ゲイの俺が、同性愛という概念がない世界に勇者として召還されました

うましか

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アトラン 酔っ払いに絡まれる

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 心から尊敬していました。兄のように慕っていました。

「実は僕の本当の父上は魔術師長なんです。母上から口外するなと言われていましたが」

 だから彼にとっての育ての父が自分にとっての血の繋がりがあることを、とても誇らしかったのです。血は繋がっていなくても、ずっと近くにいるように感じたのです。
 それが不義によるものだというのは理解してました。それでも彼に秘密を打ち明けたのは憧れていた人に少しでも近づきたいと思ったからです。

 だが彼の顔が驚きの後に嫌悪と怒りで歪んだのを見て、自分の過ちに気づきました。しかし遅すぎたのです。

「アトラン、詳しく話せ」

 有無を言わせないその言葉と掴まれた肩に、黙秘できるほど自分の心は強くはありませんでした。体が震えながら望まれるままに真実を告げました。
 正直に話した自分に彼は優しく肩を叩いてくれました。お前に非はないと諭すような動作でありましたが、少しも安心などできませんでした。彼はそのままどこかへと去っていき、自分はその背中を追うことができなかったのです。


 そして彼は魔術師長と激しい口論の末に魔導師をやめ、神官へと転職したのです。




+++


「あら、もう行ってしまうの?」

 帰り支度をする私の背後に声がかかりました。
 振り返れらずとも、声の主はわかっております。先ほどまで寝床を共にし、散々嬌声をあげていた声です。数刻前よりも若干掠れておりました。

「ええ、もう自分の役割は終えましたので」
「もっとゆっくりしていけばいいじゃない。まだ外は寝静まっている頃よ」

 舌っ足らずに話しかけようとするその声。
 とても可愛らしい声でした。

 反吐がするほどに。

「いえ、まだやることがありますので」

 そう伝えれば彼女はそれ以上引き留めることはありませんでした。
 自分は愛を囁くような立場ではありません。求められているのは私の持つ魔力のみ。その体に子種を注ぎ込むだけの存在です。

 かつて自分がそうやって生まれたように。

「では、これで失礼します」
「子供ができなかったら、またお願いするわ」

 その言葉に、笑顔でもって返しました。

 ええ、お金さえ払えばいくらでも。






 魔法で照らし外を歩く。静けさと肌寒さが辺りには広がっていました。
 体内の熱が逃げていくのを感じます。心中はとうに冷め切っているというのに。

『何に怯えてるんですか?』

 忌々しい少年の声に、思わず舌打ちがこぼれました。
 それまで怯えていた少年の目が真っ直ぐ心の中を覗き込んでいたのです。

 憎たらしい。本当に憎たらしい。

『笑顔の仮面の下で、何をイヤがっているんですか?』

 その言葉に、ドロリと何かが溶かされそうになりました。
 それまで自分が彼より上の立場にいたはずなのに。あの瞬間はそれが覆されたと思ったのです。
 何を焦る必要がある。彼は何も知らない。誰も自分を知らない。

 こめかみを強めに押さえました。
 所詮は戯れ言なのです。気にとめる必要などないのです。

 いつものように笑えば良いのです。悟らせなければ良いのです。
 信じなければ良いのです。信頼しなければ良いのです。

 思い入れのない道具は、壊れたとしても悲しいことはないのですから。




 いつもよりも帰宅が早くなってしまいました。
 魔導師が研究のため利用するこの建物。自分が魔導師になってから数十年になりましたが、ほぼここで寝泊まりしています。私のようにここを住居とするのは少なくはありません。特に王都出身でなければ、街から通う時間が惜しいと考える人が大半でしょう。

 自分が外に出ているこの時間。羽目を外す人は多数おります。
 特にキュルブ・ジャルザ・レグロの3人は酔って暴れることが多々あります。シャンケなんかは彼らに巻き込まれることが多く、翌日疲れた顔でフラフラしています。おそらく今日も巻き込まれているのではないでしょうか。




