妄想女子のLOVEマーケット!

ひろろ

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スーパーマーケット

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「いらっしゃいませ。こんばんは」


サラダ油を陳列していた私は、お客様に気づいて、身体を引き挨拶をした。


「あ、こんばんは……」


若い男性客が小さく返して、通り過ぎて行った。


(名前は知らないけど、毎晩のようにご来店してくれる常連さん。

いつもカジュアルな服装で来るけど、背が高くて、ちょっとキリッとした感じの顔立ちで、仕事帰りの方かな?

歳は私と同じくらいかも……。

しかも、最近では私に挨拶を返してくれるようになった……。

もしや、これは、私に気がある?とか?
なんちゃて……。

はあ、最近、妄想ばっかしてる。

ホント、情け無い……)


 私、桂木 琴音 23歳。


スーパーマーケットまる川株式会社に就職した、社会人1年目。


グロサリーを担当している。


 うちのグロサリーは、冷蔵庫に入れない一般食品と冷ケースに入れる食品を扱うデイリーと雑貨、日用消耗品等が担当範囲だ。


只今、先輩社員の元で修行中。


 ようやく、この辺の地域色を理解し、発注も上手く回り始めて、気持ちに余裕が出てきたところ……。


 余裕が出てくると、ふと、心に湧いてくることがある。


……そういえば、この数年間 恋というものに縁が無かった!ということに気づいた。


 うちの会社は、圧倒的に男性社員が多いけど、実際は各店舗に散らばっているし。


本社にも滅多に行かないから、顔を合わせるのは いつも店舗の同じメンバーばかり。


 朝桜店の社員は、紅一点の私を含めて10名。


本来なら、ハーレム状態だ。


 だが、内訳は独身30過ぎのおじさん方と、年齢高めの既婚者方。


結構 新人に厳しく、いつもビシバシ鍛えられている。


 そして、大勢いるパートさんは女性のみ、夜間のバイトは、高校生中心の男子学生で恋愛対象外だ。


(プライベートに潤いが全く無いんだよねっ!

うっ!誰だ、こんな棚上にストックの500ペットボトルを並べたのは?

届きそうで、届かないじゃないのっ!

うーん、ダメかな?あっ!)


ダンッ!


指先でペットボトルを倒してしまって、転がった。


(わっ、落ちてくるっ!)


 咄嗟に、両手で頭を守る。


ガシッ。


「良かった!キャッチ成功!」


 そんな声に顔を上げると、さっきのお客様が500ペットボトルを片手で、受け止めてくれていたのだ。


「うわわ、お客様、申し訳ございません!ありがとうございました。

お怪我は、ございませんでしたか?」


「はい、大丈夫です。
当たらなくて良かったです」


そう言って、彼はそのペットボトルを私に渡し、レジへと向かって行った。


(やっぱ、妄想しちゃうよ……)

…………………

 それから数日が経ち、2月初めの凍えそうな夕方のこと。


「桂木さん」


 ポス室で、作業をしていた私の元へ、グロサリー担当 神子チーフと男性がやって来た。


「岩瀬 稜貴です。よろしくお願いします」


 なんと目の前に、あの常連さんがアルバイトとして現れた。


彼は、大学2年生だった……。


(名前は、イツキって言うんだね。
もうすぐ3年生にはなるけども、学生だったのかあ。

社会人と思っていたから、かなりショックだな。

年下だったのかぁ。残念……)


 神子チーフから、夜間バイトの学生さんの指導を任されているから、彼の作業も私が指示をすることになる。

…………………

「岩瀬さん、デイリーの平台にある商品を レギュラー冷ケースに戻して下さい。
私は、カップ麺の補充をしてから、ポス室に行って売価入力をします。

分からない事があったら、聞きに来て下さい」


 私は、つま先立ちをして、両手で棚上にあるストックのカップ麺の箱を、下ろしては棚に補充をしていた。


(あ、ちょっと、この箱、奥に行ってるじゃないのっ!これじゃ、取れないよっ)


「桂木さん、終わりました……。
これ取るんですか?はい、どうぞ」


 カップ麺の箱を渡してくれた彼は、爽やかな笑顔だった。


(うわっ、その笑顔が眩し過ぎ!
あなたは、学生!恋愛対象では無いんだから!ダメ、ダメ!ときめいたらダメ)


 あれから、彼が出勤する日は、心の中で呪文の様に唱えている。

…………………

 そんなある日のこと。


「はああ?
おいっ、カツラギ!桂木さんっ!

