冥界の仕事人

ひろろ

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第四章: 新人仕事人

ウォーターバーの花魁

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「おい、お嬢ちゃん!まだ、座れないのか?あれ、席が空いているじゃないか!早くしてくれ!足が痛いんだ」


 2番目に入って来た男が言った。


 ここは、第3の門にある緑札用ウォーターバーである。


 あおいは ひと通りの担当箇所を経験し今日は、ここの担当なのだった。


「お疲れのところ、すみません。順番で御案内致しますので、もう少しお待ち下さい」


 今日は割と空いていて、それほど待たせないで案内をしているのだが、少しでも待つのは嫌みたいだ。


「やっと、俺の番だな!


俺は、あそこの仕切りがある所がいいな。
座っていいんだろう?」

 
えっ?個室は、1つだけしか席が空いていない!
しかも、既に女性が3人座っている。
ドアが無くて丸見えの個室だけど、危険な男そうだから、それはダメでしょう。


「申し訳ございませんが、あちらの男性のテーブルで、相席をお願い致します」


 あおいは、言いなりにはならなかった。


「は?何だと?何処に座ろうと俺の勝手だろう?小娘は、黙ってろ」


男はそう怒鳴り、好きな席に座ってしまったのである。


店内は、一瞬 静まり返った。


 なんてムカつく男だ!


 あおいも個室の方へと行く。
相席のお客様に迷惑をかけるといけないと思ったからだ。


すると、目の前を遮る華やいだ人影が。


「いらっしゃいませぇ。
おしぼりを……。はぁい、お水をどうぞ」


 花魁おいらん姿のタマキ先輩が
 男性の前に水を置いた。


 わぁ先輩、胸が見えそうで見えない、色っぽい仕草!流石さすがです!


 因みにあおいはタマキのことを、先輩とかタマキ先輩と呼ぶようになっていたのである。


「へぇ、花魁のホステスか?
ここに来るまで、地獄を味わってきたけど、天国に着いたみたいだなー!」


「どうぞ、お飲み下さいませ。では、失礼致します……」


 えー、タマキ先輩!文句も言わないで行ってしまったー!


「おねーちゃん、もう、行っちゃたのか。

……まあ、ここに可愛い子ちゃんがいるから、いいか。

ねえ、あんた、随分若いんだね。
何で死んだんだ?事故か?自殺か?」


 男は、隣の席の若い女性に絡み、うつむく女性の顔を覗きこんだ。


若い女性は、困ったようにしている。


「すみません!他の人が待っていますから、早く飲んで下さい!」
  

 あおいは、堪らず言ってしまった。


「何だとぉ!生意気な女だなっ!
  俺を舐めやがって!」


男は、怒鳴ると同時にあおいの手首を掴み、殴ろとした。


その瞬間。


 ピン ポンと鳴った。


 赤鬼が走って来るのが見えた!


 でも、間に合わない!わっ、殴られちゃう!


「その手を離しなさい」


 しなやかな手が男のその手を叩き、あおいの手首は放たれた!


 男の殴ろうとした腕を 白い細腕がガシッと掴み、そのまま捻り上げた。


「いてて、いてーだろう!
おいっ!ねーちゃん、離せっ!このヤロー」


 男は反撃に出ようとする。


ガシッ!


そこへ走ってきた赤鬼が、無言で男を羽交い締めた。


「うちのスタッフに何をしてるんだい!
女に手を上げるなんざ、最低だね!

そんな奴は、アチキが許さないからねぇ!
とっとと、地獄に行っちまいな!
早く、連れてお行き」


 男は、赤鬼に連行された。


もちろん、減点となるのである。

 
店内から、どよめきと拍手が起こった。


何かの見世物だと勘違いをしているらしい。


他のスタッフ達は、一時的に動きがストップし、見守っていたが通常に戻る。


 タマキは、「お騒がせ致しました」と言って、色っぽくお辞儀をし、その場を収めたのだった。
 

「タマキ先輩!ありがとうございました!凄く、強いんですね」


「何とか助けようと思って、もう無我夢中だったんだから!

とにかく、あなたに怪我が無くて良かった。

まあ、あの男と違って、痛みを感じないかもしれないけど。
私の身体が勝手に動いちゃったんだよね」


「タマキ先輩、カッコいいです!」


「さあ、仕事に戻るでありんす」


 タマキ先輩は、花魁になったつもりでいるのだろうか?


 さっきの啖呵たんかは、花魁言葉ではなかったみたいだけど、タマキ先輩、素敵過ぎます!


 タマキは花魁の姿だが、下駄ではなく、スニーカーを履いていたから、俊敏な動きができたのだった。


  今日のあおいの衣装は、赤いチャイナドレスなのだが、タマキ先輩の前では、すっかり霞む衣装であることは、間違いないのである。


 やっぱ、例のサンバカーニバルの衣装くらい着ないとナンバーワンには、なれないかな?


今晩、衣装を借りて家で着てみよう!


 あおいは、いつの間にか自分がホステスになったつもりでいたのであった。
 
……………

 これを履いて……。


うっ、お尻に食い込む!


 オストリッチ宅の小部屋に、今まで機織はたおり機があったが、いつの間にか無くなり、代わりに滑り台と鏡が置いてある。


鏡は、あおいがオストリッチにリクエストしておいたのであった。


 この翼を背負って……。


鏡に映った姿は、想像していた通り、残念過ぎていた。

 
これは、着てはいけない物だ!


 この水着みたいな物は、洗濯しないとね。


リッチ君が帰って来る前に脱がなきゃ!


急げ!


 その時、ガタガタガタと音がした。


「わっ!鳥?お姉ちゃん、鳥人間だったの?黄色の鳥?ひよこ?

僕の仲間なの?知らなかった……」


 えー!


 何でそう思えるんだろう?


この姿をセクシーとか思う前に、鳥人間って、思っちゃうのかい?がっかりだ!
 

 そんな2人の姿を窓から、そっと覗く者が1名いるのであった。


 可愛いオストリッチが楽しく滑り台で遊ぶ姿を見に来たのだが……。


 これは、本物の覗き!になってしまったではないか!


2人に見つかったら、私の威厳は無くなる……そっと、立ち去ろう。


 ああ、見たくもない物を見てしまった!


あおい君は、なんという格好をしていたんだ!


ほとんど裸で、黄色い羽根つけて、あんな破廉恥な服は、けしからん!


  女性は、白い着物に黒い帯という姿が美しいのだよ。


これは、単に秦広王の好みなのだ。


 あおい君は、このまま第3の門にいて大丈夫なのであろうか?


あおいの今後が心配になってきた秦広王なのであった。

 
 そして、所長室に戻り、どこかへ電話をかける。


「もしもし、秦広王である……」

 
 その頃、あおいは次に着る服を、どうしようか と考えていた。


 今度は、何にしようかな?


 そうだ!テニスウェアなんて、どうかな?


 タマキ先輩に相談してみよう!

   
「お姉ちゃん、翼を背負っているだけだったのですか?

どうして、翼を背負っていたのですか?」


 あおいが鳥ではなかった事に、がっかりとして聞いてみたが、ふと思う。


 あっ!


もしかして、鳥の僕って、お姉ちゃんに憧れられていて、僕のような鳥に、なってみたかったのかな?
 

 ぐふふふ、いやーぁ、照れちゃうなぁ!


 とにかく脳天気な2人なのであった。
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