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後生だから
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バシャッとバケツの冷水が凛花にかけられた。
「目ぇ覚めたか?」
空になったバケツを手にした田崎の部下がニヤニヤしながら凛花の顔を覗き込んだ。
下着姿で両手を縛られ天井から吊るされた凛花はかけられた水の冷たさに目を閉じ首を振った。濡れた長い髪の毛から水滴が滴る。
男の向こうには、田崎がソファにのけ反るように座る。視線が冷たく凛花を刺していた。
田崎の持つ雑居ビルの一室であるこは分かるが、窓は厚いカーテンで閉ざされ昼なのか夜なのか分からない。
ゆらりと立ち上がった田崎は凛花に近寄った。いかつい大きな手が顔を掴み上げる。
「剣崎んとこのあんなザコを骨抜きにしても、こっちには何の利益にもなんねーんだよ。どうせならあそこのもっと上クラスのをたぶらかさねーとなぁ。それともまさか本気で、とか言わねーよな?」
押し黙り、視線を逸らした凛花に田崎は乱暴に口づけをした。舌が捩じ込まれ、粘つくように絡み付く。
凛花は固く目を閉じ耐えたが、時折床から足が離れ、全体重が縛られた両手にかかる。
「あぅ……っ……く……」
顔をしかめ、小さな悲鳴を上げる凛花に追い討ちをかけるような仕打ちが待っていた。
身を捩らせる度に手首に縄が食い込み、凛花は涙に濡れる顔を激しく振った。
「や……っ――!」
声を上げたと同時にパンッ!と乾いた音が響く。凛花の頬に痛烈な痛みが走った。
田崎の張り手だった。
ジンジンと熱くなる頬を、縛られた手では押さえる事も出来なかった。
「お前は飼われているんだという事を忘れるな」
背筋が凍るような田崎の声と視線に、凛花は震える事しか出来なかった。
†††
つくづく朝が似合わない街だな、と白々と明け始めた空とグレーに染まる歓楽街を眺めていた龍吾は煙草をくわえた。
火を点けようとライターを手にした時だった。
「龍吾」
微かな声がした方向を龍吾は探り、建物の影から顔を出す凛花を見つけた。
「り……ん……!」
口にくわえていた煙草をパッと取った龍吾はライターと共にズボンのポケットに入れ、周囲を確認しながら凛花の元に駆け寄った。
凛花は龍吾の姿を見た瞬間、両手で口を覆う。込み上げる涙を押さえきれなかったのだ。
「こんな時間に……大丈夫なのか?」
凛花の、口を覆う手を外そうと、そっと手首を掴んだ時龍吾は目を見張った。
ブレスレットで隠してはあったが、その手首には痛々しいアザがくっきりと残っていた。
「凛花」
龍吾が奥歯をギリッと噛む。
「何を、された」
凛花は小さく首を振った。
あの後、何時もと同じように店に出された。
田崎の部下達に監視され、変わらぬ笑顔を振り撒き続けたが。
「逃げて、来たの」
店がハネた後、ほんの少しの隙をついて裏口から飛び出した。
とにかく、龍吾に会いたかった。ここに来れば、龍吾に会えると思った。龍吾に抱き締めて欲しかった。
でも、龍吾に迷惑がかかるかもしれない。
フッと過ぎった不安を凛花は掻き消した。
「後生だから、後生だからお願い。私を、抱いて――!」
ムリでもいい。断られてもいい。ただ、最期に想いを聞いて欲しかった。
龍吾、貴方を愛してる!
龍吾が凛花の腕を掴んだ。
「来い」
「え?」
「ここじゃ、何も出来ないだろ?」
龍吾は凛花の手を引き、迷路のような路地裏を縫うように走り出した。
雲が広がり始めた空からはポツポツと雨粒が落ち始めていた。
「目ぇ覚めたか?」
空になったバケツを手にした田崎の部下がニヤニヤしながら凛花の顔を覗き込んだ。
下着姿で両手を縛られ天井から吊るされた凛花はかけられた水の冷たさに目を閉じ首を振った。濡れた長い髪の毛から水滴が滴る。
男の向こうには、田崎がソファにのけ反るように座る。視線が冷たく凛花を刺していた。
田崎の持つ雑居ビルの一室であるこは分かるが、窓は厚いカーテンで閉ざされ昼なのか夜なのか分からない。
ゆらりと立ち上がった田崎は凛花に近寄った。いかつい大きな手が顔を掴み上げる。
「剣崎んとこのあんなザコを骨抜きにしても、こっちには何の利益にもなんねーんだよ。どうせならあそこのもっと上クラスのをたぶらかさねーとなぁ。それともまさか本気で、とか言わねーよな?」
押し黙り、視線を逸らした凛花に田崎は乱暴に口づけをした。舌が捩じ込まれ、粘つくように絡み付く。
凛花は固く目を閉じ耐えたが、時折床から足が離れ、全体重が縛られた両手にかかる。
「あぅ……っ……く……」
顔をしかめ、小さな悲鳴を上げる凛花に追い討ちをかけるような仕打ちが待っていた。
身を捩らせる度に手首に縄が食い込み、凛花は涙に濡れる顔を激しく振った。
「や……っ――!」
声を上げたと同時にパンッ!と乾いた音が響く。凛花の頬に痛烈な痛みが走った。
田崎の張り手だった。
ジンジンと熱くなる頬を、縛られた手では押さえる事も出来なかった。
「お前は飼われているんだという事を忘れるな」
背筋が凍るような田崎の声と視線に、凛花は震える事しか出来なかった。
†††
つくづく朝が似合わない街だな、と白々と明け始めた空とグレーに染まる歓楽街を眺めていた龍吾は煙草をくわえた。
火を点けようとライターを手にした時だった。
「龍吾」
微かな声がした方向を龍吾は探り、建物の影から顔を出す凛花を見つけた。
「り……ん……!」
口にくわえていた煙草をパッと取った龍吾はライターと共にズボンのポケットに入れ、周囲を確認しながら凛花の元に駆け寄った。
凛花は龍吾の姿を見た瞬間、両手で口を覆う。込み上げる涙を押さえきれなかったのだ。
「こんな時間に……大丈夫なのか?」
凛花の、口を覆う手を外そうと、そっと手首を掴んだ時龍吾は目を見張った。
ブレスレットで隠してはあったが、その手首には痛々しいアザがくっきりと残っていた。
「凛花」
龍吾が奥歯をギリッと噛む。
「何を、された」
凛花は小さく首を振った。
あの後、何時もと同じように店に出された。
田崎の部下達に監視され、変わらぬ笑顔を振り撒き続けたが。
「逃げて、来たの」
店がハネた後、ほんの少しの隙をついて裏口から飛び出した。
とにかく、龍吾に会いたかった。ここに来れば、龍吾に会えると思った。龍吾に抱き締めて欲しかった。
でも、龍吾に迷惑がかかるかもしれない。
フッと過ぎった不安を凛花は掻き消した。
「後生だから、後生だからお願い。私を、抱いて――!」
ムリでもいい。断られてもいい。ただ、最期に想いを聞いて欲しかった。
龍吾、貴方を愛してる!
龍吾が凛花の腕を掴んだ。
「来い」
「え?」
「ここじゃ、何も出来ないだろ?」
龍吾は凛花の手を引き、迷路のような路地裏を縫うように走り出した。
雲が広がり始めた空からはポツポツと雨粒が落ち始めていた。
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