Sunrise Devil in the rain

masa

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one day 1

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 三大都市圏ほどではないにしろ、他の政令指定都市というのはまずまずの都会風情を有しており、五十万をゆうに超える人口を抱えるために、交通アクセスは充実している。休日には他府県からの来訪者、観光客も少なくない。そんな街のメインストリートを、挑戦的な風貌の二人が闊歩する。
(うわぁ、キツいなぁ、コレ)
 平時より人混みの苦手な俺は、いつにも増して気が滅入っていた。気にしすぎる性格が邪魔をして、冷静ではいられない。
『どうしたの?』
 顔色をうかがうようにして下から覗かれる。
「どうしたのじゃねーよ。どうしようもねーよ」
 俺と朝日の服装は、呆れる程にミスマッチしていた。左の男を見れば、分不相応なオシャレが一人歩きした、不良かぶれのパリピ、かたや右隣の女はけば立った穴あきのジャージを着込んでいて、浮浪人、または生活保護受給者を思わせる。関係性の不透明な、いかがわしい二人が、周囲から浮かないわけがない。
『そこまで気にしなくても良いと思うよ』
「いやいや、いくら何でもこれは……」
 見渡す限り、人、人、人。すれ違う者は揃いも揃って、珍奇な二人にさりげなく目を通す。後ろの女連中なんかは、スマホ片手に、嘲笑を交えた会話をしつつ、しきりに後ろ指を差してくる。
「感じ悪いな」
『後ろの人達?』
「そ。あいつらスマホ持ってるだろ? 放っとけば、仕舞い目には撮り出すんじゃないかな」
『勝手に写真を撮るってこと?』
「そうそう、多分な」
 そんなことを言ってる間に、後ろからシャッター音。俺は見ていなかったが、朝日は撮った女と目が合ったらしい。バレたバレたとギャルが騒ぎ立てる。
 朝日の雰囲気が、その表情とともに微かに変わった。それから突然立ち止まり、振り返った。
「あれ、どうした」
「え、おい」
 朝日は周りの群衆の流れに逆らって、ゆっくり歩いてくる女連中に向かって歩き始めた。
「放っとけって、あんな奴ら」
 俺の抑止を無視して、堂々の進軍。朝日は歩きながら、急作ろいのひも付きホワイトボードに文言を書き込んでいた。そして気付けば、柄の悪いギャル達の前で仁王立ちしていた。
 最初こそヘラヘラ笑っていた女連中も、朝日による無言の圧力から、次第に押し黙った。巨大な人の濁流、それに伴う喧噪の中、そこだけが僅かの間静寂を保った。
「何よあんた、なんか用?」
 連中のリーダー格とおぼしき女が言った。立ち塞がる朝日は胸元で白板を返した。
『勝手に写真を撮らないで下さい』
 白板の文字を見て、女達は一斉に高笑いした。
「アハハハ! それ、そうやって使うんだ!」
「え、もしかして話せないの? 何? 障害?」
「女のくせに、そんなボロボロの服着ちゃって、貧乏くさいんだよ!」
 一気に舐められたようで、各々、自分のスマホで朝日を撮り始めた。うざったいシャッター音が鳴る。近距離で撮られていても朝日は一歩も下がらなかったが、自分の意思が女達に伝わらなかった事に落胆した様子で、視線は下に落ちていた。時折白板を見つめても、書きあぐねて、ペンの後ろで頭を掻いていた。
「あれ、何々? まだ何かあんの?」
 煽り調子に女連中の一人が言った。煽ったのはもっぱら朝日だったのだろうが、実際に煽られたのは後ろで見ていた俺だった。このまま朝日が嘲笑されるのは見過ごせない。俺は一歩前に出て、柄にもなく正論を言った。
「おい、人のこと馬鹿にすんのも大概にしろよ」
 しかし、不意に首を突っ込んできた男に向けられたのは、好奇の視線だった。
「おやおや、彼氏さんかな?」
「臭いセリフ吐くねー。彼女馬鹿にされて怒っちゃったのかな」
「てか、何でこんな女連れてるの? そういう趣味?」
 ほら、言わんこっちゃない。まともに相手して貰えない上に、からかわれるのがオチだ。なぁ、朝日、早いとこ逃げ―

