アンティーク影山の住人

ひろろ

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いらっしゃいませ

ドッキリ? ☆

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 美紗子が店主となって3日目の朝。


裏口のドアから、コソコソと店内に入る者がいた。


 そっと覗いた店内は、シャッターが閉められ暗く、 音を出しているのは振り子時計くらいで、その他はシーンとしていた。

 
 美紗子は胸を撫で下ろし、明かりをつけシャッターを開けてから再度、商品たちをぐるりと見て回る。


(何だぁ、店内はシーンとしているじゃないの。昨日、ルシェってが変な事を言ってたし、店の商品が喋るし……昨日は、信じちゃったけど、私が変だったのね。

あの麻木さんって人が狸と時計と柱と会話をしていたみたいだったけど、腹話術が出来る人なのかも!)


「ああ、もう!騙されちゃったわ!」


(でも、麻木さんが帰ってしまったら、ルシェって娘も居なくなっていたのよね……たまに、ここの手伝いをしているって言っていたけど、いきなり現れて消えてしまった変な娘……)


 考え事をしながら喫茶室の方に歩いて行くと、背後に人の気配を感じた。


 スッスッ……。


(ひぃ!これって振り向いたらいけないやつでしょ?幽霊?怖い!さっさっと喫茶室の方へ行こう……)


「ねえ、新米店主さん、わたくし達に挨拶をしないつもり?」


「ギャァ!」


 突然、声を掛けられ美紗子は飛び跳ねて驚き、振り向いた。


 そこに居たのは、昨日 会ったメイドの格好をしたルシェだった。



「あなた、ど、どこから入って来たの?
裏口ドアには鍵を掛けたし、入口はまだ開けていないのに……まさか、合鍵を持ってるの?」


 
「え?私はビスクドールに住んでいる妖精だって、昨日、言ったはずですわ!

新米店主のあなたと会話をするためには、人型に変身する方が手っ取り早いのよ。

でもね、変身って“ツボのたね”が必要でね……。無駄遣いをしているって、庄三郎さんに叱られてしまうのよねぇ」


 ルシェは、首にぶら下げて服の中にしまっていた、紐付き透明小袋を出し、中から小さな茶味オレンジ色系の物を取り出した。


「これがツボの種ですわ……」


 ルシェの手のひらに置いて見せた物を、美紗子は知っている物だと思った。


「ツボの種?これって、あのピリッと辛いカキの種でしょう?お酒のおつまみで食べるアレに見えるけど……そっくりなんだけど?」


 そう言う美紗子の鼻腔にほんのりとこうばしい醤油の香りが届いて確信する。


(この艶やかな醤油色と香り、それに独特の三日月形は、間違いなくカキの種だ!)


「やっぱりカキの種だわ!これを食べると人形が人になるって言うの?
私をだましても、何も得はないのに!はっ、ドッキリ?テレビ?」


 ドッキリ番組の仕掛けカメラがどこかにあるのかと、キョロキョロとする美紗子だった。


 ルシェは、溜息をつき仲間に言う。


「仕方がないわ。皆さん、こちらへ来て下さい」


 シーンとしている骨董品店内から三人が歩いてくるのがわかった。


「きゃあ!誰っ?も、もしかして、ご、強盗グループ?こ、ここには、ガラクタしかありません!お願いです、お願い他に行って下さい!」


 咄嗟とっさにテーブルの下に潜った美紗子が震えた声で懇願した。


 すると、でっぷりとしたお腹のお爺さんが怒る。


「この嫁は、またワシらをガラクタとぬかしたなっ!けしからんな!」

 
(ひぃ、強盗を怒らせてしまった……)

……………………

「もう、テーブルの下から出てきたら?
私達は、善良な妖精なのですから、心配はいりませんわ」

 ルシェの言葉に反応して美紗子は、恐る恐るテーブルから出る。


 そして、人型になった庄三郎とモロブとタム、そしてルシェから信じがたい話しを聞いたのだった。


「ふぅん、で、あなたがタヌ爺で、あなたが柱さんで、あなたがニンちゃんで、君が時計君ってことなのね?」


 あまりに突拍子のないことだから、馬鹿馬鹿しいと思い、美紗子は妖精たちに雑に聞いたのだ。


「何を言っておるのだ!もう一度言うぞ!ワシは、お前がタヌ爺と言っていた庄三郎だ」


「私は柱ではない、トーテムポールだ。勝手にあだ名で呼ばないでいただきたい!私の名はモロブだ!覚えておきなさい」


「僕は、確かに時計だけどね。タムっていう名前があるんだよ!」


 タムを含めた三人の男たちは、蛍光色の黄緑色の“ツナギの作業服”を着ている。


 三人は それぞれに反論してみたが、美紗子は気にせず自分の気になる事を聞く。


「妖精って言ったわね?妖精の姿は、私には見えないし、基本的には声も聞こえないって言ったわね?」


 美紗子は、頭の中を整理するため、いちいち妖精達に確認をする。


「そうですわ。私達は、骨董品の中に住む妖精……。この姿なら会話は簡単ですわ……。
ふぁぁ、眠いわ。昨夜、久しぶりに任務があったものだから、眠いのよ!
あ、私はルシェという名前ですわよ」


 美紗子は、ルシェの言う“任務”という言葉が気になったのだが、妖精たちは眠ると言って骨董品コーナーに戻って行く。


「あ、待って、任務って、何?何をしたの?ねえ、ちょっと……」


 「チェック イン!」


 四人がそれぞれに呟いて消えてしまい、聞こえてくるのは、振り子時計の音だけとなった。
 

(消えた……?もしかして、私、実は寝ているの?夢を見てる?何が何だかさっぱりわからない……)


 ビスクドールの前、信楽焼の狸の前、振り子時計の前、トーテムポールの前へと一巡した美紗子が皆に話しかける。


「ちょっと皆さん、もう一度、ここへと出現してくれない?もう少し、説明をしてほしいなぁ……」


〈ふぁぁ、新米さん、僕眠たい……。
おやすみなさい……〉


 そんなタムの声は、美紗子には聞こえてはいないのだった。


(変な店を引き受けちゃったのかも。
でもさぁ、この世の中に妖精だなんている?
やっぱり、いるわけないわよね?
すっごい壮大なテレビのドッキリ企画だったりして……素人を騙すヤツ。
だとしたら、騙された振りをしていれば、この店の宣伝になるかもしれない!)


「じゃあ、掃除を始めましょう」


(テレビで放映されるなら、綺麗な店内、真心サービスを心掛けないとね。
なんか、やる気が出てきたわよー!

今日もお客さんが来ますように!)

…………………

 
 張り切って店を開けたが、時間が経つばかりで、客は現れない。


 痺れを切らした美紗子は、様子を見に外へと出た。

通りの先に人がいることを確認し、急いで店内に戻る。


「あの人、ここに来るかな?来るといいな」


 美紗子は、ワクワクしながら厨房に入って行き、頭の中で注文のシミュレーションを始めていた。


 その時、店の自動ドアを偵察スズメが突いたから、ルシェが出迎え準備をする。


 店内外にBGMをかけ、窓際の照明をつけたのだ。


「あっ、また勝手に曲が流れた。あれ、昨日とは違う時間だけど?……嘘。

誰かがスイッチを入れたってこと?

まさか、本当に妖精がいるとか……?」


 チリン!


 自動ドアが開き、老女が一人、入ってきたのだった。

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