日常、そして恋

知世

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出会い

大好きだよ『秋人』

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春兄の美味しい手料理を食べ終わった後、のんびり談笑した。
といっても、冬兄はお喋りじゃないから、聞き役に徹してて、春兄は俺の話を聞きたいみたいで、ほとんど俺が話してたんだけど。
三人で話すといつもこうなる。これだけは変わらない。
俺は、学園と部活・寮で起こった出来事―面白いことや楽しいこと、びっくりしたこと―を、たくさん話した。
春兄は楽しそうに笑っていて、相槌を打ったり、話に加わったりしてくれて、冬兄は柔らかい表情で俺と春兄を見ていて、時々頷いたりして、話を聞いてくれた。

それから遠慮する春兄を―やや強引に―お風呂に入れて、冬兄と二人で後片付けをした。
春兄と冬兄は食器洗い機を使わない派らしく、自分で洗いたいんだって。
俺は使って楽をしたい派だから、ちょっと驚いた。
冬兄が洗い物をしている間、俺はテーブルを拭いて、それが終わったら、冬兄の洗った食器や調理器具をキッチンペーパーで拭いて、食器棚に収めた。

―そうこうしてるうちに、パジャマ姿の春兄が出てきた。可愛い。
「冬お兄ちゃん、秋、ありがとう」
「どーいたしまして」
「料理を作ってもらったんだ、これぐらいはやらないとな。―秋人、帰ろう。寮まで送っていく」
「あ、うん、そうだね…」
春兄と離れることが寂しくて、気分が沈む。
夏休みと冬休みしか会えなかった、今までと比べたら、会える回数は増えたんだろうけど…。春兄と会うの、かなり久しぶりだし、もっと一緒にいたい。
でも、これ以上いたら、困らせてしまう。疲れてると思うし。
「秋」
諦めようとした時、名前を呼ばれた。
顔を上げると―いつの間にか、俯いていたらしい。寂しかったからかな―微笑む春兄と目が合った。
「中等部の寮って、遠かったよね。―もう遅いから、泊まっていかない?」
…こういう時、どんなに可愛くても、春兄は俺の兄さんなんだな、って感じる。
たぶん―いや、絶対、俺が本当は帰りたくないと思ってたことに、春兄は気付いて、言ってくれたんだ。
「…いいの?」
「もちろん」
「やった!春兄、ありがとっ」
思わず抱き付いて、春兄の肩に額をすり寄せていると、後頭部を撫でられた。
「春兄~」
更にスリスリして甘える。
「秋、くすぐったいよ」
くすくす笑う春兄も可愛い。
「じゃあ、秋人。明日の朝迎えに来る」
「えっ、朝?いや、大丈夫だよ」
わざわざ迎えに来てもらうとか、悪いよ。
それに、中等部の寮は、高等部の学園とは反対方向だから、遠回りになるし。
「気にしなくていい。入学式の準備があるから、そのついでだ」
「…分かった。ありがとう、冬兄」
入学式の準備はほんとだろうけど…冬兄、実は過保護だから、俺が早朝に一人で帰るの、心配してくれてるんだと思う。
…なんか、俺、ダメ人間になりそう。
ふと、心配になった。
冬兄は厳しいけど、基本優しいし、春兄は甘やかしてくれるから。
……ちゃんとしよう。
ちょっとした危機感に、俺は気を引き締めた。

冬兄のお見送りで、春兄と玄関に行く。
「冬お兄ちゃん、おやすみなさい」
「冬兄、おやすみ」
「ああ。春人、秋人。おやすみ」
微笑んだ冬兄は、春兄と俺の頭を撫でて、帰っていった。

