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第3話「俺の「モテスキル」、チートすぎる件」
しおりを挟む夕暮れ時、ハーレム・ヒルズは村中の人々で賑わっていた。男女問わず老若が集まり、宿の中は活気に満ちている。テーブルには地元の料理や酒が並び、即席のステージでは村人たちが楽器を奏でていた。
「結構な人数だね」と俺は言った。
「月に一度のお祭りみたいなものだから」ルナが答える。彼女は今夜、普段とは違う服装をしていた。淡い青色のワンピースに、首元には小さな花の飾り。髪も丁寧に編み込まれている。
「似合ってるよ」と俺が言うと、ルナは頬を赤らめた。
「ありがとう…遼も素敵よ」
俺はガロウから借りた上質な茶色の上着を着ていた。普段着よりも少しフォーマルな印象だ。
『スキル「第一印象ブースト」がパーティー環境で効果増幅中。モテ係数×1.5』
頭の中にこんな表示が出る。モテ係数まで計算されるとは。
宿の中央に立っていたマリアが俺たちに気づいて手を振った。彼女も派手な赤いドレスで着飾っていた。
「遼くん!ルナちゃん!来てくれたのね」
マリアは人混みを抜けて近づくと、俺の腕を取った。
「村の皆さん!」彼女は声を上げた。「特別なゲストを紹介するわ。藤原遼くん。昨日森で見つかった謎の青年よ」
突然の紹介に、俺は少し戸惑った。村人たちの視線が一斉に俺に向けられる。
「あ、どうも…藤原遼です」
簡単に挨拶すると、村人たちから歓迎の声や拍手が起こった。
「遼くん、今夜は楽しんでね」マリアが俺の耳元で囁いた。「それと…後で個人的にお話ししたいことがあるの」
彼女のウインクに、ルナが不満そうな表情をしたのが見えた。
『ハーレム形成警告:女性間の緊張が検出されました。バランス調整が必要です』
ハーレム形成?バランス調整?スキルがかなり先走っている気がするが…確かに女性たちの間で微妙な空気が流れている。ここは新たなスキルの出番かもしれない。
(「初級ナンパ術」を使用)
『初級ナンパ術発動中。対象を選択してください』
ここでは「ナンパ」という言葉は適切ではないかもしれないが、さっそく活用してみよう。まずは場の雰囲気を和らげるため、両方に対して使う。
「マリアさん、今夜のパーティー素敵ですね。こんなに賑やかな宿を経営されているなんて、さすがです」
マリアは嬉しそうに微笑んだ。
「それと、ルナ」俺はルナの方を向いた。「今夜は特別美しいよ。その青いドレス、髪の色と瞳に完璧に合ってる」
ルナの表情が明るくなり、緊張が解けていくのを感じた。
『複数対象へのナンパ術成功。ハーレムバランス調整+10%』
ハーレムがまだ存在していないのに、バランス調整とはこれいかに。
宴会が進み、村人たちとの会話も弾んでいった。おかげで村の情報もたくさん得られた。
ラステル村は王国の東端にあり、普段は平穏だが、最近は隣国からの緊張も高まっているという。グランツェル王国と隣国のレヴァンティア帝国は長年敵対関係にあり、国境付近では時折小競り合いが起きるらしい。
「レヴァンティア帝国は魔法技術が発達していて、軍事力も強大なんだ」と、村の元兵士だという老人が教えてくれた。「グランツェル王国は資源と人情で勝負している国だがな」
興味深い情報だ。もしこの世界で長く生きていくなら、こうした国際情勢も知っておく必要がある。
宴会の途中、マリアが再び俺に近づいてきた。
「遼くん、ちょっと来てくれる?少し話したいことがあるの」
彼女は俺を宿の奥にある小さな事務所へ案内した。
「実は昨日、王都からの使者が来たのよ」マリアは真剣な表情で言った。「来週、この村に王族の一行が立ち寄るらしいの」
「王族?」
「ええ。王女様と護衛の騎士団よ。国境視察の途中でね」
「それは大変そうですね」
「そうなの。でも問題は…」マリアは少し困った表情になった。「王女様は気難しいことで有名なの。どこの村に行っても文句ばかりで、村長たちを困らせているらしいわ」
「それで、私に何か?」
「遼くんは人当たりがいいでしょ?村の人たちもすぐに懐いたし…」マリアは俺の腕に手を置いた。「王女様の応対を手伝ってくれないかしら?」
これは意外な展開だ。
「でも、僕はこの世界のことをあまり知らないですし…」
「だからこそよ!よそ者だから気にせず話せるじゃない。それに…」マリアは声を潜めた。「噂では王女様、イケメンに弱いんですって」
俺は思わず笑ってしまった。「僕がイケメン?」
「そうよ。鏡見なさいよ」
俺は部屋の隅にある鏡を覗き込んだ。そこに映っていたのは…確かに悪くない容姿の男だった。現世の自分よりも引き締まって見える。これも異世界効果なのか?
