冥界の仕事人

ひろろ

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番外編

オストリッチと秦広王との出会い ☆

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 ブルッ。


 春とはいえ、まだまだ、ここは寒いな。


 死者の国である冥界めいかいは、いつでも、ちょうど良い気温だから、寒さが身にしみる。


  北の大地に降り立った、黒い法服を着ている男が、湿地帯を歩き出した。


 水辺には、鶴の群れがいて、餌をついばんでいる者や大きな翼を広げている者もいる。


 枯れ草のある地面では、群れから離れ子育てをしている つがいの姿や、交代して卵を温めている つがいの姿が見える。

 
「やはり、鶴は美しい。

 なんて優雅な姿なのであろう。

 それに、仲の良い夫婦、家族。

 実に感動的である」


 湿地帯の周囲には柵があり、その外側に人間たちがいて、カメラを構えている。

 
鶴が飛び立つと、あちこちからシャッター音が聞こえてくる。


彼らも鶴の魅力に惹きつけられているのであろう。


 その気持ちは、よくわかるのである。


  鶴をこよなく愛する この男は、冥界の第1の門の所長で、裁判官をしている秦広王しんこうおうである。

 
 死者達は、冥界に到着して、改札口を通り長い旅に出る。


大抵の死者達は、第1の門から第7の門までの間を旅するのだ。


 死者達がまず 目指すのが、第1の門なのである。

 
 第1の門は、冥界でも1、2を争う忙しい場所で秦広王は、休日というのが年に1度くらいしかない。


 貴重な休日を、私はここで過ごしているのだ。
 

 何故、こんなに鶴を愛しているのかは、自分でも分からない。


ただ、優雅に翼を広げ飛ぶ様が自由で、格好いいと思っているのかもしれない。


 私は、鶴の家族の近くにそっと近づいた。


 私の姿は、人間には見えないが、鶴には見えているかもしれない。


 細心の注意を払い、寄って行く。


 そこには、生まれたばかりの雛がいて、巣の傍らには、2羽分の卵の殻が転がっていた。


 1羽は、座っている親の背中の上に乗っていたが、もう1羽は、枯れ草の影で倒れていたのだ。


 もう、助からないのであろうか。


  生まれたての雛は、身体が小さく、淡い茶色の羽毛で覆われて、足がまだ短い。


 知らない人が見たら、鶴と言っても信じたりはしないだろう。


 雛鳥の側にかがみ込んで、様子を診たが、もう助けることは無理だと知る。


 秦広王は、その倒れている雛鳥を、優しく両手で抱き上げた。
 

「やっと殻を割って出てきたのに、それだけで、力尽きてしまったのか……。

これから、楽しい事もあっただろうに……。

どうだ、私と一緒に来るか?」


 秦広王がそう言うと、雛鳥はゆっくりと目を開け、頷き、優しい両手に包まれ、息を引き取った。

………………
 
 秦広王も瞬間移動ができる。


 こちらは、物を使わず念じただけで移動が出来るのである。


 秦広王と雛は、青い屋根で外壁が白の洋館のテラスにいる。


秦広王の自宅である。


「雛鳥よ。起きたまえ」


 秦広王はそう言って、雛鳥に優しく息を吹きかけた。


 すると、雛鳥の両翼の先に、3本ずつ指が出てきたのだ。

 
 秦広王は、神の化身なのか、それとも魔法使いなのか、自分の分身まで出せる不思議な力を持った裁判官なのだった。


 その秦広王が見守る中、雛鳥はゆっくりと瞼を開け、欠伸をするかのようにくちばしも開けた。


「どうした?何か言いたいのか?
君は、話すことも出来るようになっているのである。

さあ、話たまえ」


 おぉ、つぶらな目が可愛いじゃないか。


 秦広王は、心の中で悶えていたのである。


 つぶらな瞳で秦広王を見つめ、雛鳥が言う。


 「ママ……ママ……」


 えっ、私を親鳥と勘違いしているのか?


 くっ、何と可愛い子だろう!


 あぁ、ムギュとしたいが、この子が潰れてしまうから、落ち着けー!


 落ち着けー、自分!


「おっほん、私は君のママではない。
だが、今日から親がわりである。

私は、君を立派に育てると約束しよう。

私の名前は、秦広王である。

よろしく、雛くん」


 秦広王をじっと見つめる雛鳥。
 

「パパ……パパ…」

 
 えっ、パパだって!なんていい響きだ!


 いやいや、他の者達の手前それはダメだな!

 
「私のことは、しんこうおうさま と呼びたまえ」


「ちんこうおうしゃま?ちんこうおうじゃま?」


「……」


 幼いからまだ無理か……。


「せんせい と呼んでみたまえ」


「しぇんしぇい」
 
  
 あー、可愛いなぁ。そう呼んでくれ。


 名前は、何てつけようか?


 既に先輩鶴たちがいるから、名前がかぶらないように気をつけねば。
 
 
 そうして、秦広王は雛鳥をじっくりと観察する。

 
 雛くんは、ダチョウに少し似ているかな?


 ダチョウは、オーストリッチと言うが、言いにくいから、オストリッチにしよう!


「君の名前は、オストリッチに決めた。

 どうだね、よろしいか?」

 
 雛鳥は首を傾げたが、ひと呼吸置いて、頷いた。


「オストリッチ、暫くは私の側にいたまえ。よろしいか」


 その後、オストリッチは秦広王に連れられて、洋館の前にある小さな小さな川に行った。

 
「この水は、美味しいのだよ。

ほら、飲んでみたまえ」


 そう言って、手ですくった水を、嘴のところまで運び、飲ませたのだった。


「しぇんしぇい、おいちー」


 その姿を見て、とても満ち足りた気分の秦広王なのであった。


 次の日から、所長室にオストリッチを連れて行き、色々な事を教えたのである。


 忙しい合間に、本の読み聞かせをすることもあるのだった。


 そう、それは所長室にある あの本。
 例の鶴が恩を返すという あの話しだ。

 
「しぇんしぇい、もっとご本読んで」


  つぶらな瞳をキラキラさせて言われると、なんでも言う事をきいてあげたくなってしまう……。


 他の鶴たちがずるいと言い出しているから、程々にしないとな。


 努めて厳しくしよう……たまには……。


 数ヶ月が過ぎ。


 水ばかり飲まされているオストリッチだったが、成長した。


 今では、先輩鶴のスワンの元で道先案内人の修行をしているのである……。


 ……が、名前を覚えられないという壁にぶち当たっている。


 しかし、それを自分でメモをする事で乗り越えようとしているのである。


 頑張れ、オストリッチ!


 私は、君のママであり、パパである。


 私は、君の応援者であることを忘れないでくれたまえ!

 ……………

 この後、オストリッチは猛勉強をした。


 スワンからの指導を受け、やっと道先案内人としての許可をもらったのである。


 さあ、いよいよ 独り立ちの時だ!


「先生、道先案内人の初仕事に行ってきます」


 書類に目を通していた秦広王は、読むのをやめて、オストリッチに向き合った。


「オストリッチ、しっかり任務を遂行してきたまえよ。

ご褒美シールが集まれば、何でも1つ願いを叶えてあげるからな。

取り敢えずは、迎えに行き、ここに連れて来るのだよ。

さあ、行ってきたまえ」


 こうして、あおいを迎えに行くのであった。

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