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ある日 森の中 くまさんと
チキントマトシチュー
しおりを挟む日曜日は大変だった。
あの段ボールの中身は全部適当に詰められていたものだった。着替えが入った段ボールはとても綺麗に畳まれていたのに、他の段ボールはもう、全てぐっちゃぐちゃ。ゴミも一緒に入っていた。どうやら向こうにいた時の同じ寮の友達が着替えだけはやってくれていたらしく、あとは自分でやれ、と言われて、やったらしい。
家事力は一切無いらしい。
土曜の夜、洗ってくれた皿ももう一回日曜の朝洗う羽目になった。もう、ご飯は落ちてないわ、洗剤は落ちてないわで…割ってないだけマシかと思い直した。
そして今日は月曜で、只今の時刻、AM10時。
はぁ…
今日はサイの初登校日。
朝は途中まで電車一緒だったが、俺は一駅早く降りた。
一緒に学校までは着いて行く気だったが、サイは一人で大丈夫らしい。
いつものヘラヘラ顔で手を振って行きやがった。
まぁ、サイは陽キャっぽいし、大丈夫だろうが、万が一ってことも考えられる
外国人ってだけでイジメられないだろうか。
仲間に入れて貰えないなど、ないだろうか。
一応、5年振りだし、まだ三日しか一緒に過ごしていないが、やはり甥っ子だ。身内なのだ。
「だ、大丈夫ですか?…向田(こうだ)先輩、なんかそわそわしてません?」
声をかけてきたのは昨年、新卒で入ってきた小枝 琉偉(コエダ ルイ)。23歳。もっさりヘアが特徴だ。あ、そういえば会った時のサイと同じ髪型。真っ白な肌に血色の悪い唇、ほっぺたにはそばかす。前髪は上に整えられて目が見える日と、そのままもっさり前に来てて目が見えない日があり、今日は後者の様だ。(そういえば言ってなかったが、俺のフルネームは向田 駿)
「…ほら、金曜日に呑んだ時、話したろ?土曜日に甥っ子が来たんだよ」
「あぁ、向田先輩が最近よく言う天使!」
「そ。まぁ、天使じゃなかったんだけど。くまだった。」
「くま?…で、その天…じゃなくて、くまさんが関係してるんです?そのそわそわ。」
首を傾げていた琉偉だったが、無理矢理納得した様子で隣に座りながら聞いてきた。そこは琉偉の席ではないが、聞くよ?という事だろう。、
「今日、初登校日なのよー。だいぶ陽よりの陽だから大丈夫だと思うけどよ、俺、叔父だし、心配なわけー」
天井を仰ぎながらはぁーと溜息ついていれば、ほっぺたに暖かな感触が。琉偉を見れば、俺の頬を指でつついていた。
「わっかんないんですけど、大丈夫ですよ、きっと。それより、そろそろ仕事に専念してもらわないと。部長にまーた怒られますよ?」
琉偉はそんな事か、とばかりに淡々と大丈夫と述べ、席を立ってポンポンと肩を叩いて遠くの席へと行ってしまった。
まぁ、確かに今は仕事中だ。部長の雷をまた受けると今度こそ別部署に移動になりかねない。
俺は遠い席の琉偉に口パクでありがと、と伝えて、それからは琉偉の言う通り仕事に専念した。
琉偉は細いし、弱そうだし、一見大人しそうな外見をしているが、はっきり物を言うし、全然物怖じせず、年下だが、発言が一々説得力がある。結構この部署にいる人たちはみんな琉偉の言葉に助けられている。実は凄いやつだ。
昼時間になり、俺は伸びをする。いくらまだ20代前半とはいえ長く座ってデスクワークは肩が凝る。おまけに、これはゲームのしすぎだが、少し猫背気味だ。いずれ矯正しないといけないと思いながら、時間だけが経っている。
「向田先輩、昼行きましょー」
「あ、琉偉、お疲れー。行くかー」
琉偉が向こうの遠い席から小走りで来ながら俺に声をかける。可愛い出来た後輩をもったものだ、うんうん。
俺の昼は大体琉偉と一緒だ。俺と琉偉がペアで営業周りを任されているという事もあるが、実は家が一緒だ。琉偉は俺の部屋の上に住んでいる。14階。
友達の少ない俺にとって、唯一の親友になり得る人でもある。それぐらい心を許している。
「僕はトンカツにします。」
「じゃあ俺は親子丼にしよーっと。…すいませーん」
昼はここの定食屋によく来る。安いが、美味いし、量が多い。質と量が取れる所は中々無い。
店員を呼び注文をした後、料理が来るまでの待ち時間はスマホを起動し、ゲームだ。イェーア!
