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進むべき道を探して
話せば長いのですが…… ☆
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プランツ国王子のカーソルとアンティーク影山の住人たちは、ある神社に来ていた。
その社務所の奥に神主家族が住むスペースがあり、そこにカーソルの友人がいたのだった。
カーソルの友人キートは、一同にこれまでの経緯を話している。
「……それで、次に欅を守る私の妹が来るのを待っていたんだ。早く来てって、待ちわびていたの。で、そんなある日の事。彼女が子どもを連れて山に上がって来て、私に言ったんだ」
「子ども?って、さっき、お風呂に行ったあの子の事なのか?」
カーソルが確認のために聞いた。
「え?あら、見たの?そうよ、涼音ちゃんっていうのぉ……ずぅぅ、コホン」
キートは、涙で自分の声が上擦ったことに気づき、鼻をすすって咳払いをしてから、再び話し始める。
…………………
「はあ、はあ、はあ、涼音、この木と、向こうの景色が、海がね、ママのお気に入りなの、はあ、はあ……」
「ママぁ、海って見えないよ。木ばっかりだよー!」
「あっ、そっか!そうだよね、ママも背伸びをして、やっと見えるんだものね、あー、じゃあ、抱っこしてあげようね……うっ、うぐ、よいしょっ……」
彼女は、子どもを抱えて持ち上げようと気合いを入れている。
〈わっ、大丈夫?ほら、この枝に乗せなさいよ!私のこの枝なら丈夫だから、ここに座らせなさいよ!ほら、頑張れ〉
子どもの手を繋ぎ、やっと上がって来た彼女には、抱っこはキツいように見えたから、声をかけてみた。
どうせ声は届かないから無駄だとは思ったが、なんと彼女は、子どもを持ち上げ太い枝に座らせたのだ。
「ケヤキさん、ごめんね。ちょっと座らせて!」
子どもを両手で支えながら、彼女が謝った。
〈はいはい、どうぞ。どう?景色は見えたかしら?〉
「涼音、遠くに海があるの、わかる?その奥に陸がみえるの、わかる?向こうにね、おばあちゃんとおじいちゃんが住んでいるんだよ」
「うん、ある!遠くの遠くだね!ふぅぅん、あそこにいるのかぁ。うちに遊びに来ないの?」
「あ、ママはね、喧嘩をしちゃったから……。でも、今度、ごめんなさいって言うね。涼音は、パパと喧嘩をしないでね。ずっとずっと仲良くするんだよ……約束できる?」
「うん、喧嘩はしないよっ!ママともずうっと仲良しするよっ!約束する」
「そっか……そうだね、仲良くしようね」
彼女は、そう言って子どもを降ろした。
〈あなたは、泣きたいのを必死で堪えているのね。そうよ、子どもの前で泣いたらダメだもの!我慢、我慢よ!〉
彼女は、我が子を抱きしめて言う。
「涼音、これから先ね、辛いことが、悲しいことがね、沢山、いっぱいいっぱいあると思うけど、挫けないでね。悲しいことに負けちゃダメだよ!」
「うん。どうしてそんな事を言うの?」
涼音は、キョトンとして聞いたが、彼女は誤魔化すように話しを続ける。
「これから先の事だから、ママの言った事を覚えていてほしいだけだよ。
それでね、もしも、寂しいなって思う事があったら、ここへおいで!このケヤキさんにしがみついちゃいな!ほら、この大木に触ってごらん」
彼女は、子どもの手を取り欅の幹に触れさせた。
「どう?温かい感じがするでしょう?ママは、このケヤキさんがママのお母さんって感じがするんだよ。大きくて安心するんだ」
彼女が笑いながら言うと、子どもも笑って答える。
「あはは、この木、あったかくないよー!この木がママのママなのぉ?おもしろーい!」
「あ、笑ったな!コラっ!ふふふ」
彼女は、冗談を言っているように話していたが、私には、彼女の願いがひしひしと伝わってきていた。
そして、神社へと戻る際に、真剣な目をして彼女が言う。
「ケヤキさん、どうかどうか夫と娘を支えて下さい。この神社を支えて下さい。よろしくお願いします」
…………………
「って、言われたから……」
キートの言葉を聞き終えた一同は、沈黙した。きっと、考えていることは同じだろう。
(お願いされたのに、土砂崩れに巻き込まれて、見晴台から無くなってしまったじゃないか!)
