諸々のものに掛かっているのだと思う。
彼の事は過去の事と割り切りなさい、っていうことなんだよね。
割り切れたら、どんなに楽か。
割り切れないからまだこんな風にウジウジしているんだから。
「分かんない」
曖昧な一言で片づけたわたしに、千尋が小さくため息を吐いたのが伝わった。
「お互い、なかなか進歩しないわね」
「そうね」
そう話してアハハと笑った。
じゃあ、と切ろうとした時「そうだ」と千尋が話しを切り出した。なに? とわたしが続きを促すと。
「実はね、わたしの姉が離婚考えてるの」
「え? だって、千尋のお姉さんのところはすごく円満に見えてたけど?」
そう。千尋の5歳年上のお姉さんは確か……今年で結婚13年目。
子供もいる、絵に描いたような素敵な家族に見えていた。
「それがね、色々あるのよ。
菊乃なら色々なケース見てきたから分かるんじゃない」
そうは言っても。
「わたしはまだキャリアが浅いから、そんなに色んなケースを見たわけじゃないわよ」
そっか、という千尋の声に、もっともっと色んな仕事を熟したい、という熱望が胸に湧く。
わたしはやっぱり、働きたい。
仕事が好きなんだ、ということをこういう時に実感するのだけど。
「でも、なんだかショックだわ。
お姉さんのところまでって思うと」
「私もよ。これから結婚しようっていう妹に、夫婦の現実なんて見せないで欲しいわ」
姉のことをさり気なく皮肉りながらも明るく笑った千尋は、
「そんなわけで、今度もしかしたら菊乃のとこに姉を連れて相談に行くかもしれないから、よろしくね」
そんな言葉で締めくくって電話を切った。
深夜2時を回る頃だったけれどすっかり目が覚めてしまったわたしはベッドから起き上がり、少し仕事しよう、パソコンを開いた。
あの呑んだくれて潰れてしまった翌々日。
深夜、寝入りばな、携帯が鳴った。
目を擦りながら出てみると耳に飛び込んできたのは千尋の元気な声だった。
時計は1時を指していた。
「ちひろ……」
今何時だと思って、という言葉が口先まで出かかったけれど、千尋には先日の借りがあるのでここは非礼も黙殺。
「ドイツね」
「Ya! フランクフルトよ」
ドイツと日本の時差はだいたい7時間。
今こちらが1時だから、あちらは……夜の6時くらい、といったところ。
なるほど、Guten Abend(こんばんは)なわけね。
フランクフルト。
そこは行ったことないんだよな、と自分の記憶のビジョンにない風景を想像しながらわたしは千尋に詫びを入れる。
「ごめんね、この間は。
とんだ失態を。
迷惑かけてしまったわ」
わたしは危うく千尋の仕事の邪魔をしてしまうところだった。
「わたしは全然大丈夫。私より迷惑かけた人がいるでしょう?」
千尋の声がくぐもって聞こえる。
それは笑いを堪えているからだってこと、無料通話アプリを使った国際電話を通してだって伝わってくる。
「はい、緒方君に迷惑をかけました」
千尋にはちゃんと翌日、メールで報告はしてあったけれど。
返信が直電とは。
「なにも、緒方君に預けちゃわなくてもあそこでタクシーにそのまま乗せてくれても良かったのに……」
そう言いながらも、緒方君と過ごしたあの時間に、あまり悪い気はしなかった、という感情が湧く自分に驚く。
千尋は、そんなわたしの心を見透かしたようにクスクスと笑っていた。
「ごめんね~。でも菊乃あの時寝ちゃってて、タクシーに乗せたって危ないと思ったのよ。
そこに緒方君登場、というわけね。
それに、緒方君ならまあいっかって思っちゃったの」
〝まあいっか〟って。
「ちひろ……」
「良かったじゃない、ホテルに連れ込んだりしなかったワケだし」
そういう問題じゃなくてね。
その、千尋が言う‘まあいっか’がどこに掛かるのか、地味に気に掛かるんですけどね。
「緒方君なら、菊乃にいいかなってちらっと思ったのも事実」
千尋がぽろりと明かした。
わたしの胸が一瞬ドキッと跳ねたけど。
「それはムリ、かな」
少しの間を置いて千尋は。
「もうそろそろ、いいと思うんだけどね」
千尋の言葉はきっと、あれやこれや、諸々のものに掛かっているのだと思う。
彼の事は過去の事と割り切りなさい、っていうことなんだよね。
割り切れたら、どんなに楽か。
割り切れないからまだこんな風にウジウジしているんだから。
「分かんない」
曖昧な一言で片づけたわたしに、千尋が小さくため息を吐いたのが伝わった。
「お互い、なかなか進歩しないわね」
「そうね」
そう話してアハハと笑った。
じゃあ、と切ろうとした時「そうだ」と千尋が話しを切り出した。なに? とわたしが続きを促すと。
「実はね、わたしの姉が離婚考えてるの」
「え? だって、千尋のお姉さんのところはすごく円満に見えてたけど?」
そう。千尋の5歳年上のお姉さんは確か……今年で結婚13年目。
子供もいる、絵に描いたような素敵な家族に見えていた。
「それがね、色々あるのよ。
菊乃なら色々なケース見てきたから分かるんじゃない」
そうは言っても。
「わたしはまだキャリアが浅いから、そんなに色んなケースを見たわけじゃないわよ」
そっか、という千尋の声に、もっともっと色んな仕事を熟したい、という熱望が胸に湧く。
わたしはやっぱり、働きたい。
仕事が好きなんだ、ということをこういう時に実感するのだけど。
「でも、なんだかショックだわ。
お姉さんのところまでって思うと」
「私もよ。これから結婚しようっていう妹に、夫婦の現実なんて見せないで欲しいわ」
姉のことをさり気なく皮肉りながらも明るく笑った千尋は、
「そんなわけで、今度もしかしたら菊乃のとこに姉を連れて相談に行くかもしれないから、よろしくね」
そんな言葉で締めくくって電話を切った。
深夜2時を回る頃だったけれどすっかり目が覚めてしまったわたしはベッドから起き上がり、少し仕事しよう、パソコンを開いた。
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