日常、そして恋

知世

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出会い

素敵なこと、だと思います

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「あっ」
冬人お兄ちゃんと寮の食堂前に行くと、黒髪黒眼の中性的な美少年が立っていた。
ベリーショートよりも少し長めのショートで、髪を上げずナチュラルに流すスタイル…ナチュラルショートの彼は、全体的に少し日に焼けていて、健康的な肌をしている。
ジャージを着ていることもあり、スポーツ少年という言葉が似合う子だ。
そこにいたのは、冬お兄ちゃんと僕の弟―秋人だった。
「あ。春兄!冬兄!」
僕達に気付いた秋が、笑顔で手を振ってくる。
「秋」
手を振り返すと、嬉しそうに笑って、更に大きく―ぶんぶんと手を振った。
あんなに振って、手と腕が痛くならないのかな?
心配しながら近寄ると、
「はるにぃーっ!」
勢いよく、抱き付かれた。
「わわ」
受け止めきれずに、よろける。
そのまま倒れかかったけど、後ろから抱き留められた。
秋が慌てて、僕の顔を覗き込んでくる。
「ごめん、春兄。大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。冬お兄ちゃん、ありがとう」
不安そうにしている秋の頭を撫でて、咄嗟に支えてくれたお兄ちゃんに微笑む。
「ああ」
冬お兄ちゃんは頷くと、厳しい表情で秋を見た。
「秋人。そんな勢いで抱き付いたら、危ないだろう。二人とも怪我をする」
「ごめんなさい…」
きつめに叱られて、秋はしゅんとした。
秋が怪我をしてしまうのは嫌だから、分かってくれて良かった。
冬お兄ちゃんも僕と同じ気持ちみたい。
「次から気を付けような」
優しい声で、微笑みながら、秋の頭を撫でている。
「うん」
秋はにこっと笑って、頷いた。


合流した僕達は、食堂でご飯を食べた。
要約すると一言で終わってしまうけれど、実際は驚きの連続だったんだ。
まず、食堂の広さに驚いた。
想像していたより、ずっと広い。
そして、内装にも。
シンプルだけど、まるでレストランみたいで、オシャレなんだ。
それにね、屋根付きのテラスまであるんだよ。
屋内とは窓や扉で繋がっていて、周囲を枠で囲まれているんだ。
といっても、テラスには生徒会と風紀委員長・風紀副委員長しかいけない仕様だ、と冬お兄ちゃんが教えてくれた。
次に、メニューの種類の多さに。
和食・洋食・中華料理…他にもたくさん。三年間で食べられないくらい、あまりにも種類が多くて、メニューに目を通すだけでも、かなり時間がかかってしまった。
注文方法もタッチパネル式と、びっくりなことばかりで、僕は何度も驚いたんだ。
昼食時間を過ぎているから、人が少ないかな、と思っていたけど、混雑はしていないものの、意外と多かったな。
休日、この時間は、午前の練習が終わった運動部や混雑を避けた人で多いんだよ、と今度は秋が教えてくれた。
僕のお昼ご飯は、サラダとチャウダーが付いている、パスタセットで、クリームパスタにしたんだ。量を選べたのが嬉しかったなぁ。
冬人お兄ちゃんは焼き魚定食、秋人はハンバーグオムライスを頼んでいた。
注文する際、カードの使い方を教えてもらった。
その時に見えた、お兄ちゃんのカードがブラックで、風紀委員長さんだってことが分かったんだ。
冬お兄ちゃん、風紀委員長さんなんだね。凄いなぁ。
風紀委員長って、カッコいい。さすが冬兄だね。
僕と秋が笑顔で言ったら、冬お兄ちゃんは曖昧に笑っていた。
どこか困ったような、でも嬉しそうな笑みで、僕は秋と顔を見合わせて、二人で首を傾げた。

昼食を食べ終わった後はお別れかと思ってたんだけど―明日、新学期が始まるから―冬お兄ちゃんも秋も、僕の荷解きを手伝うって言ってくれたんだ。
手伝ってもらえるのも嬉しかったけれど、まだ一緒にいられるのが嬉しくて、お願いすることにした。

