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看護師の知識を使って、看護過程を展開していきます。
【情報収集】殴り愛(S)と許し愛(M)の異類婚夫婦
しおりを挟むケツの痛みを物ともせず、命辛々逃げていった人さらい二人は、案の定、ズラウト先生を見捨てた様だ。
持久力が乏しいズラウト先生は、這いつくばりながら夜明けの森の中をさ迷っていた。
普段、徹底した淑女らしさを追及している彼女は、走るということをしない。
いつも淑やかに、ゆっくりと優雅に歩く。
ので、あんなに速くはしれるなんて思ってもみなかったから、少し驚いた。
「…だ、だれか、た、…助けて…。
だれかぁぁぁーーー…」
必死に手足を動かし、掠れた声で助けを求めるズラウト先生が、自業自得とはいえ、流石に可哀想になってきた。
さて、助けるか。
…でも、なぁ…。
このまま助けに出て行っても、ズラウト先生の事だから、自分の行いを棚上げして、見捨てずに助けに来た私を「何でもっと早く助けに来なかったのです!!」って、まず、間違いなく詰るだろうしなー。
ぶっちゃけ、このまま私は”人喰い亜人”に喰い殺されたって事にして、何のしがらみの無い私になるっていう手も、あるにはある。
と、いうか、私はそれを、大いに推奨したい。
だが、もし、そうなったら、迷惑を被るのは父だ。
私がいなくなったら、レチェッターでもなくラインケンでもなく、父に全ての責任が課せられるだろう。
父も、甘んじて全てを受け入れる。
例えそれが、濡れ衣だとしてもだ。
なので私は、ズラウト先生を救いに行くのを躊躇っていた。
損得勘定の無い父なら、形振り構わず躊躇いなく助けに行くのだろうけど…。
利己的な私には、出来ないでいた。
でもな~…。
そろそろ助けに行かないと、今までコツコツ積んできた善行値が、減っちゃうからな~…仕方ない。
でもな~…。
うー…。
うん。よし、行こう。
ーーー…と、思ったら。
木の上からズラウト先生を見守っていた私は、魔物の気配を捉えた。
遠くから、何かが土煙をあげて物凄いスピードでズラウト先生目掛けて走ってくる。
瞬時に結界を展開し臨戦体勢を整え、木の上からその魔物を見極めた。
「あ」
けれど、それは、知り合いの変態だった。
「お嬢さん、大丈夫ですかっっ!?」
ガサガサッと低木の常緑樹を掻き分けて、背の高いワイルド系の超美形が、ズラウト先生の前に顔を出した。
「きゃあぁっっ!?」
突然声をかけられて、ズラウト先生が叫び声を上げた。
「あ、落ち着いて下さい。
怪しい者ではありません。私は、この森に住む森の番人…」
自称not怪しい者は、自己紹介しながら両手を前に差し出し、落ち着く様にと美声で促す。
「あ、あら…、私とした事がはしたないっ!」
人の姿に安心したのだろう(しかも超美形)。
たちどころに自分を取り戻したズラウト先生は、這いつくばっていた姿勢から、慌てて身を起こして背筋を伸ばし凛とした体裁を整える。
落ち着きを取り戻したズラウト先生に、not怪しい者は、右手を胸の前に軽く持っていき頭を垂れて紳士の礼をとると、木々を掻き分けて一歩踏み出し。
「ケンタウルスの、リゲルと申します」
にこやかに右手を差し出した。
「ほぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
リゲルの手を取る寸前で叫びをあげたズラウト先生は、そのまま白目になり、フラッと後ろへ倒れた。
「あぁ!?。お嬢さん、しっかり!!」
リゲルが慌てて、ズラウト先生を抱き止める。
ーーー…リゲル、GJ!。
私は、リゲルにズラウト先生を任せる事にした。
ケンタウルス。
人によってはケンタウロスとも言う、人の上半身に馬の下半身をもつ種族だ。
一般的に、ケンタウルスは好色で酒好きで荒くれ者だと言われているが、リゲルは真逆に素晴らしく紳士だった。