おい、おい、何してくれてんの?

このカップ麺だらけのカゴテナーは、何なんだよ?」


カゴテナー(鉄のカゴ台車)に入った、醤油味のカップ麺がトラックから、どんどん降ろされてくる。


「ふえぇぇー」 


人間、驚き過ぎると 言葉にならない声をあげるものだと実感する。


 これ?これは、もしかして、私がやらかした?


こんな見たことのない、大量のカップ麺箱……。


う、嘘でしょう?目眩がしてくる量だ。


「うわわ、神子チーフ、私がやってしまったんですかね?
あー、今、確認してきます!」


(もうもう、嘘でしょう?)


 ポス室のパソコンで、発注履歴を確認する。


(は……。紛れもなく犯人は私だ。
桁がひとつ多い……)


「神子チーフすみません、私の発注ミスでした」


「そりゃそうだろう!」


神子チーフは、呆れたように言った。


「自覚がありませんけど、指が勝手に……押したようです……。はぁぁ。

すみません、すみません!

ど、どうしましょう……」


 何十もの同じ箱を目の当たりにして、ただ一心に願う。


(これは、夢だ。夢であって!)


私は、現実逃避を試みる。


「おい、目をつぶるな!起きろ!

どうするって、売るしかないだろう!
取り敢えず、保管場所を作らないと……。

と言っても、他の商品も置かないとならないし……。

店長、どうしましょうか?」


(ぎゃあ、怖ーい店長の登場だぁ!
怒られるよー!お許し下さーい)


「どうするって?
こうなったら、今すぐ店内に運んで、売れる売価で売りなさい!

桂木さん、落ち込んでる場合ではないですね。

着荷してしまったからには、売って売って売りまくりますよ!

それで、どうしてもヤバそうなら、他店にヘルプを頼みますから!

でも、大丈夫!何とかしましょう。

君は、店内売り込み放送を頑張りなさい。

さあ、皆んなで、ピンチをチャンスに変えましょう!」


 店長は、私を叱ること無く、グロサリーのパートさんやバイトさんにも、声を掛けてくれた。


「はいっ!すみませんでした!
皆さん、ご協力をお願いします」


 私は奮起するも、すぐに落ち込んだ。


ポス室でポップを作成していても、大量にあるカップ麺を思うと、ため息ばかり出てしまう。


「桂木さん、大丈夫ですか?
俺、カップ麺がけっこう好きだし、毎日買いますよ。

その値段なら、きっと、すぐに売れると思います。

友達にも宣伝しておきますね」


「岩瀬さん、ありがとう。
宣伝、よろしくお願いします。

さて、売り込み方を考えてみますね」


 その後、神子チーフ、店長はじめ全従業員にも助けられ(購入してくれた)、何とか、ひと月くらいで完売することが出来た。


失敗して数日間は、社員達から「醤油味」と呼ばれたが、愛あるイジリにむしろ感謝したし、朝桜店が大好きになった。


 まる川 朝桜店、最高です!って思ってる。


 それなのに……。

………………

 異動が決まった。


特に『願い』は出していなかったのに。


「こんにちは 桂木さん、朝桜店に来て1年経ってないのに、もう異動なんだってね。
随分と早いじゃないの。

あっ、もしかしてチーフに?出世するとか?」


パートリーダー的存在、私と同じ部署のグロサリー担当、八重原さんが私に言ってきた。


(えっ?まだ告知前なのに、もう知ってる!早耳のおばちゃん、恐るべし!

