黄泉小径 -ヨモツコミチ-

小曽根 委論(おぞね いろん)

文字の大きさ
6 / 83
壱 平成二十六年

A?;M?4*?00????シ??

しおりを挟む
「!?」

 何か言う暇も無かった。長いものはもがく翔太を持ち上げて2メートルほどの高さまで伸びると、弄ぶかのようにブラブラと揺らし始めた。

 それが恐ろしく長い腕であることに気づくには、しばらくの時間が要った。だって、あんなところから腕が出るわけがないし、万一出せたとしてもこんな滅茶苦茶な長さの腕なんかある訳がない。その手は翔太の首を締め上げたまま、揺らし方を見る見る激しくしていった。彼の体が竹に何度もぶつかる。

 翔太は何か叫んでいた。が、首をしっかり握り締められているうえに、無茶苦茶な振り回し方をされているので、全く聞き取れない。

「かわいそうな人。よっぽどひどい殺され方をしたのね」

 無感情におゆいさまは言う。この人は、この光景を見て事情を理解出来るのだろうか。

「……」

 ほどなく、長い手はゆっくりと翔太を降ろした。そして、全く動かなくなった翔太を尻目に、手は闇に溶け込んで見えなくなった。

 おゆいさまは、翔太の方へ一瞥をくれると、そのまま私の方へ近寄ってきた。

「……え?」

 黄泉の世界の案内人が、しっかりと目を合わせてくる。私は恐怖のあまり、逆に視線を逸らせないでいた。翔太が死んだのか気絶しただけなのか、気にする余裕もない。

「……あなた……」

 少しして、おゆいさまはにんまりと笑った。中学生らしいさわやかさなんか微塵も感じない、禍々しい笑顔だ。

「……今日は、良い日……」

 ささやくような小さな声。独り言なのだろうか?正確に聞き取れた自信がない。
 だが、

「……ようこそ。待ってたよ……」

「え?」

 次に聞こえたおゆいさまの言葉に、私は耳を疑った。言い伝えで聞いてきた『おゆいさま』が、『私』を待っていたとは、どういう事なのか。

「何それ、どういう事……?」

 私が聞き返しても、おゆいさまは答えない。ただただ不気味な笑い顔のまま、こちらを見ている。

 戸惑っていると、さらにおゆいさまはこちらの息づかいが伝わりそうな距離まで詰め寄ってきた。

 正直、臭う。

 至近距離で食い入るように私を見詰めるおゆいさま。何をされるか気が気じゃない私に向かって、彼女の口がさらに何か言おうとした、その時。

「誰だ! そこで何をしている!」

 唐突に怒鳴り声がした。実家の近所に住んでいるおじさんの声だ。

 いきなりの事態に、おゆいさまの顔が憎悪に歪んだ。その姿はみるみる透明になっていく。

「貴様……」

 そう言ったかと思うと、彼女は右手で咄嗟に私の下っ腹を引っ掻く素振りをした。そして、それが当たったか当たらないかのタイミングで、おゆいさまの姿は完全に消えた。

「おい! お前美咲ちゃんじゃねえか! どうした! こんなところで、何してたんだ!?」

 代わりに現れたのは、声の主のおじさんだった。懐中電灯でこちらを照らしながら近寄ってくる。

 緊張感が切れた。私は状況の説明が一切できないまま、その場で泣き崩れてしまった。

「おい! どうした美咲ちゃん!? おい! おい!?」

 優しいおじさんは、肩を抱いて心配そうに私の顔を覗き込む。私は何も言い返せず、ただひたすら泣きじゃくった。


 ニワトリの泣き声が聞こえる。
 恐ろしい夜は、終わったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

隣人意識調査の結果について

三嶋トウカ
ホラー
「隣人意識調査を行います。ご協力お願いいたします」 隣人意識調査の結果が出ましたので、担当者はご確認ください。 一部、確認の必要な点がございます。 今後も引き続き、調査をお願いいたします。 伊佐鷺裏市役所 防犯推進課 ※ ・モキュメンタリー調を意識しています。  書体や口調が話によって異なる場合があります。 ・この話は、別サイトでも公開しています。 ※ 【更新について】 既に完結済みのお話を、 ・投稿初日は5話 ・翌日から一週間毎日1話 ・その後は二日に一回1話 の更新予定で進めていきます。

【完結】知られてはいけない

ひなこ
ホラー
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。 他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。 登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。 勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。 一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか? 心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。 (第二回きずな児童書大賞で奨励賞を受賞しました)

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

ヴァルプルギスの夜~ライター月島楓の事件簿

加来 史吾兎
ホラー
 K県華月町(かげつちょう)の外れで、白装束を着させられた女子高生の首吊り死体が発見された。  フリーライターの月島楓(つきしまかえで)は、ひょんなことからこの事件の取材を任され、華月町出身で大手出版社の編集者である小野瀬崇彦(おのせたかひこ)と共に、山奥にある華月町へ向かう。  華月町には魔女を信仰するという宗教団体《サバト》の本拠地があり、事件への関与が噂されていたが警察の捜査は難航していた。  そんな矢先、華月町にまつわる伝承を調べていた女子大生が行方不明になってしまう。  そして魔の手は楓の身にも迫っていた──。  果たして楓と小野瀬は小さな町で巻き起こる事件の真相に辿り着くことができるのだろうか。

処理中です...