「……もう、カーソル、黙らないでよ!何で、倒れたんだよって!責めているんでしょう?私だってね、倒れないように踏ん張って、頑張っていたんだよっ!でも、足元が崩れて流れてしまったから、どうする事もできなかったの!」
憤慨したキートが言った時、ペタペタと足音が聞こえてきた。
〈しっ!子どもが来ますね〉
セロルが口に人差し指を立てて言った。
ガラガラガラッ。
「ふぅ。キイトちゃーん、喉が乾いたよ」
風呂上りの涼音が言うと、キートは裏声を使って話す。
「もう、いつも言っているけど、人に頼ってはダメですよ!出来ることは自分ですること!はい、コップ!自分で入れてね!」
「はーい、キイトちゃんのドケチ!あはは」
渋々、自分で水を用意している涼音を微笑んで、見守っているキートだった。
ただ、キートの微笑みは長くは続かなかった。
「 ! 」
〈えっ?今、あの子、何て言った?〉
その社務所の奥に神主家族が住むスペースがあり、そこにカーソルの友人がいたのだった。
カーソルの友人キートは、一同にこれまでの経緯を話している。
「……それで、次に欅を守る私の妹が来るのを待っていたんだ。早く来てって、待ちわびていたの。で、そんなある日の事。彼女が子どもを連れて山に上がって来て、私に言ったんだ」
「子ども?って、さっき、お風呂に行ったあの子の事なのか?」
カーソルが確認のために聞いた。
「え?あら、見たの?そうよ、涼音ちゃんっていうのぉ……ずぅぅ、コホン」
キートは、涙で自分の声が上擦ったことに気づき、鼻をすすって咳払いをしてから、再び話し始める。
…………………
「はあ、はあ、はあ、涼音、この木と、向こうの景色が、海がね、ママのお気に入りなの、はあ、はあ……」
「ママぁ、海って見えないよ。木ばっかりだよー!」
「あっ、そっか!そうだよね、ママも背伸びをして、やっと見えるんだものね、あー、じゃあ、抱っこしてあげようね……うっ、うぐ、よいしょっ……」
彼女は、子どもを抱えて持ち上げようと気合いを入れている。
〈わっ、大丈夫?ほら、この枝に乗せなさいよ!私のこの枝なら丈夫だから、ここに座らせなさいよ!ほら、頑張れ〉
子どもの手を繋ぎ、やっと上がって来た彼女には、抱っこはキツいように見えたから、声をかけてみた。
どうせ声は届かないから無駄だとは思ったが、なんと彼女は、子どもを持ち上げ太い枝に座らせたのだ。
「ケヤキさん、ごめんね。ちょっと座らせて!」
子どもを両手で支えながら、彼女が謝った。
〈はいはい、どうぞ。どう?景色は見えたかしら?〉
「涼音、遠くに海があるの、わかる?その奥に陸がみえるの、わかる?向こうにね、おばあちゃんとおじいちゃんが住んでいるんだよ」
「うん、ある!遠くの遠くだね!ふぅぅん、あそこにいるのかぁ。うちに遊びに来ないの?」
「あ、ママはね、喧嘩をしちゃったから……。でも、今度、ごめんなさいって言うね。涼音は、パパと喧嘩をしないでね。ずっとずっと仲良くするんだよ……約束できる?」
「うん、喧嘩はしないよっ!ママともずうっと仲良しするよっ!約束する」
「そっか……そうだね、仲良くしようね」
彼女は、そう言って子どもを降ろした。
〈あなたは、泣きたいのを必死で堪えているのね。そうよ、子どもの前で泣いたらダメだもの!我慢、我慢よ!〉
彼女は、我が子を抱きしめて言う。
「涼音、これから先ね、辛いことが、悲しいことがね、沢山、いっぱいいっぱいあると思うけど、挫けないでね。悲しいことに負けちゃダメだよ!」
「うん。どうしてそんな事を言うの?」
涼音は、キョトンとして聞いたが、彼女は誤魔化すように話しを続ける。
「これから先の事だから、ママの言った事を覚えていてほしいだけだよ。
それでね、もしも、寂しいなって思う事があったら、ここへおいで!このケヤキさんにしがみついちゃいな!ほら、この大木に触ってごらん」
彼女は、子どもの手を取り欅の幹に触れさせた。
「どう?温かい感じがするでしょう?ママは、このケヤキさんがママのお母さんって感じがするんだよ。大きくて安心するんだ」
彼女が笑いながら言うと、子どもも笑って答える。
「あはは、この木、あったかくないよー!この木がママのママなのぉ?おもしろーい!」
「あ、笑ったな!コラっ!ふふふ」
彼女は、冗談を言っているように話していたが、私には、彼女の願いがひしひしと伝わってきていた。
そして、神社へと戻る際に、真剣な目をして彼女が言う。
「ケヤキさん、どうかどうか夫と娘を支えて下さい。この神社を支えて下さい。よろしくお願いします」
…………………
「って、言われたから……」
キートの言葉を聞き終えた一同は、沈黙した。きっと、考えていることは同じだろう。
(お願いされたのに、土砂崩れに巻き込まれて、見晴台から無くなってしまったじゃないか!)
「……もう、カーソル、黙らないでよ!何で、倒れたんだよって!責めているんでしょう?私だってね、倒れないように踏ん張って、頑張っていたんだよっ!でも、足元が崩れて流れてしまったから、どうする事もできなかったの!」
憤慨したキートが言った時、ペタペタと足音が聞こえてきた。
〈しっ!子どもが来ますね〉
セロルが口に人差し指を立てて言った。
ガラガラガラッ。
「ふぅ。キイトちゃーん、喉が乾いたよ」
風呂上りの涼音が言うと、キートは裏声を使って話す。
「もう、いつも言っているけど、人に頼ってはダメですよ!出来ることは自分ですること!はい、コップ!自分で入れてね!」
「はーい、キイトちゃんのドケチ!あはは」
渋々、自分で水を用意している涼音を微笑んで、見守っているキートだった。
ただ、キートの微笑みは長くは続かなかった。
「 ! 」
〈えっ?今、あの子、何て言った?〉
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