本人曰く。50年程昔、体からはみ出るほど大きく育った心窩部の魔石を、勇者との壮絶な戦いの末、意識のあるまま抉り盗られたら、冷静に物事を考えられる様になったらしい。
分類的に魔物だけれど、ベジタリアンで謙虚、知識は豊富で、誰にでも親切で丁寧。
事実婚でモノにした、目に入れても痛くない(物理)程溺愛する可愛らしい嫁のゼウクシスを、日々愛でるのが楽しみ。
という、魔物にあるまじき紳士っぷりだった。
「…ねぇ、ゼウクシス。
女性に断りもなく触れるのは、私の紳士道からだいぶ外れるのだけれど、この女性をこのまま抱き抱えても良いのだろうか…?」
う~ん…と、悩みながら話すリゲルに返答があった。
「緊急事態だ、仕方なかろう」
コロコロと鈴を転がしたかの様な声が、リゲルの背中から発せられた。
背中には幼く可愛らしい小さな女の子がちょこんと座っている。
ただし、服装は全っ然可愛くない。
何故なら、黒いファー付きマントを纏い、ベルトだらけのハイレグボンテージ姿だからだ。
クリックリ天然パーマの金髪碧眼で、とっても可愛らしいキューピーちゃんなのに、その残念すぐる格好は視覚への暴力だと常々思う。
「しかし、ゼウクシス…。
自分の夫が、他の女性を抱き抱えていたら嫌な気持ちになるのではないのかね?」
苦悩の表情だが、視線はしきりにチラチラと背中を気にしている。
幼妻に焼気持ちを焼いて欲しいのが、ありありと見てとれた。
「全っ然」
しかし、幼妻はうっとうしそうに顔をしかめ、素っ気なく答える。
「うんうん。そうだな。
言葉ではそう言ってはいるが、旦那が他の女性を抱き抱えていたら、とっても嫌な気持ちになるはずだ。
太陽も出てきたし、危険ももうそんなにないだろう」
そう言いながら、リゲルはズラウト先生を丁寧な手つきで、そのまま地面に横たえた。
「…ってことで、よし!。
見なかった事にしよう!!」
「「早よ助けろっっ!!」」
ーーー…ゴスッッ!!×2。
森の中に、しれっと帰って行こうとするリゲルの顔面に、思わず膝蹴りで突っ込みを入れると、同じくリゲルの頭に回転踵落としを決めたゼウクシスと声が被った。
「む?」
地面に降り立った私に、何事も無かったかの様に、ゼウクシスが騎上でスカートの様な襞を摘まみ、淑女の礼をとる。
「ハイドではないか。
随分早起きだのう、今日は如何したのだ?」
「おお、これはハイド様。本日も、ご健勝の様子」
嬉しそうにコロコロと笑いながら、話しかけて来たゼウクシスに倣い、リゲルも紳士の礼をとった。
私も、淑女の礼を軽くとる。
「おはようございます、お師匠様。そしてリゲル。
あ~…とりあえず、リゲルは鼻血を拭こうか!」
「おっと、これは失礼!!」
そう言うとリゲルは、唯一身に付けているクラバットでダラダラ垂れてた鼻血を拭った。
すると、私の膝蹴りの赤い跡のついた肌の色と伴に、鼻血までもがキレイに消えた。
「いや、私こそ…つい…、ゴメンなさい?」
「いえいえ、お気に為さらず。素晴らしい顔面膝蹴りでした。腕を上げられましたな」
と、ニコニコしながら、頭を優しく撫でてきた。
「所で…痛々しい、そっちは治さないの?」
頭からも血が、ダラダラ垂れてきている。
滴るそれが、ちょっとうっとおしい。
「いや、いやいやいやっっっ。
とんでもない、治すなどもったいない!。
これは、素直になれない奥ゆかしいゼウクシスの、唯一の愛情表現。
すなわち、私に向ける愛の証!。
痛みなどではなく、快感でしかないに、決まっているじゃあないですかっっ!!」
と、胸を張って誇らしげに変態発言した夫に、
「…死ねば良いのに…」
色々諦めた眼をしたゼウクシスが、ポツリと呟いた。
「あ~…、そうですか…」
…何というか…。
日々、本気で殺しにかかっているゼウクシスが、今日もとても憐れでならない。
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