Sunrise Devil in the rain

masa

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one day 2

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 階段を上りながら、首を伸ばして中の様子を伺うと、ちょうど二人がけのテーブル席から立ち上がる男女が見えた。よし、あそこにしよう。朝日もうなずいた。
 店は二階建てだった。一階、二階ともに洒落たインテリアと、温もりを感じさせるオレンジの照明が内部を彩っていた。前評判通りの、オシャレな雰囲気だった。人の出入りが多い中、狭い通路を我先にと進んでいたら、前方から、四人組の男女が縦一列になって向かってきた。
(井手口、光國、坂井、長部……、モロ知り合いじゃん)
 コイツらは大学の同級生で、それなりに面識があった。一緒に図書館で缶詰になって勉強した事もある。さっそくピンチだな。
 実家近くのコンビニで立ち読みした怪しげな心理学の本によれば、急場をしのぎたいなら堂々としていろ、とのことだったが、チキンには無理な話だ。朝日は後ろから白板の角で突っついて急かすし、前からは危険が迫っている。立ち止まっているのは不自然だ。
俺は覚悟を決め、一歩目を刻んだ。
(どうかバレませんように……)
 一人、二人と、互いに体を傾けて相手の通路を確保しながらすれ違う。いつ気付かれてもおかしくない至近距離で、彼らは談笑混じりに通過していった。誰も俺に気付かない。
「あ……れ」
 すんなりと危機回避に成功。しかし、安堵より驚きが先行する。絶対気付かれるだろうと踏んでいたからだ。無視されるような仲違いをした覚えは無い。俺は立ち尽くして、それから振り返った。
『後ろ、つっかえてる』
 同級生四人の姿はすでに無く、後には文句の書かれた白板だけが残されていた。
「―うまいか?」
『おいしい。しかもヘルシー』
「そっか」
 店内を見渡すと、女性客が多い気がする。メニューも野菜を多く取り入れたものが散見されたから、女性のニーズに合わせた店なのかもしれない。男が食うには少々物足りない感はあるが、味はまずまずだった。
 周囲はガヤガヤと、友人や恋人の間で会話を弾ませている。食事中に返答しづらい朝日を気遣って無言のままでいると、二人の間には、ただむしゃむしゃとホットドッグを咀嚼する音だけがBGM代わりになった。こういう時に他と比べると、改めてこの関係性が奇怪なものだと自覚させられる。
 朝日が食べ終わるのを確認して、話しかける。
「なぁ、朝日」
『何?』
「さっきすれ違った奴らなんだけどな」
『知り合いだったんでしょ』
「お、察しが良いな」
『気付かれなかったね』
「……無視されたとは言わないのな」
 朝日は不安そうな表情を浮かべた。
『殴り合いのケンカでもした?』
「しねーよ、そんなこと」
『これからもしないでね』
「どうして」
『優理、ケンカ弱そうだし、怪我すると大変』
「心外だな。俺が本気を出せば、ボブ・サップより強いぞ」
 朝日は真顔で言った。
『ボブ・サップって誰』
 ……おいおい、マジかよ。
 かの有名なボブを知らない事に衝撃を受け、危うく話の本筋を忘れかけたが、気を取り直して、
「と、とにかく、結構な顔見知りなんだ。目聡い奴もいたのに、どうして気付かなかったんだろうなって話」
『そりゃそうだよ』
 朝日は即答する。
『だって別人だもん』
「……髪型と服装を一新しただけで、本人と認識できなかったと」
『うん』
 クルリと白板を返した。
『気合い入れすぎたね』
「……やっぱり、そう思うか」
 意識していたことだが、ハッキリ言われるとツラいものがある。俺は手首にあてがわれた腕時計に目を向けた。それから意味も無く両手を合わせ、机の上で親指同士を擦り合わせる。これは、俺特有の癖で、何となく決まりが悪い時に発症する。哀愁漂わせる割には、誰も構ってくれないのが通例だが、今日は違った。同伴がいる。
『普段着てる服の方が似合ってると思うよ。髪もいつもみたいに自然にしてる方が優理とっても気が楽なんじゃない?』
 ―一旦下げて、
『でも、たまになら、そういうのもアリかな』
 ―キープして、
『特におでこを出すのは、普段とのギャップがあって悪くない』
 ―上げる。ナイスフォロー。
 意外にも男心を理解しているのか、この言葉によって、ごく単純なメカニズムをしている俺のメンタルは、いつしか冗談を言えるまでに回復していた
 俺は一度鼻で笑って、こう言った。
「……実は俺もそう思っていたところだ」
 こんなしょうもない男も、実は今年で二十歳になる。だが、おだてられてすぐ調子に乗るような尻の青いガキには、成人式など永遠に来なくていいだろう。俺はまだ大人には程遠い。
 シュールな会話はこの後も続いたのだが、いたたまれないお粗末な内容だったので、割愛させていただく。最後に朝日が『食べ歩きしよう』と提案することで、俺達は席を立った。
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