出世だなんて、思っていないのはバレバレだし!

失敗して、飛ばされると思っているんでしょ?はーあ)


「はい、お店に慣れてきたところだったので、ちょっと残念です。

出世?まさか、まだありませんよ。
今度は、他店で修行しろって事みたいですね。はは……」


職場が気に入ってきたところで、異動をするのは、正直ショックだった。


何より、淡い想いが芽生え始めたところで、終了になるのは残念だ。


「桂木さん、南墨崎店に異動って聞きました。
何だか寂しくなります……。

そうだ!桂木さんに会いに、お店に行きますね。
俺のこと、覚えていて下さい」

…………………

 私は、この言葉を宝物にして、新しい職場へと移った。


 それからというもの、いつ彼が突然現れてもいいように、毎日、お化粧に力を入れていた。


「桂木さんは、若くて綺麗でいいね。
その肌、モチモチで羨ましいねえ」


などと、パートのおばさま達から言われ、喜んだりしていたけれど、待てど暮らせど、彼はやって来なかった。


(やっぱり、リップサービスだったのか。なーんだ、ガッカリだ)


 やがて月日は過ぎ去り、更に別の店舗へと異動になっていた。


 相変わらず、男っ気の無い、しかも、近頃では、お金を使う暇も無い生活になりつつある。


 干物の様な女になっているに違いない。

………………

「桂木、これ今月の社内報だ」


「あ、ありがとうございます。むこうざかチーフ!」


「お前、また俺をおちょくってるのか?
俺は、サキサカだ。向坂!
まったくお前は、態度が図太くなったな。
あー、ヤダヤダ」


現在の職場である麦星店の、向坂チーフから社内報を受け取った。


 向坂チーフって、まあ若い方で何気にイケメンなんだけど、レジのコと何かありそうだとか噂がある。


他のパートさんには優しいけど、私にはめちゃくちゃ厳しくて超不満だ。


 私は、ムカつきながらページをめくる。


「ああ、恒例の新入社員紹介か。
もう、そんな時期か。

今年は、どんな子たちが入って来たかな……」


 次のページをめくって、ドキッとした。


「えっ!まさか!
この写真って、あの岩瀬さん?ホントに?

うちの会社に入ったの?
嘘みたいな話し!何で、うちに?」


 軽いパニック状態になって、心の声を言葉にしていた。


「何でって、朝桜店でバイトをしている時から、入社希望でしたから」


休憩室に入って来た人物がそう言った。


「い、岩瀬さん!えっ、どうして?」


「桂木さん、こんにちは。
明日から、ここで研修をすることになったので、ご挨拶に来ました」


「……えっと、こんにちは。
び、びっくりした。
まさか、ここで会うなんて。

もう、会うことは無いかなって、諦めていたから……。あっ、いえ、何言ってんだろう」


(やだ、恥ずかしい事を口走っちゃった)


「やっと会えました。
俺、桂木さんに会いに南墨崎店に行ったんですよ。

でも、桂木さんはお休みだったらしいです。

元気そうですね、良かったです。

また、お世話になります」


「あ、はい、喜んで!
ふふふ、よろしくね」


 彼は、もう、学生では無い。


年下も恋愛対象に入れてみよう、と思う。


 これから、どんな生活が待っているのか、ドキドキ、ワクワクしてきちゃう。


 きっと、きっと、あなたと恋が始まっちゃて、そんで、向坂チーフが異動して新しいイケメンチーフがやって来て、私を取り合うとか?


やばい、妄想が止まらない。


「桂木さん?なんか顔がニヤけてますけど……。
思い出し笑いですか?
桂木さんって愉快な先輩で、一緒にいて楽しいです。

明日から、よろしくお願いします。
では、失礼します」


「は……い」


(あれ?愉快な先輩だって?

ちょっと気にかかるけど、私に逢いに来るほど、好きってことだよね?えへへ。

……って、そんなわけないか)


 私は、背の高い彼の後ろ姿に、黙って手を振った。

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