 シャンケに目をかけたのはたまたまでした。
 オドオドとした街出身の少年。しかも父親がノーマリル出身だという。それだけで普通は魔導師からはねられる対象です。書類や伝聞だけでしたら、彼は追い出されていたでしょう。
 しかしたまたま自分の前を通った少年に魔力の高さを感じたのです。そのときはただの勘でしたが、時間の余裕もあって彼の魔力を計測してみました。案の定、魔力の量は魔導師としては普通でしたが、その質は他を凌駕していました。鍛えれば自分と似たような魔導師になれる可能性を感じました。
 魔力は両親の遺伝にもよりますが、必ずそうなるわけではありません。両親ともに魔力に秀でていても、子供にその才能が受け継がれない例も少なくありません。その逆も然りです。
 当時のシャンケは若干痩けていましたが、健康状態に問題はありませんでした。一市民のもとに生まれて、ここまでよく育てられたものです。
 貴族間では魔力を持たない、あるいは魔力が乏しい子供を、逆に魔力が高すぎて恐怖の対象となった子を、病気や事故と偽って殺すケースもあります。自分の場合は後者です。魔導師にはなれましたが捨てられたことには間違いありません。

 その後シャンケは魔導師になりましたが、大抵は誰かの研究の助手をしています。
 シャンケを助手に据えたとき研究効率は高まります。両親が文章関係の仕事についているからか、書類にまとめる際にシャンケがいるのといないのとでは完成度は大きく変わるのです。
 だから今回のクウガくんの目の研究にシャンケを助手と起用しました。もちろん元勇者が同性愛者という理由もありましたが。

 平民出身ということで肩身が狭い思いをしていますが、シャンケは私と違って後ろ暗い過去などありません。両親に愛されて、真っ直ぐに育った少年です。
 間違っても自分のようにはならないでしょう。




 誰にも悟られぬよう、音や気配を消して中へと入ります。
 寝静まっているように物音ひとつありません。しかし防音魔法を仕掛けているでしょうから必ずしも寝ているとは限らないのです。
 自室へと足を進めようとしますが、そこであることを思い出しました。

「視力をなくすのを忘れていましたね」

 忘れていたというより、彼のことを思い出したくなかっただけですが。
 視力を戻したままだとしても、彼に逃げる方法も気もないでしょう。彼は視力さえなくしてしまえば力も魔力もない凡人以下ですから、自分がいなくとも対処はできましょう。もし逃げていたとしても、それを理由に殺してしまっても文句はないでしょう。

「しかしそれではせっかく手にしたサンプルが無駄になってしまう」

 研究者としてはそれは避けなければなりません。自分個人の問題だけならば、心の平穏のために彼にはいなくなってほしいですが。
 思い出してしまったからには、そのままというわけにもいきません。彼がいるであろう部屋へと向かいました。そして彼の部屋へとたどり着き扉に手をかけようとしたときです。

 扉が独りでに開きました。独りでに、と言っては語弊ですね。
 部屋の向こう側から扉を開けた人物がいたのでしょう。
 そして開いた扉の向こうには、シャンケの姿がありました。

「リーダー・・・・・・?」

 疲弊しきったシャンケの声と姿。シャンケの向こうには、ベッドに横になっているクウガくんが見えた。
 つまりこれはそういうことですか。

「シャンケ。あなたもとうとう試してみたのですね。どうでしたか。精液を飲んでみた感想は? 魔力計測はしたのでしょうね?」
「違います。飲んでません。誤解です」
「そんなに否定しなくても大丈夫ですよ。ただあまりに強い快感ですから、シャンケのような若人ではのめり込まないかが心配です」
「だから違います。こっち来てください」

 シャンケは私の言葉を即座に否定し、自分を部屋の中へと誘導しました。自分は中に入り扉を閉めて、部屋にいるクウガくんの様子を伺いました。
 そしてそこで目にしたのは、顔を真っ赤にして眠っているクウガくんでした。どう見ても正常ではなさそうです。ちなみに魔物の子供もクウガくんにしがみつきながら眠っているようです。

「キュルブ先輩たちが酔わせちゃいまして」
「ーー酒を飲ませたのですか?」
「あ、そうじゃなくて。ノン・ミン・ティーとレイ・ラ・ビーンの食べ合わせです」

 その言葉に納得がいきました。
 さすがに未成年に酒を飲ませることはしなかったようです。

 シャンケの言ったお茶と豆。これらは単体では何の問題もないのですが、合わせて食べることで酒に酔ったような感覚を得られるのです。このときの豆は炒ったり煮たりせず、生で食した場合のみになります。
 酒ではないため成人に満たない子供たちがよく試している方法です。