『異世界補正:あなたの外見は現世と比較して15%向上しています』
なるほど。顔が変わったわけじゃないが、異世界では少し魅力的に見えるらしい。
「まあ、できる範囲で協力します」
「ありがとう!」マリアは飛び上がって喜んだ。「これで村長も安心するわ」
事務所から戻ると、ルナが心配そうに待っていた。
「何の話だったの?」
俺はマリアから聞いた王女の訪問について話した。
「王女様が来るの?」ルナは驚いた様子だった。「フィリア王女のこと?」
「名前までは聞いてないけど」
「フィリア王女なら間違いないわ。王国で一番の美人だけど、気性が激しいって有名よ」
「君は会ったことあるの?」
「ないけど、噂はよく聞くわ」ルナは少し不安そうに付け加えた。「遼、本当に王女の応対をするの?」
「マリアさんに頼まれたからね。それに…」
その時、宴会場で騒ぎが起きた。振り返ると、酔った男性が若い女性に絡んでいるようだった。
「やめてよ!」女性が抗議する声が聞こえる。
「何も悪いことしないって。ちょっと一緒に飲もうぜ」男は女性の腕を掴んでいた。
周囲の人々は気まずそうに見ているが、誰も介入しようとしない。
「行こう」俺は反射的に言った。
それは俺の気質かもしれないし、「実用恋愛スキル」の効果かもしれない。どちらにせよ、傍観はできない。
男に近づくと、俺は優しくだが毅然とした声で言った。
「お兄さん、もう十分楽しんだんじゃないかな?」
酔った男は俺を上から下まで見た。「お前誰だ?邪魔すんな」
ここで「会話の主導権」と「ボディランゲージ・マスター」を同時発動。
『複合スキル発動。対人交渉力上昇中』
「今夜は楽しい宴会なんだから、みんなで気持ちよく過ごしたいよね」俺は笑顔を絶やさず、でも芯のある声で言った。「それに、彼女を困らせるのは紳士的じゃないよ。この村の素敵な女性たちが見てるぞ」
最後の一言で、男は周囲を見回した。確かに村の女性たちが不満そうな目で彼を見ている。
「ちっ…」男は女性の腕を放した。「飲みすぎただけだよ。悪かったな」
彼は不機嫌そうに別のテーブルへ移動した。
「ありがとうございます」助けられた女性が俺にお礼を言った。
「気にしないで。大丈夫?」
彼女は頷いた。「はい。サラと言います。遼さんですよね?村で噂になってました」
宴会は再び和やかな雰囲気に戻った。この小さな騒動のおかげで、村人たちの俺への信頼度が上がったようだ。
『コミュニティ好感度上昇。村全体の信頼+25%』
この調子で村に馴染めるかもしれない。そして王女の応対もうまくいけば…
宴会の後半、マリアが再び登場し、今度は即席のダンスタイムを始めた。
「さあ、みんな踊りましょう!」
村人たちがペアになって踊り始める中、ルナが俺の隣で少し緊張した様子だった。
(「ボディランゲージ・マスター」を使用)
ルナの表情と仕草から、彼女が踊りたいけど言い出せないのが分かった。
「ルナ、踊らない?」
彼女は少し驚いた顔をしたが、嬉しそうに頷いた。「うん…でも、上手じゃないよ」
「僕もだよ。一緒に下手くそになろう」
ルナは笑った。俺たちがダンスフロアに出ると、マリアが意味ありげな笑顔を浮かべていた。
ダンスは地球のものとは少し違ったが、基本的なステップは似ている。手を取り合って回ったり、パートナーをエスコートしたり。
『スキル「初級ダンス術」が習得可能になりました』
(使用する)
すると、体が自然とリズムに乗り始めた。完璧ではないが、それなりに見栄えのする動きができる。
「遼、意外と上手いじゃない」ルナが驚いた様子で言った。
「君があまりにも美しいから、引き立てられてるだけだよ」
『スキル「洗練された褒め言葉」発動。効果:ルナの好感度+5。現在の好感度:85/100』
ルナの頬が赤く染まった。
ダンスの後、汗ばんだ二人は宿の外に出て、夜風に当たることにした。
村の広場から見える夜空には、地球では見られない星座が輝いていた。二つの月—一つは青く、もう一つは赤みがかっている—が空を照らしている。
「きれいだね」
「うん…」ルナも空を見上げた。「遼の国にも、こんな星空はあるの?」
「いや、これほど美しい星空は見たことがないよ」
正直な気持ちだった。現代の日本では、これほど鮮明な星空は簡単に見られない。
「遼」ルナが真剣な表情で言った。「これからどうするつもり?記憶を取り戻して、元の世界に帰るの?」
これは難しい質問だ。俺は本当に記憶喪失ではなく、異世界から来た人間だ。でも、それを正直に話すべきだろうか?