大きな家具や電化製品は元々設置してあって―乾燥機まであったのは驚いた―荷解きは段ボールだけだった。
冬お兄ちゃんには、色んな本―辞書、参考書、小説―の入った段ボールを、秋には、調理器具や食器の入った段ボールをお願いして、僕は衣類と届いていた教材の荷解きをしたんだ。

冬お兄ちゃんと秋のお陰で作業は一時間で終わった。
お礼に夜ご飯を作ろうと、何が食べたいか聞いたら、口を揃えて、肉じゃが、と答えられたんだ。
二人同時に即答されたのが何だかおかしくて、僕は笑ってしまった。
肉じゃが、サラダ、味噌汁、香の物を作ると決め、ショッピングセンターで買い物をした後、お茶休憩してから、作ることにした。


本日二度目のティータイム―冬お兄ちゃんはブラックコーヒー、僕はミルクティー、秋はココア―と会話を楽しんでいたら、秋が不意に心配そうな顔をして、僕を見た。
「―そういえば、春兄。ここのこと聞いて、びっくりしたんじゃない?…耐えられる?」
確かに、色々びっくりしたよ。
…耐えられるって、なんのことだろう?
どういうことか分からなくて、小首を傾げる。
「え。もしかして、聞いてない?」
「? なんのこと言ってるの?」
「うーん…。ごめん!冬兄パス!」
全然分からなかったから聞いてみると、秋は困ったみたいで、冬お兄ちゃんに続きを任せていた。
突然話を任された冬お兄ちゃんも困ったような顔をして、少し考えた後、こう言った。
「学園の生徒は―その殆どが、同性愛者か両性愛者だ」
「え…?」
ほとんどが、同性愛者か、両性愛者…?
かなり驚いて、瞬きをする。
黙ってしまった僕を見ながら、お兄ちゃんは話し続けた。
「桜乃学園は、中等部から男子校になる。多感な思春期の時期に、異性と隔離された環境で過ごすと、勘違いや思い込みで、同性愛に目覚めるようだ。…中には、本気の人間もいるだろう」
冬お兄ちゃんの静かな声を聞いていると、だんだん落ち着いてきた。
衝撃的ではあったけど、人を好きになるのは、普通のこと―ううん、素敵なことだと思う。
それが、異性か同性かの違いで、『好き』という気持ちは、変わらない。
ほとんどっていうのは、驚いちゃったけど…うん、びっくりしただけかな。
「春兄は同性愛とか無理?」
躊躇いがちに聞かれて、さっき考えたことを、そのまま伝える。
「そっか…良かった」
秋はホッとしたように笑った。
「同性愛が無理な人は絶対いるし、仕方ないんだけどさ、それだと、ここではやっていけないから…」
難しい問題だよね、そう呟いて、
「最初は驚くことが多いと思うけど、そのうち慣れるよ」
だから大丈夫!
明るく笑う秋を見て、和んだ僕は、目の前にある頭を撫でた。
すると、はにかんだ秋が、ぎゅうっと抱き付いてくる。
「春兄大好き!!」
僕の肩に額をぐりぐりしている、秋の頭を撫でていたら、斜め前にいる冬お兄ちゃんと目が合った。
「…春人」
真剣な表情で、名前を呼ばれる。
「うん」
いつもとは違うから、緊張して、反射的に背筋を伸ばす。
冬お兄ちゃんの声を聞いて、秋が元の位置に座った。
「同性愛に偏見がないのは分かった。だけど、そのことは誰にも言わない方がいい」
「どうして?」
「春人に好意を寄せる人間が知った場合、迫られる可能性があるからだ」
「うん?」
迫られる…?
「ん、そうだね。春兄、言わない方がいいよ。…知られたら、きっと言い寄られると思う」
「うん…?」
言い寄られる…?
迫られたり言い寄られたりって、僕が?
いるのかなぁ、僕にそんなことをする人。
…いないと思う。
疑問に思って、曖昧な返事をしていると、冬お兄ちゃんが僕の肩に手を置いた。
「何かあってからでは遅いんだ、春人」
真面目な顔で見つめられて、僕は頷いた。
「うん、分かった。―言わないように、気を付けるね」
自分からは言わないようにしよう。
「冬人お兄ちゃん、秋人。心配してくれて、ありがとう」
ありがとう、という気持ちを込めて、僕は微笑んだ。

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