「それでシャンケがここまで引きずって連れてきたと」
「重かったです。そして魔物の子も彼のお腹にしがみつきながら寝ていたので、重さもさらに追加されました」

 それはご苦労様でした。
 クウガくんが眠っているベッドへと近づきました。寝息がこちらにも聞こえてきます。
 酔っている状態で能力にも違いがあるか気になるところではありますが、これだけぐっすりと眠ってしまうと研究にはなりません。視力を消す必要もないでしょう。
 シャンケと共に部屋を退出しようと足を進めます。


 しかしベッドの方からドスンという、何かが落ちた音に自分もシャンケもそちらを向きました。
 するとクウガくんが上体のみをベッドから起こしていたのです。さっきの音はクウガくんにしがみついていた魔物の子がベッドから落ちたもののようです。ですが魔物の子はそれでも起きずに眠り続けています。

 クウガくんは寝ぼけ眼でぼんやりとしているようでした。そしてボーッとした目で辺りを見渡し、そして自分と目が合った途端にっこりと笑いだしました。あまり普段では見ない表情です。

「アトランさんだー」

 クウガくんは機嫌良く自分の名を呼びました。
 どうやら酔っぱらっているようですが、しゃべることはできるようです。これは今からでも研究に移るべきでしょうか。

「あれー? 目の前くらくらするよー。アトランさーん?」

 クウガくんは起きあがろうとしているようですが、ふらついていて上手く動けないようです。ベッドから出ようとして、すぐに寝転がってしまいます。基本酔っぱらいには近づかないようにしているのですが、これは誰かが手伝わないと上手く動けないようですね。

「リーダー、ボクが運びましょうか?」
「いえ、シャンケは研究室の準備をお願いします」

 シャンケは私の言葉にうなずいて、部屋を出ていきました。
 そしてクウガくんの方を見れば、再度ベッドに寝転がっていました。目元を腕で隠して、また寝直してしまうようです。これはマズい。
 クウガくんのそばに向かい、その腕を掴みました。

「クウガくん。起きてください」

 そして掴んだ手に力を入れようとしたときです。
 腕を動かされたと同時に、クウガくんの目が真っ直ぐ自分を見つめていました。

「脱力せよ」

 酔っぱらっているとは思えない明瞭とした口調で唱えられ、その言葉の通りに全身の力が一気に抜けたのです。しまったと気づいたときは手遅れでした。先ほどのふらつきなど嘘だったかのように、力が抜けた自分をベッドへと引っぱり倒したのです。

「魔法は使うな」

 次いで言われた内容に、反撃の手がなくなりました。
 酔った彼がここまで俊敏に動けるとは思いませんでした。
 自分をベッドへと横たわらせて、クウガくんはその上に覆い被さります。せめての抵抗として、彼と目線を合わせることはしません。

 ですが、自分もここまでかと腹を括りました。
 周章なことはせず、いつものような笑みを浮かべました。

「お見事ですね。この後は自分を殺すつもりですか?」

 力が入らないこの状況なら、いくらでもいたぶることはできるでしょう。何なら自分が彼にしたように、この首を絞め殺すことも容易いはずだ。
 ここで自分を殺してしまえばクウガくんも処されることでしょうが、今は酔っている状態。そんなことお構いなしのはずです。

 しかしクウガくんはポヤンとした顔をしました。

「何を言ってるんですか? そんなことするわけないじゃないですか」

 そしてクウガくんは耳元で囁きました。

「可愛がってあげますよ。ドロドロになるまで、甘やかせてあげます」

 そしてクウガくんの舌が、耳の中に進入したのです。
 ゾクッとした嫌な感覚。小さな悲鳴が口から漏れました。
 耐えたくても力が入らない体は、ただただ進入を許すしかありません。
 クウガくんは耳の中を舐めながら、両手を移動させました。そしてあろうことか、服の上から私の胸の辺りを揉み始めました。

 何故、男の胸を揉むのか。理解に苦しみます。

 クウガくんは舐める場所を耳から首や顎の下へと変えました。舌だけでなく唇も使っています。そのまま喉元を噛み千切られるんじゃないかと本能が勝手に判断し、悪寒のような痺れが走りました。

「な、にを」
「くすぐったいですか?」
「そこで、しゃべら、っ、ないで」

 喉元に生暖かい吐息が触れる。気持ち悪さに声が詰まる。
 しかし詰まりつつ口にしたことを、クウガくんは素直に受け入れたようで顔を首から離して自分の顔を見つめました。