 ―隣を見れば、そこには朝日の困り果てた顔がある、はずだった。だが、実際目にした朝日の表情は、予想とは大きく異なるものだった。わずかに顎を引いて、眉を小さくひそめ、女をじっと見つめていた。見たことの無い、冷徹な表情だった。
「ついでに彼氏の方も撮っとけ撮っとけ! 後でツイッターに上げてやっからよ、色物カップルなうって」
「ハハ! いーね、晒し者だわ」
 隣女の刺すような視線に気付いていないのか、女達は性懲りもなく今度は俺を撮り始めた。もう、勘弁してくれ。そう思った時、朝日は白板を首から外し、その白板で俺の顔を覆い隠した。
(表)『優理はお前達の見世物じゃない』
(裏)『安心して、もう終わらせるから』
 俺からは裏しか見えなかったが、表にけんかっ早いことを書いたのは、相手の反応を見て明らかだった。
「っせーんだよ、キチガイ女が!」
 そう言って朝日の方にスマホを向けた女は、徐々にその威勢を失っていった。困惑している。
「……あれ? 画面真っ暗なんだけど。何よこれ」
 ……良く分からないが、スマホの調子が悪いようだ。
「え、アタシのも変なんだけど、故障?」
「さっき撮った写真の画像データ、壊れてるし。意味わかんない!」
 他も故障気味か? ……一斉に故障?
 一瞬、違和感のようなものを感じたが、それよりも、「ざまぁ見やがれ!」という第一印象の方が心中を強く支配した。天誅だよ、天誅。都合が良いから、コイツらがアタフタしてる間に、このままとんずらこいてやろう。そう思って、ふと辺りを見渡すと、朝日がいない。
さては、先を越されたか。

 ―俺は振り向きざまに軽く中指を立てて別れの挨拶を済ませると、人混みの中へ雲隠れした。人の流れの中で朝日の姿を探したが見つからず、連絡手段が無いので、とりあえず目的地のカフェまで行ってみることにした。
「……あれだな。看板がデカいから助かる」
 大通りの突き当たりに構えたその店はオープンして間もないらしく、近づいてからガラス越しに見えた店内は人で満たされていた。
(行列とかやめろよー……、並びたくないからなー……)
 店の入り口に着くと、中からスラム街出身の女が手を振ってきた。
『コッチだよ!』
 彼女はプラカードのように小さな白板を振り回す。その格好ではしゃぐのはやめて貰いたい。
自動ドアが開くと、俺は列の最後尾で待つ朝日の元へ、小走りで駆け寄った。想像していた
より、人は並んでいなかった。
 冷えた店内をせわしなく動く店員は皆、それなりに小綺麗な容姿だった。人気チェーン店のオープンスタッフだけある。接客も丁寧で、忙しくあっても、一人一人にきちんと対応していた。レジに並ぶ列が捌け出し、順番が近づくと、俺はさりげなく朝日を後ろに回した。
「アイスコーヒーのSと、ホットドッグを二つずつ」
「かしこまりました。以上でよろしいですか?」
「はい」
 注文してすぐに財布の中をのぞき込み、小銭が多いから処理したいと考えていると、店員が中々料金を言わない。結局いくらなのかと顔を上げると、対応してくれた女性店員はニカリと白い歯を見せて笑った。
「どうされます? 注文を変更なさいますか?」
「あ、いや、そのままで……?」
 不思議そうにする俺に対し、女性店員の手はキッチリ指先を揃えて、俺の右後方を示した。振り向いて目に飛び込んできたのは、
『やっぱりブレンドが良い』
 喋れない女の注文変更の要望が記された白板だった。
「あ、……じゃあアイスとブレンドを一つずつで」
「はい、かしこまりました。合計で千二百四十円になります」
 女性店員の貼り付けたような笑顔が、やけにくすぐったかった。

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