冴えないおっさんが没落貴族に異世界転生~売れ残りの悪役令嬢を妻にめとって世界征服目指します~

masa

文字の大きさ
25 / 54

青春の一幕

しおりを挟む
『拝啓 季節は心地よいぬくもりを風とともに運び、陽気な天候に恵まれることが多いこの頃、我が夫、セラフィム・ボナパルト様におかれましてはますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
 さて、このたびは王立聖騎士団士官学校にご入学、誠におめでとうございます。しばらくお帰りにならないでどうしたことかと思っておりましたら、王都より書簡が届き、徴兵令にもとづく士官学校への編入生選抜の結果、我が平凡なる夫がなぜかなぜかなぜかどこぞの鬼軍曹様のご慧眼によって見出されたとの報告を受けました。伯爵以下二千人の貴族の中から約百名ほどしか選ばれない「名誉」なことだそうで。素晴らしいですね。以前より少しばかり聖剣の才がおありと伺っておりましたが、それほどだったとは。
 領土については何ら問題ありません。書簡ついでにたいして欲しくもない50万ゴールドの援助金(あなたは役人から50万ゴールドの価値しかないと思われている!)をいただきまして、当主不在領土の最大の懸念である市民デモ抑制のための兵士をいくらか派遣しましょうかなどと親切丁寧にご提案いただきました。しかしあいにく我が民は街の救世主たる私をたいへん慕っておりますゆえ、丁重にお断りして、代わりに当主代行の権利書を発行していただき、一時的にボナパルト家の全権を掌握いたしました。あなた様がおサボりになった他領土の買収交渉については私が全部やっておきますから、あなた様は思う存分騎士の道を邁進なさってください。戦線で活躍すればお家に返してもらえるんですってね? いつでも好きなときに帰ってこられたら良いですわ。あなた様がお帰りになられた頃にはすでに街の発展が進んで、あなたの知るホロンはどこにもないかもしれませんが。   

 この手紙に返事はいりません。ですが最後に一つ約束をしてください。必ず無事で帰ってくること                                敬具

 427R.H.
                               エリザ・ボナパルト

セラフィム・ボナパルト様』

 ――俺は読み終えて、彼女がそうとう怒っていることを察した。しかしなんだか嬉しくもあった。現世では嫁さんからメールや手紙をもらったことなどついぞなかったからだ。心配してくれているのか、けなしているのか判断がつきにくい(ほぼけなしている)内容ではあるが、もう家に帰ってくるなでくの坊! などといった帰宅拒否の文言は記されていないから安心した。そりゃそうさ、王の勅命だもんな、自分から家出したわけじゃないし、俺に非はない。いや、エリザのことだから、「どうにかこうにか誤魔化して落選すればよろしかったのに!」などと無茶なことを言いそうだ……

 俺は50万ゴールドの男とののしられたのに、ニヤニヤしている気味の悪い自分を見つけて、さっさと寝ることにした。


 ――早朝、小鳥がチュンチュンほざいて、寝起きの悪い俺が目をこすりながら起床した。なんと迷惑な小鳥だ。目覚ましが鳴る前に俺を起こすとは。

 オリビアはすでに部屋を出ていた。俺はぶつくさ言いながら小ブタ、……じゃない、チャーチルを揺すり起こす。

「おい、チャーチル、学科にいくぞ」
「うーん、ママぁ……むにゃむにゃ」

 マザコンが発覚した。そして俺の声で上のリゼが目覚めた。

「……あら、セラフィム、早いのですね」
「まあな。昨日の飯と風呂が効いているのか、あれだけダメージを負ったのに、もう十分回復しているよ」
「そう、私はまだ少し足が痛む感じがするけれど」
「今日は無理せずにいこう、お互いに」
「そうですね」
 
 身支度をして部屋をでる。三階にお住まいの三年生がぞろぞろと指定された学科の教室に向かっているのが見える。お勉強は退屈だが、しょうもない会社の単調な仕事よりは華がある。せっかく「学校」なんていう人生の青春期を謳歌するチャンスなんだから、頑張ってこなしますか。

「――えー、この地域でとれる魔法結晶はたいへん有用であってー、とくに聖槍との相性が抜群だと言われておりぃ……くーっ……」
「突然寝るなジジイ!」
「っていうか、試験範囲教えろタコ!」
「そうだそうだ!」

 別館一階の大教室には、この授業を取っているのべ五百人の生徒が出席していた。二階にもそのくらいいるが、違う授業が行われている。そして俺たちは一階で一般生徒たちに混じって、飛び交う怒号をBGMとして耳にしていた。青春どころではなかった。