「忘れてました」

 クウガくんの発した言葉の意味がわかりませんでした。
 しかし顎をクウガくんの手で掴まれたかと思えば、唇を合わせたのです。

 いつもは自分からクウガくんにしている口づけ。クウガくんからしたのは初めてです。
 子供のような、唇をくっつけるだけのキスでした。
 それでもクウガくんは満足そうに笑ったのです。

「へへへ。俺からしたのは初めてですよね。照れますね」
「・・・・・・満足ですか?」

 本当に嬉しそうに笑うものだから、まるで初な少女に乗っかられている感じになりそうです。キスしたときの慌て振りからわかっていましたが、こういった経験はないようです。
 しかし自分の問いかけに、クウガくんは首を小さく傾げました。

「まだまだ、これからでしょう? 子供の遊戯じゃないんですから」

 そして突然、腰から上の服をめくられました。さらに今度は直接胸を触り始めたのです。何が起きているのか瞬時に理解できませんでした。
 女を抱くのは度々あるが、今まで女にしてきたことを何故今されているのでしょう。
 そして胸を揉むだけでなく、その中心である乳首まで弄りだしたのです。
 しかし女ならともかく、男がそんな場所を弄られても痛みしかありません。中心を押しつぶしたかと思えば、摘んで引っ張られました。

「女じゃないんだから、そんなところ」
「そうですね。男だったらこっちがいいですか?」

 そうクウガくんが言い、片手を乳首から別の場所へと移動しました。
 駄目です。それは、いけません。
 でも抵抗する力はありませんでした。

 ズボンの中へと進入され、おもむろに股間のそれを握られました。

「あ、すっごい。おっきいですね」

 クウガくんは素直にそう言って、手で擦り始めます。男なら誰でも感じるであろうそこを無理矢理扱かれました。
 その間も乳首の刺激は止まりません。片手で乳首を弄りながら、もう片方の手で性器を刺激される。

「気持ち良さそうですね。良かったです」

 良いわけないでしょう。
 クウガくんは満足そうに笑っています。
 彼の言う通り、体は快楽には簡単に応えてしまうようです。次第に乳首もジンジンとした痛みで、変な気を起こしてしまいそうです。

「あ、や、あ、あぅ、それ、やだ」

 格下の、どうにでもできるであろう存在に嬲られる事実。
 それがとてつもなく嫌でした。

「イヤ?」

 クウガくんがそう尋ねて両手の動きを止めました。
 やっと止めてくれたことに安心しました。そして思わず、彼の方を見てしまったのです。




「本心を曝け出せ」



 クウガくんのその言葉に、呼吸が思考が止まりました。
 その隙にクウガくんの動きが再開されました。

「あ、あっ、あ、や」
「何がイヤです?」
「全部が、嫌です。触らないで。見ないで。聞かないで。放っておいて」
「何でですか?」

 そう言ってクウガくんは乳首を爪で押し潰したのです。
 今度ははっきりと、ぞわぞわしたものがかけ上りました。

「あ、や、自分が、自分でなくなる。ーー僕は」

 自分ぼくは、僕は。







「大丈夫ですよ」

 クウガくんが、告げる。

「そんなに頑なに固持しなくて。身を任せちゃってください。だって疲れちゃいますもん。素直に気持ちよくなってしまえばいいんです」

 そして弄っていない方の乳首に、クウガくんの顔が近づいた。
 その唇が、僕のそれに触れたと同時に、僕の腰が跳ねた。

「いあっ、あ、あっ、あう」

 唇が触れて、舌で先を舐められて、時には歯で軽く噛まれた。手が触れている方も、口と同じように刺激し続ける。そして乳首だけでなく、僕の性器を扱く力も強くなっている。竿のほうだけでなく、睾丸の方まで。
 男だからなのだろう。乳首はともかくとして、そこの刺激は良いトコロを突いている。

「い、い・・・・・・。あっ、いいです」
「乳首の方ですか? それともチンコの方?」
「性器。性器が、んうっ、気持ちい、いです」
「乳首はどうですか?」
「わか、りません。ただ、だんだんとぞわってして・・・・・・ひいっ」