『恋愛スキル「誠実な半真実」が習得可能になりました』
(使用する)
「正直、分からないんだ」俺は静かに言った。「記憶が完全に戻るかも不明だし…でも、もし選べるなら、ここでの新しい人生も悪くないと思ってる」
これは嘘ではない。現世に戻るつもりはあまりないのだから。
「そう…」ルナは少し安心したように見えた。「遼がこの村にいてくれると嬉しい」
「ありがとう」
その時、宿の中から急に歓声が上がった。
「何かあったのかな?」
宿に戻ると、村長らしき男性がマリアと話していた。
「マリア、本当に王女様がここに?大変だ、準備をしなくては」
「だから言ったでしょ?でも大丈夫よ。遼くんが協力してくれるわ」
マリアに名前を呼ばれて、村長が俺の方を振り向いた。
「君が藤原遼くんか。噂は聞いていたよ」村長は俺の手を握った。「ガロウの家に滞在しているとか」
「はい、お世話になっています」
「王女様の応対を手伝ってくれるそうだね。助かるよ」
村長はかなり緊張した様子だった。王女の訪問がそれほど大事なのか、それとも王女自身が難しい相手なのか。
「村長」俺は思いついたように言った。「もし良ければ、王女様についてもっと詳しく教えていただけますか?応対の参考にしたいので」
「そうだな…」村長は考え込んだ。「フィリア王女は美しいが気難しい方だ。特に男性に対しては厳しい。過去に何人もの求婚者を拒絶してきたと聞く」
「なるほど」
「でも、芸術や音楽はお好きらしい。それと、弱者には優しいとも聞いたな」
これは役立つ情報だ。
「ありがとうございます。できる限り協力します」
宴会はさらに続いたが、俺とルナはそろそろ帰ることにした。ガロウも一足先に帰っているはずだ。
宿を出る時、マリアが俺に小さなメモを渡した。
「また明日、詳しい話をしましょう」彼女はウインクした。
メモには「明日正午、宿の事務所に来て」とだけ書かれていた。
ルナの家に戻る道中、彼女は少し黙りがちだった。
「どうしたの?」
「ううん…」ルナはためらった後、言った。「マリアさん、遼のこと気に入ってるみたいね」
「それは、単に村のために協力してほしいだけじゃないかな」
「違うわ。マリアさんの遼を見る目は特別よ」ルナは少し不満そうに言った。「でも…王女様も遼を気に入ったら大変ね」
俺は思わず笑った。「まだ会ってもいないのに」
「だって、遼はみんなを魅了するじゃない。不思議なくらい」
それは「実用恋愛スキル」のおかげだが、そうは言えない。
「そんなことないよ。それに、僕はルナが一番の友達だよ」
ルナの表情が明るくなった。
ガロウの家に着くと、彼はすでに寝ていた。長い一日だったので、俺たちも休むことにした。
部屋に戻った俺は、今日一日の出来事を振り返っていた。村でのパーティー、王女の訪問予定、そして少しずつ形成されつつある女性たちとの関係。
現世ではありえなかった展開だ。「実用恋愛スキル」は想像以上にチート級の能力かもしれない。
寝る前に、頭の中で今日獲得したスキルを整理してみた。
『今日獲得したスキル:
- 初級ナンパ術
- 初級ダンス術
- 洗練された褒め言葉
- 誠実な半真実
ハーレム形成度:15%(ルナ、マリア、シルヴィア)
コミュニティ好感度:60/100』
思わず苦笑した。まるでRPGのステータス画面だ。
そして明日は、王女訪問の準備が始まる。異世界の王族と接するチャンスだ。これは「実用恋愛スキル」をさらに磨く絶好の機会になるかもしれない。
「恋愛スキルで世界を制覇」という女神リリアの言葉が頭に浮かんだ。当時は冗談だと思ったが、もしかしたら…本当にそういう未来があるのかもしれない。
俺は眠りに落ちる前、一つだけ決意した。この異世界で、自分の可能性を最大限に追求してみよう。誰も見たことのない「恋愛スキルで世界を変える」という道を。
(続く)
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