アンティーク影山の住人

ひろろ

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いつまでも

パタパタして!

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「ちょっと行ってくるね!」
 

日の沈む頃、タムが出掛けた。


「今日は遊びに行っていたのに、また出掛けたのか、随分と頑張るじゃねえか。なあ、モロブ」


「そうですね、庄さん。それだけ本気なのでしょう。今日こそは、許可が下りるといいのですが」


 店内にいる庄三郎とモロブが話していると、タムを見送って中庭にいたセロルとルシェも話しながら、中へと戻ってきた。


「タム君、気合いが入っていたね。やる気の塊って感じだな」


 そんなタムを頼もしく思ったセロルが言うと、何の気無しにルシェが聞く。


「セロルは、何かしたい事がありますの?」


 ルシェの問いかけに、庄三郎やモロブも興味あり気な様子だ。


「あ、うん、全ては銀の茶器が売れない事には、何ともならないけれど、朧気おぼろげながらある。でも、ずっと先のことだろうから、秘密!」


 セロルが言うと、モロブは何度も頷き言う。


「そうなんだ!我々には、気がかりな物があるのだ!これがな、売れるという保証がどこにもないから困る!ルシェ、先の事なんて簡単に言えないのだよ」


庄三郎も頷く。


「やだ、ちょっと軽く聞いただけだわ。あっ、それよりもビックニュースよ!明後日、元店主が帰って来ますわ」

…………………

 そして、翌々日の午後。


 店の前で美紗子が待っているのは、元店主の義父だった。


 息子の車から降りた元店主は、営業をしているアンティーク影山の自動ドアから中へと入る。


チリン!
 

「店主、おかえりなさい!」


妖精全員が人型になり、満面の笑みで出迎えた。


「皆んな、ただいまー!元気だったかぁ?」


元店主と妖精達の感動のシーンなのだが、義父は美紗子にコソッと言う。


「美紗子さん、やはり秘密を知ったんだね……。しかも、皆んなを店員にしているようだし、あんた、なかなかシビアに稼ぐタイプだね。俺の見込んだ通りだ」


「え?そうですか?ほほほ……」


美紗子は、心の中で叫ぶ。


(褒められている気がしなーい!)


「おや?新しい店員さんかな?」


元店主がセロルに気づき、声を掛けた。


「初めまして、私はセロルと申します。留守中に仲間に入れさせて頂きました。これから、よろしくお願いします」


セロルが緊張気味に挨拶をすると、元店主は笑いながら、この店をよろしく頼むと言った。


「店主、店主!パタパタしてよ!僕ね、待ってたんだよ!じゃあ、振り子時計に戻るよ!久しぶりだから、ワクワクするなぁ」


「あっ、私も頼みます!」


タムに続いてモロブも言った。


「帰って来て、早々だぞ。まったくお前たち、そんなにパタパタがお気に入りだったのかぁ。よーし、早速やりますか」


 元店主は、そう言って収納庫扉を開けている。


「お義父さん、パタパタって何ですか?退院したばかりですから休んで下さい。
時計君、柱さん、それは後にしてあげてね」


 元店主は、小さな羽根ハタキを持って構える。


いよいよパタパタタイムらしい。


「ジャーン!お待ちかねのパタパタタイムじゃよー!さあ、さあ、一振り、二振り、パタパタすれば、ほこりは、飛んでく!三振り、四振りすれば、ほーら、綺麗!五振り、六振りすれば、お肌、ツヤツヤスベスベさ!はい、終わりだよん!」

元店主が歌いながら、振り子時計の埃を優しく払ってやっている。


 セロルは思う。


(これが、皆さんが言っていたパタパタ?とても気持ちがいい!と大絶賛をしていたものですか?何か想像と違ったみたいだ……)


 そして、衝撃を受けている人物がもう一人いた。


「お義父さん、これがパタパタ……。単なる掃除じゃないですか……」


 美紗子は、この光景を呆気に取られて見ていたのだった。
 

(え?妖精達って、コレが好きなの?コレが気持ちいいの?妖精達って、ただの変態だったのね……)


 美紗子に冷ややかな目で見られていることを知らず、元店主はノリノリでパタパタを続ける。


「はい、モロブの次は、庄三郎、庄……あれ?狸は?あれ、無いぞ?どうしたんだ?」


「あっ、アレは直ぐそこの居酒屋呑兵衛のんべえの入口に置いてありますぜ。もしかしたら、そこの人が買ってくれるかもしれないんすよ。店主、ワシもパタパタして欲しいなぁ。そこのテーブルに入るから、よろしく頼みますぜ」


