蝶の羽根【完結】

深智

文字の大きさ
13 / 27

龍吾の決意

しおりを挟む
 
凛花を――……この街から逃してやりたい――……!

 
 
「龍吾……これは……?」


 凛花の手に、龍吾の今手に持つ全財産。

凛花は戸惑い龍吾を見つめる。


「身体一つで逃げ出して来たんだろ?
これを持って、とりあえず出来る限り逃げて欲しい。
ごめん、今は……これしか出来なくて」


龍吾は自分の上着を羽織らせた凛花を抱き締める。


「龍吾……龍吾はどうするの……!?」

「田崎のとこに、乗り込む」

「――……!?」

「凛花を……自由にしてやってくれって、直訴してやる」

「り……っ、龍吾……っ!
そんなの……っ!」

 
 

――そんなの……無理――……!

殺されてしまう――――っ!


最後は言葉にならなかった。



 あまりに無謀な決意に、蒼白になり言葉を失う凛花に龍吾は優しくキスをした。

剣崎の忠告を無視した時点で、彼に泣きつくなどという選択肢は消えている。

端から龍吾の頭には剣崎に頼ろうなどという考えはこれっぽっちもなかったのだが。


――自分の守るべきものは、自分の力で守る――……!



小さな東屋のベンチで、静かに抱き合う。

 
 
今まで過ごして来たどんな時間よりも密な時間――……

凛花も、龍吾の胸の中で1つの決意をしていた――――。





 お互いの舌が絡み合い、蕩け合う長い口づけ。

そっと唇を離して龍吾は凛花の髪をゆっくりとすきながら言う。


「凛花は……自由になるんだ――……」

――その羽根で……――!


「龍吾――……!」


こぼれる涙が止まらなかった。



 早く逃げろよ、と龍吾は真剣な瞳で凛花に言い、走り去った。

凛花はそのスラリと背の高い後ろ姿を見えなくなるまで動かなかった。

 
 
――ありがと……ありがとう……龍吾……――!


顔を覆う。

涙が止まらない。


――でも……龍吾……。
貴方を犠牲に私が自由になる訳にはいかないの――……


凛花は手に持つ、龍吾に渡された手の中の金を上着のポケットに入れ、立ち上がった――――。




†††

 
 

――ここは――……?


 龍吾は全身の激痛に目を覚ました。

口の中に広がる鉄の味。

薄暗い部屋のコンクリートの床。

拘束されている両手両足――……。


――そうだ……俺は――……




 凛花を探す男達の怒号が飛び交う〈鈴蘭〉に姿を現した龍吾。

殴りかかる男を2、3人倒したところまでは覚えているが――……


――木刀はキツかったな……


背後からの一撃で、意識を失ったのだ。


 
 
 身体の向きを変えようとした時の激痛に、確実に肋骨にひびは入ってるな、と龍吾は顔をしかめた。


「よお、気ぃついたか」


いかにもな人相の男が龍吾の顔を覗き込む。


「ぐ……っ!」


みぞおちを蹴られ、顔を歪め、彼は自分を取り囲む男達を見上げた。


――4人……


瞬時に頭数を数えた。

 
 
――ムリか……?いや……4人くらいなら……


龍吾はさりげなく辺りを見回す。


――コイツらをなんとかしなければ、田崎には会えない。
幸い拘束された手は、前だ。
チャンスはある――!


ここを脱出する為の算段を企てる龍吾の髪を、覗き込んでいた男が掴んだ。


「いい事教えてやるよ」


その瞬間、ゾワリとイヤな予感がした。


「お前が伸びてる間にな、凛花が田崎さんとこ戻ってきたんだぜ」


龍吾の頭が、真っ白になった。


――凛花、どうして――!?

 
 
「私はどうなってもいいから、彼を助けて、だってさ。
泣かせるわなぁ」


男はグッと龍吾の髪を引っ張り、わざとらしく言う。


「今頃、田崎さんの周りのモン達にマワされてんじゃね?」


ヒヒヒ……という厭らしい笑いを聞いた瞬間、龍吾がキレた。

渾身の力を振り絞り、拘束された両手で男の顔を殴打。

「うぐっ」と彼が怯んだところに更に頭突きを喰らわせた。

 
 
「キサマ……ッ!」

飛びかかって来たもう1人の男には、手を床に突き反動を付け、縛られたままの足で蹴り上げた。


「りんかあぁ――――っ!」


襲いかかる男達に必死に応戦しながら、どこにいるかも分からない凛花を呼ぶ。


――蓄積――!!



拳を振り上げた時、固いもので背中を強打され、その場に再び倒れ込んだ。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛

ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎 潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。 大学卒業後、海外に留学した。 過去の恋愛にトラウマを抱えていた。 そんな時、気になる女性社員と巡り会う。 八神あやか 村藤コーポレーション社員の四十歳。 過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。 恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。 そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に...... 八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。

放蕩な血

イシュタル
恋愛
王の婚約者として、華やかな未来を約束されていたシンシア・エルノワール侯爵令嬢。 だが、婚約破棄、娼館への転落、そして愛妾としての復帰──彼女の人生は、王の陰謀と愛に翻弄され続けた。 冷徹と名高い若き王、クラウド・ヴァルレイン。 その胸に秘められていたのは、ただ1人の女性への執着と、誰にも明かせぬ深い孤独。 「君が僕を“愛してる”と一言くれれば、この世のすべてが手に入る」 過去の罪、失われた記憶、そして命を懸けた選択。 光る蝶が導く真実の先で、ふたりが選んだのは、傷を抱えたまま愛し合う未来だった。 ⚠️この物語はフィクションです。やや強引なシーンがあります。本作はAIの生成した文章を一部使用しています。

空蝉

杉山 実
恋愛
落合麻結は29歳に成った。 高校生の時に愛した大学生坂上伸一が忘れれない。 突然、バイクの事故で麻結の前から姿を消した。 12年経過した今年も命日に、伊豆の堂ヶ島付近の事故現場に佇んでいた。 父は地銀の支店長で、娘がいつまでも過去を引きずっているのが心配の種だった。 美しい娘に色々な人からの誘い、紹介等が跡を絶たない程。 行き交う人が振り返る程綺麗な我が子が、30歳を前にしても中々恋愛もしなければ、結婚話に耳を傾けない。 そんな麻結を巡る恋愛を綴る物語の始まりです。 空蝉とは蝉の抜け殻の事、、、、麻結の思いは、、、、

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

処理中です...