「琉偉、お前、どこまで進んだ?」
スマホを横持ちにしながら、同じくゲームを起動している向かいに座る琉偉に聞く。
「だいぶ進めましたよ。もしかしたら、先輩と一緒ぐらいかも。」
琉偉はゲーム友達でもある。本当に驚いた。このスマホのゲームは結構人気で、キャラのグッズが出ては即売り切れになる程。
実は最初の出会いは会社ではない。
キャラのグッズの即売会が仕事場近くであり、並んでいたら、前の列の方に琉偉を見つけたのだ。それで今じゃあだいぶ仲良しだ。
昼は心身共にとても充実した時間を過ごし、会社に戻ってからは自分の仕事をこなしていった。
家への帰り道、やはり少しサイの事が気がかりになり、電話賭けようかと、スマホを取り出そうとしていれば、軽快な初期設定の音でスマホが鳴った。
画面を見ると、サイだった。
「…サイ、どうかしたか?」
『あ、駿兄ちゃん、まだ仕事中ー?』
急いで出たら、間延びした低い美声が耳元を占領する。…俺にもその美声を寄越せ。女の子が聞いたら腰から崩れ落ちるのではないだろうか。
「いや、帰り道ー。」
『あ、そうなんだぁ。お疲れ様です。…あのさ、友達がバンドやってるんだけど、それ見に来てて、ちょっと帰り遅くなるかもー。いいかな?』
「…あぁ、全然いいよ。夕飯は?」
どうやら友達が出来たようだ。心配はご無用って訳か。
『夕飯…一応、源ちゃん…友達とも食べるんだけど、すぐお腹空くから僕の分も作っといて?お願いします』
"げんちゃん"という名前も聞けて満足だ。もうあだ名で呼んでいるのか。楽しそうなのが声色から伝わる。隣に友達も居るのだろうか。
というか、やっぱり良い子。ちゃんと電話で報告して、お願いしますって…。セフレ発言には驚いたが、それ以外は本当良い子だ。
「分かった。22時までには帰ってこいよ?」
『はーい。じゃねー。』
サイが切ったのを確認してからスマホをポケットに仕舞う。
スーパーへと寄って今日の夕飯の食材やら足りない日用品等を買って、家へ帰ると、風呂を沸かしている間に夕飯を作る。今日の夕飯はチキントマトシチュー。中々に手間はかかるが、手間がかかった分、美味しさは増す一品だ。
料理は全く高校卒業するまでした事が無かった。家にお手伝いさんが居て、料理してくれるのが普通だった為だ。
高校を卒業し、大学に行きながら、父の仕事を手伝い、いずれは、父の会社を継ぐ筈だった。
が、俺は父の仕事を甘く見ていた。
目まぐるしく回っていく仕事の数々に俺は、まだただの手伝いながらに、参っていた。
そして、普通が良いなぁと思うようになっていた。
姉はその時海外にいたし、俺がきょうだいの中で唯一の男で継ぐのは俺しかいないと勝手に思い込んでいたのもある。
だが実際はちょろっと、普通が良い、と漏らしたら、父はそうか、と了承をしてくれたのだ。
100で反対されると思っていたから、なんだか拍子抜けしたのを覚えている。
それからは早かった。俺は大学に通いながら、したかったコンビニのバイトをし、大学に近いアパートを借り、自炊というのもやってみた。最初は勿論、色々とうまく行かなかったが、好きこそ物の上手なれ、という言葉があるが、本当にそれであっという間に身に染み付いてきて、楽しく一人暮らしを今までやれてきている。
そして、チキントマトシチューは完成し、風呂へと入り、ゆっくりと湯船に浸かった後、楽しみにしていたチキントマトシチューを食べる。
「いや~うまっ!!ガチうまっ!」
自分で作った料理は本当に美味い。今では凄い舌鼓を打てる程になっているが(謙遜無し)、初めて作ったのは塩おにぎりだった。今考えると笑えるが、あの頃は何も分からなかった。塩をめちゃくちゃ大量にかけてしまい、食べるとじゃじゃりするし、それはもう辛くて辛くて胃炎になった程…。あれからもう5年。懐かしい。
一人感傷に浸りながら平らげ、満足の腹をさする。
げぷっ…
満足、満足。
よし、この後は憩いのゲームー!!!!
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