 クウガくんが乳首を引っかいて、僕の声が高く響く。
 そして同時に尿道に指の先を押し潰されて、駄目になった。

「あ、あ、ああっ、やら、・・・・・・んああああああっ」

 性器から吐き出される液に、頭が真っ白になる。
 女の膣に入れて出したのではない。男に触られて吐き出したのだ。


「気持ちよかったですか?」

 クウガくんの問いに、僕はぼんやりとしながら口を開いた。

「ーーはい。凄く」
「えへへへへ。それなら良かったです」

 邪気のない笑顔でクウガくんは僕の体の上に乗っかった。
 これ以上はするつもりはないらしい。酔った顔でへらへらと笑っているだけだ。







「口で、ご奉仕しましょうか? このままされるだけなのは性に合わないので」

 冷静になると、自分が思うがままにされていることに腹が立ってきました。
 せめて力が入ればやりこめるのですが。

 クウガくんは首を横に振る。

「アトランさんが気持ちよければそれでいいですよ」

 ほわほわとした笑顔で言われてしまえば、それ以上何も言えなくなりました。
 考えてみれば男としては奉仕され続けているというのも気に入らないのでしょう。
 彼の能力で力は入りませんが、精神的に脱力した気分です。

「ーーーー所詮、セックスなど子作り目的以外では快楽を求めるだけの行為ですからね」

 先ほどのは単なる性欲処理と思うことにしました。
 その前にも散々吐き出したので、疲労感がとてつもないです。年老いたと思っていましたが、まだまだ体は現役ですね。

 しかしクウガくんはキョトンとした顔をしました。

「相手のことが好きだからするんじゃないんですか?」
「違いますよ。さっきの君の行為だって、精を吐き出すだけの」
「アトランさんに気持ちよくなって欲しかっただけですよ。だってこんなのセックスじゃないですもん。まだ俺突っ込んでないし」

 クウガくんの最後の一言に疑問が浮かぶ。
 突っ込むと言いましたか? 何をどこに?
 心中の疑問に答えるかのようにクウガくんは言いました。

「俺のチンコ。まだケツの中に入れてないし」

 ・・・・・・・・・・・・その考えはありませんでした。
 確かに穴といえば穴ですが。そうですか。男同士の場合はそこを使うのですね。
 さすがにそれは、自分でも遠慮したいです。

「口に精液出して魔力量が上がるんでしょう? きっと直接腸内に入れたら、もっと魔力が上がると思いませんか?」

 クウガくんの言葉に、納得しかけてしまう自分がいます。
 確かに女性でも口からの摂取よりも、膣での摂取の方が得られる魔力量は大きいです。しかし、だからと言ってそこに異物を入れる気にはなれません。

「それにもっともっと、気持ちいいでしょうね。アトランさん、俺の精液飲んだ後、とろけきった顔してますもん。腸の中に出されたら、もっと気持ち良くなれるんでしょうね」
「ーー単純にヤりたいだけでしょう?」

 耳に入ってくる言葉は、まるで魅力的なことのように聞こえてきます。
 しかしそれを遮るように自分は口を開きました。

「ならば無理矢理すれば良いじゃないですか? 抵抗できない今なら、何しても君の思うがままのはずです」
「アトランさん、レイプはいけないことなんですよー」

 クウガくんは真顔で言った。
 あんなことしておいて、よくぬけぬけと口に出せましたね。

「好きな人とするっていうのが、理想なんです」

 好きな人。
 クウガくんの言葉に自嘲する。本当に甘い考えをする子だ。
 そんなに良いものではない。男女ですら打算でそういう行為をするというのに。

「そうですか。なら、自分はクウガくんに好かれていないということですね」

 自分で言っておいて、何をバカげたことをと思いました。
 好かれるわけがないでしょう。今までの行いで、彼に好意を抱かれるわけがありません。
 そもそも、自分が誰かに好かれるなど。あるわけがない。




「そりゃあアトランさんのこと全然知らないですもん」

 クウガくんは何が楽しいのか笑い声をあげました。

「俺は何も知らないんですよ。教えてくださいよ。好きになるかもしれないじゃないですか」

 続く言葉を聞いて、心中に宿ったのは怒りか苦しみか、悲しみか。

「あり得ない」

 そして自分はそうつぶやいていました。

「好きになってもらえるわけがないでしょう。自分が、誰かから、愛されるわけはないのですよ。何十年も生きて、そう理解したのですよ。自分のことを君に教えたところで、君は私を好きにはならない。それをわかっていて、何故教える必要があるのですか?」
「誰にも、好かれない?」
「そうですよ。道具として生まれた者は、道具として捨てられるだけ。君だって魔王を倒すだけに召還されて捨てられた。それと同じことです」