その後も、春兄と話して、今日のことを聞いたよ。
同じクラスの勇気くんと友達になった、案内してくれた副会長さんは優しくて良い先輩だった、理事長さんは茶目っ気のあるダンディーな人だった、早瀬さんの紅茶はとても美味しかった、とか。
真面目な理事長しか知らなかったから―高等部と中等部の理事長は同じなんだ。ちなみに初等部の理事長は女性だった―世良理事長って、ウインクとかするんだ。面白い人だな。男性秘書の早瀬さん…?見たことあるかな?でも覚えてないや。―七瀬先輩、知ってるよ。麗しの王子様だよね。実際に会ったことはないけど、先輩やクラスメートから聞いたことあるんだ。凄い人気だから、部活の先輩と話してた中等部の三年生と二年生は知ってると思う。あと人気なのは、冬兄と東条先輩かな。え?そうだよー。冬兄人気者だよ。…ちょっと違うけど。あ、いや、何でもない。
春兄には言えないけど…冬兄は優しいから人気なわけじゃないよ。だって、冬兄が優しいのは俺達だけだから。まあ、他にも良いところがいっぱいあるからね!人気なんだよ。春兄と俺の自慢の兄さんだ。
「ふぁ~。…もう寝よ、春兄」
「あ、そっか。秋は部活が終わった後、お風呂に入ったんだったね」
「うん」
寝室に行くと、ベッドの大きさに違和感を感じた。
…そういえば、一人部屋はダブルで、二人部屋はセミダブルだって、聞いたような。
納得して、ベッドにダイブする。
柔らかくて、気持ちいい。
携帯のアラームを少し早めに設定していると、
「電気消してもいい?」
声をかけられた。
「ん。いいよ」
電気が消えて、真っ暗になる。
「春兄」
「うん?」
「アラームうるさくて、春兄まで起こすと思う。…ごめんね」
俺は寝起きが良くなくて、アラームを最大にしないと、起きられないんだ。
二人部屋の場合、寝室は別で、しかも防音だから、大丈夫なんだけど…隣にいる春兄は、確実に被害にあってしまう。
「大丈夫だから、気にしないで」
「…ありがと。春兄、おやすみ」
「おやすみなさい」
出来れば、春兄より早く起きたいな。
滅多に見れない、アレが見たい。
春兄の寝起きはヤバいんだ。破壊力抜群。
俺と違って、春兄は寝起きが悪くない。
ただ、5分くらい、ぼーっとしてる。
一度春兄に聞いたことがあって…その間のことは全然覚えてなかったから、たぶん、起きてはいるけど―会話できるし―意識はないんだと思う。
前に、母さんが言ってた。
酔っ払って、意識が飛んでいる状態と同じだって。
とりあえず。
寝起きの春兄はヤバい。
可愛いのに、ちょっとエロくて、ヤバい。
…うん、見たい。絶対先に起きよう。
春兄にくっついて、俺は眠った。





~♪~♪~♪~

「ぅぅ…」

う、うるさい。
大音量の着メロで叩き起こされて、思わず呻く。

♪~♪~♪~

目を閉じたまま、手探りで携帯を探す。
枕元に置いてたから、すぐに見つかった。
鳴り響くアラームを止めて、のろのろ起き上がる。
「…ん?」
人の、気配?
重い瞼を開けると、春兄がいた。
…ああ、そっか。泊まったんだっけ。
いや、そんなことより。
寝起き見たの、久しぶりだな…。
ぼんやりしている春兄を見て、頬が緩む。
可愛い。…やっぱり、寝起きが一番可愛いなぁ。はにかんでるのも、ふんわり笑うのも、すっごく可愛いけどね。
せっかくだから、たまにしか見れないレアな姿を、じっくり見ておこうっと。
春兄のぱっちりとした大きな目が、今は、とろん、としている。
可愛くて、でも、ちょっとエロい。
いつもなら、春兄って色気とは無縁なんだけど―だって、ひたすら可愛いんだよ―寝起きの時だけは違う。
目がとろんとしてて、唇と頬っぺたが薄いピンク色で…あ、これは、いつも通りだ。それから、ぼうっとしてる。
こういう状態、何て言うんだろ…。
フェロモン出てる?かな。
とにかく、そんな感じ。
静かに見ていると、春兄がゆっくり瞬きをした。
そして、俺の方を見て、
「あき…?」
小さく呟いた。
そうだ、忘れてた。
舌足らずになるんだったね。
「春兄、おはよ」
春兄可愛い、と思いながら、にこっと笑いかける。
別に作ってるわけじゃなくて、家族や親しい人を見てると、なんか嬉しくて、笑顔になるんだ。
特に嬉しいのは、春兄なんだけど。
「おはよう」
微笑みかけられて、もっと嬉しくなった。
…微笑みかけられただけなのに、テンション上がる俺って、どうなんだろ?単純すぎるかな?とも思うけど、嬉しいものは嬉しい。
無性に甘えたくなって、体を起こした春兄に、衝動のまま抱き付く。
ほんのり甘い匂いがして、ああ春兄だ、と再実感する。
この、微かな甘い匂い…シャンプーやリンス、ボディーソープではなくて、洗剤でも、柔軟剤でもない。
不思議なことに、春兄の体臭なんだ。
そういえば、母さんも似たような匂いしてた、気がする。たぶん。
ほのかに香るくらいだから、よっぽど近くにいかないと分からないんだ。
…間違えてるかも。母さんには抱き付いたりしないから。
ぎゅーとしていたら、背中を撫でられた。
―春兄は、いつも、そっと触れてくる。
それは、穏やかで優しい春兄の心そのものだと思う。
…好きだなぁ。大好きだ。
しみじみと感じて、言いたくなった。



この恋は叶わないし、そもそも、叶ったらいけないのだろう。

だから、せめて。

伝えられない気持ちを込めて、俺は今日も言うんだ。

「大好きだよ、春兄」

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