 最年長の教官ハロルドには突発性居眠り症候群の疑いがかけられている。立ちながらにしてうなだれ、奇跡的なバランスで入眠することができる面白いジジイである。これは魔法結晶学と言って、戦場で産出される魔法結晶の有用性と効果、利用方法などを学ぶ授業だが、その前の霊力マネジメント論のメンロー教官はワイルドな見た目と怠惰なメンタルの持ち主で、この授業が終わったら街に繰り出してムフフと意味不明なことを昼間から喋り、酒が入っているのか顔を真っ赤にしてフラフラと自分をマネジメントできないまま教鞭を執っていた。軍人の天下り先として有名な士官学校にはふざけた輩が教官という職をあてがわれて、こんな風に給料泥棒の極みを演じることがままある。

《――キーンコーンカーンコーン》

「――はっ、……チャイムじゃないか、ははっ、ではな諸君、さようなら」
「ざけんなぁああ!」

 配られた資料用紙が宙を舞う。生徒たち怒りの人力紙吹雪である。清掃員のおっさんが激怒してやめさせようとするも、これから昼休憩なのを良いことに、大勢の生徒(とくに今年卒業の三年生)が全てを放棄して食堂へダッシュした。腕っ節はたくましいが、勉学は苦手な者が多い士官学校では、脳筋思考でこのようなヤンキー的暴挙がたびたび起こる。あぁ恐ろしや。

 カイは見慣れた光景にほくそ笑んでいて、ダンは優男のようににこやかにし、マッテオは無言無表情の平常運転、チャーチルはあくびをし、リゼはしゃんとお上品に座って、グレナダは頬杖をつき退屈そうだった。

「まーた中途半端なところで終わったよあのバーコード禿げジジイ。本当に授業するつもりあんのか?」
「試験範囲どうなるんだろ」
「どうせカイは【スティール】の魔法で解答用紙パクるくせに、何を心配してるのよ」
「それがさ、【千里眼】使える光組のキースに金積んで頼んでみると、まだ解答作ってないことが発覚したんだ、のんきなもんだぜ」
「パクってんのばれて対策とられてるとか」
「ひどいな」
「男どもはそーやってだんだん馬鹿になってくのよ、ねぇリゼ、あたしたちはちゃんと勉強しましょうねぇ?」
「当然です。私は犯罪に手を染めたりしません」
「犯罪だなんて、大げさだなぁ」
「一応国家試験ですよ。そこで不正を働くとは、立派な犯罪です」
「これだから女ってやつは……、おい、マッテオ、何か言ってやれ」
「……因果応報」
「はぁ?」
「犯罪者には天誅が下るであろう……」
「おー、マッテオが寝返った。ってかなんで顔赤いの」
「……(口を引き結び黙秘権を行使)」
「あ、だんまりタイムだ」
「チャーチル、授業終わったぞ」
「んあっ? そうなのぉ?」

 平民出身でも、魔法を高いレベルで扱える彼らにはあらためて驚かされる。会話の中にも平然と高等魔法の名称が出てきて、そのたびに貴族階級の俺としては自虐的に笑ってしまう。高等魔法が貴族の特権だなんて真っ赤な嘘だ。やれるやつはやれるんだな。

 そんなこんなで俺たちは席を外し、一般生徒の食堂への流れに紛れて、空腹を満たしに昼食をとりに行った。そして腹ごなしを済ませると、小休憩を挟んで、俺たちはまた実戦訓練に駆り出されてゆくのだった。
しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

悪役令嬢の騎士

コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。 異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。 少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。 そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。 少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

エース皇命
ファンタジー
 前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。  しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。  悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。  ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

『悪役』のイメージが違うことで起きた悲しい事故

ラララキヲ
ファンタジー
 ある男爵が手を出していたメイドが密かに娘を産んでいた。それを知った男爵は平民として生きていた娘を探し出して養子とした。  娘の名前はルーニー。  とても可愛い外見をしていた。  彼女は人を惹き付ける特別な外見をしていたが、特別なのはそれだけではなかった。  彼女は前世の記憶を持っていたのだ。  そして彼女はこの世界が前世で遊んだ乙女ゲームが舞台なのだと気付く。  格好良い攻略対象たちに意地悪な悪役令嬢。  しかしその悪役令嬢がどうもおかしい。何もしてこないどころか性格さえも設定と違うようだ。  乙女ゲームのヒロインであるルーニーは腹を立てた。  “悪役令嬢が悪役をちゃんとしないからゲームのストーリーが進まないじゃない!”と。  怒ったルーニーは悪役令嬢を責める。  そして物語は動き出した…………── ※!!※細かい描写などはありませんが女性が酷い目に遭った展開となるので嫌な方はお気をつけ下さい。 ※!!※『子供が絵本のシンデレラ読んでと頼んだらヤバイ方のシンデレラを読まれた』みたいな話です。 ◇テンプレ乙女ゲームの世界。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げる予定です。

処理中です...