 どうせ捨てられるなら、執着しない方が傷つかないで済むのです。
 親に捨てられました。跡継ぎとして生まれたのに魔力が強すぎて恐れられて。
 尊敬している人に捨てられました。あの人は潔癖なところがあったから、不義など認められなかったのでしょう。そう考えれば、あの人は魔導師よりも神官向きなのかもしれません。捨てられたといっても、あの人は僕のことなんて見ようとしていなかったが。
 そして今は、貴族の女と体を繋げる。強い跡継ぎを生すためのそれは、きっと自分のような子を作り出すのでしょう。



「違う。それは絶対に違いますよ」

 しかしクウガくんはそう断言したのです。

「だって俺は知ってる。あなたが、好かれてるのを知っている。でもアトランさんが見せようとしないから、見ようとしないから、知らないだけ」
「何をバカな」
「俺は大事な人に隠さないって決めた。ちゃんと自分の口で言うって決めた。だから教えてください、アトランさんのこと」

 次第にクウガくんの頭が、うつらうつらと揺れ始めました。

「俺は、羨ましいですよ。アトランさんが。魔法できて、魔導師で、かっこよくて、テクも凄くて。・・・・・・くっそ、ここにもチートか、よ」

 最後には理解不能の言葉を残してクウガくんは力尽きました。そしてスピスピ寝息をたてています。
 今のは、いえ今までのは酔っぱらいの言動だったというのですか。

 気づけば体を自由に動かせていました。魔力が動くのもわかります。
 これはクウガくんが眠ったからでしょうか。しかしそれならば魔物が大量発生した際に、クウガくんが気絶しても能力が持続したことに矛盾が生じる。どういうメカニズムなのか。これは新たな研究内容になりそうです。
 しかし今は心身ともに疲れてしまい、何もやる気が起こりません。



「リ、リーダー・・・・・・」

 ふと部屋の扉が開かれ、シャンケが中へと入ってきました。何故かその顔は涙で濡れています。
 唖然としている自分を、シャンケは真剣な表情で見つめました。

「準備してもリーダーが来ないので不安になって戻ってきたんです。そしたら部屋の中から声がして。盗み聞きするつもりはなかったんですが・・・・・・少し話を聞いでじまいまじだ」

 シャンケは鼻水を思いっきり啜ります。怯えているような表情ばかり見ていましたが、ここまで涕泣しているのは初めてです。さらに言えば、泣いていてもその顔つきはとても真っ直ぐでした。

「オ、オラァ。リーダーのごど凄ぐ、尊敬じでいるっべ」

 普段は隠しているシャンケの口調も混じり、何を言っているのかわかりづらい。

「ぞりゃ怖ぐで、どうずればいいがわがんねぐで、目をぞらじじゃいまずげど。でも決じで嫌っでるわげじゃねぇっべ。オラを魔導師にじでぐれで、感謝じがねぇんでず。ありがどう、ございまずっべ」
「シャンケ、とりあえず落ち着きなさい」
「口にじないど伝わらないっで本当っべね。オラだげでなぐ、他の魔導師だっで、リーダーのごど、同じように思っでるばずっべ。ぞりゃ怒るどごえーし、だまに実験体にざぜられだりずるげども。げども、尊敬じでんのは嘘じゃねっべ。信じでぼじいっべ」
「わかりました。わかりましたからもう黙りなさい」

 これ以上シャンケの言葉を聞いていたくなくて、強制的に遮った。
 シャンケは素直に口を閉ざし、顔を袖で乱暴に拭いている。

「シャンケ。実験は中止しますので部屋の片づけをお願いします。それが終わったら清浄魔法をかけますので治癒魔法が使える貴金属も持ってきてください」
「えっ、先に魔法かけた方がいいんじゃないっぺか?」
「行って戻ってを繰り返した方が面倒でしょう。いいから言う通りにしなさい」

 それを聞いたシャンケは返事をして慌てて部屋を出ていった。
 もう皆が寝ている時間なのだから、騒がしくするのは如何かと思いますよ。

 吐き出した精液が貼り付いて気持ちが悪い。汗もべたついています。
 それでも貴金属を持ってきてもらうのを遅らせたのは、他に理由がありました。



「顔が、熱い」


 ああ、とても面映ゆい。直接敬意を向けられることが、こんなにも恥ずかしいとは。
 そしてそんなことも知らずに気持ちよさそうに眠っているクウガくんが、ただただ憎らしい。
 今日(既に日を跨いでいますが)は、何故こんなにも心が乱されるのでしょう。


 どうやら自分は、厄介な人物を引き取ったのかもしれません。
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