庄三郎は、そう言って妖精姿になり、窓際にあるテーブルに入ったのだった。 


(あれ?庄三郎さんのキャラが少し変わっている!ちょっと、元店主に対しては、下手したてに出ているような……ふっ、何だか可愛いな)


 セロルがそんな事を思っていたら、元店主がルシェとセロルにもパタパタをしてやると言ったのだった。


ルシェは、喜んで新しい人形の中へと入り、セロルはカレーポットの中へと入ったのだった。


「君、どうしてカレーポットに居るんだ?ここの商品の中で、これを選ぶなんて不思議だけど、まあ、いいか。どうだ?パタパタは気持ちいいだろう?」


 元店主は、カレーポットを持ち上げて、撫でるようにパタパタしている。


〈ひぃ、くすぐったい、ひぃ、ひぃ、これは、たまらん、ひっひっ、もう、癖になるー!あっ?こういうことかぁ〉


 セロルは、悶絶しながらパタパタの気持ち良さに納得するのだった。


 チリン!


車をコインパーキングに止めて、元店主の息子、つまり美紗子の夫が店に入って来た。


「久しぶりにここに来たな。お客さんは……いないのか。はっ、お父さん、帰ってくるなり、掃除なんかしなくていいよ!もう、寝たら?」


「ああ、わかった、わかった。じゃあ、二階へ行くよ」


「美紗子も行って、親父の荷物を片付けてやってくれ。その間、俺が店番をしておくから」


 そう言って、息子はレジ台の椅子に座ったから、妖精達は人型にはならずにいた。

……………………


 庄三郎のいるテーブルの上に集まった妖精達は、話しをしている。


当然、息子には声も聞こえていないし、姿も見えてはいない。


〈せっかく店主が帰ってきたのに、今度は、ルシェちゃんがいなくなっちゃうね……〉


 タムが寂し気に言った。


〈ええ、もう少しここに留まりたいけれど、オールド国へと帰る日を随分と先延ばしにしてしまったから、もう帰らないといけないわ……〉


 残念そうなルシェと泣きそうなタムを見て、モロブが話す。


〈そう言うタムだって、いずれは国に戻るつもりで、今、オバーに弟子入り志願をしているだろう?
仲間がいなくなるのは寂しいが、致しかたがないことだ。我々が死ぬまで一緒という事は、あり得ない。どの道、別れはあるのものだ〉


 モロブの言葉を聞いたタムは、頷いて涙し、セロルも寂しいという気持ちにふたをした。


〈タム、泣くことはないわ。私、度々ここへと来るつもりでいるわよ。
それに、新しい修行者を派遣するようにノナカに伝えてあるから安心なさい〉


〈えっ、新しい人が来るの?やったぁ。男の子かな?女の子かな?楽しみ〉


泣いていたはずのタムは、ジャンプをして喜んだ。


〈おう、そうか!ルシェ、たまには気が利くじゃないか。ほんと言うとな、ワシもここを出て行くのが心配でな。モロブやセロルに店を押しつけて行く、みたいでな、気がかりだったんだ。そりゃあ良かったぞ〉


 庄三郎の言葉を聞いたセロルは、改めて仲間との別れを実感する。


〈そうか、そのうち庄三郎さんも出て行くんですよね……。うっかり忘れていました……そっか……ほんと、さみし……あっ、いえ、新しい人が来るんだし、これからもお店を盛り立てていきます。ねっ、モロブさん?〉


〈ああ、セロル、そうだとも。新しい修行者には、この店を守っていく妖精になるように、我々が育てていくんだ!
庄三郎さん、ルシェ、タム、心配しなくても大丈夫ですよ〉


〈おい、おい、ワシはまだ出て行けるか分からないぞ。タムだって、オバーと交渉中だからな。まだ、追い出さんでくれよ〉


 狸の置物が売れる前に、追い出されたらマズイと慌てて庄三郎が言ったのだった。


 それから、あっという間に時間は過ぎ、翌日となった。


「皆さん、おはようございます」


美紗子が骨董品コーナーへと入って、挨拶をした。


「美紗子さん、おはようございます」


「えっ!ニンちゃん、どうしたの?まだ開店前なのに、どうして人型になっているの?てか、全員、人型じゃないの!何、何、どうしたのよ?」


「やあ、皆んな、おはよう。美紗子さんも、おはよう!」


美紗子が驚いているところへ義父も現れたのだった。
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